まえがき
『Evidence & Technique NiTiロータリーファイルを効果的に使う 実践歯内療法』が発刊されてから,早いもので12年が経過しました.その間,歯内療法を取り巻く環境はCBCTの汎用化を筆頭に大きく進化しました.NiTiロータリーファイルについても,当時はまだオーステナイト相NiTiが主体であり,ファイル破折の問題が大きく取り上げられていましたが,その後は破折抵抗値を向上させたR相NiTiが現れ,現在ではさらに高い破折抵抗値と柔軟性を併せもつマルテンサイト相NiTiへと,その開発の潮流は確実に進化しています.そのようななか,2022年4月にいよいよNiTiロータリーファイルを使用した根管形成が保険適用となり,今後本邦においてその応用が本格的に拡がることが予想されています.こうした変化は,私たち歯科医師に質の高い歯科医療を提供することを可能とするのみならず,ひいてはそれを享受する患者側にとって大変有益なものであることを確信しています.
またこの12年間において,世界中で多数の研究が行われ,根管治療の核である根管形成や根管洗浄,そして根管充填等についても数々の新しい報告と,それに基づいた新しい器具や材料の開発が行われてきました.そのなかにはこれまでの治療概念を根底から変化させるような,すなわちパラダイムシフトを引き起こすような影響力をもつ研究もあり,歯内療法は常に変わり続けています.しかし,12年前にこの「まえがき」に記した,「最新のEvidenceや新しい器具・薬剤を使用するだけで,歯内療法を成功に導くことができるのでしょうか.そうした新しい常用や材料を本当に臨床に生かせているのでしょうか」という問題提起は,現在においても全く変わりなく,それを扱う私たち歯科医師側の問題として常に存在し続けています.本書の命題である「日々行っている手技で,根管形成や根管清掃という基本操作が本当にできているのか?」という核心的な部分についての議論は,今後も変わらず続けていかなければならないと感じています.
本書はあくまでも一般開業医(General Practitioner:GP)として,その日々の歯内療法の質を少しでも高めるために,もう一手としてどのような工夫ができるのかについて,実際の歯内療法臨床のステップごとに具体的に解説させていただきました.
初刊で多くの治りにくい症例を提示させていただきましたが,そうした症例の経過を,結果の善し悪しにかかわらず包み隠さず掲載しました.ここに示した治療方法の実践が10年以上の後にどのような結果をもたらしているのかをご覧いただき,読者の先生方の歯内療法臨床を考えるきっかけとなるならば,それにまさる喜びはありません.
2024年 阿部 修
『Evidence & Technique NiTiロータリーファイルを効果的に使う 実践歯内療法』が発刊されてから,早いもので12年が経過しました.その間,歯内療法を取り巻く環境はCBCTの汎用化を筆頭に大きく進化しました.NiTiロータリーファイルについても,当時はまだオーステナイト相NiTiが主体であり,ファイル破折の問題が大きく取り上げられていましたが,その後は破折抵抗値を向上させたR相NiTiが現れ,現在ではさらに高い破折抵抗値と柔軟性を併せもつマルテンサイト相NiTiへと,その開発の潮流は確実に進化しています.そのようななか,2022年4月にいよいよNiTiロータリーファイルを使用した根管形成が保険適用となり,今後本邦においてその応用が本格的に拡がることが予想されています.こうした変化は,私たち歯科医師に質の高い歯科医療を提供することを可能とするのみならず,ひいてはそれを享受する患者側にとって大変有益なものであることを確信しています.
またこの12年間において,世界中で多数の研究が行われ,根管治療の核である根管形成や根管洗浄,そして根管充填等についても数々の新しい報告と,それに基づいた新しい器具や材料の開発が行われてきました.そのなかにはこれまでの治療概念を根底から変化させるような,すなわちパラダイムシフトを引き起こすような影響力をもつ研究もあり,歯内療法は常に変わり続けています.しかし,12年前にこの「まえがき」に記した,「最新のEvidenceや新しい器具・薬剤を使用するだけで,歯内療法を成功に導くことができるのでしょうか.そうした新しい常用や材料を本当に臨床に生かせているのでしょうか」という問題提起は,現在においても全く変わりなく,それを扱う私たち歯科医師側の問題として常に存在し続けています.本書の命題である「日々行っている手技で,根管形成や根管清掃という基本操作が本当にできているのか?」という核心的な部分についての議論は,今後も変わらず続けていかなければならないと感じています.
