やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

新版の序
 本書『新版 ヘルス21 栄養教育・栄養指導論』は,将来の管理栄養士・栄養士が人々の生活の質(QOL)の向上をめざし,健康維持・増進や健康寿命延伸の具現化のためにより専門性の高い知識とスキルを駆使し,社会で“健康づくりのエキスパート”として貢献できるようになることを願って執筆されています.
 本書は,1998年第1版から2016年第6版まで,長きにわたり管理栄養士・栄養士養成校などで活用いただいて参りました.その間,栄養教育をとりまく環境は変遷し続けました.たとえば2000(平成12)年には,栄養士法が一部改正となり,管理栄養士が行う「複雑又は困難な」業務の例示,管理栄養士の資格が登録制から免許制へ,管理栄養士国家試験の受験資格の見直し,専門知識や技能の一層の高度化が図られました.さらに2005(平成17)年には,学校栄養職員から栄養教諭制度へと移行し,加えて食育を推進するための食育基本法が施行されました.これらの変遷のなかで,社会的に管理栄養士・栄養士の必要性が広く認知されるようになり,管理栄養士・栄養士が社会で果たす責務がより大きくなってきたといえるでしょう.
 栄養学は,食物や栄養素を適正に摂取することで,健康維持・増進を図るということにおいては一応の成果がみられましたが,わが国では未だに過剰栄養による肥満,生活習慣病と,若年女子,高齢者,傷病者にみられる低栄養の問題を抱えています.これらの問題を解決するため,適切な栄養状態と食行動の実現に向けて行動科学の理論・モデルを応用し,悪しき行動を望ましい行動に変容し,習慣化ができるまでを支援する栄養教育が求められています.具体的には,ひとを対象とした栄養教育では,個々人に対して食品側の情報と生体側の情報の双方から栄養評価,栄養診断をし,その科学的根拠に基づいたきめ細かなオーダーメードの栄養教育・栄養指導が必要になってきています.
 さらにこれからの栄養教育・栄養指導は,専門職としての管理栄養士・栄養士としての知識・スキルを向上させることはもちろん,人々の健康づくりに貢献するという責任感を高め,その自覚をもってひとへの洞察力を深め,ヒューマニズムや倫理観を身につけ,コミュニケーション能力を高めることを基底に,専門知識,スキル,態度,考え方などの総合力を培う全人教育になると考えます.
 本書を活用していただくことで,実践力のある管理栄養士・栄養士をめざしていただけると思います.執筆は,現在最前線で活躍されている,もしくは担当の箇所に精通し大学で教鞭をとっている方々にお願い致しました.現場で役立つ事例を随所に取り入れ構成しています.
 最後に,本書刊行に取り組んでくださった編者・執筆者の皆さまと詳細にご助言を賜わりました医歯薬出版編集部の皆さまに心より深謝申し上げます.
 2017年2月
 編者 辻 とみ子
    堀田千津子


第6版の序
 メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導の制度が2008(平成20)年よりスタートしました.この保健指導の実施者として,管理栄養士が医師や保健師とともに,計画の立案・作成・評価を行うという画期的な制度です.食育の社会的重要性の認識が深まり,食育基本法,栄養教諭制度が2005(平成17)年には相次いで施行され,これに準拠した食育推進計画が各地で立案し実施されてきています.
 また,臨床における管理栄養士は,nutrition support team(NST)の専門スタッフとして中心的役割を担い,高度な知識・スキルをもとに,患者の栄養素等摂取量,身体計測,必要栄養量の算出,栄養法の決定など,生体情報を駆使して栄養管理に専門性を発揮しています.
 2008年秋,日本で初めて第15回国際栄養士会議(15 th International Congress of Dietetics)が横浜で開催され,これまでに例を見ないほど専門性の高い講演やシンポジウム,ワークショップ,一般演題が国際色豊かに論じられ,共通認識を深化させました.参画した私たち管理栄養士・栄養士は貴重な体験をし,国際会議を立派に成し遂げることができた喜びを実感しました.多くの管理栄養士・栄養士が大きな自己効力感(self efficacy)を得たと思います.
