やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修の序
 最近「医療崩壊」という言葉をよく見かけます.医療制度改革が社会的問題になっています.医療制度はどこの国でも大きな社会的,政治的課題です.
 わが国の透析患者さんは毎年増えており,25万人を超えました.糖尿病による末期腎不全の透析導入が,新規導入患者の40%を超える最大の原因です.これは世界的な傾向で,エネルギー消費の少ない生活習慣,欧米的食生活,都市化などの影響によるものです.
 国際的な透析療法の比較試験では日本の透析療法はもっとも成績がよく,質の高い医療が行われていることを示します.透析にかかわる多くの医療従事者の努力のたまものです.病態の理解が進み,エリスロポエチン,活性型ビタミンDなど多くの新規薬剤,診断技術の進歩等もあって,透析患者さんの生活の質の向上に大きく貢献しています.医学は常に進歩しているのです.
 現在,慢性腎臓病(CKD)患者さんの腎臓機能低下の進行をいかに防ぐかが課題です.血圧のコントロールに多くの優れた降圧薬が使えるようになり,とくに腎臓病進行の抑制にはアンジオテンシン作用を抑止する薬剤の有効性が示され,慢性腎臓病でのこの系の薬剤の使用は必須です.またCKDは循環器系合併症の危険因子であり,生活習慣病が増える社会的背景もあって,CKD対策は大きな課題です.わが国の政府も,関係学会もいろいろな対策を打ち出しています.
 食事での食塩摂取量とたんぱく質摂取量の制限も必要です.しかし,毎日の食生活での実践はなかなか難しいのが実情です.とくに糖尿病患者さんの増加は,さらに問題を複雑にしており,医療人にとって,患者さんとその家族への食生活の実践は,理論と実践の間に大きな乖離があるのです.本書は,日常的にきわめて不便な食生活を強いられている患者さんとご家族に,食生活の指針としていただくものです.第8版では,治療食作りをよりよく理解していただけるように,カラーを使いいろいろと工夫をしました.
 本書は初版が昭和46年(1971年)という35年を超える歴史をもっています.これまでの多くの方たちの努力と,日本腎臓学会,日本透析医学会をはじめとした腎臓病,透析医療にかかわる多くの医師,管理栄養士,看護師など多くの方たちの不断の努力の成果であり,また患者さんと家族の理解と協力のおかげです.歴代の編集者に感謝するとともに,これからも皆さんのお役に立てていただけると幸甚です.
 平成20年8月

 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014」(日本腎臓学会編),「日本人の食事摂取基準2015」(厚生労働省)に準拠して内容を一部訂正しました.
 平成26年12月
 政策研究大学院大学教授・東京大学名誉教授 黒川 清

第8版によせて
 本書は昭和46年に初めて出版され,約35年経過しています.このたび第8回目の改訂をしました.その背景には,最近,慢性腎臓病(CKD)と呼ばれる概念が台頭したことがあります.CKDとは,慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎症,腎硬化症,多発性嚢胞腎など,すべての慢性の腎臓疾患を包含させて表現した呼び名です.このようなCKDに対して,現代の医学ではいまだ根治的治療法がないことが多いものの,近年では初期の段階で種々の薬物療法が積極的に行われるようになり,一定の治療効果をあげています.しかしCKDが進行して腎機能低下が顕著になればなるほど,食事療法の占める役割と効果が大きくなります.この意味から,腎臓病治療における食事療法の価値は昔も今も変わりません.
 このたび日本腎臓学会から,CKDの概念に合わせて「慢性腎臓病に対する食事療法基準2007年版」が発表されました.また近年,多数の腎臓病のための治療用特殊食品が新しく開発されたことにともない,今回の改訂でもこれら特殊食品を見直しました.一方透析食では,血管石灰化の防止の観点より,リン摂取制限がますます重要視されています.リン摂取量はたんぱく質摂取量と相関しますので,たんぱく質の摂取過剰は避けるべきことが明白になってきました.そこで今回の改訂では,健常人に対するたんぱく質摂取推奨量を超えるようなたんぱく質70gの項目を削除しました.
 本書の初版から第6版までの充実には,故平田清文・東邦大学名誉教授が非常に大きな情熱を注いできました.今回の改訂は,故平田先生のこれまでの業績をもとに改訂作業を行いました.すなわち,この食品交換表は,栄養学的にほぼ等しい栄養価(たとえば,たんぱく質3gを含む食品を1単位とする)の食品を相互に交換することによって,食事の変化と楽しみを与え,それによって同等な治療効果を期待することを目的としたものです.そのため,食品重量,成分値などは取り扱いに便利なように,一定の約束(凡例;24頁参照)で丸めて表示してあります.これは食品成分表と大きく異なるところです.ご利用にあたっては誤解や誤った方法でご使用のないようにお願いします.
 腎臓病の食事療法をより効果のあるものにさせるためには,腎臓病の患者さんご自身と医療スタッフとの,質の高い共同作業が必要であることは言うまでもありません.今後も引き続き,本書が腎臓病の方や食事療法に携わる医療スタッフの具体的指針として適切に使用され,実際に効果があがることを願っています.
 平成20年8月

 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014」(日本腎臓学会編),「日本人の食事摂取基準2015」(厚生労働省)に準拠して内容を一部訂正しました.
 平成26年12月
 編者代表 東京医科大学教授 中尾俊之
腎臓病とその治療食のあり方
腎臓病食品交換表のしくみ
腎臓病食品交換表の使い方
食品交換表(食品分類)
 凡例
 カラー 食品(表1〜表6)の目安
 表1 ご飯・パン・めん
 表2 果実・種実・いも
 表3 野菜
 表4 魚介・肉・卵・豆・乳とその製品
 表5 砂糖・甘味品・ジャム・ジュース・でんぷん
 表6 油脂
 別表
  別表1 きのこ・海藻・こんにゃく
  別表2 嗜好飲料
  別表3 菓子
  別表4 調味料
  別表5 調理加工食品
 特殊 治療用特殊食品
 カラー 食品選択と食事作り完全ガイド
 カラー 1日献立例と一品料理
たんぱく質の単位別にみた食事のとり方
 たんぱく質60g・20単位の食事
 たんぱく質50g・17単位の食事
 たんぱく質40g・13単位の食事
 たんぱく質30g・10単位の食事
 たんぱく質20g・7単位の食事
糖尿病性腎症の食事
 糖尿病性腎症:たんぱく質40g・13単位の食事
長期透析療法の食事
 長期透析療法:たんぱく質60g・20単位の食事
 長期透析療法:たんぱく質50g・17単位の食事
小児腎臓病の食事
 小児腎臓病:たんぱく質50g・17単位の食事
 小児腎臓病:たんぱく質40g・13単位の食事
 小児腎臓病:たんぱく質30g・10単位の食事
食事を豊かにする工夫
 調味料に含まれる食塩量
 エネルギーを高める調理法
 「ゆでる」「煮る」「焼く」で,無機質はどのくらい減るか
 エネルギーを高める料理例
 食欲不振のときの油の上手な使い方
 主食に特殊食品を使ったときの表4の追加料理例
 治療用特殊食品を使った一品料理
 完全ガイド献立例の献立表と作り方

 食品名さくいん
 治療用特殊食品の問い合わせ先