やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば

 この数年間,臨床栄養に関する分野の進歩に目を見張るものがある.身体の栄養状態を評価・判定する栄養アセスメントの研究・開発が進み,それに伴うデータの集積,またこれを活用した経腸栄養法や静脈栄養法による効果的な栄養補給の管理・運営が行われている.すなわち,栄養補給を適切に実施することによって患者の生命を維持し,疾病の治療・予防に貢献し,QOLの向上に寄与している.
 一方,現在ではevidence-based medicine科学的根拠に基づいた医療の施行が叫ばれている.栄養の分野においてもevidence-based nutrition care科学的根拠に基づいた栄養の管理・運営が求められている.そこで,従来から実施してきた栄養療法や食事療法は,基本的な立場から,その内容や実施のあり方を見直して,科学的根拠を再検討する必要がある.
 このたび,聖マリアンナ医科大学病院の栄養部長である中村丁次博士が,上記の趣旨に基づいた栄養療法に関する専門書を編集され,出版することとなった.
 本書においては,最近の医学的な進歩を取り入れ,新しい観点から疾病を解説すると同時に,疾病時における栄養素の代謝の特徴,症状との関連などを記述している.また,それに伴う診断基準や治療指針についても,科学的根拠に基づいた証例を示して解説を行っている.さらに,これに関連する栄養素の摂取基準の明示,特別用途食品などの活用法,栄養補給法,治療食のあり方,栄養指導などについて,新しい観点からわかりやすく解説している.また多くの文献も紹介している.
 中村博士は,臨床栄養領域の第一人者であり,また日本の栄養士が臨床栄養領域で活躍することを推進しているパイオニアのリーダーでもある.本書は,こうした観点からも最も活用すべき書籍であり,また医療や介護の領域で活躍することを目指す学生にとっては必須の教科書といえる.本書を有効に活用して,これからの医療や介護の領域で活躍されることを願ってやまない.
 このような趣旨のもとに,科学的な根拠に基づいた臨床栄養の新しい道しるべとして本書を推薦する.
 1999年8月
 東京大学名誉教授 細谷憲政

改訂の序

 本書の初版が発行されたのは,今から2年半前の1999年の8月であった.初版の序でも触れたように,この本の前身に当たる『治療食必携』を少しでも現場の管理栄養士・栄養士向けにするため推敲に推敲を重ね,難産の末生まれた本書ではあったが,幸にも多くの読者の方の賛同を得て順調に増刷を重ねることが出来た.
 ところがこの2年半の間に,IT業界のみならず『栄養界』にも改革の嵐が吹き荒れた.本書にも直接影響を与えた『五訂日本食品標準成分表』の発表はもとより,『保健機能食品』の制定,『栄養士法』の改正とそれに伴うカリキュラムの改正,いくつかの栄養士養成短大の4年制大学への移行,各種専門資格制度導入の動きなど,数え上げたらきりがない.
 勿論これら全てが本書の内容に直結するものではないにしろ,多くの管理栄養士・栄養士に受け入れられた本書に課せられた使命の重さは,我々執筆者にもひしひしと伝わって来るように感じられるのである.
 今回『五訂日本食品標準成分表』の内容に合わせて本書を修正する事になったが,この機会に本書の全面見直しをも行い,本書が必要かつ正確な情報をより分かりやすく読者諸兄に伝えることが出来るように一層努力したつもりである.とはいっても多くの管理栄養士・栄養士に十分満足して頂けるような成書が刊行出来たとはまだまだ思えないのが現実である.その意味でも本書に関する提言・箴言を含めた忌憚のないご意見,ご指導を読者の皆様からお願いする次第である.
 2002年1月
 編著者 中村丁次



