やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 改訂の序
 人間形成のうえで子ども時代のもつ意味は非常に大きい.子ども時代には「遊び」による発達の保障とならんで,「食」による身体づくりと豊かな人間性の形成がきわめて重要である.2005年に施行された食育基本法ではその前文で,「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ,生きる力を身につけていくためには,何よりも『食』が重要である.」としたうえで,「食育を,生きる上での基本であって,知育,徳育及び体育の基礎となるべきもの」と述べているが,まさにそのとおりである.
 本書の前身である『小児栄養実習書』は1978年の初版以来,30年以上にわたって,保育士養成課程における小児栄養実習の教科書として多くのご利用をいただいてきた.2002年の保育士養成課程の改定で「小児栄養実習」は必修科目ではなくなったが,「小児栄養実習」をその後も開講している養成校では引き続き利用していただいてきた.2011年の保育士養成課程の改定において,「小児栄養(演習)」は「子どもの食と栄養(演習)」に科目名称が変更になり,教授内容も刷新された.
 そこで,これを機に,全国の保育士養成校で活躍している新進気鋭の筆者が集まって,新しい時代の保育に求められる「食育」実践力を高める内容を盛り込んで,書名も変更して刊行することになった.また,保育所における食育に関する指針(2005年),授乳・離乳の支援ガイド(2007年),保育所保育指針(2009年),児童福祉施設における食事の提供ガイド(2010年)など,子どもの食にかかわる基本的な文書をはじめ,最新の資料を踏まえて執筆した.
 さらに,保育者には,子どもの食事と栄養に関する理解に基づく,子どもや保護者に対する支援も求められることから,この点にも配慮した内容になっている.そこで,理論部分をコンパクトにわかりやすくまとめるとともに,実践力を高めるための実習・演習を重視した授業展開ができるように編集してある.
 本書が,保育者をめざす多くの方々の学習に利用されるとともに,実際に保育者になられてからも大いに活用されることを願っている.
 末筆ながら,本書の出版にあたり快く資料を提供して下さった関係機関の方々,多大なご協力をいただいた医歯薬出版の方々に心よりお礼申し上げる.
 2011年1月
 著者一同


 人間形成のうえで小児期のもつ意味は非常に大きい.小児期には,『遊ぶこと』を通しての発達の保障とならんで,『食べること』を通しての「体づくり」と「人間形成」が極めて重要である.そうした点で,小児栄養実習は保育者の専門的力量形成の重要な部分を担っている.日常の保育のなかでは,小児栄養実習で学ぶ内容が大きなウエイトを占めているが,小児の食環境が大きな変化を遂げている現在にあっては,その重要性はますます大きくなってきている.
 本書は,1978年の初版発行以来,4度の改訂を経て多くの保育養成機関をはじめ栄養・看護系の機関でもご愛用いただいてきた.この度,「児童福祉法」の改正,「離乳の基本」の改定,栄養所要量の第六次改定を機に,栄養・調理・給食・食生活指導などの従来からの著者に経験豊かな専門家を新たに加えて,5度目の全面的な改訂を行った.
 多くの小児栄養実習書が『調理すること』『バランスのとれた栄養を摂取させること』に重点をおいているのに対して,本書は現在の小児の状況や保育園・幼稚園・児童福祉施設の現状を踏まえ『小児の健康と食事のかかわり,保育における食事の位置・食事の与え方』などにも重点をおいた.このため,従来の実習書には少なかったアレルギー疾患・生活習慣病のための実習や環境とのかかわりも考えての実習も行うようになっている.また,保育にかかわる者が,実際の保育の場,給食の場で必要とされるクッキング保育や食教育についての知識や技術についてもページ数を増やして掲載した.
 本書が保育者を目指す方々の学習に利用されるとともに,実際に社会に出られてからも大いに活用されることを願っている.
 末筆ながら,本書の改訂にあたり資料を快くご提供くださった関係機関の方々,多大なご協力をいただいた医歯薬出版の方々に心よりお礼申し上げる.
