まえがき EvidenceとExperience−2つのEBMを携えて
栄養療法が疾患の集学的治療の一翼を担うようになって,どれほどの時間がたっただろう.おそらくは,多くの医療の治療法の出現するずっと以前から,栄養の重要性はとくに意識することもなく,きっと人びとの心の底にあったに違いない.
しかしそれを言葉で表現し,科学的に分析し,多くの建設的批判に耐えうるエビデンスとして集積するには,思った以上に膨大な時間を必要とし,今なお世界のあらゆるところで続いている.
この科学的行為を続けるプロセスのなかで,これからも多くの患者さんの命をかけた熾烈な闘いが繰り広げられていくに違いない.エビデンスとは,こうした闘いの凱旋品に違いない.
このエビデンス確立のためには,あなたがいまやっているように,常に疑問をもち,それに真摯に答えようとする姿勢を,どこまでも貫き通すことが必要であろう.なにか疑問をもったとき,実はそのときすでに答えのしっぽは,その疑問のなかに隠れている.疑問をなにももたなければ,それに対する答えを出す必要もなく,答えを探す努力ははじまらない.
こうしてできたエビデンスを,臨床の場では聴診器のように携えて,苦悶に顔をゆがめた患者さんの前に立つ.聴診器から聞こえる心雑音やラ音から,疾患とその重症度,さらに最善のアウトカムのための最良の治療法をみんなで検討する.
自分の利を排して科学的に検証された分析結果が,はたして目の前の患者さんにとってほんとうに最善なのか.もしかすると,エビデンスとは臨床の現場では大きな真実の囲いを見せてくれるだけであり,個々に異なる患者さんの病態の治療に際しては,個別に検討した微調整が必要なのかもしれない.そしてときにその微調整が,その人の運命を変えてしまう.
EBMの「E」はEvidenceであるが,同時にそのエビデンスを経験Experienceに基づくEBMと,この2つのEBMを携えて,現実の医療は静かに,しかしダイナミックに毎日進んでいく.
『医療は症例に始まり,症例に終わる』
吸う時期と吐く時期とが,一度たりも間違わず繰り返される呼吸運動のように,医療のプロセスのなかに,この2つのEBMが交互に姿を現して,日々の医療のレベルを上げる努力がなされている.この真剣なEBMの呼吸運動が,本書の行間に見え隠れする.
栄養療法に特化した病院や診療所があればいい.いつもこの想いが,私のこころのなかにある.はたしてこの想いが正しいかという検証がまず必要であるが,もしも正しいと仮定して,栄養療法の専門クリニックをいつでも実現できるよう,頭のなかでその設計図を書きためておこう.
本書に収められた各症例を,その病院の症例と考えてみる.この病院を運営していく医療スタッフは,相応の知識と,それ以上に知恵と覚悟を必要としよう.
あなたもこの病院のチームの一員になり,いまからはじまる回診のなかに入り,真剣な討論を楽しんでください.そしてそのなかから,多くのさらなる新たな疑問をもって,その答えを探す作業をどうぞはじめてください.栄養療法の終生の学徒であるあなたにとって,本書が生きた教科書であることをこころより願っています.
最後に,日々の真剣勝負を本書にお送りくださったご執筆者の皆さまと,ご自分の命をかけて闘ってくださったすべての患者さんに,こころより感謝申し上げます.
また,このたびの東日本大震災で亡くなられた多くの方がたのご冥福をお祈りし,いまなお苦しい生活を強いられている多くの方がたに,一日も早く平和な日々がやってくることを祈ります.
いま苦しい想いをしておられるすべての方へ
どうぞいまをあきらめないでください,明るい明日は必ずやってきますから
2011年夏 未曾有の災害のなかからいま立ち上がろうとしている日本にて
雨海照祥
栄養療法が疾患の集学的治療の一翼を担うようになって,どれほどの時間がたっただろう.おそらくは,多くの医療の治療法の出現するずっと以前から,栄養の重要性はとくに意識することもなく,きっと人びとの心の底にあったに違いない.
しかしそれを言葉で表現し,科学的に分析し,多くの建設的批判に耐えうるエビデンスとして集積するには,思った以上に膨大な時間を必要とし,今なお世界のあらゆるところで続いている.
この科学的行為を続けるプロセスのなかで,これからも多くの患者さんの命をかけた熾烈な闘いが繰り広げられていくに違いない.エビデンスとは,こうした闘いの凱旋品に違いない.
このエビデンス確立のためには,あなたがいまやっているように,常に疑問をもち,それに真摯に答えようとする姿勢を,どこまでも貫き通すことが必要であろう.なにか疑問をもったとき,実はそのときすでに答えのしっぽは,その疑問のなかに隠れている.疑問をなにももたなければ,それに対する答えを出す必要もなく,答えを探す努力ははじまらない.
こうしてできたエビデンスを,臨床の場では聴診器のように携えて,苦悶に顔をゆがめた患者さんの前に立つ.聴診器から聞こえる心雑音やラ音から,疾患とその重症度,さらに最善のアウトカムのための最良の治療法をみんなで検討する.
自分の利を排して科学的に検証された分析結果が,はたして目の前の患者さんにとってほんとうに最善なのか.もしかすると,エビデンスとは臨床の現場では大きな真実の囲いを見せてくれるだけであり,個々に異なる患者さんの病態の治療に際しては,個別に検討した微調整が必要なのかもしれない.そしてときにその微調整が,その人の運命を変えてしまう.
EBMの「E」はEvidenceであるが,同時にそのエビデンスを経験Experienceに基づくEBMと,この2つのEBMを携えて,現実の医療は静かに,しかしダイナミックに毎日進んでいく.
