監訳の序
アメリカの科学アカデミーが,食事摂取基準に関する校正刷りのような報告書(ワープロの原稿をコピーしたような冊子で,全12冊,約5,000ページにおよぶ食事摂取基準シリーズの出版前に出されたもの)を公表し始めたのは,1990年代後半であった.私は,これらを読んでいくうちに,食事摂取基準の概念に惚れこんでしまった.個人の栄養素必要量がわからなくても,摂取量が必要量を充足しているか否かを確率的に言えるようにしたことに魅惑されたのである.推定平均必要量・推奨量,さらに目安量の概念である.そして,2000年に,ワシントンDCのジョージタウンにある医学研究所食品栄養部を訪れた.その時に,部長をはじめ5人の研究者が,朝から夕方まで食事摂取基準の概念と適用を丁寧に説明してくれた.私が驚いたのは,全員が管理栄養士(RD)であったことである.彼女らが実質的には中心となって食事摂取基準の概念を考案し,導入したとのことであった.
原典の食事摂取基準シリーズがかなり出そろい,また,私が東京医科歯科大学教授から国立健康・栄養研究所理事長に転出したこともあって,「日本人の食事摂取基準(2005年版)」の策定に携わり,アメリカ/カナダの食事摂取基準の概念を「2005年版」に全面的に導入した.しかし,多くの栄養学・食品学研究者,管理栄養士養成課程の教員,そして栄養実務者は,「難しい」という評価を下し,特に「集団への適用」については,旧来の栄養所要量の域を出ることなく,いわば誤用した人もいた.「2010年版」ではブラッシュアップが図られ,私は高く評価している.しかし,相変わらず「難しい」という声が少なくない.推奨量は本質的に栄養所要量と異なるということが,一番理解されていないようである.
このような状況にあって,管理栄養士が,“Dietary Reference Intakes.The Essential Guide to Nutrient Requirements.Institute of Medicine of the National Academies of Sciences,Washington DC,2006”の一部ではあるが,翻訳をすると言い出した.正直,びっくりもしたが,非常に感激した.敬意を表する次第である.この本は,上述の食事摂取基準シリーズ5,000ページの,いわば「ええとこどり」(大阪弁!)をしたもので,重要事項をすべて網羅している.この翻訳書の読者には,食事摂取基準の概念の面白さ,すばらしさに直接触れることのできる喜びを感じてもらえるであろう.「2010年版」の読解困難さを克服しており,初心者でも読める内容と文章になっている.個人および集団への適用については,「2010年版」,その他の日本語の参考書には掲載されていないことが,わかりやすく記述されているので,読者は完全にマスターすることができよう.
栄養・食品分野の人びとが,そして管理栄養士養成課程の学生諸君が,この本で,食事摂取基準の概念を習得し,適切に活用されんことを祈念している.
2010年8月10日
神奈川工科大学教授
東京医科歯科大学名誉教授 田中平三
アメリカの科学アカデミーが,食事摂取基準に関する校正刷りのような報告書(ワープロの原稿をコピーしたような冊子で,全12冊,約5,000ページにおよぶ食事摂取基準シリーズの出版前に出されたもの)を公表し始めたのは,1990年代後半であった.私は,これらを読んでいくうちに,食事摂取基準の概念に惚れこんでしまった.個人の栄養素必要量がわからなくても,摂取量が必要量を充足しているか否かを確率的に言えるようにしたことに魅惑されたのである.推定平均必要量・推奨量,さらに目安量の概念である.そして,2000年に,ワシントンDCのジョージタウンにある医学研究所食品栄養部を訪れた.その時に,部長をはじめ5人の研究者が,朝から夕方まで食事摂取基準の概念と適用を丁寧に説明してくれた.私が驚いたのは,全員が管理栄養士(RD)であったことである.彼女らが実質的には中心となって食事摂取基準の概念を考案し,導入したとのことであった.
