やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第10版の序
 わが国では,依然として少子化傾向に歯止めがかからず,年少人口は減少する一方,65歳以上の高齢人口は増加し,過去に比べて年齢別人口構成が大きく変化してきています.厚生労働省による平均寿命は,男性で80.21歳,女性で86.61歳となり(平成25年完全生命表),世界に冠たる長寿国となりました.しかし,介護を必要とせず自立して暮らせる健康寿命との間には,男性で約9年,女性で約12.5年の乖離がみられ,今後の大きな課題になっています.
 このたび策定された「日本人の食事摂取基準(2015年版)」は,医療現場や栄養業務現場における科学的根拠にもとづく基礎資料として,高齢化の進展にともなう生活習慣病の発症予防や重症化の予防,さらには健康寿命の延伸を目指す指針になっています.
 応用栄養学の教育目標は,管理栄養士・栄養士として,胎生期から始まる母親の食物に対する関心や知識,実践する力を食の面から確実に指導して,乳幼児・学童・思春期に健全な食習慣を定着させ,健やかな発育を支えるところにあります.
 また,「飽食」「豊食」「崩食」といわれる食生活の乱れた状態を改善するには,栄養ケア・マネジメントの重要性を理解して,「集団」から「個人」の栄養ケア・プログラム作成と指導力の涵養が望まれます.第1章にあげた「栄養状態の実態把握(栄養アセスメント)→栄養ケア・プログラムの作成→実施→評価→さらなる新たな目標を目指す」,この一連のサイクルに本書が活用されることを願っています.
 成人期では生活習慣病の予防のため,高齢期では低栄養から派生するフレイルティ(虚弱)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防や治療を支えるための知識の記述を深めました.また,各ライフステージにおける身体の特徴と栄養ケアのほか,身体活動,ストレス,休養・睡眠,特殊環境についても学べるように編纂しました.
 本書が管理栄養士・栄養士をはじめ,健康科学を目指す人々のためにも好適の書となるように努めたつもりです.読者の皆様の率直なご意見・ご叱正を賜れば幸いです.
 2015年 春光天地に満ちるころ
 著者代表 森 基子

初版の序
 ヒトは生命の営みと健康の保持・増進のために適切な食物を欠くことはできない.それは,ヒトの一生のライフステージすなわち乳幼児期,学童・思春期,成人期,老年期に見合った食物を摂取することである.また,同じライフステージでも個人差があり,身体状況や体位,運動や労働の程度によって異なってくる.こうした分野を考究していくのが,栄養士・管理栄養士養成の教育課程での,「栄養学各論」という科目である.
 これまでの栄養学では,一般にヒトと食物との関係は,ある条件下におけるヒトの状態と食品中の栄養素の質と量からの観点で追求されてきた傾向が強いが,「ヒトが食べる」行動の意味はそのような狭い枠のなかでとらえきれるものではない.
 食べることの基本行動である咀しゃくの発達を例にとってみても,先天的な反射運動としての吸啜と異なり,咀しゃくは乳児がそれを生理的に受け入れる準備段階に達した時期から,順を追った体験から修得させるものであり,その時期と機会を失えば,いわゆる「.めない児」が生じるであろう.また,味つけに対する好みも長年にわたる食生活のなかからつちかわれた「慣れの現象」であり,望ましい味覚形成を目指すには離乳期から意識的に取り組む必要がある.
 本書に「ライフステージからみた人間栄養学」という副題をつけたのも,人びとの摂食行動に少なからぬ影響を及ぼす因子として精神面や社会的な生活背景の変化,相違点をふまえた食生活のあり方をライフステージごとに考えようとした意図からである.
 ヒトの一生のスタートである産科学にはじまり,小児科学,内科学,老年病学,心療内科学,運動生理・生化学など第一線で活躍中の医師の協力を得て,栄養士教育の現場にたずさわっている者との共働作業のなかから生まれ,著者らの専門領域を生かし,最新の知見にもとづく内容を理解しやすいように簡潔にまとめて記述している.
