やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて
 画像診断を死因診断に応用する試みはX線の発見以降継続して行われていた.そして,わが国では1999年に放射線医学研究所の江澤らによってオートプシー・イメージング(Autopsy imaging:Ai)が提唱された.これは解剖前にCTなどの画像検査を行い,その情報を解剖医に伝え,解剖の正確度を向上させる,あるいは検案時に画像所見を加えることで,検案の正確度を向上させることを目的としたシステムである.すでに,千葉大学などではAiセンターが立ち上がっているが,統一的な撮影技法,読影に必要な知識の確立・普及,診断の精度管理などは今後の課題として残っている.また,2012年に死因究明2法案が可決され,死因究明に画像を用いやすくなり,Aiセンターの役割が大きくなりつつある.東北大学医学系研究科Aiセンターは,法医領域のAiに特化してはいるが,Aiの一翼を担うべく,研鑽を積んでいるところである.
 さて,本学にAiセンターを設置して5年を経過し,約1,000例を経験した.東北大学でAiを行うことになったきっかけは,東北大学医学部保健学科において,2009年4月にB棟(研究棟)を改築し,放射線技術科学専攻内に学生教育,研究のためのCTを設置することになったことであった.X線機器は,経年劣化するため,日常の維持管理が大切である.日常の維持管理には,実際に使用するのがよいので,Aiを行うことで,使用頻度を上げることはできないかと考え,法医学分野の舟山教授に相談し,快諾いただいた.宮城県警との調整もしていただき,2009年4月末に第1例を経験することができた.2010年度には,Aiセンターを設置することができ,概算要求・特別経費プロジェクト「法医養成プログラムの開発」の一部に「死後画像撮影を専門とする診療放射線技師の養成」を盛り込んで申請し,平成22年(2010年)より5年間のプロジェクトとして認められ,現在の体制が維持できている.また,読影システム,読影用のワークステーション,移動型X線撮影装置などを整備することができ,検査,読影環境の充実もできた.
 CT画像による死因を含めた異常所見診断は,死後CT画像というある意味「未知」なものであることから,実務者のみではなく,その他の医療関係者を含めての討論の場,また,若手スタッフの教育の場が必要と考えて年10回のAiセミナーを開催している.法医学分野とAiセンターの診断医でピックアップした4症例について,遺体搬送時の既知情報→画像所見→法医学所見の確認の流れで検討している.
 本書は,Aiセミナーで検討した症例を中心に,法医学分野における死後CT診断に特徴的な事項を解説することにより,法医領域のAiの普及の一助とすることを目的に上梓したものである.また,法医医師が日常的に用いる用語を放射線診断医・診療放射線技師が理解できないことをしばしば経験している.放射線診断・診断技術は,診断を依頼する各科の医師の検査目的・着目点を十分に理解することで,診断の正確度を向上してきた.法医領域のAi診断においても,法医医師の目的・着目点を十分に理解して検査・読影することが,精度の高い診断につながると考えている.そこで本書では,法医の用語で,放射線診断医・診療放射線技師になじみがない・少ないものを法医医師に解説していただき,放射線診断医・診療放射線技師がよりよい診断・検査法に到達できるよう工夫してみた.さらに,法医医師になじみの少ない放射線診断・技術関係用語の解説も加えている.
 本書が法医領域のAiの普及の一助になることを願っている.
 2014年 8月
 東北大学医学系研究科 保健学専攻 画像解析学分野 教授
 齋藤春夫
 序にかえて
 監修者・執筆者一覧

基本編
法医学領域におけるAiの読影
東北大学Aiセンターにおける死後画像撮影
事例編
1.晩期死体現象とAi
 Case 1 皮下や実質臓器の腐敗gas
 Case 2 蛆
 Case 3 個人識別
2.溺水吸引とAi
 Case 1 溺死の肺“タイプ1”
  COLUMN 1 溺死肺のタイプ1とタイプ2の混合型:タイプ1+2
 Case 2 溺死の肺“タイプ2”
 Case 3 蘇生術とconsolidation
 Case 4 気道内の泥
  COLUMN 2 入浴関連死
3.頸部圧迫とAi
  COLUMN 3 検案
 Case 1 甲状軟骨上角の骨折
  COLUMN 4 麦粒軟骨
 Case 2 縊頸による頸椎の離開
 Case 3 甲状軟骨上角の形状不整
4.低体温症とAi
 Case 1 低体温症の3徴候
  COLUMN 5 矛盾脱衣
 Case 2 低体温症か溺水吸引か
  COLUMN 6 hide and die syndrome
 Case 3 低体温症の遺体に肺炎の罹患
5.頭部の異変とAi
 Case 1 頭蓋内異物
 Case 2 多発骨折の形状・走行
 Case 3 燃焼血腫
6.体表損傷・胸腹部臓器損傷とAi
 Case 1 胸部刺創と心臓離断
  COLUMN 7 裁判員裁判で遺体写真をできるだけ使用しないという方針
 Case 2 外傷性心臓破裂
 Case 3 墜落と肝臓挫滅
7.頸椎損傷とAi
 Case 1 頸椎損傷1
 Case 2 頸椎損傷2
 Case 3 頸椎の離開
  COLUMN 8 頸椎離開
 Case 4 頸椎前面のgas像
 Case 5 CT画像では指摘困難な頸椎損傷
8.乳児急死とAi
 Case 1 乳児突然死と肺CT画像1
 Case 2 乳児突然死と肺CT画像2
  COLUMN 9 乳幼児突然死症候群
 Case 3 気管支炎・気管支肺炎
 Case 4 心奇形
 Case 5 心筋症
  COLUMN 10 タンデムマススクリーニング
 Case 6 肺高血圧症
9.薬毒物服用とAi
 Case 1 胃内にみられた多量の薬物塊1
 Case 2 胃内にみられた多量の薬物塊2
 Case 3 胃内にみられた多量の農薬
  COLUMN 11 高密度な食物残渣
 Case 4 胃内にみられた錠剤
 Case 5 活性炭治療後の薬物中毒症例
  COLUMN 12 青色の液体
10.気道内異物とAi
 Case 1 吐物吸引1
 Case 2 吐物吸引2
 Case 3 食物誤嚥
11.胸腹部疾患とAi
 Case 1 心嚢内血腫(大動脈解離)
 Case 2 心嚢内血腫(急性心筋梗塞破裂)
 Case 3 肺血栓塞栓症
 Case 4 肺癌と肺炎
 Case 5 慢性アルコール性肝障害+肺膿瘍
 Case 6 膀胱憩室と尿路感染症
 Case 7 汎発性腹膜炎
 Case 8 癌転移
12.まれな事例とAi
 Case 1 胆嚢剥離
 Case 2 胃融解
 Case 3 空気塞栓1
 Case 4 空気塞栓2
 Case 5 凍結遺体

 用語解説
 あとがきにかえて
 索引