 2000年3月
 著者一同
I 子どもの健康と食生活の意義(橋本洋子)
 A 子どもの心身の健康と食生活
  1.子どもの区分
  2.出生数および乳児死亡率
  3.食生活とは
  4.ライフサイクルと子どもの食生活の特徴
 B 子どもの食生活の現状と課題
  1.子どもの身体状況
  2.子どもを取り巻く食生活の現状と課題
   1)朝食の欠食
   2)肥満と小児生活習慣病(メタボリックシンドローム)
   3)サプリメント
 演習1 子どもの食生活アンケート
II 栄養に関する基礎知識
 A 栄養の基本的概念(小川雄二)
  1.栄養と栄養素
  2.五大栄養素の働き
  3.健康のための栄養素・食品成分のバランス
  4.食品群と栄養
 B 栄養素の特徴と働き(小川雄二)
  1.炭水化物(糖質)
  2.たんぱく質
  3.脂質
  4.ミネラル(無機質)
   1)カルシウム
   2)鉄
   3)ナトリウム
   4)リン
  5.ビタミン
  6.水分
 演習2 食品と栄養への興味・関心を育てる教材作成と指導
 C 献立作成と調理(辻岡和代)
  1.献立の意義
  2.献立の立て方とその評価
   1)食事バランスガイド
   2)1日の食事配分
   3)日本人の食事摂取基準
   4)栄養価算出(算定)
  3.調理実習概論
  4.調理の基本
  5.調理法の分類
  6.幼児に対する調理上の留意点
  7.食中毒とその予防
 基礎演習
 演習3 ◯◯先生の献立の日
III 子どもの発育・発達と食生活
 A 授乳期の食と栄養(辻岡和代)
  1.授乳期の食と栄養
  2.母乳栄養
   1)母乳の重要性
   2)母乳成分の変化
   3)母乳栄養の方法
  3.人工栄養
   1)育児用ミルク
   2)調乳
   3)授乳法
  4.混合栄養
   1)混合栄養の必要性
   2)混合栄養の方法
  5.授乳期に起こりうる問題とその対応
 演習4 調乳実習
 B 離乳期の食と栄養(辻岡和代)
  1.離乳の定義と意義
  2.離乳食の必要性
  3.離乳の開始
  4.離乳食の作成における配慮事項
  5.離乳食の進め方の目安
   1)生後5,6か月頃
   2)7,8か月頃
   3)9か月から11か月頃
   4)12か月から18か月頃
  6.フォローアップミルク
  7.ベビーフード
   1)種類
   2)品質と安全性
  8.離乳の完了
  9.離乳期における食の問題とその対応
   1)離乳食開始前の準備
   2)低出生体重児における離乳食の開始
   3)離乳食を嫌がる
  4)食物アレルギー
   5)特別な配慮が必要な場合の離乳食
 演習5 離乳食の基本
 演習6 離乳食の調理1 生後5,6か月頃
 演習7 離乳食の調理2 生後7,8か月頃
 演習8 離乳食の調理3 生後9〜11か月頃
 演習9 離乳食の調理4 生後12〜18か月頃
 演習10 大人の食事から取り分ける離乳食
 演習11 ベビーフードを利用した調理
 C 幼児期の食と栄養(土田幸恵)
  1.幼児期の栄養の特徴
   1)日本人の食事摂取基準
  2)食品構成
  2.幼児期の献立
   1)幼児食の与え方
   2)食事マナー
 演習12 幼児食1 1〜2歳児
 演習13 幼児食2 3〜5歳児
  3.幼児期栄養における問題
   1)遊び食い
  2)偏食
  3)むら食い・食欲不振
   4)咀嚼力不足
   5)むし歯と骨折
   6)肥満
  4.間食
   1)間食の必要性
   2)間食の与え方と注意
 演習14 間食
  5.弁当
   1)弁当の特徴
   2)弁当をつくるときの注意
 演習15 弁当
  6.行事食
   1)行事食の意義
   2)年中行事,行事食例
 D 学童期の栄養(橋本洋子)
  1.心身の特徴と食生活
   1)身体的特徴
   2)精神の発達
   3)学童期に必要な食生活
   4)カルシウムと運動と骨密度
   5)鉄の摂取量と発達
  2.学童期の食の現状と課題
   1)子どもの肥満は胎児期からの栄養で決まる
   2)生体リズムと食生活
 演習16 学童期の献立と調理
 演習17 子どもがつくる弁当
 E 生涯発達と食生活(土田幸恵)
  1.食育基本法
  2.保育と母性保護