原典の食事摂取基準シリーズがかなり出そろい,また,私が東京医科歯科大学教授から国立健康・栄養研究所理事長に転出したこともあって,「日本人の食事摂取基準(2005年版)」の策定に携わり,アメリカ/カナダの食事摂取基準の概念を「2005年版」に全面的に導入した.しかし,多くの栄養学・食品学研究者,管理栄養士養成課程の教員,そして栄養実務者は,「難しい」という評価を下し,特に「集団への適用」については,旧来の栄養所要量の域を出ることなく,いわば誤用した人もいた.「2010年版」ではブラッシュアップが図られ,私は高く評価している.しかし,相変わらず「難しい」という声が少なくない.推奨量は本質的に栄養所要量と異なるということが,一番理解されていないようである.
このような状況にあって,管理栄養士が,“Dietary Reference Intakes.The Essential Guide to Nutrient Requirements.Institute of Medicine of the National Academies of Sciences,Washington DC,2006”の一部ではあるが,翻訳をすると言い出した.正直,びっくりもしたが,非常に感激した.敬意を表する次第である.この本は,上述の食事摂取基準シリーズ5,000ページの,いわば「ええとこどり」(大阪弁!)をしたもので,重要事項をすべて網羅している.この翻訳書の読者には,食事摂取基準の概念の面白さ,すばらしさに直接触れることのできる喜びを感じてもらえるであろう.「2010年版」の読解困難さを克服しており,初心者でも読める内容と文章になっている.個人および集団への適用については,「2010年版」,その他の日本語の参考書には掲載されていないことが,わかりやすく記述されているので,読者は完全にマスターすることができよう.
栄養・食品分野の人びとが,そして管理栄養士養成課程の学生諸君が,この本で,食事摂取基準の概念を習得し,適切に活用されんことを祈念している.
2010年8月10日
神奈川工科大学教授
東京医科歯科大学名誉教授 田中平三
監訳の序
はじめに
第I部……策定と適用
第1章 食事摂取基準とは
栄養素基準値への新しいアプローチ
食事摂取基準の種類
・推定平均必要量
・推奨量
・目安量
・耐容上限量
食事摂取基準の策定に使用されたパラメータ
・適用する集団
・ライフステージ
・基準身長および基準体重
要約
第2章 食事摂取基準の適用
統計学的な基礎
・食事摂取基準の適用には2つの分布を利用する
・必要量の分布と摂取量の分布の重なり
個人への適用
・個人の栄養素摂取量をどのように評価するか
・個人の栄養素摂取量を評価するために“定性的な”方法を利用する
・個人の栄養素摂取量を評価するために“定量的な”方法を利用する
・個人の食事アセスメントの方法:定量的方法と定性的方法
・食事摂取基準を個人の食事計画に活用する
・個人に対する食事計画の作成
・特別に配慮すべき事項
個人への適用におけるキーポイント
集団への適用
・集団の栄養素摂取量を評価する方法
・集団における栄養素摂取量の計画法
・目標とする習慣的な摂取量の分布とは何か?
・集団における栄養素摂取量計画のための食事摂取基準の使用法
事例研究
・事例研究1:集団の摂取量評価のための確率法の使用法
・事例研究2:月経のある女性集団における鉄の摂取量を評価するための確率法の使用法
・事例研究3:EARカットポイント法の使用法
・事例研究4:高齢者用介護付き住宅における食事計画
集団への適用におけるキーポイント
要約
第II部……エネルギー,主栄養素,身体活動
第1章 主栄養素,健康的な食事,身体活動
主栄養素エネルギー比率
・総脂肪と炭水化物
・たんぱく質
・n-6系多価不飽和脂肪酸
・n-3系多価不飽和脂肪酸
主栄養素の追加勧告
・飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,コレステロール
・添加砂糖類
生活習慣病との関連
主栄養素,健康的な食事,身体活動のキーポイント
第2章 エネルギー
エネルギーと身体
・機能/背景となる情報
・エネルギー消費量の構成要素
食事摂取基準の決定
・推定エネルギー必要量
