やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 フッ化物応用によるう蝕予防効果は,長期にわたる疫学的な研究と実績により,安全性や医療経済の観点からも疑いのないことです.実際,歯科口腔保健法に基づく「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」や,地方自治体による「歯科口腔保健推進条例」,さらには「健康日本21(第2 次)」などによって,フッ化物の積極的な応用が歯の健康を守る手段として明確に位置付けられています.
 しかしながら,一部のメディアや機関・団体からは現在でも,想像に端を発するといいたくなるような誤解を耳にすることも事実です.それらの批判は,過剰な量や濃度のフッ化物を摂取させた動物実験による結果の一部を取り上げたものや,培養細胞を用いた実験から推測したものであり,あたかも同じ結果がヒトで実際に起こってしまうというような言説は,生体反応のDose Response Relationshipの考え方からして科学的とはいえません.
 とはいえ,一般の生活者の多くは歯科の専門知識をもっていないので,フッ化物応用の安全性や毒性など,環境問題も含めてネガティブな意見を耳にすれば心配になるのは当然です.本書では,歯科保健医療の分野でフッ化物応用の教育・研究に長年携わってきた先生方に,一般市民のフッ化物応用に関する心配や疑問に対して答えるため,これまで問題にされた具体的な質問を提示し,わかりやすい用語を用い,科学的な根拠となる文献をあげて,やさしく解説していただきました.
 本書が日常臨床のみならず,行政や学校・施設などコミュニティの現場で活用され,フッ化物応用の健全な普及につながれば幸いです.
 眞木吉信
序論 繰り返される不毛なフッ素論争
 ─日本弁護士連合会の「集団フッ素洗口・塗布の中止を求める意見書」への対応─
Chapter 1 公衆衛生政策における基本的人権の尊重の意味
Chapter 2 集団フッ化物応用の使用薬剤と安全管理
Chapter 3 むし歯予防のための集団フッ化物応用の必要性
Chapter 4 フッ化物応用の有効性
Chapter 5 フッ化物応用における環境汚染の危険性
Chapter 6 フッ化物応用と人権問題,自己決定権,インフォームド・コンセント,プライバシー
Chapter 7 フッ化物利用の安全性 (1)急性毒性
Chapter 8 フッ化物利用の安全性 (2)慢性毒性
Chapter 9 歯や口腔以外の全身への影響
Chapter 10 健康格差の解消に向けて
Chapter 11 歯科保健推進条例とフッ化物
Chapter 12 「栄養」としてのフッ化物応用の健全な考え方
 ─フッ化物摂取基準の策定と『日本人の食事摂取基準』─

 索引