やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂の序

 従来,成人病という言葉は,「加齢によって,罹患率が高くなる症患群」の意として,「がん」,「心臓病」,「脳卒中」などの慢性疾患の総称として用いられてきた.しかし,成人病の発症には加齢よりも生活習慣が深く関与していることが明らかにされ,生活習慣を改善することによって疾病の発症を予防し,進行を阻止することができるということから,生活習慣に着目した疾病概念として見直され,1996年,公衆衛生審議会によって,「生活習慣病」と改めることが答申された.
 また同年,地域保健の強化を目的として,保健所法が地域保健法に改正され,1997年より施行されている.
 それらの改訂あるいは改正に伴い,本書の記述等の見直しや内容の再点検を行い,本文掲載の統計資料等の最新データへの差し替えを試みた.
 巻末資料においても,従来の栄養士法,栄養士法施行令,栄養士法施行規則,栄養改善法に加えて,新たに,調理師法,母子保健法,地域保健法,老人保健法等を追加し,さらに公衆栄養学の歴史の年表を掲載することによって,公衆栄養学のテキストとしての使いやすさの追求をも試みた.
 少子化と高齢化が進む21世紀を迎えるにあたって,われわれの健康の保持増進は,個々人の努力はもとより,地域社会全体の問題として取り扱う必要性があり,公衆栄養学に根ざした機構の整備や組織づくり,健康の保持増進のための啓蒙活動および実践が強く求められているところから,よりよい指導者の育成が急務であるといえよう.
 1997年12月20日 編者 沖増 哲
改訂にあたって…… iii
改訂の序…… v

Chapter 1 これからの公衆栄養を求めて 1
1.公衆栄養とは…… 1
 公衆栄養の必要性―生命現象の見地から…… 1
 公衆栄養をこう考える…… 2
  公衆栄養は多体問題である……2 公衆栄養のパラダイム……3
2.大きく変わる健康観―健康づくりからウエルネスへ…… 4
 健康とは…… 4
 健康の指標…… 5
 健康づくり(健康増進)とその必要性…… 6
 ヘルスプロモーション…… 8
 新しい健康観―ウエルネス…… 9
  ウエルネスとは……9 ウエルネス運動の展開……11
3.食生活は文化である…… 12
 食生活のパラダイム…… 12
 食文化の形成と伝播…… 13
  文化とは……13 食文化の地域類型……14 近代以前の日本人の食文化……15
4.物質文明の発達と食生活の近代化―新たな食文化の創造を期待して…… 15
 物質文明の発達…… 15
 食生活の近代化…… 16
5.公衆栄養をめぐる環境問題…… 19
 環境とそのシステムモデル…… 19
  環境とは……19 環境の内容……20 環境のシステムモデル……21
 世界人口の増大と食料問題…… 23
  人口問題……23 食料およびその他の問題……25
 公衆栄養と環境づくり…… 26
  自然環境の役割……26 環境づくり―公衆栄養の観点から……27
6.公衆栄養学とそれへの取り組み…… 30
 学際科学としての公衆栄養学…… 30
 望まれる科学的なアプローチ…… 31
 望まれる多面的なアプローチ…… 31

Chapter 2 公衆栄養の方法 33
1.栄養疫学の考え方と方法…… 33
 健康問題を発見するには…… 33
  健康調査の方法……34 調査対象者……34 質問票による健康問題の調査……35 運動量調査,運動機能検査による健康問題の発見……38 血液・尿検査などによる健康問題発見……39 健康調査における機密保護……39
 栄養問題の発見…… 39
  栄養状態の判定……39 栄養調査……41 食生活調査……42
 栄養と健康の関係を探るには―栄養疫学…… 42
  記述疫学……43 分析疫学……43 実験疫学……44
2.公衆栄養活動の進め方…… 45
 マネージメントサイクル…… 45
 公衆栄養活動を計画(Plan)する…… 46
  目的の確認……47 目標の設定……47 計画案の作成……48 関係機関,組織,専門技術者などの把握……49
 公衆栄養活動を実施(Do)する…… 50
  公衆栄養活動の主体……50 活動の方法……51 指導媒体……51 広報活動……52 活動の留意点……52 栄養士の役割……53
 公衆栄養活動を評価(See)する…… 53
  評価の方法……54 評価の時期と内容……54
3.公衆栄養学における情報処理をどう行うか…… 56
 情報処理の実際…… 56
  コンピュータの種類……57 コンピュータの利用方法……58 コンピュータ利用の実際……59
情報システムの現状…… 60 ダウンサイジング……60 オープン化……61 マルチメディア化……61 ネットワーク化……61
 公衆栄養学における情報処理の展望…… 61
  地域での医療情報のネットワーク化……62 家庭での利用……62 教育への利用……62
 情報処理における機密保護…… 62