 専門的な栄養管理に対する社会の高いニーズに応えられる栄養学専攻の学生の質を保証するために,日本栄養改善学会は管理栄養士養成課程におけるモデル・コア・カリキュラムの検討をすすめており,各大学間においてもカリキュラムの検討と見直しが緊急課題となっています.同時に,厚生労働省から管理栄養士国家試験のためのガイドラインが示されていることを踏まえて,教育の到達目標をしっかり定めることが不可欠です.すなわち,学生の到達すべき目標(goal)とは,全学年をとおして,専門職業人としての責任感を高め,管理栄養士・栄養士であるとの自覚をもってひとへの洞察力を深め,ヒューマニズムや倫理感を身につけ,コミュニケーション能力を高めることを基底に,食や栄養に必要な専門知識,スキル,態度,考え方などの総合能力を培うことです.
 なかでも栄養教育論・指導論は,管理栄養士課程・栄養士課程のカリキュラムの総まとめともいえる専門分野であり,「栄養教育に関わる内容」をすべてカバーする科目であります.その教育内容は,これまでの指導(teaching)から教育(education)へと画期的に変化してきています.栄養教育論・指導論に関連する学問体系には,「行動科学」「カウンセリング論」「コーチング論」「教育論」があります.このたび,長年にわたって多くの方々から支持を受けてきた『ヘルス21 栄養教育論・栄養指導論』を,その特長を継承するとともに時代のニーズに適合させ,さらに自ら考え行動する自発的人材を育成することを願い,第6版としてリニューアルいたしました.
 これからの栄養教育は,新しい手法として食品側の情報と生体側の情報の双方から栄養評価が求められ,その科学的根拠に基づいたきめ細かなorder-madeの栄養教育であること,また管理栄養士・栄養士には不断に自らを切磋琢磨する研鑽の継続が社会的に要請されると考えています.
 このテキストを活用していただくことで,行動科学の理論やモデルを応用した教育方法が習得できます.そして,相談者の行動変容を促し,適切に改善された食生活が継続し習慣化できるまで支援しうる管理栄養士・栄養士を目指していただけます.この第6版には,管理栄養士国家試験のガイドラインや過去の出題傾向に準拠した内容を加えました.ぜひ,ご活用いただければ幸いです.
 なお,編著者一同,本書がこれまで以上に時代の要請する課題に応えられるよう,読者諸氏から忌憚のないご意見をお待ちしております.
 2009年3月
 編者 大野知子
    辻とみ子



 食料が窮乏していた時代から始まった栄養改善の対策と諸活動は,社会経済の発展とともに食生活が向上して,あたかもその使命が終わったかのように受け止める人が少なくありません.
 近年の豊富な食品の出廻りと多様な食のサービスが与える満足感からも食生活は充分と誤認する傾向があります.
 一方で国民の健康志向への強まりは誤ったダイエット志向へと傾きやすく健康を阻害することも見逃せない現状です.
 そして,私たちが当面する栄養指導の技術や方法には,多数の人びとを一度に丸ごと指導した,これまでの平準的な栄養指導の体制に替わって,個人を中心に指導することが重視され,そのための技術と内容の高度化を要求される時代となりました.特に臨床医学の発展はこれに付随する臨床栄養面での高度な知識と手段を必要とし,ここに従事する栄養士や管理栄養士の日常業務に反映して,専門的な質の向上を強く求められるようになりました.このようなとき,栄養士,管理栄養士養成の立場では社会のニーズに沿った,より優れた教育の在り方が追及されることになります.
 本書では,これらの現状を踏まえてより綿密な授業内容に導くよう,栄養指導の基本的な考えと教育内容を充分検討してまとめました.
 さらに,広域な職場で働く栄養士,管理栄養士の実力養成のために,栄養指導の理論と実践を組み入れ,生涯学習の基礎となるようにも考慮しました.
 栄養士,管理栄養士を目指す学生の教科書として,また現場教育の参考書として,活用していただけることを,何よりも望むものです.
 最後に本書の執筆にあたり,医歯薬出版株式会社の皆様に厚く御礼申し上げます.
