やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」(以下,本書では「食事摂取基準(2010)」と称す)の概念,適用,エネルギー・栄養素の食事摂取基準の5指標設定値の科学的根拠は,「日本人の食事摂取基準(2005年版)」と基本的には同じである.基準体重が変化したために,kg体重当たりの値は同じであっても1日当たりの値が異なることになっただけであるといっても過言でない.しかし,「食事摂取基準(2005)」策定後に発表された論文は,ほぼすべてを検索,網羅されていることに対しては,高く評価される.そして,総論はていねいに詳細に記述されており,栄養学研究者は,重宝するものと思われる.
 しかし,説明文があまりにも詳しすぎて,管理栄養士にとっては,むしろ理解が困難になってしまったようである.筆者が,ある地方の栄養士会に招かれて講演をしたとき,「研究者のためのものである」「研究者が数字のお遊びをしている」「集団の食事改善と給食管理の差がわからない.同じではないか?」という意見を耳にした.本書は,このような意見を素直に受けとめ,わかりやすくすることに努めた.
 ★を付した項目は,管理栄養士養成課程の学生が学んでおくことが望ましいものである.
 ★★は,実務についている管理栄養士,栄養・食品関連の行政に携わっている人,食品・給食・外食産業で食事摂取基準を適用している業務についている人などが身につけておいてほしいものである.
 ★★★は,栄養学・食品学研究者のためのもので,高い水準である.
 管理栄養士養成課程の学生は,★を学習すれば食事摂取基準に関連した問題に限られるが,管理栄養士国家試験に合格できる.卒業後に,★から★★に進み,さらに★★★をマスターすれば,管理栄養士は,専門職業人(プロフェッショナル)であると自負できるし,他の保健・医療従事者からもそうであると認められるであろう.
 最後に,メール文書および口頭ではあるが,厚生労働省健康局河野美穂指導官に「食事摂取基準(2010)」の引用許可を得たことを記しておく.衷心より御礼申し上げる次第である.

 2009年9月
 甲子園大学学長
 元(独)国立健康・栄養研究所理事長
 東京医科歯科大学名誉教授
 田中 平三
 はじめに
食事摂取基準を身につけるために,復習しておかなければならないこと
 必要量とは
 必要量の測定方法
 必要量の測定が不可能であることを実感する
 食事摂取基準は,必要量を測定しなくても,習慣的な摂取量が
 必要量を充足しているかどうかをわかるようにした
 食事摂取基準と平均値,標準偏差,変動係数とのかかわり
食事摂取基準の基本を学ぼう
 根本的な考え方
 食事摂取基準は,“健康な人びと”のためのものである
 習慣的な摂取量とは
 年齢区分と基準体位
 食事摂取基準の指標について
 推定平均必要量と推奨量
 目安量
 目標量
 耐容上限量
 エネルギーの指標:推定エネルギー必要量
 食事摂取基準適用の基本
食事摂取基準の数値はどのようにして設定されたのか
 成人の食事摂取基準が出発点である
 成人の食事摂取基準を学ぶ前に
 成人の栄養と年齢区分
 データの外挿とは
 推定エネルギー必要量
 たんぱく質
 脂質
  脂肪エネルギー比率(目標量) 飽和脂肪酸 n-6系脂肪酸 n-3系脂肪酸 食事性コレステロール
 炭水化物
  炭水化物 食物繊維
 脂溶性ビタミン
  ビタミンA ビタミンD ビタミンE(α-トコフェロール) ビタミンK
 水溶性ビタミン
  ビタミンB1 ビタミンB2 ナイアシン ビタミンB6 ビタミンB12 葉酸 パントテン酸 ビオチン ビタミンC
 多量ミネラル
  ナトリウム カリウム カルシウム マグネシウム リン
 微量ミネラル
  鉄 亜鉛 銅 マンガン ヨウ素 セレン クロム モリブデン
 自己評価テスト-1
ライフステージ別食事摂取基準
 乳児の食事摂取基準
  新生児と栄養
  乳児と栄養
  0〜5か月児
  6〜8か月児と9〜11か月児
  6〜11か月児
  乳児の目安量の適用
  6〜11か月児の食事摂取基準
   エネルギー たんぱく質 脂質 炭水化物,食物繊維 脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン 多量ミネラルと微量ミネラル
 妊婦への付加量
  妊婦への付加量とその科学的根拠
   エネルギー たんぱく質 脂質 炭水化物 脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン 多量ミネラル 微量ミネラル
 授乳婦への付加量
  授乳婦への付加量とその科学的根拠
   エネルギー たんぱく質 脂質 炭水化物 脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン 多量ミネラル 微量ミネラル
 小児の食事摂取基準
  小児期と栄養
   幼児期(1〜5歳) 小学生〜高校生(6〜17歳)
  外挿法による食事摂取基準の算定
  小児の食事摂取基準
   エネルギー たんぱく質 脂質 炭水化物 脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン 多量ミネラル 微量ミネラル
 高齢者の食事摂取基準
  高齢期と栄養
   エネルギー たんぱく質 カルシウム 鉄
  エネルギー,たんぱく質,カルシウム,鉄以外の栄養素の食事摂取基準
   成人の値をそのまま採用している栄養素 参照値から体表面積比(体重比の0.75乗)により外挿している栄養素 「(参照値の単位/kg体重)×(基準体重kg)」 性・年齢階級別推定エネルギー必要量から算定している栄養素 性・年齢階級別たんぱく質推奨量から算定している栄養素 性・年齢階級別摂取量の中央値(平成17,18年国民健康・栄養調査)を採用している栄養素
耐容上限量
 耐容上限量はどのようにして決められたのか
 過剰症と耐容上限量
  脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン 多量ミネラル 微量ミネラル
食事摂取基準の適用
 食事摂取基準を適用する前に
 食事改善(個人に用いる場合)を目的として食事摂取基準を用いる場合の基本的な考え方
 食事改善(集団に用いる場合)を目的として食事摂取基準を用いる場合の基本的な考え方
 給食管理を目的として食事摂取基準を用いる場合の基本的な考え方
 1日分の食事を提供する給食施設における食事摂取基準の適用
  重要事項を復習してみよう
  給食施設における栄養計画の決定樹
  均一集団における栄養素の栄養計画
   栄養計画の手順 栄養計画の仮想例
  目安量と給食施設の栄養計画
  均一集団におけるエネルギーの栄養計画
  均一集団における主栄養素エネルギー比率の栄養計画
   栄養計画の手順(仮想例)
  不均一集団における栄養計画(理論的接近)
   栄養素密度接近法I 栄養素密度接近法II
 自己評価テスト-2

