やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
JCNセレクト『栄養療法に必要な水・電解質代謝の知識』発刊にあたって
 JCNセレクトシリーズの第6弾として,『水・電解質』というテーマをいただいたのですが,責任編集者として少々困惑した,というのが正直な気持ちです.なぜか?これまでの『水・電解質』というテーマで特集されたものは,実に読みにくいという印象があったからです.「体液調節機構」「水・電解質および酸塩基平衡」「脱水症の分類と治療」…などというタイトルで難しい図や表が出てきて,最初の数ページをがんばって読んでも,後が続かない,という経験があったからです.内容が難しすぎるのか,私の理解力が不足しているのか….でも,理解できないのは,最後まで読めないのは,私だけではないはず.同じような印象を持っている方が多いはず,ではないでしょうか.
 ということで,目次を見たとき,「これが知りたかったんだ」と思っていただける項目タイトルを考えて執筆していただきました.輸液の電解質組成はどういう考えで決められたのか?それをどういう病態の患者に対して選択するのか?経腸栄養患者はなぜ低ナトリウム血症になりやすいのか?コンデンス型流動食などの水分はいつ投与するのが適切なのか?流行になっている希釈型栄養剤開発のコンセプトは?いろいろな病態における水・電解質管理の考え方は?…….どれをとっても,臨床の現場でこれまで理解できなかった,でも理解しておかなければならない,重要な問題を取り上げました.そして,実際にその内容をいちばん理解していて,わかりやすく解説していただける方に執筆していただきました.輸液や栄養剤については,実際にその製剤を開発した製薬会社や食品会社の担当者に執筆していただきました.
 編集過程では,責任編集者としてすべての原稿を見させていただき,チェックさせていただきました.『偉そうに!オレの原稿をチェックするの?』なんて思われた方もおられるかもしれませんが,そこは責任編集者の『責任』としてですので,お許しください.
 この臨床栄養の領域,経腸栄養,経腸栄養という流れが「少しずつ静脈栄養も大事だ」という方向に動きつつあるように思います.こういう意味でも,この『栄養療法に必要な水・電解質の知識』は,ある意味,タイムリーな企画だと思います.JCNセレクトの『静脈栄養』も自信作ですが,この『水・電解質の知識』も自信作です.自分の興味のある部分だけでも結構ですので,期待しながら読んでください.
 平成23年10月
 井上善文
 まえがき(井上善文)
Part-1 静脈栄養と水・電解質管理
 静脈栄養施行時の水・電解質管理の基本的考え方(遠藤昌夫)
 末梢用電解質輸液の開発の経緯と目的(國場幸史)
 末梢静脈栄養輸液の水・電解質組成の特徴(中山満雄)
 高カロリー輸液の水・電解質組成の特徴(梶原賢太)
Part-2 経腸栄養と水・電解質管理
 経腸栄養施行時の水分投与量決定の基本的考え方(佐々木雅也・栗原美香)
 希釈型流動食開発の目的とコンセプト(海野弘之)
 希釈型流動食の適正な利用方法(山田圭子・伊藤明彦)
 コンデンス型流動食の水分管理方法の実際(井上善文)
 経腸栄養施行時の塩分管理の基本的考え方―とくに製剤上の特性について(有澤正子)
 経腸栄養剤のナトリウム含有量設定の理論的根拠(林 直樹)
 経腸栄養施行時の低ナトリウム血症の原因とその対策(増田修三)
Part-3 病態時の栄養管理と水・電解質管理
 リフィーディング症候群における水・電解質管理の基本的考え方(清水健太郎・他)
 イレウス患者の栄養管理と水・電解質管理の基本的考え方(星 智和)
 回腸瘻患者の栄養管理と水・電解質管理の基本的考え方(小山 諭)
 短腸症候群患者の栄養管理と水・電解質管理の基本的考え方(田附裕子・前田貢作)
 腎不全症例に対する急性期の静脈栄養施行時の水・電解質管理の考え方(坂本 壮・杉田 学)
 慢性腎不全症例に対する栄養管理時の水・電解質管理の考え方(安藤亮一)
 心不全患者に対する栄養管理時の水・電解質管理の考え方(平松大典・藤野裕士)
 急性呼吸不全患者に対する栄養管理時の水・電解質管理の基本的考え方(海塚安郎)
 腹水をともなう肝硬変患者に対するTPN施行時の水・電解質管理の考え方(佐原 圭・他)
 腹水をともなうがん性腹膜炎患者に対するTPN施行時の水・電解質管理の考え方(豊田暢彦)
 経口補水療法の理論的背景と実践(天谷文昌・佐和貞治)
 ERASにおける水分管理の理論的背景と実践(岩坂日出男)
 緩和ケアにおける栄養と水分管理の理論的背景と実際(田中俊行・他)

 索引