やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年の平均寿命の伸長は著しい.しかし,健康寿命は,男女とも平均寿命より約10年は短い.少子高齢化が急速に進む日本では,保健・医療の充実やさらなる発展が期待され,それにともなうチーム医療の普及が重要な課題となっている.保健・医療・福祉の総合的な取り組みのなかで,それぞれの専門職は互いの専門性を尊重し,最大限の能力を出し合うことで,患者や要支援・介護者のQOL向上へのニーズの多様化に応えていく必要がある.それには,疾病の予防や治療を目的として,食事や介護などの保健指導を行うために,個人の身体状況,栄養状態,食行動,その他の要因を総合的に判断できる能力が求められる.
 栄養学を学ぶことは,食物を取り込む側の人体や,栄養素を含む食物の知識はもとより,生活者としての各ライフステージにある“人”を“人間として捉える”ことである.健康と医療福祉分野の一翼を担う専門職にとって,疾病の予防・治療,看護・介護,健康の保持・増進をサポートするうえで栄養学は必須となる.
 すべての国民が,ライフステージに応じた健康で,心豊かな生活を送ることのできる社会の実現を期待している.高齢者や傷病・障がい者が,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるような,態勢づくりが進みつつあるなかで,幅広い教養,高い倫理観,体系的な専門知識を身に付けた質の高い医療人の養成が必要である.
 そのために本書は,人体の構造を知り,その機能と栄養の関係を理解し(第I章),栄養素を供給する食べ物を食事に整える知識(第II章)や体内の栄養素の役割(第III章),健康と栄養(第IV章),医療と栄養(第V章),福祉と栄養(第VI章)との関係について詳細に記述した.さらに,母性を起点として乳幼児期,学童・思春期,成人・更年期,老年期,障がい者(児)の身体的・栄養的特性や発症しやすい疾病の栄養ケアについても記述した(第VII章).本文中の耳慣れない語句については側注を活用して解説を加え理解を助けることとし,巻末には学生諸氏のさらなる勉学のために参考図書を掲載した.本文の理解を深めるための資料は,必要かつ十分にそろえた.
 なお,本書は旧版「保健・医療・福祉のための栄養学」(2000年第1版・2004年第2版・2005年第3版発行)の内容を踏襲しつつ,新たな項目を加えてリニューアル版として刊行した.
 将来,保健・医療・福祉分野の専門職をめざす多くの人々を養成する施設では,“栄養学”,“臨床栄養学”,“栄養ケアマネジメント”などを教授する専任教員は少ない.本書は,長年これらの教育に携わってきた管理栄養士,看護師・保健師,歯科医師などにより編集・執筆を試み,上梓した.これらの専門職をめざす人々に,役立つ知識を提供することを願いつつ,読者からのご批判,ご教示をいただきながらさらに良いものにできればこれ以上の喜びはない.
 2018年11月
 編者一同
 はじめに
I 人体の構造と機能
 1 人体の仕組み
   (1)生命の維持
   (2)元素組成と物質組成
   (3)栄養素のターンオーバー(代謝回転)
 2 体内代謝と栄養素
   (1)エネルギー代謝と補酵素
   (2)たんぱく質代謝
   (3)脂質代謝
   (4)水分代謝
 3 摂食から排泄まで
   (1)消化と消化酵素
   (2)吸収部位とメカニズム
   (3)排泄(糞便・尿・その他)
 4 ホメオスタシスとバイタルサイン
   (1)ホメオスタシス(恒常性)の維持
   (2)バイタルサインと救急対応
II 食品(食物)と栄養
 1 食品の分類と特徴
   (1)穀類・いも類・砂糖類
   (2)乳類・卵類・肉類・魚介類・豆類
   (3)野菜類・藻類・きのこ類・果実類
   (4)油脂類・種実類
   (5)その他
 2 食品の機能と種類
   (1)食品の機能
   (2)特別用途食品
   (3)保健機能食品
   (4)サプリメント
 3 食品の調理と加工
   (1)食品の調理
   (2)食品の加工
   (3)食品の流通
   (4)食品の安全性
 4 食事計画
   (1)食品構成
   (2)食事計画の実際
   (3)食事バランスガイド
 5 食品と薬の相互作用
   (1)食品が医薬品に及ぼす影響
   (2)医薬品が栄養代謝に及ぼす影響
III 栄養素の役割
 1 たんぱく質
   (1)アミノ酸
   (2)たんぱく質
   (3)その他の窒素化合物
 2 脂質
   (1)脂肪酸
   (2)トリアシルグリセロール(triacylglycerol:TG)
   (3)リン脂質
   (4)ステロール
   (5)リポたんぱく質
 3 炭水化物
   (1)単糖類
   (2)その他の糖類
   (3)食物繊維
 4 ビタミン
   (1)脂溶性ビタミン
   (2)水溶性ビタミン
 5 ミネラル
   (1)多量ミネラル
   (2)微量ミネラル
 6 水
   (1)体内の水分
   (2)種類
   (3)代謝
 7 その他の成分
   (1)アルコール
   (2)食品に含まれる生理活性物質
   (3)体内で産生される生理活性物質
IV 健康と栄養
 Column
 1 ヘルスプロモーション
   (1)ヘルスプロモーションとは
   (2)オタワ憲章
   (3)ジャカルタ宣言
 2 健康増進法
   (1)健康増進法とは
   (2)健康日本21(第二次)
   (3)運動指針・休養指針・睡眠指針
   (4)食育基本法