 1998年5月吉日
 編者 大野知子
 『新版 ヘルス21 栄養教育・栄養指導論』の序(辻とみ子・堀田千津子)
 第6版の序(大野知子・辻とみ子)
 序(大野知子)
I 総論
第1章 栄養教育の概念
 (辻とみ子)
 (1)栄養教育の目的
  1)栄養教育の目標
  2)栄養教育と健康教育・ヘルスプロモーション
  3)わが国の栄養問題
 (2)栄養教育の対象と機会(高橋史江)
  1)ライフステージ・ライフスタイルからみた対象と機会
  2)健康状態からみた対象と機会
  3)個人・組織・地域社会のレベル別にみた栄養教育の対象と機会
第2章 栄養教育のための理論的基礎
 (1)日本人の食事摂取基準(辻とみ子)
  1)策定方針
  2)対象とする個人ならびに集団の範囲
  3)指標の種類と設定
  4)策定栄養素など
  5)基本的な活用方法
  6)食事摂取基準の基本(抜粋)
 (2)栄養教育と行動科学(辻とみ子)
  1)行動科学の定義
  2)栄養教育の課題に応じた行動科学理論の選択と展開
  3)栄養教育における行動科学の適応
  4)栄養教育ケアマネジメントサイクル理論(栄養ケアプロセス)の活用
 (3)さまざまな行動科学の理論とモデル(松本千明)
  1)刺激-反応理論
  2)ヘルスビリーフモデル(健康信念モデル)
  3)トランスセオレティカルモデル(行動変容段階モデル)
  4)合理的行動理論,計画的行動理論
  5)社会的認知理論(社会的学習理論)
  6)ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポート
  7)コミュニティオーガニゼーション
  8)イノベーション普及理論
  9)コミュニケーション理論
 (4)栄養教育マネジメントで用いる理論やモデル(松本千明)
  1)プリシード・プロシードモデル
  2)ソーシャルマーケティング
  3)生態学的モデル
 (5)行動変容技法と概念(安藤明美)
  1)刺激統制
  2)反応妨害・拮抗
  3)行動置換
  4)オペラント強化
  5)認知再構成
  6)意思決定バランス
  7)目標宣言,行動契約,自己の解放
  8)セルフ・エフィカシー(自己効力感)
  9)セルフモニタリング(自己監視法)
  10)ストレスマネジメント
  11)ソーシャルスキルトレーニング(社会技術訓練)
 (6)栄養カウンセリング(塚越惠久子)
  1)行動カウンセリングの基本理論
  2)栄養カウンセリングの基本的姿勢
  3)行動カウンセリングの基礎的技法
  4)行動分析・行動療法
  5)カウンセリングの応用
 (7)組織づくり・地域づくりの展開・発展(塚越惠久子)
  1)組織・ネットワークづくり
  2)グループダイナミクス
  3)自助集団
  4)エンパワメント
  5)ソーシャルキャピタル
  6)事例:児童の食行動改善への取り組み
 (8)食環境づくりと栄養教育(高橋史江)
  1)食環境づくりの必要性
  2)食物へのアクセス面の食環境づくりと栄養教育
  3)情報へのアクセス面の食環境づくりと栄養教育
  4)食環境整備に関する施策,資源,ツール,取り組みの現状
 (9)栄養教育の国際的動向(須永美幸)
  1)先進諸国における栄養教育
  2)開発途上国における栄養問題
第3章 栄養ケア・マネジメント(栄養ケアプロセス)
 (1)栄養ケア・マネジメントから栄養ケアプロセスへ(辻とみ子)
  1)栄養ケア・マネジメントの概念
  2)栄養ケアプロセスの必要性
 (2)栄養スクリーニングと栄養アセスメント(榎 裕美)
  1)栄養スクリーニングとは
  2)栄養アセスメントの種類
  3)栄養アセスメントの指標
  4)情報収集の方法とその活用
 (3)栄養診断(外山健二)
  1)栄養診断とは
  2)栄養診断の記述法
 (4)栄養介入――計画と実施(Plan)
  1)栄養介入とは(堀田千津子)
  2)栄養教育の目標設定
  3)栄養教育の教育計画の作成(宅間真佐代)
  4)学習者の決定
  5)栄養教育計画書(全体計画・プログラム案・学習指導案)の作成