 今後,高齢者人口が増え続け,疾病構造が成人病化していくなかで,栄養士に対する社会の期待はますます大きくなるものと思われる.本書が少しでも栄養士教育における学習の成果を高めるのに役立つことを願う次第である.また本書へのご批判ご叱責をいただければ幸いである.
 1988年3月
 執筆者一同
1 栄養ケア・マネジメント
 (玉川和子・森基子)
 1 栄養ケア・マネジメントの概要
  栄養ケア・マネジメントの手順
 2 栄養アセスメント
  栄養アセスメントの種類と方法
 3 栄養ケア・プログラムの計画・実施・評価
  1.課題の必要性,優先性,実施可能性
  2.資源と費用
  3.栄養ケア・プログラムの計画
  4.栄養ケア・プログラムの実施
  5.評価の種類
  6.評価結果のフィードバックの手順
 ●国家試験問題
2 発育・発達・加齢変化
 (森基子・玉川和子)
 1 エイジングと形態の変化
  1.胎生期
  2.発育期
  3.成熟期
  4.衰退期
 2 エイジングと食にまつわる機能の変化
  1.諸機能の変化
  2.消化・吸収
  3.味覚
  4.摂食機能
  5.食欲
 3 年齢別食事摂取基準と食品構成
  1.食事摂取基準
  2.食品構成
 4 食事バランスガイド
  1.食事バランスガイドの概要
  2.サービングの基準
  3.食事バランスガイドの活用
 ●国家試験問題・練習問題
3 妊娠期
 (古谷博・竹田省・平井千裕・森基子)
 1 女性の特性
  1.女性の生理
  2.妊娠
  3.分娩
 2 妊娠期の栄養上の特徴
  1.妊娠前の食生活・日常生活指導
  2.妊娠中の食生活・日常生活指導
 3 妊娠期の栄養アセスメント
 4 栄養関連の疾患と栄養ケア
  1.つわり,妊娠悪阻
  2.妊娠高血圧症候群
  3.貧血
  4.妊娠と肥満
  5.妊娠糖尿病
 ●国家試験問題
4 授乳期
 (古谷博・竹田省・平井千裕・森基子)
 1 授乳期の特性
  1.体重・体組成の変化
  2.エネルギー代謝の変化
  3.乳汁分泌の機序
  4.乳汁分泌の確立
 2 母乳成分と母乳量の変化
  1.初乳
  2.成熟乳(成乳)
  3.母乳分泌量の変化
 3 授乳期の栄養上の特徴
  1.産褥
  2.分娩・産褥期の食生活・日常生活指導
  3.授乳婦の食生活・日常生活指導
 4 授乳期の栄養アセスメント
 5 授乳期の栄養ケアのあり方
  1.「授乳の支援ガイド」
  2.母乳育児の支援
  3.育児用ミルクで育てる場合の支援
 6 栄養関連の疾患と栄養ケア
  1.乳汁分泌不足
  2.乳腺炎
 7 母子保健対策
  1.母子健康手帳の交付
  2.妊産婦および乳幼児の健康診査
  3.妊産婦および乳幼児の保健指導
  4.妊産婦および乳幼児の療養支援
 ●国家試験問題・練習問題
5 乳児期
 (守田哲朗・森基子)
 1 乳児期の特性
  1.身体の成長
  2.生理的機能の発達
  3.精神・運動機能の発達
  4.摂食機能の発達
 2 乳児期の栄養と代謝
  1.新生児期
  2.乳児期
 3 栄養補給法
  1.母乳栄養
  2.人工栄養
  3.混合栄養
  4.離乳
 4 乳児期の栄養アセスメント
 5 乳児期の栄養ケアのあり方
 6 栄養関連の疾患と栄養ケア
  1.低出生体重児
  2.食物アレルギー
  3.便秘症
  4.下痢症
  5.発育不良
  6.貧血
  7.先天代謝異常症
 ●国家試験問題
6 幼児期
 (守田哲朗・森基子)
 1 幼児期の特性
  1.身体の成長
  2.生理的機能の発達
  3.精神・運動機能の発達
 2 幼児期の栄養上の特徴
  1.食生活上の特徴
  2.食品の選択と組み合わせ