『医療は症例に始まり,症例に終わる』
吸う時期と吐く時期とが,一度たりも間違わず繰り返される呼吸運動のように,医療のプロセスのなかに,この2つのEBMが交互に姿を現して,日々の医療のレベルを上げる努力がなされている.この真剣なEBMの呼吸運動が,本書の行間に見え隠れする.
栄養療法に特化した病院や診療所があればいい.いつもこの想いが,私のこころのなかにある.はたしてこの想いが正しいかという検証がまず必要であるが,もしも正しいと仮定して,栄養療法の専門クリニックをいつでも実現できるよう,頭のなかでその設計図を書きためておこう.
本書に収められた各症例を,その病院の症例と考えてみる.この病院を運営していく医療スタッフは,相応の知識と,それ以上に知恵と覚悟を必要としよう.
あなたもこの病院のチームの一員になり,いまからはじまる回診のなかに入り,真剣な討論を楽しんでください.そしてそのなかから,多くのさらなる新たな疑問をもって,その答えを探す作業をどうぞはじめてください.栄養療法の終生の学徒であるあなたにとって,本書が生きた教科書であることをこころより願っています.
最後に,日々の真剣勝負を本書にお送りくださったご執筆者の皆さまと,ご自分の命をかけて闘ってくださったすべての患者さんに,こころより感謝申し上げます.
また,このたびの東日本大震災で亡くなられた多くの方がたのご冥福をお祈りし,いまなお苦しい生活を強いられている多くの方がたに,一日も早く平和な日々がやってくることを祈ります.
いま苦しい想いをしておられるすべての方へ
どうぞいまをあきらめないでください,明るい明日は必ずやってきますから
2011年夏 未曾有の災害のなかからいま立ち上がろうとしている日本にて
雨海照祥
まえがき:EvidenceとExperience- 2つのEBMを携えて(雨海照祥)
下痢
経鼻胃管からの経管栄養症例に対する基本的な確認点―頻回の下痢の原因は?―(上野正紀・他)
悪性リンパ腫に対する骨髄移植後,糖尿病の長期罹患歴を有する症例に対する食道癌根治手術後の栄養管理―下痢に対するアプローチ―(上野正紀・他)
胃食道逆流/誤嚥性肺炎
経腸栄養継続困難な高齢者で,半固形化した無脂肪消化態栄養剤が有効だった症例(吉田貞夫)
免疫低下状態/肺炎
低栄養による免疫低下状態が原因で繰り返す肺炎を栄養療法で制御しえた症例(郡 隆之・他)
多発褥瘡
多発褥瘡により,経口摂取が良好であるにもかかわらず高カロリー輸液の併用を必要とした一例(大西みちる・他)
高齢者肺炎
中心静脈栄養から腸瘻増設後の経腸栄養への移行が円滑に行われた高齢者肺炎患者の1例(石井 要・他)
非代償性肝硬変
消化管出血を繰り返す非代償性肝硬変患者に対して栄養サポートを含めた集学的治療が奏効した一例(武内有城・他)
血液透析
栄養管理が腎性貧血の改善に有効であった透析患者の1例(日下部俊朗・他)
肝細胞癌周術期栄養管理を行った1型糖尿病(DM)による血液透析(HD)患者の1例(姫野亜紀裕・他)
末期癌
高カロリー輸液施行中に腹水・浮腫が増悪した高度進行胃癌症例―終末期癌患者の栄養ケア―(M 卓至)
短腸症候群
下痢に誘発された多臓器不全合併の超短腸症候群の1例(一丸智美)
小児免疫不全
入院・外来NSTの連携からHPNに移行可能となった免疫不全の小児例(田中 彩・土岐 彰)
胃食道逆流
食道閉鎖術後の胃食道逆流により成長障害をきたした症例(タナカ早恵・他)
下痢
経鼻胃管からの経管栄養症例に対する基本的な確認点―頻回の下痢の原因は?―(上野正紀・他)
悪性リンパ腫に対する骨髄移植後,糖尿病の長期罹患歴を有する症例に対する食道癌根治手術後の栄養管理―下痢に対するアプローチ―(上野正紀・他)
胃食道逆流/誤嚥性肺炎
経腸栄養継続困難な高齢者で,半固形化した無脂肪消化態栄養剤が有効だった症例(吉田貞夫)
免疫低下状態/肺炎
低栄養による免疫低下状態が原因で繰り返す肺炎を栄養療法で制御しえた症例(郡 隆之・他)
多発褥瘡
多発褥瘡により,経口摂取が良好であるにもかかわらず高カロリー輸液の併用を必要とした一例(大西みちる・他)
高齢者肺炎
中心静脈栄養から腸瘻増設後の経腸栄養への移行が円滑に行われた高齢者肺炎患者の1例(石井 要・他)
非代償性肝硬変
消化管出血を繰り返す非代償性肝硬変患者に対して栄養サポートを含めた集学的治療が奏効した一例(武内有城・他)
血液透析
栄養管理が腎性貧血の改善に有効であった透析患者の1例(日下部俊朗・他)
肝細胞癌周術期栄養管理を行った1型糖尿病(DM)による血液透析(HD)患者の1例(姫野亜紀裕・他)
末期癌
高カロリー輸液施行中に腹水・浮腫が増悪した高度進行胃癌症例―終末期癌患者の栄養ケア―(M 卓至)
短腸症候群
下痢に誘発された多臓器不全合併の超短腸症候群の1例(一丸智美)
小児免疫不全
入院・外来NSTの連携からHPNに移行可能となった免疫不全の小児例(田中 彩・土岐 彰)
胃食道逆流
食道閉鎖術後の胃食道逆流により成長障害をきたした症例(タナカ早恵・他)








