やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書は2014年7月から2015年12月の1年6カ月間にわたり歯界展望に連載されたものに一部修正,追加し,書籍化したものです.主に開業医の先生を対象に,口腔粘膜疾患の病態写真をできるだけ多く示しながら解説を加えることがこの連載の目的でした.当初は10回程度の連載の予定でしたが,連載を開始してしばらくして編集部から大変好評であるとの連絡をいただき,最終的に18回の連載となりました.はじめは私と神奈川歯科大学の槻木恵一教授と2人で企画したものですが,途中から自治医科大学附属さいたま医療センターの出光俊郎教授にも加わっていただき,より広い視野に立脚した連載を進めることができました.
 さて,口腔粘膜には口腔に限局した病変から全身疾患の部分症,あるいは初発症状など,さまざまな病変が生じます.なかには早期に対応しなければならない病変も含まれています.たとえば,上皮の異型を伴う病変は口腔癌の初期病変としてきわめて重要であり,血液疾患に関連したものなどでは対応が遅れると生命にかかわる場合があります.
 このような口腔粘膜疾患を主訴とした患者さんは,歯科(歯科口腔外科)のほかに,皮膚科,耳鼻咽喉科,内科,子どもの場合は小児科など,さまざまな診療科を受診することもありますが,口腔の専門家である歯科医師は,口腔粘膜疾患を的確に診断し,また助言しなければなりません.
 本書では,口腔粘膜疾患の基本的事項について解説を加えた後に,口腔を5部位に分けて,それぞれの部位に高頻度にみられる疾患名,すなわち日々の臨床で遭遇する機会の多い口腔粘膜疾患(悪性腫瘍,良性腫瘍,嚢胞を含む)について,実際の症例を供覧しました.そして,専門の医療機関での検査が必要な疾患か否かについても解説を加えました.さらに後半では全身疾患と関連した口腔粘膜疾患について総説的に解説しました.
 口腔粘膜疾患の診断には“見た目の図柄”がきわめて重要であり,診断に際してはまず似たような所見を示す疾患を探すことが大切です.そのためできるだけ多くの写真を掲載しました.そして最後に口腔粘膜疾患を有する患者さんに対する口腔ケアの実際について追加しました.
 本書をより多くの先生方の日ごろの臨床に役立てていただければ幸いです.
 自治医科大学 歯科口腔外科学講座
 神部芳則
第I章 口腔粘膜疾患を理解するための基本事項
 Check Point 1 口腔粘膜疾患の臨床(神部芳則)
 Check Point 2 口腔粘膜疾患の病理(窪田展久)
第II章 口腔の部位別にみた粘膜疾患
 Check Point 3 舌(1)(川嶋理恵)
 Check Point 4 舌(2)(川嶋理恵)
 Check Point 5 頬粘膜(1)(大田原宏美)
 Check Point 6 頬粘膜(2)(大田原宏美)
 Check Point 7 歯肉(1)(山下雅子)
 Check Point 8 歯肉(2)(山下雅子)
 Check Point 9 口蓋粘膜(佐瀬美和子)
 Check Point 10 口唇(小澤通子)
 Check Point 11 小児(土肥昭博)
第III章 全身疾患に関連した口腔粘膜疾患
 Check Point 12 がんおよびがん治療(山本亜紀)
 Check Point 13 血液疾患(出光俊郎)
 Check Point 14 消化器,呼吸器,内分泌代謝疾患(仙名あかね)
 Check Point 15 皮膚疾患,膠原病,全身性感染症(出光俊郎)
 Check Point 16 アレルギー(梅本尚可)
 Check Point 17 薬物(相澤恵美)
第IV章 口腔粘膜疾患の患者に対する口腔ケア
 Check Point 18 口腔粘膜疾患に対する口腔ケア(村野 好)
第V章 まとめ
 口腔粘膜疾患に対する基本的治療の再確認(神部芳則)
 皮膚科から歯科への要望とアドバイス(出光俊郎)
 口腔粘膜に生じる病変を理解するには(槻木恵一)

 索引