やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 わが国において心臓病による死亡数は癌に次いで多く,日本脳卒中学会と日本循環器学会をはじめとする関連学会も“ストップCVD(脳心血管病)”を掲げて,死亡率の低下や健康寿命の延伸に向けた啓発に乗り出しています.なかでも課題となっているのは心不全患者の急増や高齢化への対応です.心不全患者の平均年齢は80歳を超え,医学的な併存症合併も多く,独居,低収入など社会的な背景に問題がある患者も増えています.このため,医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,心臓リハビリテーションスタッフ,ソーシャルワーカーなどを含む多職種によるチーム医療で患者を支えようという取り組みが近年盛んになってきました.しかし,栄養・食事に関する部分は,薬剤や看護と比較してもエビデンスに乏しく,系統立ててまとめた本もありませんでした.
 本書の企画はそのような状況をかんがみてのスタートとなりました.
 最初にどのように体系的な本にするのかを考え,4章からなる構成を組み立てました.まず「I章 心臓病と栄養の基礎知識」では,心臓病や併存症のとらえ方と,栄養という側面からのアプローチの基本について概説いただきました.
 心臓病は併存症として高血圧,糖尿病,動脈硬化,腎臓病などの合併が多いという特徴があります.昨今,心臓病を予防する食事の疫学研究が進んでおり,食事の内容や種類によっては心血管イベントの予防効果が高いこともエビデンスとして判明しています.実際,これらについては各疾患別のガイドラインにも記載され始めています.そこで「II章 心臓病を食事で予防する」では,各種ガイドラインの視点に基づき,食事によって心臓病のリスクの段階からどのように予防するのかについて解説いただきました.
 一方で,心臓病の最終共通像である心不全では,肥満が心不全発症のリスク因子でありながら,入退院を繰り返す過程でフレイル,サルコペニア,カヘキシーなどの状態に陥り,体重減少により予後不良となるといった逆転現象が生じています.日本心不全学会から発表された「心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント」では,こうした現象に警鐘を鳴らし,心不全患者に対する早期からの栄養の評価・検討・介入・管理を勧めています.そこで「第III章 心臓病の最終共通像―心不全の栄養」では,心不全における栄養サポートの理論と実際について具体的に詳述いただきました.
 これらに加えて,栄養サポートの実践のためには,チーム医療の動線がなければ物事は進みません.そのような視点から,「IV章 心不全における栄養管理・指導の実践」では,多職種による連携や多様な場面での取り組みについて紹介いただきました.
 さらにコラムでは,心臓病と栄養・食事に関する最新の疫学や心不全にまつわる豊富なトピックスを取り上げていただきました.
 心臓病の栄養管理・食事療法に関する知見の集大成ともいえる本書が,循環器診療にかかわるすべての職種にとって,栄養・食事への関心をもっていただくきっかけになれば幸いです.
 2019年8月吉日
 兵庫県立尼崎総合医療センター 循環器内科
 佐藤幸人
 序(佐藤幸人)
I章 心臓病と栄養の基礎知識
 心臓病とリスク因子の基礎知識(久保 亨)
 内科の多病患者における栄養サポートガイドライン ESPEN2018(葛谷雅文)
 栄養状態の評価方法(横山広行)
 適正な投与エネルギーとたんぱく質,炭水化物,脂質配分の考え方(宮澤 靖)
 静脈栄養と経腸栄養総論(宮島 功)
II章 心臓病を食事で予防する
 高血圧ガイドライン推奨(高齢者高血圧を含む)の食事療法(山本浩一)
 糖尿病ガイドライン推奨(高齢者糖尿病を含む)の食事療法(山本浩司)
 動脈硬化性疾患予防ガイドライン推奨の食事療法(木下かほり,荒井秀典)
 CKD診療ガイドラインにおけるたんぱく摂取の記載(長澤康行)
 サルコペニア診療ガイドライン,フレイル診療ガイドにおける食事療法(神谷健太郎)
 疫学からみた心血管病予防のための食事─よい食事と悪い食事─(衣笠良治)
 コラム 飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸の分類と疫学(市川啓之,中村一文)
 コラム 赤身肉と鶏卵摂取の疫学─解釈の注意点─(中村保幸)
 コラム アルコールと循環器疾患の疫学(松井敏史)
 コラム 塩分制限DASH食と心臓病発生予防効果(鈴木規雄,木田圭亮,明石嘉浩)
III章 心臓病の最終共通像─心不全の栄養
 心不全における栄養評価・管理のパラダイムシフトに向けて─日本心不全学会ステートメントから─(山本一博)
 心不全におけるサルコペニア,フレイル,カヘキシーの概念と筋肉喪失(佐藤幸人)
 Obesity paradox:心不全の疫学調査におけるBMIと低栄養のエビデンス(加藤貴雄)
 心不全の治療薬剤の作用(岸 拓弥)
 慢性心不全における低栄養とその介入について[症例提示](木田圭亮,渡邉大輝,鈴木規雄)
 急性心不全における栄養介入について[症例提示](堀田幸造,中山寛之)
 コラム 静脈経腸栄養ガイドラインにおける心不全の記述(簗瀬正伸)
 コラム 心不全患者におけるインピーダンス体組成とアミノ酸分析(辻 修平)
 コラム 心不全患者における腸内細菌叢の変化(大谷朋仁)
 コラム 心不全患者における貧血と鉄欠乏(絹川真太郎)
 コラム 心不全患者における亜鉛欠乏(白石裕一,三角 華,佐藤良美,白山武司,的場聖明)
IV章 心不全における栄養管理・指導の実践
 心不全患者における心臓リハビリテーションと栄養管理(小笹寧子)
 心不全におけるたんぱく質投与の有効性(永渕真也)
 心不全におけるBCAA,HMB投与の理論とエビデンス(奈田利恵,有澤正子)
 心不全における中鎖脂肪酸投与の理論とエビデンス(渡邉愼二,鈴木 朗)
 経腸栄養の合併症とは(黒住祐磨)
 看護師からみた 多職種チームでかかわる栄養管理(鷲田幸一)
 在宅高齢心不全患者に対する栄養管理(岡田健一郎)
 コラム 心不全患者の看護ケア(宮地さやか)
 コラム 心臓移植待機患者の低体重・肥満(肥後太基)
 コラム 緩和ケア時の食事(礒元淳子)
 コラム 管理栄養士からみた 急性期から慢性期までの切れ目のない介入(藤井里香,村上綾香)
 コラム 薬局における栄養指導の可能性─薬剤師と管理栄養士の協働─(堀 由美子,真野 博)