やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 葛谷雅文
 健康増進法に則り,平成25 年4 月からはじまった第二次健康日本21 は今後10 年間の国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向性ならびに目標とする指針である.そのなかのいちばんはじめに「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」があがっている.健康寿命とは「日常的に介護を必要としないで,自立した生活ができる生存期間」を指す.超高齢社会,人口減少社会に突入しているわが国においては,単なる寿命の延伸ではなく,健康長寿の延伸はもっとも今後望まれる健康課題である.
 健康寿命の延伸を実現するには,社会生活を営むための機能を高齢になっても可能な限り維持することが重要であり,この高齢化に伴う機能低下を遅らせる対策への取り組みが必要である.これには医療のみならず,高齢者の就労,社会参加,年金,経済など社会全体の取り組みも重要であることはいうまでもない.医療の面では健康寿命の延伸は介護予防とも通じるところがある.要介護状態とは負傷や疾病,または身体や精神の障害によって介護が必要な状態であり,まさしく自立できなくなった状態を指す.総論で記したように要介護状態に至る要因は大きく「生活習慣病関連」と「老年症候群関連」に分けることができる.生活習慣病関連により要介護に至るのは前期高齢者が多く,老年症候群関連による場合は後期高齢者が多い.いずれにしろ,これらの要因をいかに予防していくかが,今後健康寿命の延伸を実現する鍵となる.
 栄養は健康を保つのに欠くことのできないものであり,栄養過多も栄養欠乏も健康寿命に大きな影響を及ぼしていることはいうまでもない.高齢者といえども栄養過多は生活習慣病の重症化に悪影響を及ぼすし,逆に栄養欠乏は昨今注目されているフレイル・サルコペニアに直結する.総じて高齢者の栄養に関しては画一的な指針が出しにくく,さらに高齢者といえども前期高齢者と後期高齢者とは別の指針が必要な可能性もある.本企画では健康寿命と栄養との関連を明らかにする目的で,高齢者における栄養の基本的考え方,栄養と健康寿命に関連するさまざまな病態との関係,介護予防との関連,さらに高齢者の栄養管理など幅広い分野をご執筆いただいた.本企画が高齢者ケアに関わっておられる多くの職種の方々に利用され,少しでも日本の高齢者の健康寿命の延伸に貢献できれば幸いである.
 2016 年4 月
 まえがき(葛谷雅文)
I 総論
 健康寿命延伸と栄養─健康寿命にかかわる要因と栄養(葛谷雅文)
II 基礎編:加齢による体格・必要栄養量の変化
 身体組成(筋肉量,脂肪量)(下方浩史・他)
 エネルギー(勝川史憲)
 たんぱく質(木戸康博)
 脂質(多田紀夫)
III 疾病予防・重症化予防
 高血圧(赤ア雄一・大石 充)
 糖尿病(山田芙久子・他)
 脂質異常症(荒井秀典)
 TOPICS DASH食(河野雄平)
 TOPICS 地中海食と高齢者の健康(横山淳一・他)
 肥満(千田 愛・石垣 泰)
 慢性腎臓病(CKD)(鈴木芳樹)
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)(吉川雅則・他)
 栄養・運動による認知症の発症・重症化予防(梅垣宏行)
IV 高齢期に問題となる病態と栄養
 フレイル・サルコペニア(佐竹昭介)
 TOPICS 低栄養予防と多様な食品摂取(横山友里・新開省二)
 骨粗鬆症(上西一弘)
 誤嚥性肺炎(若林秀隆・鈴木瑞恵)
 褥瘡(飯坂真司・真田弘美)
V 運動と介護予防
 生活習慣病予防と運動(丸藤祐子・宮地元彦)
 TOPICS 和食と高齢者の健康(遠又靖丈・辻 一郎)
 高齢期のフレイル・サルコペニア(島田裕之)
VI 地域における介護予防の実際
 戦略的学術研究「柏スタディ」(飯島勝矢)
 亀岡スタディ(木村みさか)
 中之条研究(青蜊K利)
 大和市(田中和美・湯野真理子)
VII 低栄養予防のための食事指導・栄養管理
 在宅(中村育子)
 病院(嶋津さゆり)

 索引