  3.幼児期の食行動としつけ
 3 幼児の集団給食
  1.保育所給食の意義
  2.保育所給食の区分
  3.保育所給食の食事摂取基準
  4.保育所給食の食品構成
  5.幼稚園の給食
 4 幼児期の栄養アセスメント
 5 幼児期の栄養ケアのあり方
 6 栄養関連の問題点や疾患と栄養ケア
  1.食欲不振
  2.偏食
  3.食物アレルギー
  4.周期性嘔吐症
 ●国家試験問題
7 学童期
 (森基子)
 1 学童期の特性
  1.身体の成長
  2.諸器官の発達
  3.精神・運動機能の発達
 2 学童期の栄養上の特徴
  1.食生活上の特徴
  2.食品の選択と組み合わせ
 3 学校給食
  1.学校給食の目標
  2.学校給食の種類と実施状況
  3.食事摂取基準と食品構成
  4.学校給食の食事内容の充実
  5.特別支援学校における食事内容の改善
 4 学童期の栄養アセスメント
 5 学童期の栄養障害と栄養ケア
  1.体重異常
  2.鉄欠乏性貧血
  3.生活習慣病
 ●国家試験問題・練習問題
8 思春期
 (足達淑子・林ちか子)
 1 思春期の特性
  1.思春期とはどんな時期か
  2.身体発育の特徴
 2 生活習慣上の特徴と課題
  1.食習慣上の問題点
  2.痩せ願望による減量行動
  3.運動不足と睡眠不足
  4.喫煙,飲酒,薬物乱用
 3 思春期の栄養アセスメント
  1.身体アセスメント
  2.食事アセスメント
  3.食の心理行動アセスメント
 4 思春期の栄養障害
  1.肥満と痩せ,生活習慣病
  2.摂食障害
  3.貧血,起立性調節障害
  4.月経異常
 5 思春期の栄養ケア
  1.適切な栄養状態の維持
  2.望ましい食習慣と自己管理能力の習得
 ●国家試験問題
9 成人期
 (玉川和子)
 1 成人期の特性
  1.青年・壮年・中年期の特徴
  2.社会的環境
 2 成人期の栄養上の特徴
  1.成人期の食生活の現状
  2.成人期の食生活・日常生活指導
 3 生活習慣病
  1.生活習慣病の危険因子
  2.生活習慣病予防対策
 4 生活習慣改善のための栄養アセスメント
  生活習慣病予防のための標準的な健診・保健指導プログラム(例)
 5 生活習慣改善のための栄養ケア・プログラム
  1.栄養ケア・プログラムの基本的な考え方
  2.栄養ケア・プログラムの特徴
  3.栄養ケア・プログラムの手順
  4.青年・壮年・中年期の栄養ケア・プログラムの特徴と課題
  5.栄養ケア・プログラムの実際
 6 生活習慣病予防と栄養ケア
  1.肥満
  2.高血糖(糖尿病)
  3.脂質異常症
  4.高血圧
  5.メタボリックシンドローム
  6.喫煙
  7.う歯(う蝕)・歯周病
  8.飲酒
 ●国家試験問題・練習問題
10 更年期
 (久米美代子)
 1 更年期の特性
  1.更年期とは
  2.閉経とは
  3.閉経時のヘルスケア
  4.不定愁訴
  5.更年期症状
  6.更年期うつ病
  7.更年期障害の発生頻度とその対応
  8.更年期障害の診断
  9.更年期障害のヘルスケア
 2 更年期の代謝
 3 更年期の栄養上の特徴
  更年期障害と食生活
 4 更年期の栄養アセスメント
 5 更年期からの生活習慣病予防と栄養ケア
  1.生活習慣改善のポイント
  2.メタボリックシンドローム予防のための食事
  3.脂質異常症予防のための食事
  4.高血圧予防のための食事
  5.動脈硬化予防のための食事
  6.骨量減少,骨粗鬆症予防のための食事
  7.自己管理能力の修得
 ●国家試験問題
11 高齢期
 (金子康彦・玉川和子)
 1 高齢期の特性
  1.老化の概念
  2.高齢期の生理的特徴