本書はあくまでも一般開業医(General Practitioner:GP)として,その日々の歯内療法の質を少しでも高めるために,もう一手としてどのような工夫ができるのかについて,実際の歯内療法臨床のステップごとに具体的に解説させていただきました.
初刊で多くの治りにくい症例を提示させていただきましたが,そうした症例の経過を,結果の善し悪しにかかわらず包み隠さず掲載しました.ここに示した治療方法の実践が10年以上の後にどのような結果をもたらしているのかをご覧いただき,読者の先生方の歯内療法臨床を考えるきっかけとなるならば,それにまさる喜びはありません.
2024年 阿部 修
Prologue
第1編 根管治療を考える―Evidenceに基づいた治療とは―
第1章 治らないエンドの原因を考える
1 歯内療法の成功条件とは?
2 難しい歯内療法:なぜ治らないのか?
3 Evidenceは溢れているのに
第2章 Evidenceに基づいたGPの歯内療法とは?
1 Evidenceが臨床に生かされているのか?
2 EBMのその前に
3 細菌(感染源)との戦い
4 治療によって感染させていないか?
5 歯内療法の現実
6 歯科におけるEvidenceと歯内療法
第2編 実践・根管治療―NiTiロータリーファイルの活用―
第3章 根管清掃は本当にできているのか?
1 根管清掃のスタンダードとは?
2 機械的根管清掃と化学的根管清掃
3 機械的根管清掃は本当にできているのか?
4 機械的根管清掃の質を上げるために
5 化学的根管清掃(根管洗浄):主に何を用いるか?
6 スメア層への対応
7 化学的根管清掃(根管洗浄)は本当にできているのか?
8 化学的根管清掃の質を上げるために
9 化学的根管清掃において,決して無視できない根管洗浄薬液の危険性
10 根管清掃の質を上げるために必要なプロトコルとは?
11 それでも根管の無菌化は不可能,しかしなぜ治るのか?
12 実験をすることで基本手技の大切さを知る
第4章 根管形成のコンセプト
1 どこまで形成するべきか?
2 何号まで根管形成するべきか?
3 抜髄根管における形成
4 感染根管における形成
5 穿通できない場合,どうしたらよいか?
第5章 NiTiロータリーファイルの活用
1 NiTiロータリーファイルの開発の変遷と今後の展望
2 NiTiロータリーファイルは世界でどの程度使用されているのか?
3 NiTiロータリーファイルのメリット
4 NiTiロータリーファイルのデメリット
5 積極的に,かつ安全第一に
第6章 NiTiロータリーファイルの破折を予防する
1 NiTiロータリーファイルの使用は危険か?
2 ファイルの破折を予防するための知識
3 ファイルの破折を予防するための臨床手技
4 練習は破折リスクを減少させるか?
5 NiTiロータリーファイルを使用するうえで大切なこと
第7章 NiTiロータリーファイルによる臨床の実際
1 ハンドファイルとの併用
2 クラウンダウンテクニック
3 WaveOne Gold + ProTaper Nextー根管内汚染度に応じたファイル選択
4 NiTiロータリーファイルの交換時期
5 ファイル洗浄の問題
6 次亜塩素酸ナトリウムはNiTiロータリーファイルを劣化させるか?
第8章 根管貼薬のスタンダード「水酸化カルシウム」
1 根管貼薬には何が使用されてきたのか?
2 根管貼薬は必要か?
3 水酸化カルシウムですべて解決するのか?
4 根管貼薬効果を確実に上げるために
5 水酸化カルシウムの貼薬と除去
6 仮封は本当にできているのか?
第9章 根管充填から支台築造,そして歯冠補綴:GPはすべてを行う
1 歯内療法の成功は歯冠補綴の質にも左右される
2 よりよい根管充填を求めて
3 自分の歯内療法の質を常に検証する
4 根管充填の危険性
5 根管充填,どこを目指すのか?
6 理想的な支台築造とは?
7 完璧な歯内療法は不可能:常に将来への備えを!
第3編 歯内療法の成功のために―難症例への対応―
第10章 歯内療法の成功基準・臨床成績とは?
1 システマティックレビューを利用する
2 歯内療法の成功率はどの程度なのか?
3 成功率の低い歯内療法? 成功率の高いインプラント治療?
4 まずは歯内療法の質を上げる努力を!
第11章 患者さんに知っておいてもらうべきこと
1 治っていない歯科治療
2 難しい歯内療法を成功に導くために必要なこと
第12章 治りにくい症例への対応
1 難症例とは何か?
