やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば
 2011年に『食物アレルギー栄養指導の手引き2011』が発刊されてそれを解説する書として『食物アレルギーの栄養指導』を世に出してから早5年が経過した.
 その間に食物アレルギーに興味をもって取り組んで頂いている管理栄養士の方が大変増加し,さまざまな職種において知識や能力を発揮されていることをとても嬉しく思っている.
 本書は管理栄養士のみなさんから食物アレルギーのバイブルとして高い評価を頂き,過去7回にわたり刷を重ねることができた.
 しかし,食物アレルギーの診療/社会対応はまた一段と大きな変革/進歩を遂げており,『食物アレルギーの栄養指導の手引き2017』を2017年度に公開するにあたり,再びその解説書を出す必要に迫られた.
 今回も編集を今井孝成医師,高松伸枝・林典子の両管理栄養士にお任せし,全く別物といってもよい改訂第2版を世に出すことができた.
 医療的なことの解説は『食物アレルギー診療ガイドライン2016』など最新の情報に基づいており,それに対応するように栄養食事指導の総論・各論が解説されている.
 管理栄養士のみなさんから今回はどのような評価を頂けるのか,少し不安でもあり,楽しみでもある.
 本書が管理栄養士のみなさんに再び食物アレルギーを勉強する教科書として幅広く活用されることを望んでいる.
 2018年7月
 監修 海老澤 元宏

はじめに 食物アレルギーの栄養食事指導と栄養士
1.栄養士諸姉諸兄へ
 “食物アレルギー患者および保護者はもとより,食物アレルギーの診療にかかわる全ての人々が,栄養士の皆さんのより積極的な食物アレルギー診療へのかかわりを強く期待しています.そして皆さんにはその責務とそれを遂行する力があると思うのです.”
 2012年にこのような前文の本書が発刊され,当初の予想販売数を大きく超え,これまでに約8,000部を売り上げました.現場の栄養士の方々はもちろん,養成課程で教科書として利用いただいているという話も聞きます.多くの栄養士の方々が本書を手に取り,食物アレルギーにおける栄養食事指導を学び,それが浸透していっていることをとても嬉しく思います.
 このたび本書は日進月歩の食物アレルギー診療および栄養食事指導にあわせて,大幅改訂に至りました.どうぞ最新の食物アレルギーの知識を身につけ,患者のために活かしてください.
2.栄養士は食物アレルギー患者らの羅針盤たれ
 大抵の医師の食物アレルギー診療における役割は,食物経口負荷試験などで診断することです.ところが患者らは診断を受けた後,その日の食事から除去食などの食物アレルギー対応を行わなければなりません.しかし医師は栄養食事指導に関する教育は受けていませんので,保護者らの具体的な疑問や質問には必ずしも答えることができません.迷える患者らは突然食物アレルギーの大海に投げ出されてしまうのです.
 こうした患者らの羅針盤になるのが栄養士の皆さんです.皆さんは栄養学の専門家であり,これまで十分な教育を受け,たくさんの経験を積んできています.そしてその能力と技術を患者のために発揮することが期待される職業です.
3.高度化する食物アレルギーの栄養食事指導と患者へ寄り添う栄養食事指導
 昨今の食物アレルギーの臨床は単に原因食物を除去するだけではなく,必要最小限の除去を行うことが一般的になってきました.このため栄養食事指導では従来のように食物除去によって損なわれる栄養成分の代替に関する指導だけではなくなってきました.食べられる原因食物のたんぱく質量を把握し,その食物が含まれる加工食品のたんぱく質量を参考にしながら,患者が食べられる加工食品量を計算して,食生活の幅を広げる指導助言をすることが期待されるようになってきました.このように栄養指導の内容も格段に複雑かつ高度化してきています.
 また患者や保護者が求めることは必ずしも栄養学的なことばかりではありません.患者や保護者らは日々の除去食生活やアナフィラキシーリスクといったストレスに晒され,誰かに心の支えになってもらったり,食生活の苦労や悩みの共有を求めていたりすることも少なくありません.こうした患者らの一面に寄り添い支える栄養士の存在が期待されています.