  6)期間,時期,頻度・学習時間の設定
  7)場所の選択と設定
  8)予算の確保
  9)実施者の決定とトレーニング
  10)教材の選択と作成
  11)学習形態の選択
 (5)栄養教育プログラムの実施(Do)(堀田千津子)
  1)栄養教育プログラムの実施
  2)コミュニケーション技術
  3)プレゼンテーション技術
 (6)栄養教育の評価(Check)(堀田千津子)
  1)栄養教育の評価目的
  2)企画評価
  3)経過評価
  4)影響評価
  5)結果評価
  6)形成的評価と総括的評価
  7)経済評価
  8)総合的評価と結果のフィードバック
 (7)栄養教育の見直し・改善(Act)(堀田千津子)
  1)実施記録・報告
  2)モニタリングと評価(臨床経過)
II 各論
第1章 ライフステージ・ライフスタイル別栄養教育の展開
 (1)妊娠・授乳期の栄養教育(廣瀬潤子)
  1)妊婦の特徴
  2)妊婦の食生活上の留意事項
  3)妊娠期の食生活上の問題点
  4)授乳婦の特徴
  5)授乳婦の食生活上の留意事項
  6)リプロダクティブ・ヘルス/ライツと栄養教育
 (2)乳幼児期の栄養教育(須永美幸)
  1)乳幼児期の生理学的特徴・食生活の特徴
  2)幼児期の特徴
 (3)学童期・思春期の栄養教育(廣田直子)
  1)学童期の特徴
  2)思春期の特徴
  3)学童期・思春期の栄養教育のポイント
 (4)成人期の栄養教育(須永美幸)
  1)成人期の特徴
  2)ワーク・ライフ・バランス
  3)健康づくりのための運動指導
  4)健康づくりのための睡眠指針
  5)健康づくりのための休養指針(ストレス)
  6)生活習慣病,特定健診・特定保健指導
  7)単身者・飲酒習慣者・在留外国人の健康管理
  8)更年期症候群・骨粗鬆症
  9)事業所における栄養教育
 (5)高齢期の栄養教育(榎 裕美)
  1)高齢期の特徴
  2)高齢者の低栄養の要因
  3)高齢期の栄養教育のポイント
  4)介護予防のための栄養教育
  5)事例1:市町村における介護予防・栄養改善プログラム
  6)事例2:市町村における介護予防・栄養改善プログラム
 (6)スポーツ実施時の栄養教育(アスリートを含む)(甲田道子)
  1)栄養教育の目的
  2)栄養教育の進め方
  3)スポーツに特徴的な具体例
 (7)スーパーマーケットなど大型店における栄養教育(石川秀憲)
  1)“食生活”の構造と食品小売業
  2)スーパーマーケットとは
  3)食生活提案型の栄養教育とは
 (8)地域社会における栄養教育(廣田直子)
  1)地域社会における栄養教育の位置づけ
  2)地域社会における栄養教育の進め方
  3)行政栄養士の役割
  4)地域における栄養教育で扱う内容
第2章 傷病者および障害者の栄養教育
 (1)臨床栄養教育とは(安藤明美)
  1)医療機関における栄養教育(栄養食事指導・点数)
  2)栄養ケアプロセス
 (2)循環器疾患における栄養教育
  1)高血圧の栄養教育(安藤明美)
  2)脂質異常症の栄養教育
  3)動脈硬化症の栄養教育(外山健二)
 (3)栄養代謝疾患における栄養教育(外山健二)
  1)肥満症患者への個人栄養教育
  2)肥満者のための減量教室
  3)2型糖尿病患者への個人栄養教育
  4)2型糖尿病患者への集団栄養教育
 (4)障害者(児)の栄養教育(高橋史江)
  1)障害者(児)の栄養教育の特徴
  2)医療と保健・福祉の連携による栄養教育
  3)ノーマライゼーションと栄養教育
III 資料編
 (安藤明美)
 1 栄養教育関係法規
  栄養士法
  栄養士法施行令
  健康増進法
  健康増進法施行規則
  食育基本法
  地域保健法
  母子保健法
  学校給食法
  高齢者の医療の確保に関する法律
  食品衛生法
 2 栄養教育の歴史
 3 食生活指針(2016)
 4 妊産婦のための食生活指針(2006)
 5 「健康日本21」最終評価の概要
 6 「健康日本21」(第二次)の基本的方向および目標
 7 70の国際標準化された栄養診断コード

 索引