やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 摂食嚥下障害に携わるようになってから,嚥下調整食を提供する際のゼリーの特徴,食材と加水量の割合による物性の違いなど,嚥下調整食に関する研究を行ってきた.しかし,臨床に出てみると,安全だと思われていた嚥下調整食が難しいという患者に遭遇することがあり,疾患や患者の栄養状態の影響があることを学んだ.
 栄養状態を改善するためには,疾患とその経過を理解したうえで,経口,経管栄養などの栄養補給を適切に行う必要がある.
 日本栄養士会の専門分野別認定制度に日本摂食嚥下リハビリテーション学会との共同認定である「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」がある.同管理栄養士とは摂食嚥下リハビリテーションの基本的知識と栄養管理に関する技能を修得し,専門的な食・栄養支援を行うことでQOL向上に貢献できる管理栄養士である(日本栄養士会ホームページより一部改変).摂食嚥下障害患者は,医療機関や介護(福祉)施設,在宅などあらゆる場において,適切な栄養アセスメントと摂食嚥下アセスメントによりアプローチされるべきである.
 本書は,Part1には摂食嚥下リハビリテーションに関する総論と各論を配した.各論には,管理栄養士として押さえておきたいフィジカルアセスメント,嚥下評価,言語,口腔ケア,誤嚥時の対応,薬剤などと,各専門分野の先生方にご執筆いただき,Part2は摂食嚥下障害患者の栄養アセスメントに関する文献レビュー,Part3は疾患別摂食嚥下障害とし,疾患特有の栄養アセスメントと事例について,摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士に,執筆いただいた.Part 3が本書の肝である.さらにPart4には,臨床研究を進めるための意義やその方法について,具体的に記載している.わたしたちは,患者によりよい栄養管理を提供するためにも,エビデンスに基づいた栄養管理の理解と,そのエビデンスづくりの両方について行動しなければならない.
 本書が,摂食嚥下障害に携わる管理栄養士の実践的教科書となり,多くの方に手に取っていただくことで,患者の「おいしい笑顔」がみられることを期待している.
 2021年7月
 編集を代表して 江頭文江
はじめに
  摂食嚥下リハビリテーションにおいて管理栄養士に期待すること(藤谷順子)
  なぜ摂食嚥下障害患者に対する栄養アセスメントが重要か(小城明子)
   摂食嚥下障害患者の栄養状態の特徴
   栄養アセスメントの重要性
  本書のねらい(江頭文江)
Part 1 摂食嚥下リハビリテーション
 総論
  摂食嚥下総論(大熊るり)
   摂食嚥下の解剖生理
   摂食嚥下の過程:摂食嚥下5期モデルとプロセスモデル
    摂食嚥下5期モデル
    プロセスモデル
   摂食嚥下障害の原因
   摂食嚥下障害への対応の概要
    情報収集
    摂食嚥下機能評価
    摂食嚥下障害への医学的対応
  摂食嚥下リハビリテーションはどこで,誰が,何をやるのか(津田豪太)
   摂食嚥下障害の経過の多用性
   摂食嚥下障害に関わるさまざまな職種
   治療の経過にそった介入の考え方
    急性期
    急性期以後
   多職種でお互いを補い合おう
 各論
  フィジカルアセスメント(芳村直美)
   摂食嚥下障害に関するバイタルサインなどの基本事項
   摂食嚥下機能評価につながる障害に関連するフィジカルアセスメント
    脳神経とその働き
    摂食嚥下の5期モデルとフィジカルアセスメントのポイント
   食事場面からのフィジカルアセスメントの例
  言語と嚥下評価(石山寿子)
   言語聴覚士の役割
   摂食嚥下の評価と言語,言語聴覚士の役割
    スクリーニングテストにおける「むせ」と「呼吸」
    構音器官の特徴を摂食嚥下機能評価に活かす
  嚥下評価(VE・VF)の見方(黒澤友紀子,戸原 玄)
   対象者の選択
   嚥下評価の方法
   検査結果の見方
   外部評価とVE検査
  口腔ケアのポイント(白石 愛)
   簡便な口腔スクリーニング
   口腔ケアについて
  ミールラウンドのポイント(菊谷 武)
   ミールラウンドの重要性
   ミールラウンドにおける評価項目
    むせ
    食べこぼし
    詰め込み・早食い・溜め込み
    咀嚼運動の観察
    食事の姿勢,介助方法
   多職種によるミールラウンド,カンファレンスの必要性
   管理栄養士に期待すること
  誤嚥時の対応(井上登太)
   誤嚥発生の機序と誤嚥を起こしやすい環境や姿勢について
   患者が誤嚥したときの対応
    リスク管理
    早期発見
    軽症への対応
    中等症への対応
    緊急時の対応
  嚥下調整食(泉 綾子)
   嚥下調整食とは
   嚥下調整食の規格・分類
    嚥下調整食の規格・分類