Chapter 3 公衆栄養の現状と問題点を探る 63
1.国民栄養調査の側面から…… 63
 食品群別摂取量…… 63
  食品群別摂取量の動向……63 食生活パターンの伝統型から欧米型への移行……65
 栄養素等摂取量…… 65
  所要量と比べた場合の栄養素等摂取状況……65 エネルギーの栄養素別構成比―PFCエネルギー比……67 たんぱく質,脂質,炭水化物およびカルシウムの食品群別摂取構成……67
 食塩摂取量と塩分源…… 71
 食生活上の問題点…… 72
  若年層に目立つ欠食,朝食欠食……72 外食傾向……73 増える“コ”食化傾向……74 短くなる夕食の調理時間……75 食事リズムの乱れ……76
2.食料需虚\(食料バランスシート)の側面から…… 77
 食料自給率は59%,供給熱量自給率は40%…… 77
 食料輸入の増加にみる飽食,高級化…… 79
 供給純食料および供給栄養量の動向…… 79
 食料問題を考えよう…… 79
3.家計調査の側面から…… 80
 消費構造の変化と食料費の動向…… 80
 加工食品志向の高まり…… 80
 外食の増加と集列化…… 81
 食環境の変化が生む問題点…… 82
4.国際栄養―食料・栄養・人口・健康…… 83
 食料供給量からみた日本の特徴…… 83
 栄養供給量からみた日本の特徴…… 85
 世界の栄養問題…… 87

Chapter 4 公衆栄養のための活動指針 89
1.栄養所要量…… 89
 栄養所要量とは…… 89
 日本人の栄養所要量の定義と推移…… 89
 “第六次改定日本人の栄養所要量―食事摂取基準”の改定の要点…… 92
 食事摂取基準の利用方法…… 93
 食事摂取基準算定の基礎…… 94
  エネルギー所要量……94 糖質……96 食物繊維……96 脂質所要量……96 たんぱく質所要量……96 無機質摂取基準……97 ビタミン摂取基準……98
2.“健康づくりのための食生活指針”…… 98
 “健康づくりのための食生活指針”(1985年)…… 98
 “健康づくりのための食生活指針(対象特性別)”(1990年)…… 99
 “食生活指針”(2000年)…… 99
3.健康づくりのための運動所要量…… 100
4.健康づくりのための運動指針…… 102
5.健康づくりのための身体活動のあり方―身体活動指針…… 103
6.健康づくりのための休養指針…… 103

Chapter 5 公衆栄養と栄養行政―公衆栄養の視点から行政をみる 107
1.栄養行政の歴史をみる―時代とともに変遷してきた栄養行政…… 107
2.栄養行政組織とその役割を知る―住民の健康づくりを支援している栄養行政…… 108
 国レベルの栄養行政…… 110
  厚生労働省以外の栄養関係行政……111
 都道府県レベルの栄養行政…… 111
  都道府県の栄養行政……111 健康科学センター……111
 保健所(都道府県ブロックレベル)の栄養行政…… 112
 市町村レベルの栄養行政…… 112
  市町村の栄養行政……112 市町村保健センター……112
3.栄養関係法規を理解する―住民の健康を守っている栄養関係法規…… 115
 栄養士法…… 116
  栄養士法の制定趣旨と主な改正……116 栄養士法に規定する主な項目……116 栄養士と管理栄養士制度……117
 栄養改善法…… 118
  栄養改善法の制定趣旨と主な改正……118 栄養改善法に規定する主な項目……120
 地域保健法…… 121
  地域保健法の制定趣旨と主な改正……121 地域保健法に規定する主な項目……122
 母子保健法…… 122
  母子保健法の制定趣旨と主な改正……122 母子保健法に規定する主な項目……123
 老人保健法…… 123
  老人保健法の制定趣旨と主な改正……123 老人保健法に規定する主な項目……123
4.公衆栄養施策を考える―住民の健康の保持増進と健康なまちづくりを目指して実施される公衆栄養施策…… 124
 健康づくり対策…… 124
  健康づくり対策の経過……124 健康日本21-21世紀の国民健康づくり運動……124 健康づくり施策の概要……128
 母子保健対策…… 130
  公衆栄養活動と関係のある主な施策……130 新エンゼルプラン・健やか親子21と公衆栄養活動……131
 成人・老人保健対策…… 132
  公衆栄養活動と関係のある主な成人・老人保健対策……132 ゴールドプラン21と公衆栄養活動……133 介護保険制度と公衆栄養活動……133

