やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 2019年の12月に臨床栄養別冊『管理栄養士のための腎臓病学ノート─腎臓病がみるみるわかる63の基本知識』を出版しました.その背景には,新たな国民病といわれるほど頻度の高い慢性腎臓病の患者さんに対する食事指導・栄養管理が非常に重要であるにもかかわらず,管理栄養士養成施設において,腎臓に関する講義の時間がかなり限られているという実情がありました.管理栄養士として,実際の業務を遂行するために,改めて学び直し,自信をもって患者さんに向き合っていただきたいという願いからの出版でした.
 その続編として,このたび本書を作成しました.本書は実際の栄養指導を行うときのテキストです.いうまでもなく,学生時代には栄養指導の講義などほとんどありません.臨床の現場でも,非常に多忙な先輩や同僚から指導法を教えてもらう十分な時間などないでしょう.しかし,患者さんは管理栄養士の指導を心待ちにし,学ぼうとされています.適当であやふやな指導など,とんでもないことです.管理栄養士もしっかりとした知識をもって患者さんに適切な対応ができるようにならなければなりません.
 本書は,私が昭和大学藤が丘病院腎臓内科に勤務していたときに,栄養科の責任者としてともに腎臓病患者さんの治療に携わった,現・神奈川工科大学教授である菅野丈夫先生と一緒に執筆しました.彼は,現在でも,新横浜第一クリニックに定期的に来て,私の患者さんの栄養指導を行っています.彼の教え子たちも実習を兼ねて見学に来て,栄養指導を学んでいます.
 本書は,外来での栄養指導に必要な準備の段階から,実際の進め方まで,細かく記載しています.指導時や指導後の評価についても触れています.栄養指導を希望される慢性腎臓病の患者さんたちは,非常に多くの知識をもち,腎臓病の進行を何とか食い止めて透析が必要にならないようにしたい,と毎日努力されています.その手助けとなるように,患者さんの期待に応えることができるように,自覚と自信をもって栄養指導に臨んでいただきたいと思います.本書がそのために役立つことを願っています.
 また本書発刊に際して,医歯薬出版編集部の皆様には大変なご協力をいただきました.深謝いたします.
 2022年8月吉日
 新横浜第一クリニック
 吉村吾志夫
 まえがき
第1章 知っておくべき基本事項
 1 慢性腎臓病(CKD)の定義と現況は?
  知っトコ! 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の定義
  これだけ!基礎知識 増え続けるCKD患者数
 2 腎臓の構造と血管の関係は?
  知っトコ! 腎臓の位置と構造
  これだけ!基礎知識 腎臓と血管の関係
 3 なぜ糸球体が重要か?
  知っトコ! 糸球体圧と腎臓の機能
 4 糸球体高血圧をどう是正する?
  知っトコ! 全身の高血圧管理と蛋白質摂取制限
 5 腎臓の働きとは?
  知っトコ! 腎臓の役割と病態
 6 CKDの悪化因子とは?
  知っトコ! CKDの進行を促進する悪化因子
第2章 蛋白質摂取とCKD
 7 なぜ蛋白質の摂取がCKDの悪化因子となるのか?
  知っトコ! 悪化因子への食事療法や栄養指導が治療手段になる
  これだけ!基礎知識 3大栄養素のうち,蛋白質だけが腎臓の負担に関係する
 8 蛋白質の摂取制限によって尿毒症毒素は減少するか?
  知っトコ! 必要以上の蛋白質の摂取制限が毒素の減少につながる
  これだけ!基礎知識 毒素を減少させる経口吸着薬
 9 CKDの食事療法の基本と開始時期・制限内容とは?
  知っトコ! CKDの食事療法の基本
  これだけ!基礎知識 患者さんに適した食事療法の開始時期と制限内容を見極める
 10 なぜアミノ酸スコアは重要か?
  知っトコ! アミノ酸スコアとは?
第3章 食塩摂取とCKD
 11 なぜ高血圧がCKDの悪化因子となるのか?
  知っトコ! 高血圧の治療なしにはCKDの進行を食い止めることはできない
 12 高血圧と食塩摂取の関係は?
  知っトコ! 適切な食塩制限は高血圧の予防・治療に直結する
  これだけ!基礎知識 食塩摂取量と推奨値,目標値とのギャップ
 13 なぜ日本人の食塩摂取量は多いのか?
  知っトコ! 食塩摂取量は米と蛋白質の摂取量と相関する
 14 食塩摂取制限の方法とは?
  知っトコ! 自己流より長続きする正しい方法
 15 食塩摂取制限時の注意点とは?