 資料 日本人の食事摂取基準(2010年版)
 文献

 DRIs BOX
  1. パーセンタイル(percentile)
  2. 不確実性因子
  3. たんぱく質・エネルギー栄養不良のスクリーニング
  4. 低栄養を起こしやすい人(低栄養の危険因子)
  5. 栄養素欠乏症の症状・徴候
  6. たんぱく質・エネルギー栄養不良を評価するための一般的な測定項目
  7. 閾値(threshold)
  8. 習慣的な栄養素摂取量と生活習慣病のリスク
  9. 外挿(extrapolation)
  10. 主栄養素のエネルギー比率
  11. 炭水化物必要量への接近
  12. アメリカ/カナダ食物繊維の目安量(「食事摂取基準(2010)」の目標量)
  13. 飽和量
  14. ビタミンの機能と欠乏症
  15. 消化率,吸収率,相対生体利用率とは
  16. ミネラルと脂肪酸の機能と欠乏症
  17. アメリカ/カナダの食事摂取基準における推定エネルギー必要量
  18. アミノ酸
  19. 人乳と牛乳の主要組成(100g当たり)
  20. 人工乳栄養児の食事摂取基準
  21. 葉酸と神経管閉鎖障害
  22. カルシウムの妊婦・授乳婦への付加量はどうして0(ゼロ)となったのか
  23. 1日だけの食事摂取量から習慣的な摂取量を推定するには(横山徹爾)
  24. ビタミン,ミネラルの過剰症
  25. 習慣的な栄養素摂取量を反映する生化学的指標
  26. 米国における農務省フードガイドとDASH食
  27. 習慣的な摂取量が必要量を充足している確率は?
  28. 食事摂取基準と栄養表示
  29. 食事摂取基準の概念が導入されたのは給食施設の栄養計画のためである
  30. 給食施設における食事提供量(標的分布の中央値)は推奨量よりも高い
  31. 給食施設において必要量を充足していない人びとの割合を見積るには
  32. 給食施設においてもマネジメントサイクルを!
  33. 不均一集団のサブグループのまとめ方
  34. 適用のまとめ