・ライフステージ別エネルギー必要量決定の基準
・エネルギー消費量と必要量に影響を及ぼす因子
・耐容上限量
低栄養の影響
過剰摂取による健康障害
エネルギーのキーポイント
第3章 身体活動
推奨値の決定
・特別に配慮すべき事項
・身体活動レベルとエネルギー出納
身体活動が健康に与える影響
・持久性(有酸素)運動
・レジスタンス運動と全身的フィットネス
過度な身体活動
・健康障害の予防
身体活動のキーポイント
第III部……補 遺
第1章 方 法
方法論の考察
・使用したデータのタイプ
・乳児における適切な栄養素摂取量の決定法
・年少乳児から年長乳児へのデータ上方外挿法
・成人から小児へのデータ下方外挿法
・妊娠期の付加量の決定方法
・授乳期の付加量の決定方法
栄養素摂取量の推定
・考慮すべき事項
・日間変動の調整
米国とカナダの食事摂取量
・食事摂取量のデータソース
・サプリメント摂取量のデータソース
・食品のデータソース
耐容上限量の決定方法
・リスクアセスメントのモデル
・不確実性因子
付表
あとがき
索引
はじめに
第I部……策定と適用
第1章 食事摂取基準とは
栄養素基準値への新しいアプローチ
食事摂取基準の種類
・推定平均必要量
・推奨量
・目安量
・耐容上限量
食事摂取基準の策定に使用されたパラメータ
・適用する集団
・ライフステージ
・基準身長および基準体重
要約
第2章 食事摂取基準の適用
統計学的な基礎
・食事摂取基準の適用には2つの分布を利用する
・必要量の分布と摂取量の分布の重なり
個人への適用
・個人の栄養素摂取量をどのように評価するか
・個人の栄養素摂取量を評価するために“定性的な”方法を利用する
・個人の栄養素摂取量を評価するために“定量的な”方法を利用する
・個人の食事アセスメントの方法:定量的方法と定性的方法
・食事摂取基準を個人の食事計画に活用する
・個人に対する食事計画の作成
・特別に配慮すべき事項
個人への適用におけるキーポイント
集団への適用
・集団の栄養素摂取量を評価する方法
・集団における栄養素摂取量の計画法
・目標とする習慣的な摂取量の分布とは何か?
・集団における栄養素摂取量計画のための食事摂取基準の使用法
事例研究
・事例研究1:集団の摂取量評価のための確率法の使用法
・事例研究2:月経のある女性集団における鉄の摂取量を評価するための確率法の使用法
・事例研究3:EARカットポイント法の使用法
・事例研究4:高齢者用介護付き住宅における食事計画
集団への適用におけるキーポイント
要約
第II部……エネルギー,主栄養素,身体活動
第1章 主栄養素,健康的な食事,身体活動
主栄養素エネルギー比率
・総脂肪と炭水化物
・たんぱく質
・n-6系多価不飽和脂肪酸
・n-3系多価不飽和脂肪酸
主栄養素の追加勧告
・飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,コレステロール
・添加砂糖類
生活習慣病との関連
主栄養素,健康的な食事,身体活動のキーポイント
第2章 エネルギー
エネルギーと身体
・機能/背景となる情報
・エネルギー消費量の構成要素
食事摂取基準の決定
・推定エネルギー必要量
・ライフステージ別エネルギー必要量決定の基準
・エネルギー消費量と必要量に影響を及ぼす因子
・耐容上限量
低栄養の影響
過剰摂取による健康障害
エネルギーのキーポイント
第3章 身体活動
推奨値の決定
・特別に配慮すべき事項
・身体活動レベルとエネルギー出納
身体活動が健康に与える影響
・持久性(有酸素)運動
・レジスタンス運動と全身的フィットネス
過度な身体活動
・健康障害の予防
身体活動のキーポイント
第III部……補 遺
第1章 方 法
方法論の考察
・使用したデータのタイプ
・乳児における適切な栄養素摂取量の決定法
・年少乳児から年長乳児へのデータ上方外挿法
・成人から小児へのデータ下方外挿法
・妊娠期の付加量の決定方法
・授乳期の付加量の決定方法
栄養素摂取量の推定
・考慮すべき事項
・日間変動の調整
米国とカナダの食事摂取量
・食事摂取量のデータソース
・サプリメント摂取量のデータソース
・食品のデータソース
耐容上限量の決定方法
・リスクアセスメントのモデル
・不確実性因子
付表
あとがき
索引








