やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序文
 従来の食事療法ではなく,各種栄養補給法をも含めた新たな治療法の概念を基本とした『栄養食事療法必携』を世に出したのが1999年8月である.その後の,医療や臨床栄養学の進歩に即して2002年3月に第2版を出版した.そして,今回が第3版となる.幸いなことに,多くの栄養士・管理栄養士の養成校で,教科書として採用していただき,ほとんどの病院の栄養部門事務所や栄養相談室には「必読書」として置いていただけるようになった.
 初版の時,栄養士・管理栄養士が行っている当時の業務実態から考えて,本書は先取りした内容となり,現実離れしていると批判されるのではないかと心配したが,その後栄養士法改正,栄養改善法の健康増進法への発展的展開,栄養士・管理栄養士のカリキュラム改正と栄養士・管理栄養士を取り巻く大幅な環境の変化が続き,さらに臨床分野における栄養管理の重要性が叫ばれるようになり,決して先取りではなく現実的な業務の参考書としての役割が果たせるようになった.
 本書は,医学,栄養学の進歩,さらに医療,福祉の変化にいち早く対応し,常に新しく根拠がある情報を提供することを旨としてきた.2002年の第2版から,今回の第3版の間には,主なものでも「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン.日本痛風・核酸代謝学会,2002年」,「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版.日本動脈硬化学会,2002年」,「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン.日本糖尿病学会,2004年」,「高血圧治療ガイドライン2004.日本高血圧学会,2004年」が出版され,本書でもそれらに併せ診断,治療の項での見直しを行った.また,感染症のデータは,常にその様相が変わるのでその都度見直した.
 さらに,今回,「食事摂取基準2005年版」が厚生労働省から発表された.食事摂取基準は健常者に対して活用するのであり,傷病者にはそれぞれの疾患ごとのガイドラインに従って対応するのが原則であるが,食事摂取基準のコンセプトを理解しながら本書を活用することを基本とした見直しも行った.また,今回から,読者がより利用しやすいように「疾患名」中心の索引もつけた.
 本書が益々良質なものに改訂されていくためにも,読者諸兄姉からの忌憚のないご批判,ご指導をお願いするしだいである.
 2005年3月
 編著者 中村丁次


