やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 脊椎脊髄疾患における治療技術の進歩は著しく,手術においては最小侵襲手術,内視鏡手術等の手術手技の発展,神経因性疼痛に対する新規治療薬の開発や集学的治療の推進,再生医療分野では脊髄再生医療の臨床応用が活発に行われている.このように発展を遂げる脊椎脊髄疾患の治療ではあるが,リハビリテーション領域はどうだろうか? 「頸椎症性脊髄症診療ガイドライン2020」では「臨床症状改善を目的としたリハビリテーションの効果に関するエビデンスは乏しい」とされ,「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021」では「短期成績には有用であるが,長期での有用性は乏しく今後の質の高い研究が待たれる」と,まだまだ発展途上にあることが伺える.
 そこで本特集では脊椎脊髄疾患に対するリハビリテーションを進化かつ深化させるべく,現状の課題やエビデンスを整理し(Now),新しい技術・知見を未来に向けて提供することを(Future)目的に,この分野の第一人者の皆様にご執筆いただいた.脊椎脊髄疾患の最近の疫学をご紹介いただき,頸髄症,腰椎疾患の運動療法についてはそれぞれの筆者が実際に実施している具体的な方法を解説いただいた.明日からの診療で役に立つ内容である.また近年,盛んに行われるようになった成人脊柱変形の矯正固定術では,術後リハビリテーションで注意すべきポイントを示していただいた.骨粗鬆症,サルコペニアから,転倒予防,再生医療,ロボットリハビリテーション,排泄障害のリハビリテーションに至るまで,新たなアプローチと技術がどのように脊椎脊髄疾患のリハビリテーションに革命をもたらすかを紹介いただいた.コラムには脊椎脊髄疾患のリハビリテーションに取り組んでいるリハビリテーション医に役立つトピックを取り上げた.
 全人口に対して65歳以上の人口が7%を超えると高齢化社会,14%を超えると高齢社会,そして21%を超えると超高齢社会とよばれ,わが国は,1970年に高齢化社会,1995年に高齢社会に,そして2007年に超高齢社会となった.リンダ・グラットン氏の推計では,2007年に生まれた日本人の半数が107歳まで達するとされ,まさに人生100年時代が到来する.脊椎脊髄疾患の有病率は加齢に伴って上昇するため,今後その患者数が急増すると推計される.つまり,治療だけではなく,予防を含めた脊椎脊髄疾患のリハビリテーション医療の飛躍が求められているのである.脊椎脊髄疾患の治療・予防に取り組む方々に,この特集号が有益であることを願っている.
 (編者:萩野 浩)
巻頭カラー 脊椎脊髄病に必須の画像診断(脊柱靱帯骨化性病変を中心に)
 (島袋孝尚 西田康太郎)
脊椎脊髄疾患の最新の疫学・治療
 (寺口真年 橋爪 洋)
頸髄症の上肢障害に対するリハビリテーション
 (佐藤 紀 西良浩一・他)
頸髄損傷による歩行障害に対するリハビリテーション
 (角田哲也 平野 哲)
頸椎疾患の痛みに対するリハビリテーション
 (今村寿宏 山崎和博)
腰椎疾患の痛みに対するリハビリテーション
 (谷島伸二)
腰曲がりに対するリハビリテーション
 (寺井秀富 高橋真治・他)
成人脊柱変形手術例に対するリハビリテーション
 (大和 雄 松下健人・他)
骨粗鬆症性椎体骨折後のリハビリテーション
 (粕川雄司 宮腰尚久)
脊椎脊髄疾患のサルコペニアに対するリハビリテーション
 (松井寛樹 酒井義人)
脊椎脊髄疾患の転倒予防のためのリハビリテーション
 (木村 敦)
脊髄損傷に対する再生医療とリハビリテーション
 (福士龍之介 佐々木雄一・他)
脊椎脊髄疾患とロボットリハビリテーション
 (村田和樹 浅見豊子・他)
脊椎脊髄疾患の排泄障害に対するリハビリテーション
 (関戸哲利)

 Column
  X線による脊椎アライメントの評価(三原徳満)
  神経障害性疼痛に対する薬物療法の進歩─うまく運動療法を組み合わせて,薬剤の効果を引き出そう─(三木健司)
  椎体骨折予防のための重症骨粗鬆症注射薬を用いた骨粗鬆症治療(新美 塁)
  運動器慢性疼痛に対する集学的治療(鉄永倫子)
  脊椎手術に特化した手術支援ロボット(都島幹人 金村徳相)