やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 わが国の死因のトップは「がん」であるが,心疾患が第二位,脳血管疾患が第四位と,がん対策とともに,心血管疾患(CVD)予防も重要な健康対策に位置づけられている.
 このような理由により平成20年から開始されたメタボリックシンドロームを核とした特定健診では,脂質異常症として,高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症,低HDLコレステロール血症が取り上げられている.つまり,脂質異常症の治療目標は,主としてCVD予防にあることを意味している.また,特定健診の基本的概念は生活習慣の改善により,多くの危険因子を一網打尽にできるということであるが,健診で認められる危険因子の一つが脂質異常症であるゆえ,その基本的治療として生活習慣の改善がある.もちろん,危険度が高い場合(家族性高コレステロール血症や二次予防例など)には薬物療法が必要になるが,それでも生活習慣の改善が脂質異常症の治療効果を高めるとともに,CVD予防にも有効であることはいうまでもない.そのような観点から本書では,脂質異常症の食事療法について,第一線の諸先生に執筆していただいた.
 本シリーズは,日常診療や療養指導にあたって身近な食事療法に関する疑問や質問に根拠をもって簡潔に答える,というコンセプトでQ&A方式の構成をとっている.これは『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』においてクリニカルクエスチョンに答えるべくシステマティックレビューを行っている形式と重なるところがある.ここに共通する姿勢は,エビデンスを重視するという点である.わが国には多くの疫学調査があり,これらから明らかになっていることもある.このような重要な知見を患者と共有することが大切であり,そのために本書では,脂質代謝や動脈硬化発症のメカニズムなどの基本的知識から,実践でどのように活用するかまで解説している.
 食事療法がどのように患者の危険因子を改善するか,そして,最終的な目標であるCVD予防,ひいては総体としてのQOL向上につながっていくかという包括的な概念をもちつつ,患者への栄養指導に当たっていただけることを切に願っている.
 本書が少しでも日常の診療や食事指導のお役に立つことができれば,編者としてこれに勝る喜びはない.最後に,本書の企画から発行まで多大なご努力をいただいた医歯薬出版編集部の方々にお礼を申し上げたい.
 平成30年 文月
 編者を代表して 寺本民生
 序文
 知っておきたい基礎知識
食事療法の基本
 Q-1 脂質異常症の食事療法は摂取エネルギー量の適正化が基本ですが,患者ごとの適正エネルギー量をどのように設定するのでしょうか?(長井直子)
 Q-2 食事療法の基本である摂取エネルギー量の適正化がはかれれば,食事療法は完結するのでしょうか?(丸山千寿子)
 Q-3 高LDLコレステロール血症の食事療法について,具体的に何がポイントか教えてください.その食事療法の効果についても教えてください.(伊藤 薫)
 Q-4 高TG血症の食事療法について教えてください.何がポイントですか?その食事療法の効果についても教えてください.(橋徳江)
 Q-5 低HDLコレステロール血症に対する食事療法について教えてください.何がポイントですか?その食事療法の効果についても教えてください.(本田佳子)
 Q-6 家族性高コレステロール血症はどのようなものですか?食事療法は必要ですか?(中村めぐみ,佐藤敏子)
栄養素の指導
 Q-7 炭水化物のとり方に注意しなければならないのはなぜですか?どのような工夫が必要でしょうか?(鮫田真理子)
 Q-8 トランス脂肪酸とは何ですか?人体にはどのような影響があるのでしょうか?そして,どのような対応をすべきでしょうか?(筒井輪央,藤岡由夫)
 Q-9 飽和脂肪酸を適切に摂取するのはなぜでしょうか?どのようにするのが効果的でしょうか?ズバリ,食事指導のコツは?(河口八重子)
 Q-10 n-3系多価不飽和脂肪酸とn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取は,脂質異常症の治療に効果がありますか?(服部綾香)
 Q-11 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では,コレステロール摂取の上限値がなくなりましたが,制限なく摂取しても問題ないのでしょうか?(亀山詞子,丸山千寿子)
 Q-12 脂質異常症の食事指導において,食塩をコントロールするのはなぜでしょうか?それは,どの程度にするべきですか?(服部綾香)
嗜好への対応
 Q-13 アルコールを控えたらいいというのはなぜでしょうか?どのような飲み方ならよいのでしょうか?(大木いづみ)
 Q-14 喫煙はなぜいけないのですか?どのように禁煙指導をしたらよいですか?(近藤佑子,岡畑純江,柴 輝男)
 Q-15 外食,中食を利用する患者への指導・管理は,どのように行うのでしょうか?(徳澤千恵)
 Q-16 食事療法において特定保健用食品や機能性表示食品の位置づけをどのように考えたらよいでしょうか?(橋久仁子)
 Q-17 栄養補助食品やサプリメントを頻用する患者にどのように指導するのがよいでしょうか?(橋久仁子)
指導の実際
 Q-18 食習慣や食行動について,どのように指導したらよいでしょうか?(安原みずほ)
 Q-19 食事療法に前向きに取り組めるようにするには,どのように指導したらよいでしょうか?(沼沢玲子)
 Q-20 脂質異常症の食品選びのポイントについて教えてください.(安原みずほ)
 Q-21 1日に食べる食品の種類や選択方法と献立の立て方について教えてください.(野本尚子)
 Q-22 オリーブ油,ココナッツ油,えごま油をとることは有効ですか?(川端輝江)
 Q-23 日本食は脂質異常症予防に効果があるといわれていますが本当ですか?(朝倉比都美)
 Q-24 魚を加熱調理すると,EPAやDHAが減るといわれていますが,どの程度減るのでしょうか?また,それはどうしてですか?(川端輝江)
 Q-25 インスリン抵抗性をもつ患者さんに対しては,どのような食事指導をしたらよいのでしょうか?それはなぜですか?(本田佳子)
 Q-26 慢性腎臓病(CKD)の患者さんに対して,たんぱく質を下げ,エネルギーを上げるためにどうしても脂質が多くなりますが,どの程度にしたらよいでしょうか?(宮永直樹,島居美幸)
運動療法への理解
 Q-27 運動を実践していても,食事療法は必要ですか?(鮫田真理子)
 Q-28 運動療法は脂質代謝に対してどのような効果があるのでしょうか?食事療法との併用はどのように指導するのがよいでしょうか?(木庭新治)
 Q-29 どのような運動が適しているのでしょうか?運動内容,強度,時間や注意点など,実際の進め方を教えてください.(畑本陽一,田中宏暁)
 Q-30 高LDLコレステロール血症と中性脂肪に運動は効果がありますか?(木庭新治)

 索引