 医療現場で治療食を管理し,患者への栄養指導を担当してすでに25年以上の歳月が経過した.この間,常に考え続けてきたことがある.それは,現在の食事療法は本当に治療に貢献しているのだろうか,という素朴な疑問である.つまり,これだけ多くのことに配慮し,細かい作業を日々実施しているけれども,これらのなかで真に意味のあることは何なのだろうか,という疑問である.
 幸いなことに,医歯薬出版から「治療食必携」を新版にしてほしいという話をいただいた.「治療食必携」といえば,大先輩である元東京都立病院・藤本良昭先生が生涯をかけて編集された名著であり,どこの病院に行っても,栄養部門の事務所には座右の友として必ず置いてある本でもある.この「治療食必携」の跡を継ぐ新版の編集・執筆に携わることは大変に名誉なことであり,また以前から考えてきたことを整理するいい機会でもあると考え,お引き受けすることにした.
 新版の編集に当たっては,内容が机上の空論にならないように,さらに最新の知見や方法が盛り込まれるように配慮して,臨床現場の第一線で活躍されている管理栄養士や,臨床経験のある栄養研究者などに執筆をお願いした.
 本書は,次のような特徴をもっている.
 第一は,現在の栄養士の弱点とされている病気についての理解が十分なされるように配慮したことである.各執筆者には,病気の定義,原因,診断,代謝の特徴,治療方針などについてわかりやすく執筆していただいた.とくに最新の知見や情報は見逃さないようにお願いした.
 第二は,栄養療法や食事療法が真の意味をもつよう,栄養指針については病態の栄養状態に基づいたものにしたことである.そして,栄養状態を知るために栄養アセスメントの項目を新しく設けた.また,かつての治療食や食事療法の概念にとらわれず,経腸栄養剤やアミノ酸製剤,さらには特別用途食品などを用いた栄養療法についても解説することにした.
 第三は,科学的根拠のある栄養食事療法とするために,多くの文献を引用し参考としたことである.また,この栄養食事療法を実施するために必要な資料やデータなども豊富に付記した.
 従来にない欲ばった内容としながらも,初学者でも理解できるよう,記述内容については何度も何度も検討した.しかも,刻々進歩する医学や栄養学に沿ったものにしなければならず,出版が予定よりも大幅に遅れてしまった.この結果,読者をはじめ医歯薬出版社には多大なご迷惑をかけてしまうことになったが,忍耐強く完成にこぎつけられた編集担当者には心から感謝を申し上げるしだいである.
 なお,「食事療法」が「栄養療法」に包含されるべきことはいうまでもないが,わが国の現状をみるとき,多くの医療施設においては患者の栄養管理の考え方と実践が栄養療法という概念のもとに行われているとはいいがたい.それゆえ,食事療法から栄養療法への橋渡しとなることの願いも込めて,本書名をあえて「栄養食事療法必携」としたゆえんであるが,本書名が「栄養療法必携」と改題されるべき時代がより早く到来することを切に願うものである.
 1999年8月
 編著者 中村丁次
A 栄養性疾患(中村丁次)
 1.肥満
 2.やせ
 3.たんぱく質欠乏症
 4.ビタミン欠乏症
 5.ビタミン過剰症
 6.ミネラル欠乏症
 7.ミネラル過剰症
B 消化器疾患(野口球子)
 1.口内炎,舌炎
 2.食道静脈瘤
 3.急性胃炎
 4.慢性胃炎
 5.胃下垂
 6.胃・十二指腸潰瘍
 7.急性腸炎
 8.慢性腸炎
 9.たんぱく質漏出性胃腸症
 10.過敏性腸症候群
 11.潰瘍性大腸炎
 12.クローン病
 13.イレウス(腸閉塞)
 14.便秘
C 肝臓・胆嚢・膵臓疾患(寺本房子)
 1.急性肝炎
 2.慢性肝炎
 3.肝硬変
 4.脂肪肝
 5.肝細胞癌
 6.アルコール性肝障害
 7.胆石症
 8.胆嚢炎
 9.急性膵炎
 10.慢性膵炎
D 循環器疾患(戸田和正)
 1.高血圧
 2.低血圧
 3.虚血性心疾患
 4.うっ血性心不全
 5.動脈硬化症
E 腎臓・泌尿器疾患(本田佳子)
 1.急性腎炎
 2.慢性腎炎
 3.ネフローゼ症候群
 4.糖尿病性腎症
 5.急性腎不全
 6.慢性腎不全
 7.腎盂腎炎
 8.尿路結石症
 (慢性腎臓症)
F 代謝性疾患(川島由起子)
 1.糖尿病
 2.高脂血症
 3.高尿酸血症,痛風
G 内分泌疾患(川島由起子)
 1.甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症
 2.クッシング症候群
 3.アジソン病
H 血液疾患(林 静子)
 1.鉄欠乏性貧血
 2.巨赤芽球性貧血
 3.白血病
 4.骨髄移植
I アレルギー疾患(林 静子)
 1.食物アレルギー
 2.アトピー性皮膚炎
J 脳・神経・筋疾患(林 静子)
 1.脳血管障害
 2.痴呆症
 3.パーキンソン病
 4.進行性筋ジストロフィー
K 精神疾患(林 静子)
 1.神経性食欲不振症
 2.神経性大食症
 3.アルコール依存症
L 呼吸器疾患(松原 薫)
 1.かぜ症候群
 2.肺炎
 3.肺結核
 4.慢性気管支炎
 5.気管支喘息
M 骨疾患(松原 薫)
 1.骨軟化症
 2.骨粗鬆症
N 膠原病(松原 薫)
 1.慢性関節リウマチ
 2.全身性エリテマトーデス
O 食中毒・感染症(外山健二)
 1.細菌性食中毒
 2.細菌性以外の食中毒
 3.赤痢
 4.腸チフス,パラチフス
 5.コレラ
 6.エイズ
 7.MRSA感染症
P 手術前後の栄養管理(外山健二)
 1.食道癌の手術
 2.胃・十二指腸の手術
 3.胆石症の手術
 4.小腸の広範囲切除
 5.大腸の手術
 6.心臓の手術
 7.痔核,痔ろうの手術
 8.重症熱症の手術
 9.脳外科の手術
 10.耳鼻咽喉科の手術
 11.口腔外科の手術
 12.頸椎の手術
Q 妊産婦・婦人科疾患(寺本房子)
 1.妊産婦の栄養管理
 2.妊娠悪阻
 3.妊娠中毒症
 4.更年期障害
R 乳幼児・小児疾患(芳本信子)
 1.乳幼児の栄養管理
 2.未熟児の栄養管理
 3.乳児の哺乳困難
 4.乳幼児の鉄欠乏性貧血
 5.周期性嘔吐症(アセトン血性嘔吐症,自家中毒症)
 6.乳幼児の下痢症
 7.小児肥満
 8.小児糖尿病
 9.小児高脂血症
 10.先天性代謝異常症(1)フェニルケトン尿症,ヒスチジン血症
 11.先天性代謝異常症(2)メープルシロップ尿症
 12.小児腎疾患
S 歯疾患(戸田和正)
 1.う蝕
 2.歯周病
T 高齢者の栄養管理(中村丁次)
 1.高齢者の栄養管理
U 癌の栄養管理(林 静子)
 1.癌の予防食
 2.癌治療の栄養管理

付表(作成協力・北村友香)
 1.エネルギーの高いおもな食品
 2.エネルギーの少ないおもな食品
 3.たんぱく質を多く含むおもな食品
 4.たんぱく質の少ないおもな食品
 5.脂質を多く含むおもな食品
 6.コレステロールを多く含むおもな食品
 7.炭水化物を多く含むおもな食品
 8.食物繊維を多く含むおもな食品
 9.食塩を多く含むおもな食品
 10.カリウムを多く含むおもな食品
 11.カルシウムを多く含むおもな食品
 12.リンを多く含むおもな食品
 13.鉄を多く含むおもな食品
 14.マグネシウムを多く含むおもな食品
 15.亜鉛を多く含むおもな食品
 16.銅を多く含むおもな食品
 17.ナイアシンを多く含むおもな食品
 18.レチノールを多く含むおもな食品
 19.ビタミンB1を多く含むおもな食品
 20.ビタミンB2を多く含むおもな食品
 21.ビタミンB6を多く含むおもな食品
 22.ビタミンB12を多く含むおもな食品
 23.ビタミンCを多く含むおもな食品
 24.ビタミンDを多く含むおもな食品
 25.ビタミンEを多く含むおもな食品
 26.ビタミンKを多く含むおもな食品
 27.葉酸を多く含むおもな食品
 28.水分を多く含むおもな食品
 29-1.おもな高脂質食品の脂肪酸組成(常用量当たり)
 29-2.おもな高脂質食品の脂肪酸組成(100g当たり)
 30.アルコール量表
 31.栄養と関連疾患に関係した代表的な生化学検査
 32.手術後食進行一覧表
 33.栄養食事療法関連のおもな医学用語略語

 資料
  日本人の食事摂取基準(2005年版)の活用
 索引