2 GPがどこまで対応すべきなのか?
3 治りにくい11症例への対応
4 なぜ治りにくい症例となってしまうのか?
5 基本手技の質を確実に高めることが解決につながる
Epilogue
付 使用器材・薬剤
索引
第1編 根管治療を考える―Evidenceに基づいた治療とは―
第1章 治らないエンドの原因を考える
1 歯内療法の成功条件とは?
2 難しい歯内療法:なぜ治らないのか?
3 Evidenceは溢れているのに
第2章 Evidenceに基づいたGPの歯内療法とは?
1 Evidenceが臨床に生かされているのか?
2 EBMのその前に
3 細菌(感染源)との戦い
4 治療によって感染させていないか?
5 歯内療法の現実
6 歯科におけるEvidenceと歯内療法
第2編 実践・根管治療―NiTiロータリーファイルの活用―
第3章 根管清掃は本当にできているのか?
1 根管清掃のスタンダードとは?
2 機械的根管清掃と化学的根管清掃
3 機械的根管清掃は本当にできているのか?
4 機械的根管清掃の質を上げるために
5 化学的根管清掃(根管洗浄):主に何を用いるか?
6 スメア層への対応
7 化学的根管清掃(根管洗浄)は本当にできているのか?
8 化学的根管清掃の質を上げるために
9 化学的根管清掃において,決して無視できない根管洗浄薬液の危険性
10 根管清掃の質を上げるために必要なプロトコルとは?
11 それでも根管の無菌化は不可能,しかしなぜ治るのか?
12 実験をすることで基本手技の大切さを知る
第4章 根管形成のコンセプト
1 どこまで形成するべきか?
2 何号まで根管形成するべきか?
3 抜髄根管における形成
4 感染根管における形成
5 穿通できない場合,どうしたらよいか?
第5章 NiTiロータリーファイルの活用
1 NiTiロータリーファイルの開発の変遷と今後の展望
2 NiTiロータリーファイルは世界でどの程度使用されているのか?
3 NiTiロータリーファイルのメリット
4 NiTiロータリーファイルのデメリット
5 積極的に,かつ安全第一に
第6章 NiTiロータリーファイルの破折を予防する
1 NiTiロータリーファイルの使用は危険か?
2 ファイルの破折を予防するための知識
3 ファイルの破折を予防するための臨床手技
4 練習は破折リスクを減少させるか?
5 NiTiロータリーファイルを使用するうえで大切なこと
第7章 NiTiロータリーファイルによる臨床の実際
1 ハンドファイルとの併用
2 クラウンダウンテクニック
3 WaveOne Gold + ProTaper Nextー根管内汚染度に応じたファイル選択
4 NiTiロータリーファイルの交換時期
5 ファイル洗浄の問題
6 次亜塩素酸ナトリウムはNiTiロータリーファイルを劣化させるか?
第8章 根管貼薬のスタンダード「水酸化カルシウム」
1 根管貼薬には何が使用されてきたのか?
2 根管貼薬は必要か?
3 水酸化カルシウムですべて解決するのか?
4 根管貼薬効果を確実に上げるために
5 水酸化カルシウムの貼薬と除去
6 仮封は本当にできているのか?
第9章 根管充填から支台築造,そして歯冠補綴:GPはすべてを行う
1 歯内療法の成功は歯冠補綴の質にも左右される
2 よりよい根管充填を求めて
3 自分の歯内療法の質を常に検証する
4 根管充填の危険性
5 根管充填,どこを目指すのか?
6 理想的な支台築造とは?
7 完璧な歯内療法は不可能:常に将来への備えを!
第3編 歯内療法の成功のために―難症例への対応―
第10章 歯内療法の成功基準・臨床成績とは?
1 システマティックレビューを利用する
2 歯内療法の成功率はどの程度なのか?
3 成功率の低い歯内療法? 成功率の高いインプラント治療?
4 まずは歯内療法の質を上げる努力を!
第11章 患者さんに知っておいてもらうべきこと
1 治っていない歯科治療
2 難しい歯内療法を成功に導くために必要なこと
第12章 治りにくい症例への対応
1 難症例とは何か?
2 GPがどこまで対応すべきなのか?
3 治りにくい11症例への対応
4 なぜ治りにくい症例となってしまうのか?
5 基本手技の質を確実に高めることが解決につながる
Epilogue
付 使用器材・薬剤
索引