 3 日本人の食事摂取基準(2015年版)
   (1)基本方針
   (2)エネルギー必要量
   (3)栄養素の指標と摂取基準
   (4)活用
 4 国民健康・栄養の現状
   (1)身体状況
   (2)栄養摂取状況
   (3)生活習慣状況
 5 健康の保持増進
   (1)望ましい食生活
   (2)生活習慣(運動・食事・喫煙・飲酒)と健康
V 医療と栄養
 Column
 1 臨床栄養管理の意義
   (1)平均寿命と健康寿命
   (2)傷病者の推移
   (3)医療保険制度
   (4)栄養食事管理の意義
 2 チーム医療
   (1)スタッフと役割
   (2)クリニカルパス
   (3)リスクマネジメント
   (4)インフォームド・コンセント
 3 栄養アセスメント
   (1)栄養スクリーニング
   (2)栄養アセスメントの方法
   (3)栄養ケアの記録
 4 栄養補給
   (1)栄養補給の方法
   (2)栄養補給の選択
   (3)栄養補給の特徴
 5 在宅医療
   (1)在宅医療
   (2)訪問看護
   (3)食生活への支援
VI 福祉と栄養
 Column
 1 障がい者の支援
   (1)障害の分類と障がい者数
   (2)介護保険制度
   (3)障害者総合支援法
   (4)福祉施設
 2 栄養ケアマネジメント
   (1)定義・プロセス
   (2)スタッフと役割
   (3)栄養ケアマネジメントの実際
 3 QOLの向上
   (1)QOLの意義と要素
   (2)ノーマライゼーション(normalization)
   (3)ユニバーサルデザイン(universal design:UD)
   (4)ターミナルケアとホスピス
 4 地域包括ケア
   (1)ケアの目的
   (2)サービスの種類
   (3)リハビリテーション
 5 居宅療養
   (1)リビングウイル
   (2)居宅サービス
   (3)居宅介護支援(ケアマネジメント)
VII ライフステージ別栄養管理
 1 妊娠・授乳期の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾病と栄養ケア
    (妊娠貧血,妊娠悪阻,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病)
 2 乳児・幼児期の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾病と栄養ケア
    (先天性代謝異常,食物アレルギー,周期性嘔吐症,偏食,脱水,下痢・便秘)
 3 学童・思春期の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾病と栄養ケア
    (急性糸球体腎炎,1型糖尿病,貧血,摂食障害)
 4 成人・更年期の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾病と栄養ケア
    (メタボリックシンドローム,肥満,糖尿病,脂質異常症,動脈硬化症,高尿酸血症,痛風,消化器疾患―胃腸・肝臓・膵臓・胆嚢,腎疾患,がん,更年期障害)
 5 老年期の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾患と栄養ケア
    (低栄養,慢性閉塞性肺疾患,肺炎,高血圧,骨粗鬆症,摂食嚥下障害,褥瘡,フレイル,サルコペニア,老年症候群)
 6 障がい者(児)の栄養管理
   (1)栄養特性
   (2)主な疾患と栄養ケア
    (視覚障害,聴覚障害,肢体不自由,内部障害,知的障害,精神障害性)
 参考図書

資料
 [1]−日本人の食事摂取基準(2015年版)
  (1)参照体位(参照身長,参照体重)
  (2)目標とするBMIの範囲(18歳以上)
  (3)身体活動レベル別にみた活動内容と活動時間の代表例
  (4)エネルギー,(5)たんぱく質,(6)脂質
  (7)炭水化物(食物繊維)
  (8)エネルギー産生栄養素バランス
  (9)脂溶性ビタミン,(10)水溶性ビタミン
  (11)多量ミネラル,(12)微量ミネラル
 [2]−健康日本21〔第二次〕の目標項目と数値(抜粋)
 [3]−がんを防ぐための新12か条
 [4]−(1)食生活指針(文科省・厚労省・農水省2016年6月一部改正)
  (2)妊産婦のための食生活指針(厚生労働省2006)
  (3)成長期の食生活指針
 [5]−(1)健康づくりのための身体活動基準2013(概要)
  (2)健康づくりのための休養指針(厚生省1994)
  (3)健康づくりのための睡眠指針(厚生労働省2014)
 [6]−一般的に利用される栄養パラメータと栄養アセスメント
 [7]−臨床検査の基準範囲と意味
  (1)血液検査
  (2)尿・便検査
 [8]−栄養スクリーニングツールの例
  (1)SGA(主観的包括的評価)
  (2)DETERMINEチェックリスト(65歳以上の高齢者に対して有用)
  (3)簡易栄養状態評価表(MNA(R)-SF)
 [9]−クリニカルパスの例
  (1)医療者用
  (2)患者用
 [10]−授乳・離乳の支援ガイド(厚生労働省2007年,抜粋)
 [11]−成長曲線(0〜17.5歳)
 [12]−(1)登録 特殊ミルクリスト
  (2)特殊ミルク成分表(薬価収載品)
 [13]−(1)嚥下調整食学会分類2013(抜粋)
  (2)とろみ(抜粋)
 [14]−褥瘡評価
  (1)ブレーデンスケール
  (2)DESIGN褥瘡重症度分類用

 索引
 略語一覧