4.食物アレルギー専門栄養士への飛躍
 2015年12月にアレルギー疾患対策基本法という法律が施行され,アレルギー対策の充実が今まで以上に求められるようになっています.アレルギー対応の充実に関しては,もちろん栄養士の役割の充実も含まれており,今後さまざまな対策が打ち出されてくることになります.たとえば食物アレルギーに関する資格制度の検討が行われています.これからは食物アレルギーに詳しい栄養士だけではなく,食物アレルギー専門の栄養士としての活躍が期待されています.ぜひ本書で食物アレルギーの基礎知識をしっかりと身につけたうえで,指導経験の有無など関係なく,まずは現場に出て患者に接してみてください.わからないことがあったらそのつど本書を開いて確認し,再び指導にいかしていきながら経験を積み,ますます専門性を高めていってください.患者らの期待に応えられるように.
 2018年7月
 編者代表 今井 孝成
知識編 食物アレルギーの知識
 監修のことば (海老澤元宏)
 はじめに 食物アレルギーの栄養指導と栄養士(今井孝成)
第1章 食物アレルギーの診療
 Part 1 食物アレルギーとは(海老澤元宏)
  1)定義 2)経緯 3)病態 4)臨床型分類
 Part 2 食物アレルギー[特殊型]
  新生児・乳児消化管アレルギー(山田佳之)
   1)消化管アレルギーとは 2)非IgE依存性消化管アレルギー 3)新生児・乳児消化管アレルギー
  口腔アレルギー症候群(OAS)(近藤康人)
   1)口腔アレルギー症候群とは 2)臨床的特徴 3)検査・治療
   4)ラテックス-フルーツ症候群 5)学校における対応
  食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)(真部哲治)
   1)食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは? 2)発症機序 3)疫学
   4)臨床像 5)診断 6)学校における対応
  成人に独特な食物アレルギー(福冨友馬)
   1)アニサキスによる疾病 2)職業性曝露が関与した食物アレルギー
   3)化粧品使用に関係した食物アレルギー 4)食品添加成分への反応
 Part 3 疫学(今井孝成)
  1)食物アレルギーの有病率 2)即時型食物アレルギーの実態
 Part 4 食物アレルゲン(伊藤浩明)
  1)アレルゲンの基礎知識 2)食品中のタンパク質(アレルゲン)量(濃度)の定量とアレルゲン検出
  3)おもな食物アレルゲン
 Part 5 予知と予防(福家辰樹)
  1)食物アレルギーの発症リスクに関する正しい知識をもとう 2)食物アレルギーの発症リスクとは?
  3)食物アレルギーの予防はどこまで検討されているか
  4)「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」のポイント
 Part 6 診断[病歴,検査](長尾みづほ)
  1)病歴の把握 2)検 査
 Part 7 食物経口負荷試験[適応とその実際](柳田紀之)
  1)食物経口負荷試験の定義 2)食物経口負荷試験の目的
  3)食物経口負荷試験のリスク評価 4)食物経口負荷試験の方法
  5)食物経口負荷試験を行う体制の整備
 Part 8 症状と評価・対応(伊藤靖典)
  1)食物アレルギーの誘発症状 2)重症度の評価と対応 3)アナフィラキシー時の対応
  参考文献
第2章 食物アレルギーの栄養食事指導 [総論]
 (林 典子)
  1)食物アレルギー患者に対する栄養士の役割
  2)病院での栄養食事指導(総論)
第3章 食物アレルギーの栄養食事指導 [各論]
 Part 1 おもな原因食物の考え方
  鶏卵(楳村春江・伊藤浩明)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  牛乳(楳村春江・伊藤浩明)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  小麦(小田奈穂)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  知っておくと便利(西田京子) 鶏卵・牛乳・小麦アレルギーへの対応食品の紹介
  大豆(小田奈穂)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  魚類・魚卵(四竃美帆)