  これだけ!基礎知識 食塩摂取制限3か条
第4章 外来で患者さんと 対面する前の準備
 16 基本データの収集方法
  知っトコ! 医学的側面と栄養学的側面からの把握
 17 問題点の整理と指導計画の立案
  知っトコ! 重要項目から整理し,食事療法を計画
  これだけ!基礎知識 病態や食生活状況に合わせて,優先順位を決定
第5章 外来での栄養指導の基本的な進め方
 18 あいさつ・患者さんの確認
  知っトコ! あいさつは笑顔で
  これだけ!基礎知識 患者さんの確認は,本人に氏名と生年月日を言ってもらう方法で
 19 患者さんのやる気を引き出す
  知っトコ! やる気は理解と納得から
  私たちの栄養指導 初期指導での説明をていねいに
 20 食生活状況の聴き取りを食事療法の実践に生かすコツ
  知っトコ! 患者さんの食生活の現状をあまり変えずに指導する
  私たちの栄養指導 食生活状況調査票とそれを使った聴き取り調査の内容
第6章 食事療法の実践
 21 指示栄養量の提示
  知っトコ! 患者さんがイメージしやすいように
 22 適正なエネルギー量の確保
  知っトコ! 蛋白質制限よりもエネルギー確保が重要
  これだけ!基礎知識 主食を低蛋白食品に
  私たちの栄養指導 主食以外の製品も活用してエネルギー確保
 23 蛋白質制限の実際
  知っトコ! 蛋白質の量と質について指導
  これだけ!基礎知識 動蛋比の計算は容易
 24 食塩制限の実際
  知っトコ! 段階的にはじめることが大切
  これだけ!基礎知識 急激な食塩制限は脱水を起こしやすい
  私たちの栄養指導 味を薄くしなくてもできることから
 25 カリウム制限の実際
  知っトコ! カリウム制限は必要な患者さんにだけ,蛋白質制限を基本に行う
  これだけ!基礎知識 食品のカリウム含有量と茹でこぼしの無意味さ
  私たちの栄養指導 茹でこぼしをしなくても問題ない
 26 リン制限の実際
  知っトコ! 基本は蛋白質制限
  これだけ!基礎知識 指示蛋白質量の範囲であれば,禁止も制限もなし
  私たちの栄養指導 はじめからリン制限には触れない
 27 食生活,嗜好を変えない指導─「これならできそう」と思える説明を
  知っトコ! 動機付けがもっとも重要
  私たちの栄養指導 いままでの食事スタイルをもとに,実践可能な方法を説明する
 28 食事療法の治療効果を得るために─食品の計量,食事記録,栄養計算
  知っトコ! 正確な食事療法に欠かせない計量,記録,計算
  私たちの栄養指導 繰り返し説明することで,患者さんに理解してもらう
 29 継続指導の意義とポイント
  知っトコ! 継続指導はなぜ必要なのか?
  知っトコ! 継続指導で何を指導すべきか?
  知っトコ! 医師,看護師との連携が重要
 30 厳格に指導すべき患者さんとそうではない患者さん
  知っトコ! 患者さんそれぞれに合った指導を
第7章 外来での食事療法の評価
 31 24時間蓄尿検査による評価
  知っトコ! 外来での食事療法の評価は,何をどのように行うか?
  これだけ!基礎知識 24時間蓄尿検査とは
 32 栄養摂取量の評価
  知っトコ! 栄養摂取量の評価のポイント
 33 食事内容の評価
  知っトコ! 食事内容の評価のポイント
 34 食事療法による治療効果の評価
  知っトコ! 食事療法による治療効果の評価のポイント
 35 栄養状態への影響の評価
  知っトコ! 栄養状態への影響の評価のポイント
 36 QOLへの影響の評価
  知っトコ! QOLへの影響の評価のポイント
第8章 症例検討から学ぶ栄養指導
 症例1 1回の指導で蛋白質30gの食事療法を実行し奏効した例
  病態上の問題点
  食生活上の問題点と指示栄養量
  栄養指導方針
  初期指導
  指導の経過
  食事療法が奏効した要因
  考察
 症例2 食事療法の実行に4年を要した例
  病態上の問題点
  食生活上の問題点と指示栄養量
  栄養指導方針
  指導の経過
  食事療法の実行に4年を要した要因
  考察
 症例3 食事療法を実行できなかった例
  病態上の問題点
  食生活上の問題点と指示栄養量
  栄養指導方針
  指導の経過
  食事療法を実行できなかった要因
  考察
 症例4 超高齢者で蛋白質30gの食事療法を実行できた例
  病態上の問題点
  食生活上の問題点と指示栄養量
  栄養指導方針
  初期指導
  指導の経過
  食事療法を実行できた要因
  印象に残った患者さんのコメント
  考察
 症例5 糖尿病性腎症で食事療法が著効した例
  病態上の問題点
  食生活上の問題点と指示栄養量
  栄養指導方針
  初期指導
  指導の経過
  食事療法が著効した要因
  考察

 巻末資料
 索引