 医療現場で治療食を管理し,患者への栄養指導を担当してすでに25年以上の歳月が経過した.この間,常に考え続けてきたことがある.それは,現在の食事療法は本当に治療に貢献しているのだろうか,という素朴な疑問である.つまり,これだけ多くのことに配慮し,細かい作業を日々実施しているけれども,これらのなかで真に意味のあることは何なのだろうか,という疑問である.
 幸いなことに,医歯薬出版から「治療食必携」を新版にしてほしいという話をいただいた.「治療食必携」といえば,大先輩である元東京都立病院・藤本良昭先生が生涯をかけて編集された名著であり,どこの病院に行っても,栄養部門の事務所には座右の友として必ず置いてある本でもある.この「治療食必携」の跡を継ぐ新版の編集・執筆に携わることは大変に名誉なことであり,また以前から考えてきたことを整理するいい機会でもあると考え,お引き受けすることにした.
 新版の編集に当たっては,内容が机上の空論にならないように,さらに最新の知見や方法が盛り込まれるように配慮して,臨床現場の第一線で活躍されている管理栄養士や,臨床経験のある栄養研究者などに執筆をお願いした.
 本曹ヘ,次のような特徴をもっている.
 第一は,現在の栄養士の弱点とされている病気についての理解が十分なされるように配慮したことである.各執筆者には,病気の定義,原因,診断,代謝の特徴,治療方針などについてわかりやすく執筆していただいた.とくに最新の知見や情報は見逃さないようにお願いした.
 第二は,栄養療法や食事療法が真の意味をもつよう,栄養指針については病態の栄養状態に基づいたものにしたことである.そして,栄養状態を知るために栄養アセスメントの項目を新しく設けた.また,かつての治療食や食事療法の概念にとらわれず,経腸栄養剤やアミノ酸製剤,さらには特別用途食品などを用いた栄養療法についても解説することにした.
 第三は,科学的根拠のある栄養食事療法とするために,多くの文献を引用し参考としたことである.また,この栄養食事療法を実施するために必要な資料やデータなども豊富に付記した.
 従来にない欲ばった内容としながらも,初学者でも理解できるよう,記述内容については何度も何度も検討した.しかも,刻々進歩する医学や栄養学に沿ったものにしなければならず,出版が予定よりも大幅に遅れてしまった.この結果,読者をはじめ医歯薬出版社には多大なご迷惑をかけてしまうことになったが,忍耐強く完成にこぎつけられた編集担当者には心から感謝を申し上げるしだいである.
 なお,「食事療法」が「栄養療法」に包含されるべきことはいうまでもないが,わが国の現状をみるとき,多くの医療施設においては患者の栄養管理の考え方と実践が栄養療法という概念のもとに行われているとはいいがたい.それゆえ,食事療法から栄養療法への橋渡しとなることの願いも込めて,本書名をあえて「栄養食事療法必携」としたゆえんであるが,本書名が「栄養療法必携」と改題されるべき時代がより早く到来することを切に願うものである.
 1999年8月
 編著者 中村丁次
A 栄養性疾患 中村丁次
 1.肥満
 2.やせ
 3.たんぱく質欠乏症
 4.ビタミン欠乏症
 5.ビタミン過剰症
 6.ミネラル欠乏症
 7.ミネラル過剰症
B 消化器疾患 野口球子
 1.口内炎,舌炎
 2.食道静脈瘤
 3.急性胃炎
 4.慢性胃炎
 5.胃下垂
 6.胃・十二指腸潰瘍
 7.急性腸炎
 8.慢性腸炎
 9.たんぱく質漏出性胃腸症
 10.過敏性腸症候群
 11.潰瘍性大腸炎
 12.クローン病
 13.イレウス(腸閉塞)
 14.便秘
C 肝臓・胆嚢・膵臓疾患 寺本房子
 1.急性肝炎
 2.慢性肝炎
 3.肝硬変
 4.脂肪肝
 5.肝細胞癌
 6.アルコール性肝障害
 7.胆石症
 8.胆嚢炎
 9.急性膵炎
 10.慢性膵炎
D 循環器疾患 戸田和正
 1.高血圧
 2.低血圧
 3.虚血性心疾患
 4.うっ血性心不全
 5.動脈硬化症
E 腎臓・泌尿器疾患 本田佳子
 1.急性腎炎
 2.慢性腎炎
 3.ネフローゼ症候群
 4.糖尿病性腎症
 5.急性腎不全
 6.慢性腎不全
 7.腎盂腎炎
 8.尿路結石症
F 代謝性疾患 川島由起子
 1.糖尿病
 2.高脂血症
 3.高尿酸血症,痛風
G 内分泌疾患 川島由起子
 1.甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症
 2.クッシング症候群
 3.アジソン病
H 血液疾患 林 静子
 1.鉄欠乏性貧血
 2.巨赤芽球性貧血
 3.白血病
 4.骨髄移植
I アレルギー疾患 林 静子
 1.食物アレルギー
 2.アトピー性皮膚炎
J 脳・神経・筋疾患 林 静子
 1.脳血管障害
 2.痴呆症
 3.パーキンソン病
 4.進行性筋ジストロフィー
K 精神疾患 林 静子
 1.神経性食欲不振症
 2.神経性大食症
 3.アルコール依存症
L 呼吸器疾患 松原 薫
 1.かぜ症候群
 2.肺炎
 3.肺結核
 4.慢性気管支炎
 5.気管支喘息
M 骨疾患 松原 薫
 1.骨軟化症
 2.骨粗鬆症
N 膠原病 松原 薫
 1.慢性関節リウマチ
 2.全身性エリテマトーデス
O 食中毒・感染症 外山健二
 1.細菌性食中毒
 2.細菌性以外の食中毒
 3.赤痢
 4.腸チフス,パラチフス
 5.コレラ
 6.エイズ
 7.MRSA感染症
P 手術前後の栄養管理 外山健二
 1.食道癌の手術
 2.胃・十二指腸の手術
 3.胆石症の手術
 4.小腸の広範囲切除
 5.大腸の手術
 6.心臓の手術
 7.痔核,痔ろうの手術
 8.重症熱症の手術
 9.脳外科の手術
 10.耳鼻咽喉科の手術
 11.口腔外科の手術
 12.頸椎の手術
Q 妊産婦・婦人科疾患 寺本房子
 1.妊産婦の栄養管理
 2.妊娠悪阻
 3.妊娠中毒症
 4.更年期障害
R 乳幼児・小児疾患 芳本信子
 1.乳幼児の栄養管理
 2.未熟児の栄養管理
 3.乳児の哺乳困難
 4.乳幼児の鉄欠乏性貧血
 5.周期性嘔吐症(アセトン血性嘔吐症,自家中毒症)
 6.乳幼児の下痢症
 7.小児肥満
 8.小児糖尿病
 9.小児高脂血症
 10.先天性代謝異常症(1)フェニルケトン尿症,ヒスチジン血症
 11.先天性代謝異常症(2)メープルシロップ尿症
 12.小児腎疾患
S 歯疾患 戸田和正
 1.う蝕
 2.歯周病
T 高齢者の栄養管理 中村丁次
 1.高齢者の栄養管理
U 癌の栄養管理 林 静子
 1.癌の予防食
 2.癌治療の栄養管理

