やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私が顎関節症という疾患に関わりをもつことになったのは,恩師故高橋庄二郎教授の講座の大学院生になったときに研究テーマとして下命されて以来です.そのときから,この疾患についてさまざまな方面から取り組んできました.
 前著「入門顎関節症の臨床」を上梓したのは1992年3月なので,約27年以前のこととなります.当時は関節円板の転位という現象が発見されて,それまでよくわからなかった顎関節症の症状発現理由の一部が理解され始めたので,この現象を中心に紹介しました.ところがその後,これは顎関節症という疾患のごく一部を説明しているのにすぎないということがわかってきました.神経科学,精神医学,脳科学,患者の行動科学,心理学など新たに付け加えなければならない要素がたくさんあることがわかり,ますます面白くなってきたのです.さらにこれらの勉強をしながら非常に多くの顎関節症患者さんたちとも接していくうちに,何か見えてきたものがあります.
 ご承知の通り,「顎関節症」はいろいろな要素を含んだ総合的疾患名です.一人の患者でもいろいろな疾患が絡み合って症状をつくるので,ある面を改善してもまた別の病状が発現するなど,単純に考えると重要な要素を見落としてしまう可能性があります.
 本書は私が現段階の知恵と知識で「顎関節症」という疾患をどう捉え,どう診断し,診断に従って治療を重ねるうちに不足する知識に気づき,新たな知識の収集を始め,その新しい知識をもとに新たな処置方法を築きあげてきた,その過程などをなるべくわかりやすくまとめたつもりです.そして,その見えてきたものが読者にうまく伝わることを切に願うものであります.
 2019年7月吉日
 中沢勝宏
基礎編
第1章 顎関節症の概念
第2章 顎関節部の解剖学と機能解剖学
第3章 顎機能について知っておくべきこと
第4章 病的咬合とは何か
第5章 顎関節症の精神的問題点
第6章 変形性顎関節症
第7章 顎関節症の痛み
第8章 顎関節症の鑑別診断
第9章 咬合関連不快感
臨床編
第10章 医療面接
第11章 視診
第12章 触診
第13章 画像診断
第14章 咬合診断
第15章 初診時の診断と治療方針・計画
第16章 歯科的治療法
第17章 運動療法と理学療法
第18章 薬物療法と食事療法
第19章 経過観察

 索引