やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 歯科診療で修復処置を行うにあたって行うべきいくつかのステップがあり,それらは前準備諸法と称されている.ラバーダム法は前準備諸法の一つであり,歯学教育においてもその重要性は高く,歯学部学生が診療参加型臨床実習を行うにあたり実施されるOSCEの課題としても採用されている.このような観点からも,ラバーダム法は歯科臨床における基本的診療行為の一つと言える.
 ラバーダム法の起源は1864年にまで遡り,歯科治療の基本として行われてきた.一方,歯科治療の手技に関しては,いかにしてこれを簡略化するかに努力が傾注され,これによってチェアタイムの短縮が図られてきた.すなわち,不要なものは行わない,あるいは簡略化することで,診療時間短縮という要求に対応してきたのが歯科臨床の歴史といえよう.しかし,ここで今一度考えたいことは,歯科診療の確実性を高めるためには前準備諸法が望まれるシチュエーションも多く存在するということである.臨床におけるステップ数は確実に増えるとはいえ,処置の正確性あるいは適正化を図り,これによって良好な予後が得られることは,患者にとっては大きな恩恵となるはずである.本書にも記されているように,ラバーダム法に対する患者の印象として「安心感」をあげるものが相当数あることからも,この臨床手技は患者からも受け入れられているものといえよう.安心で安全な歯科診療を行うとともに,予知性の高い予後を得るためにも欠かせない診療行為が前準備諸法であり,その一つにラバーダム法があげられるのである.
 このように,きわめて基本的な手技であるラバーダム法について,本書では歯科診療における必要性とともに,その臨床技法の実際について解説するものである.一見すると,診療効率の向上と反する感もある臨床手技ではあるが,その効果について改めて実感することができる内容であると執筆者を代表して強調したいと思う.ぜひとも本書を手元に置き,必要に応じて活用いただければ幸甚である.
 2017年3月 サンフランシスコ国際空港にて
 日本大学歯学部保存学教室修復学講座
 宮崎真至
ラバーダム法を導入しない5つの疑問に答える
 Q1 日常臨床で行うのは面倒では?(宮崎真至)
 Q2 患者さんが嫌がりませんか?(阿部 修)
 Q3 装着には時間がかかるのでは?(宮崎真至)
 Q4 ラバーダム法を行わなくても歯内療法の成功率は変わらないのでは?(阿部 修)
 Q5 修復処置においてラバーダム法は必要ないのでは?(宮崎真至)
  COLUMN ラバーダム法とそのコスト(宮崎真至)
CHAPTER 1 ラバーダム法に必要な器材を揃える
 (宮崎真至)
CHAPTER 2 ラバーダム法の基本手技
 (宮崎真至,高見澤俊樹,黒川弘康)
CHAPTER 3 歯内療法に必須の感染対策〜その根拠と実際,そして問題点とは
 (阿部 修)
CHAPTER 4 支台築造の成功率を上げる
 (天川由美子)
CHAPTER 5 保存修復での診療効率UP
 (宮崎真至)

 索引