 付表(作成協力・北村友香)
  1.エネルギーの高いおもな食品
  2.エネルギーの少ないおもな食品
  3.たんぱく質を多く含むおもな食品
  4.たんぱく質の少ないおもな食品
  5.脂質を多く含むおもな食品
  6.コレステロールを多く含むおもな食品
  7.炭水化物を多く含むおもな食品
  8.食物繊維を多く含むおもな食品
  9.食塩を多く含むおもな食品
  10.カリウムを多く含むおもな食品
  11.カルシウムを多く含むおもな食品
  12.リンを多く含むおもな食品
  13.鉄を多く含むおもな食品
  14.マグネシウムを多く含むおもな食品
  15.亜鉛を多く含むおもな食品
  16.銅を多く含むおもな食品
  17.ナイアシンを多く含むおもな食品
  18.レチノールを多く含むおもな食品
  19.ビタミンB↓1↓を多く含むおもな食品
  20.ビタミンB↓2↓を多く含むおもな食品
  21.ビタミンB↓6↓を多く含むおもな食品
  22.ビタミンB↓12↓を多く含むおもな食品
  23.ビタミンCを多く含むおもな食品
  24.ビタミンDを多く含むおもな食品
  25.ビタミンEを多く含むおもな食品
  26.ビタミンKを多く含むおもな食品
  27.葉酸を多く含むおもな食品
  28.水分を多く含むおもな食品
  29-1.おもな高脂質食品の脂肪酸組成(常用量当たり)
  29-2.おもな高脂質食品の脂肪酸組成(100g当たり)
  30.アルコール量表
  31.栄養と関連疾患に関係した代表的な生化学検査
  32.手術後食進行一覧表
  33.栄養食事療法関連のおもな医学用語略語
 資料 日本人の栄養所要量としての「食事摂取基準」の活用法