    とろみの規格・分類
   嚥下調整食の病院・施設間の地域連携
  摂食嚥下障害の栄養指導(工藤美香)
   摂食嚥下障害患者へ管理栄養士が行う栄養ケア
    栄養状態の適正化
    食形態の適正化
    栄養指導
   食形態の名称の多様性(基準の違う形態)にどう対応するか
   他施設への情報提供―栄養情報提供書の活用
  嚥下障害と薬剤(中道真理子)
   嚥下障害を引き起こす可能性のある薬剤
    運動機能への作用
    潤滑性への作用
    胃腸の自動運動性への作用
   薬剤性嚥下障害への対処
Part 2 摂食嚥下障害患者の栄養アセスメント
  栄養アセスメント(成人および小児)―文献レビューの結果より(上島順子・清水昭雄)
   スコーピングレビューの結果
    成人を対象としたレビュー結果
    小児を対象としたレビュー結果―小児摂食嚥下障害に関連した栄養アセスメント項目
Part 3 疾患別摂食嚥下障害疾患特有のアセスメント・モニタリング
  栄養ケアプロセスの概要と使用例(寺本房子)
   栄養ケアプロセス(NCP)
   栄養アセスメントに必要なデータ(情報)
   栄養アセスメント
   栄養診断
   栄養ケアプランと栄養介入
   栄養ケア記録─SOAP方式
   栄養ケア記録(SOAP)の事例
  脳血管疾患(熊谷直子)
   疾患の治療および経過
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  神経変性疾患(星野郁子)
   疾患の治療および経過
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  口腔・咽頭がん(豊島瑞枝)
   疾患の概要
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
    低栄養
    体重減少
    経口摂取以外の栄養ルート
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
    術前からの嚥下機能評価の重要性
   事例報告
  食道がん(園井みか)
   疾患の治療および経過
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
    低栄養
    誤嚥性肺炎
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  精神疾患(統合失調症)(越後和恵)
   疾患の治療および経過
   疾患と摂食嚥下障害との関連
    精神症状を原因とした窒息を起こしやすい摂食動作
    抗精神病薬の副作用が原因となる場合
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  サルコペニア・老嚥(嶋津さゆり)
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
    低栄養
    全身のサルコペニア状態
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  脳性麻痺(小児)(尾関麻衣子)
   疾患の治療および経過
   疾患と摂食嚥下障害との関連
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
    発達の過程にある
    個人差が大きい
   管理栄養士による栄養アセスメントの方法
    主観的包括評価(SGA)
    体格評価
    必要エネルギー量の算出
    摂取栄養量の評価
    食事摂取状況
    保護者の負担
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告
  認知症(大嶋晶子,松井美代子,本川佳子)
   代表的な認知症の原因疾患
   認知症の原因疾患と摂食嚥下障害との関連
    アルツハイマー型認知症
    脳血管性認知症
    レビー小体型認知症
    前頭側頭型認知症
   栄養状態の特徴と栄養管理上の問題点
    低栄養に陥りやすい
    原因疾患別の食事の問題を理解する
   栄養管理する上でモニタリングすべき点
   事例報告1
   事例報告2
Part 4 文献検索・臨床研究
  臨床研究の意義 なぜエビデンスが必要か(原 純也,松野さおり)
   エビデンス(科学的根拠)とは
   臨床研究の意義
   今求められているエビデンス
  現場で困っている人のための文献検索の仕方(栢下 淳,山縣誉志江)
   文献検索のツール
   文献検索のコツ
  現場で困っている人のための臨床研究のコツ(百崎 良)
   臨床研究の始め方
   よい研究とは
   研究を進めるためのコツ

 COLUMN
  摂食嚥下機能低下に関連する診療報酬・介護報酬(工藤美香)
  摂食嚥下と意思決定支援(大熊るり)

 索引