  3.若年女性の食生活
   1)若年女性の現状
   2)なぜ“やせ”ではいけないのか
  4.食を選択する力
 演習18 自分の食生活を振り返ろう
 F 妊娠・授乳期の食生活(土田幸恵)
  1.妊娠のメカニズム
   1)妊娠経過
   2)母体の変化
  2.妊娠・授乳期の食生活
   1)食事摂取基準
   2)妊娠期の魚介類の摂取について
   3)妊産婦のための食生活指針
  3.妊娠・授乳期の疾病とその予防
   1)つわり・悪阻
   2)肥満
   3)妊娠高血圧症候群
   4)妊娠糖尿病
  5)貧血
  4.妊娠期の献立
IV 食育の基本と内容
 A 食育における養護と教育の一体化(橋美保)
  1.子どもの食と栄養についての養護や教育のあり方
  2.食生活や栄養についての指導や教育の内容
  3.子どもの食育をめぐる動向
 B 食育の内容と計画および評価(橋美保)
  1.ねらいと内容
  2.食育の計画の作成
   1)長期(年間)食育指導計画の作成手順
   2)短期指導案(日案)の作成手順
  3.食育の評価
   1)評価の方法
   2)評価の進め方
 演習19 食育の計画と作成
 C 食育のための環境(橋美保)
  1.食生活の指導や援助(食べものの選択や食べ方)
   1)食べものの名前を覚える(クイズ・ゲーム)
   2)望ましい食事の態度を身につける
  2.栄養教育(媒体・絵本)
   1)身体をつくる食べものの働きを学ぶ
   2)バランスのとれた食べ方を知る
   3)食農の体験(栽培・収穫・エコ)
 演習20 食育媒体をつくってみよう(食育絵本)
 演習21 食農保育の計画作成〜栽培と収穫〜
 D 地域の関係機関や職員間の連携(橋美保・川田容子)
  1.地域の関係機関との連携
  2.職員間の連携
 E 食生活指導および食を通した保護者への支援(橋美保)
  1.保護者への食生活指導
   1)おたよりでの指導
   2)食事相談
  2.食を通した保護者への支援
   1)ハード面
   2)ソフト面
 演習22 親子クッキングを計画してみよう
V 家庭や児童福祉施設における食事と栄養(川田容子)
 A 家庭における食事と栄養
  1.生活リズムと朝食
  2.家庭の食生活と栄養
  3.家庭でつくる食事の役割
  4.一緒に食べることを通して
  5.家庭や地域に向けての食育活動
 演習23 バランスのよい朝ご飯の献立を立てる
 演習24 朝ご飯をつくってみよう
 演習25 給食だよりを作成しよう
 B 児童福祉施設における食事と栄養
  1.施設の定義と食事の意義
  2.保育所における給食
   1)保育所給食の意義
   2)保育所給食の実際
   3)保育者の役割
   4)保育所と家庭の連携
   5)延長保育と補食
  3.その他の施設と食事の特徴
 演習26 保育所の給食をつくってみよう
 演習27 どんな行事食があるか表にまとめてみよう
 演習28 行事食をつくってみよう
VI 特別な配慮を要する子どもの食と栄養(川田容子)
 A 疾病および体調不良の子どもへの対応
  1.主な病気の症状と食事の進め方
   1)発熱
   2)腹痛
   3)下痢
   4)嘔吐
  2.先天性代謝異常症
  3.肥満と生活習慣病
 演習29 下痢のときの食事
 B 食物アレルギーがある子どもへの対応
  1.アレルギーの基本
  2.食物アレルギーとは
  3.食物アレルギーの症状
  4.食物アレルギーの治療
   1)食事療法の基本的な考え方
   2)薬物療法の基本的な考え方
  5.アレルギー治療の進め方と予防上の注意
  6.アレルギーの原因と予防上の注意
  7.保育上の注意
 演習30 アレルギー食をつくってみよう
 演習31 アレルギー対応の間食をつくってみよう
 C 障害のある子どもへの対応
  1.食事に配慮を要する主な障害
  2.食事の役割と栄養の考え方
  3.障害に応じた食べる機能の発達への対応
 演習32 摂食機能に配慮した食事

 参考文献
 付表
  1.日本人の食事摂取基準(2010年版)
  2.食生活指針(2000)
  3.健康づくりのための食生活指針(対象特性別)(1990)
  4.食事バランスガイド(2005)
  5.妊産婦のための食生活指針(2006)