   1)除去が必要な食品 2)魚類・魚卵の交差抗原性
   3)安全管理 4)自宅での摂取可能量までの指導
  甲殻類・軟体類・貝類(古屋かな恵)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  ピーナッツ(落花生)(上野佳代子)
   1)完全除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  種実類〔ナッツ(堅果)類,種子類〕(上野佳代子)
   1)除去の指導
  果物・野菜(高松伸枝)
   1)除去の指導 2)自宅での摂取可能量までの指導
  そば(村里智子)
   1)除去の指導
  肉類・いも類・その他(村里智子)
   1)肉類 2)いも類 3)その他
 Part 2 加工食品とアレルギー表示(高松伸枝)
  1)アレルゲンを含む食品に関する表示 2)表示の対象 3)表示の範囲
  4)原材料とアレルギー表示の方法 5)代替表記と拡大表記
  6)コンタミネーションと注意喚起表示 7)わかりにくい表示
 Part 3 ライフステージ別の食事の留意点,患者の悩み(長谷川実穂)
  1)妊娠・授乳期 2)乳児期 3)幼児期 4)学童期
  5)患児と保護者の悩みの変化
 Part 4 食物アレルギー栄養指導の面接技法(松嵜くみ子)
  1)食物アレルギーの特性と生じやすい困難 2)まずできること
  3)基本的な信頼関係の重要性と支援者の目標 4)話を「聴く」準備
  5)患児や保護者に起こりやすい問題 6)困難の軽減を支援するときのステップと基本的な考え方
  7)周囲の人々の協力を得ること 参考文献
実践編 専門分野別の栄養士の役割と実践事例
第1章 病院栄養士(一般病院,クリニック)
 Part 1 給食管理(赤沢尚美)
  1)病院給食での食物アレルギーの対応
  2)給食提供の流れ
  3)治療へのかかわり(食物経口負荷試験食の提供)
 Part 2 クリニック(小児科)における栄養食事指導(野間智子)
  1)栄養士によるクリニックの栄養食事指導の実践例
  2)クリニックでの離乳食教室の実践例
  3)クリニックの栄養食事指導の現状と今後の展望
第2章 保育・教育施設の食物アレルギー対応
 Part 1 診断書・教育施設の食物アレルギー対応(今井孝成)
  1)学校や保育所等における食物アレルギー対応に求められる 診断書の姿
  2)「生活管理指導表」の実際
第3章 保育所栄養士
 Part 1 食物アレルギー患者の受け入れ(岡藤郁夫)
  1)保育所での取り組みの基本 2)食物アレルギー児受入対応の全体的な流れ
  3)保育所でのアレルギー食対応の決定の具体的な方法
 Part 2 保育所・認定こども園等における給食管理(林 和美)
  1)保育所・認定こども園等の食事提供の特徴
  2)給食対応の工夫と注意
  3)給食対応の実際
  4)調理・配膳体制とインシデント事例
  5)保育活動
  6)研修・訓練
第4章 学校(幼稚園)栄養士,栄養教諭
 Part 1 学校給食における食物アレルギー対応指針(中田智子)
  1)作成の背景と経緯 2)内容
 Part 2 学校給食における対応受け入れの実際(駒場啓子)
  1)学校給食における食物アレルギー対応の基本と留意点
  2)学校給食での具体的な対応の準備
  3)対応までの流れ(学校内)
  4)食物アレルギーと食育
  5)関係機関との連携
 Part 3 学校給食における給食管理
  1)自校式(杉山雅之)
  2)センター方式(本田真紀)
第5章 行政の栄養指導[乳幼児健診・離乳食指導など]
 (池内寛子)
  1)保健指導体制の充実と連携
  2)母子保健事業を通した食物アレルギー指導
  3)給食施設等を対象にした食物アレルギー指導
  4)健康危機管理とその支援体制
第6章 災害時における食物アレルギー児の支援
 (迫 和子)
  1)災害とは 2)災害時の環境 3)災害時の栄養支援
  4)食物アレルギー児の状況 5)食物アレルギー児への栄養支援
  参考文献

 索引

 コラム
  ・除去食療法?
  ・5大アレルゲン?7大アレルゲン?
  ・低アレルゲンメニュー?
  ・薬理活性物質による食物不耐症
  ・完全除去?部分除去?
  ・指針Q&A
  ・小学校でのインシデント事例