やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
JCNセレクト「ワンステップアップ静脈栄養」の発刊にあたって
 静脈栄養が適切に管理できない栄養サポートチームは,NSTとは呼べないのです.
 医師,看護師,薬剤師,栄養士,検査技師,理学療法士…など,多職種が集まって栄養管理を実施すれば,それは,チーム医療であり,栄養サポートチームなのだ,と言われていますが,果たして,それだけでNSTと呼んでいいものでしょうか.
 栄養療法とは,経口摂取を含めた経腸栄養だけではなく,静脈栄養も含めたものです.静脈栄養と経腸栄養の両方が適切に管理できて初めて,適切な栄養療法が実施できるのです.わが国ではそこが誤解されたまま,いわゆるNSTが活動しているのではないでしょうか.多職種が集まって協力して栄養管理を実施すればNSTなのではありません.実施できる栄養療法の中身が重要です.経腸栄養しか管理できない栄養サポートチームはNSTではありません.静脈栄養が適切に管理できない栄養サポートチームはNSTではありません.これは私の持論ですし,おそらく,栄養療法を本当に理解している方々は同じ考えを持っておられるはずだと思います.
 本書は現在の栄養サポートチームの領域における問題に切り込んで,「静脈栄養も適切に管理できなければ本当の栄養療法は実施できない」ということを理解していただくことを目的として編集しました.静脈栄養を適切に管理できるようになるために必要な技術,知識を習得できるような内容としました.基本的な内容から,進んだ内容まで網羅しています.また,最後に栄養療法の本当の専門家3人に貴重なご意見をいただきました.わが国における栄養療法の黎明期からずっとこの領域を引っ張ってこられた方々なので,われわれが目指すべき栄養療法について,正しい方向性を示していただいていると思っています.
 最大の問題は,このJCNセレクトが「経腸栄養」,「栄養アセスメント」(分冊),「静脈栄養」の四部に分かれていることです.「経腸栄養」と「栄養アセスメント」は大勢の方が購入されるだろうと予想できますが,「静脈栄養」を購入される方が少ないのではないか,という心配があります.しかし,この「静脈栄養」を手にされた方は,非常に幸運です.これから栄養療法の専門家として生きていくための未来が大きく開けます,そう思っていただけるはずです.まずは,この「JCNセレクト静脈栄養」を開いてみてください.
 平成22年10月
 井上善文
 まえがき(井上善文)

基礎コース 静脈栄養についての基礎知識を復習しよう!
 (1)静脈栄養の適応
  内科領域(佐々木雅也)
  外科領域(井上善文)
  救急・ICU領域(貞広智仁・織田成人)
  在宅静脈栄養の適応(松末 智)
 (2)投与方法の選択と管理
  中心静脈カテーテルの種類と選択(藤田繁雄)
  小児における中心静脈カテーテル留置法(朝川貴博・田中芳明)
  PICC(井上善文)
  前胸部ポートの留置および管理方法(吉川正人)
  輸液・注射剤の無菌的管理と無菌的混合調製(無菌調整)(大石雅子)
  病棟における輸液ラインおよびドレッシング管理の実際(阪尾 淳・井上善文)
  PPNにおける投与システムの管理法(鍋谷圭宏・坂本昭雄)
 (3)静脈栄養管理中の栄養モニタリング(木暮道彦)
中級コース 静脈栄養製剤について,より深く理解しよう!
  TPNキット製品の意義と功罪(杉浦伸一)
  アミノ酸製剤の種類と選択(大浜 修)
  脂肪乳剤投与の意義(瀧藤克也・他)
  適正なビタミン投与量とは(渡邉由香・東海林 徹)
  適正な微量元素投与量とは(松原 肇・矢後和夫)
  静脈栄養管理の実際:PPN製剤の使い方(小山 諭・畠山勝義)
上級コース 静脈栄養のスペシャリストになろう!
  心不全患者のTPN(中心静脈栄養)(石倉宏恭・喜多村泰輔)
  腎不全症例に対するTPN処方と管理の実際(志賀英敏)
  小児症例に対するTPN処方と管理の実際(゙ 英樹)
  経口摂取が不能な癌性腹膜炎症例に対するTPN処方と管理の実際(豊田暢彦)
  緩和医療における輸液・TPN処方と管理の実際─栄養ケアの実践(M 卓至)
実践コース 静脈栄養管理の実際
  侵襲期の安全な血糖管理(清水健太郎・他)
  エコーガイド下鎖骨下穿刺法(渡部 修)
  インラインフィルターの役割(倉本敬二)
  ヘパリンロックとその意義(水谷義勝)
  クローズド・システムの意義(増本幸二・岩崎昭憲)
  カテーテル感染予防対策(井上善文)
特別コース 適正な静脈栄養法普及に対する提言!
  静脈栄養法:再び夜明けの時代に(大柳治正)
  静脈栄養についての私の考え方(入山圭二)
  静脈栄養の凋落とその対策─提言に代えて(松末 智)

 索 引