やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序 本物のMedical Nutritionistになってほしい
 栄養管理の専門家? それは(管理)栄養士:(Registered) Dietitianだろう,と一般的に受け止められている.しかし,栄養士以外の職種にも栄養管理の専門家はいるし,現在では必要とされている.しかし,呼称がない.そこで,私はMedical Nutritionistという呼称を造語した.
 もともとDietitianとは食事の専門家である.Stanley J.Dudrickが中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)の臨床応用に成功するまではそれでよかったのである.しかし,現在は,栄養管理の専門家は「食事の専門家」だけでは不十分である.食事(経口栄養)が不可能・不十分な患者にも適切な栄養管理を実施しなければならないからである.
 Nutritionistとは,栄養の知識と技術を生業としている人全般をさすので,資格の有無とは関係がない.いわゆる一般名である.それに対してDietitianは医学,科学的知識のバックグラウンドを有する資格とされている.しかし,すでに述べたように,dietとは,「食(物)」,「食事(通常の飲食物)」,「治療食」,「節食」などの意味であり,したがって,Dietitianは「栄養士(食事療法学の専門家)」である(『ステッドマン医学大辞典』).現在は,食事(経口栄養)だけでなく,静脈栄養・経腸栄養を駆使した栄養管理が実施できる「栄養療法の専門家」が必要なのである.Dietitianだけでは不十分な時代となっていることを認識しなければならない.そこで,Medical Nutritionist,医学的栄養(栄医養)の専門家,という呼称を造語したのである.
 しかし,一方では,「静脈栄養や経腸栄養なんて,すでに商品化された製剤がある.それを適当に使えばそれなりに栄養管理は実施できる.簡単だ」と認識される傾向がある.関連機材も発達している.別に特別に勉強しなくても,「経腸栄養は,経鼻胃管や胃瘻を用いて,エンシュア・リキッドやラコールなどなどの経腸栄養剤を投与すれば簡単に実施できる」,「静脈栄養は,TPNならエルネオパNFやワンパルを投与すれば簡単に実施できる.だって,糖,アミノ酸,電解質,ビタミン,微量元素が入っているんだから」となってしまっている.「投与量だって,1パック,2パックの単位で投与しておけば,大きな問題は起こらないんだからな.微量元素やビタミンの欠乏? そんなもの,めったに起こるはずがないじゃないか」である.
 本当にこれでいいのであろうか.私は,ダメだと思っている.栄養管理の基本は,その患者さんにとってもっとも適正な内容の栄養処方を実施して,もっとも有効な栄養管理を実施することである.栄養評価もせずに,出来上がった製剤を投与し,効果を確認することもない,それを栄養管理と呼んではいけないはずである.もっと患者さんに寄り添う必要がある.
 そういうMedical Nutritionistになってほしいと切に願っている.そのようなMedical Nutritionistを養成するために本書を執筆した.レベルの高い栄養管理に関する知識をもってほしい,そういうMedical Nutritionistになってほしい.Medical Nutritionist Dietitian,Medical Nutritionist Nurse,Medical Nutritionist Pharmacist,Medical Nutritionist Doctor,Medical Nutritionist Dentist,Medical Nutritionist…….
 Medical Nutritionistとして40年以上活動してきた,古希になった老人の思いが伝わってほしいと願っている.
 2025年1月 井上善文
 序:本物のMedical Nutritionistになってほしい
Part 1 栄養管理の基本
 1 栄養評価の分類と実際
 2 栄養障害の分類と活用
 3 栄養管理法の分類と選択
  (1)SPN,SEN,SON(補完的静脈・経腸・経口栄養法)
  (2)選択の原則と考え方
 4 エネルギー投与量の決定
 5 水分投与量の決定
  (1)水分必要量の基本と静脈栄養法での考え方
  (2)経腸栄養法での考え方
 6 栄養投与量の決定
  (1)たんぱく質・アミノ酸
  (2)NPE(non-protein energy):脂質,糖質
  (3)ビタミン,微量元素
Part 2 経腸栄養法
 1 経腸栄養剤の種類と選択
  (1)まず特徴を理解する:分類の基本
  (2)病態対応経腸栄養剤
  (3)基本的な考え方と投与スケジュール,投与経路
  (4)半固形経腸栄養剤の適応と使用実態
 2 経鼻カテーテルの適応と管理
 3 胃瘻の適応
  (1)胃瘻をめぐる問題を踏まえて
  (2)症例を通して考える
 4 経腸栄養投与経路の管理
  (1)器具などの名称統一について考える
  (2)経腸容器,経腸ラインの複数回使用について考える
  (3)新しい接続部:ENFit(ISO80369-3)
  (4)ENFit(ISO80369-3)の管理
Part 3 静脈栄養法
 1 静脈栄養剤の種類と選択
  (1)末梢静脈栄養(PPN)
  (2)中心静脈栄養(TPN)
  (3)ビタミン,微量元素の留意点
 2 輸液の投与方法
  (1)輸液バッグ容量と投与速度の設定
  (2)輸液の「輸液量」と「水分量」
 3 脂肪乳剤
  (1)使用目的と特徴
  (2)投与速度,投与量,投与経路
  (3)TPN輸液ラインに側注する投与法の検証
  (4)使用実態と適正使用のすすめ
 4 静脈栄養投与経路の管理
  (1)静脈栄養カテーテル
  (2)PICCとCVポート
  (3)中心静脈カテーテル挿入部の管理
  (4)輸液ラインの構成と構造
  (5)導入針,インラインフィルター,ニードルレスコネクタ
 5 カテーテル関連血流感染症
  (1)輸液の無菌的管理の重要性
  (2)診断基準と予防対策
  (3)発症後の対応

 Column
  「静脈栄養」の名称について
  水の呼称について
  英語のproteinの日本語表記はたんぱく質? タンパク質? 蛋白質? プロテイン?
  ACR:accidental catheter removal
  「カテーテルテーパー」の呼称の経緯