Chapter 6 少子化のなかでの母子の健康づくり 137
1.母性栄養の特性と意義…… 137
2.母性栄養の現状と問題点…… 138
3.母子保健統計からみた母子保健の現状…… 139
4.これからの母子保健…… 141
 母子保健法と母子保健施策…… 141
 エンゼルプラン・健やか親子21…… 143
5.小児期(成長期)栄養の特性と意義…… 144
6.次世代を担う子どもたちの食生活上の課題…… 146
 生活習慣病の増加…… 146
 咀しゃく能力の減退…… 148
 拒食,過食,ダイエット,骨折,アレルギー…… 150
 ストレス症候群の増加…… 151
7.健やかな成長を目指して…… 151
 子どもたちを取り巻く環境の変化…… 151
 食文化と食教育…… 152

Chapter 7 生活習慣病予防のための食生活 155
1.生活習慣病とは…… 155
2.生活習慣病の動向…… 156
 生活習慣病の総患者数…… 156
 生活習慣病の死亡数・死亡割合…… 156
  生活習慣病の年齢階級別死亡割合……157 癌の死亡数・死亡率……158 循環器疾患の死亡率……159
 生活習慣病の医療費…… 159
3.生活習慣病増加の原因について考える…… 159
 生活環境の変化…… 159
 食習慣…… 160
 ライフスタイルを見直す…… 160
  生活時間……160 食生活……160 飲酒……161 喫煙……161 運動……162 休養……163
4.生活習慣病予防のために…… 164
 生活習慣病の予防法…… 164
  一次予防……164 二次予防……164 三次予防……164
 生活習慣病予防のための食生活…… 164
  癌と食生活……164 循環器疾患と食生活……167 糖尿病と食生活……168 肥満と健康の問題……169 生活習慣病予防のための食生活指針……172

Chapter 8 高齢者の栄養と食生活 173
1.高齢社会の進展…… 173
 平均寿命の延長…… 173
 出生率の低下…… 173
 老年人口の増加…… 174
 高齢社会の進展…… 175
2.高齢者の栄養問題を探る…… 175
 老化に伴う生理学的変化…… 175
 高齢者の食欲不振…… 176
 高齢者の栄養不良と疾患…… 177
 高齢者の精神的特性と栄養問題…… 177
 高齢者の栄養摂取状況…… 177
3.高齢者の栄養状態を評価する…… 180
 血液検査による評価…… 180
 体格による評価…… 180
4.高齢者のための食生活…… 181
 栄養素摂取量…… 181
  エネルギー……181 脂質……181 たんぱく質……181 ビタミン・ミネラル……181 炭水化物と食物繊維……182
 日常生活と食習慣…… 183
 高齢者のための食生活指針…… 183
 長寿者の食生活…… 184

Chapter 9 公衆栄養活動の実際―いま,実際に行われている公衆栄養活動に目を向けよう 185
1.行政における取り組み―行政は公衆栄養活動をどう具体化しているか…… 185
 都道府県の公衆栄養活動…… 185
  新潟県における“健康にいがた新クローバー運動”……185 大阪府における外食栄養管理推進事業……187
 保健所の公衆栄養活動―広島県における健康セミナー開催事業…… 188
  事業の目的……190 実施内容……191 事業の評価……192
 市町村の公衆栄養活動…… 192
  広島県御調町における医療・福祉との連携活動……192 宮城県大衡村におけるライフステージ別栄養指導……194
2.地域住民による取り組み―食生活改善推進員による地区組織活動…… 197
 食生活改善推進員の役割…… 197
 食生活改善推進員の活動内容…… 198
  食生活改善のための活動……198 運動普及のための活動……198 市町村事業への協力活動……198 社会福祉のための活動……198 生活環境改善のための活動……198
 地区活動の進め方…… 199
 具体的活動事例…… 199
  “牛乳飲んだカナ?点検表”による牛乳の摂取普及事業(広島県食生活改善推進員団体連絡協議会)……199 朝食サービス事業(広島県豊栄町食生活改善グループ)……200 健康カルタで楽しい健康づくり(広島県豊平町食生活改善推進協議会)……201
3.関係団体による取り組み―(社)広島県栄養士会によるエコ&ヘルシークッキング事業…… 202
 事業の目的…… 203
  事業内容……204 ワーキンググループの編成……205
 事業の実施…… 205
 事業の評価…… 205

Chapter 10 公衆栄養の課題―これからの栄養士への期待をこめて 207
1.食生活と環境との関係―公衆栄養の視点から…… 207
2.環境問題への対応…… 209
3.新たな食文化の創造―公衆栄養の文化としての定着化…… 209

参考・引用文献…… 211
付表・資料一覧…… 215
付表:第六次改定日本人の栄養所要量(厚生省1999)…… 216
資料:1-関係法規…… 218
   1.栄養士法…… 218
   2.栄養士法施行令…… 219
   3.栄養改善法…… 220
   4.調理師法…… 222
   5.母子保健法…… 224
   6.地域保健法…… 225
   7.老人保健法…… 226
 2-公衆栄養学の歴史…… 229
 3-国民栄養調査の食生活状況調査対象と項目(1975〜1998)…… 233