  3.臓器別生理機能の変化
  4.高齢期の代謝と注意する特性
 2 高齢期の栄養上の特徴
  1.高齢社会の現状
  2.高齢期の食生活・日常生活指導
 3 高齢期の栄養アセスメント
 4 高齢期の栄養ケア・プログラム
  1.栄養ケア・プログラムの基本的な考え方
  2.栄養ケア・プログラムの実際
 5 高齢期の栄養障害とそのケア
  1.低栄養
  2.摂食機能障害
  3.食欲不振
  4.胃腸障害
  5.骨粗鬆症
  6.褥瘡
  7.認知症
  8.閉じこもり・うつ
  9.サルコペニア・ロコモティブシンドローム
 ●国家試験問題
12 運動・スポーツと栄養
 (中井誠一)
 1 運動時のエネルギー供給
  1.身体運動のエネルギー(筋収縮のエネルギー供給機構)
  2.運動中の酸素摂取量
  3.運動のエネルギー代謝
  4.エネルギー消費量の算出
 2 健康増進と運動
  1.健康のための身体運動量
  2.運動所要量
  3.健康づくりのための身体活動基準2013
  4.運動の効果と健康増進
 3 スポーツ種目と栄養
  1.エネルギー供給とスポーツ種目
  2.スポーツ選手の食事摂取基準
  3.トレーニングと栄養補給
 ●国家試験問題
13 環境と栄養
 (中井誠一)
 1 高温環境下における栄養
  1.高温環境における生体反応
  2.人体の水分出納
  3.水分補給
 2 低温環境下における栄養
  寒冷下の生体反応
 3 高圧環境下における栄養
 4 低圧環境下における栄養
  1.低圧環境の生理(順化と高山病)
  2.高地での栄養
 5 無重力環境と栄養
  1.微小重力の生体影響
  2.宇宙飛行での栄養
 6 騒音環境下における栄養
 ●国家試験問題
14 ストレスと栄養
 (足達淑子)
 1 ストレスについての基礎知識
  1.生体の恒常性(ホメオスターシス)と心身相関
  2.ストレスの定義とストレッサーに対する生体の反応
  3.ストレッサーの種類と性質
  4.ストレスに対する反応
  5.ストレスと栄養
 2 ストレスへの対処法
  1.日本人におけるストレスの実態
  2.個人差を考慮したストレス対処
  3.ストレス対処能力を高める方法の実際
 ●国家試験問題
15 休養と睡眠
 (足達淑子)
 1 睡眠科学により明らかになったこと
  1.覚醒-睡眠のリズムを調節するもの
  2.睡眠の質
  3.健康づくりのための睡眠指針
  4.睡眠障害とその要因
 2 認知行動療法による睡眠改善
 ●国家試験問題
16 食事摂取基準の基礎的理解
 (今井具子)
 1 食事摂取基準の意義
  1.食事摂取基準の目的
  2.科学的根拠にもとづいた策定
 2 食事摂取基準策定の基礎理論
  指標の概要
 3 食事摂取基準活用の基礎理論
  1.食事調査などによるアセスメントの留意事項
  2.活用における基本的留意事項
  3.個人の食事改善を目的とした食事摂取基準の活用
  4.集団の食事改善を目的とした食事摂取基準の活用
 4 エネルギー・栄養素別食事摂取基準
  1.エネルギー
  2.たんぱく質
  3.脂質
  4.炭水化物
  5.エネルギー産生栄養素バランス
  6.ビタミン,ミネラル
 5 ライフステージ別食事摂取基準
  1.妊婦・授乳婦
  2.乳児・小児
  3.高齢者
  4.生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連
 ●練習問題

 付表
  1 日本人の食事摂取基準(2015年版)
  2 栄養アセスメントに用いられる身体計測のパラメータと判定基準

 国家試験問題・練習問題の解答・解説
 参考文献
 索引