やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂第3版の刊行に寄せて
 日本歯周病学会は,糖尿病患者に対する歯周治療を明確に示すためのガイドラインを提供するために,2009年に「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」の初版を発刊しました.6年後の2015年には改訂第2版を発刊し,基本的に初版を踏襲した内容ですが,5年間の新たな研究成果を加えるとともに,クエスチョン(Q)とクリニカルクエスチョン(CQ)を見直し,モチベーション維持のための患者説明を念頭に置いてQの数が増やされました.
 改訂第2版の刊行から8年が経過し,最新のエビデンスに基づいた研究成果を盛り込み,改訂第3版がこの度刊行されることになりました.
 改訂第3版は,7つのQと8つのCQで構成され,現在の高齢社会に向けて,高齢の糖尿病患者に関する2つのQが追加されています.
 改訂第2版では,糖尿病患者は1型か2型に関わらず,非糖尿病者に比較して有意に歯周病の発症率が高く,また糖尿病は歯周病を増悪させると判定されました.改訂第3版では,これらのエビデンスレベルの再検討に加え,妊娠糖尿病と歯周病の関連も検討されています.また,改訂第2版の序文に“糖尿病患者に対する歯周治療における抗菌療法の併用効果については,明確なコンセンサスを導き出すことが困難であり,学会として取り組むべき重要課題の一つとすべきであるとの結論を得た”と記載されており,改訂第3版のCQ2「糖尿病患者に対する歯周治療で抗菌療法の併用は有効か?」では,新たなエビデンスの収集と,これまで蓄積されているRCT試験に対するメタ解析が行われ,統計学的な再評価が行われました.
 本ガイドラインを基盤として,糖尿病患者に対する歯周治療の正しい理解と,高齢者を含む糖尿病患者に対する適切な歯周治療が行われることで,国民の口腔保健の向上のみならず,全身の健康維持,増進に寄与することを期待しています.
 最後に,本ガイドラインの編纂に尽力頂いた,日本歯周病学会ペリオドンタルメディシン委員会の西村英紀委員長,作成ワーキンググループの先生方,ならびに医歯薬出版の編集部の皆様に深く感謝いたします.
 2023年3月
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
 理事長 小方ョ昌


改訂第3版 序文
 このたび改訂第2版(2015年3月20日発行)から6年を経た,2021年4月からほぼ2年間をかけて改訂第3版の改訂作業を進めてきた.作業は主として日本歯周病学会ペリオドンタルメディシン委員会のメンバーが担当した.
 今回の改訂では,Mindsの診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0に準じて,最終的にGRADEシステムに則りパネル会議において推奨の強さを決定した.また,内科医向けの日本糖尿病学会による『糖尿病診療ガイドライン2019』の「糖尿病と歯周病」のコンテンツとの整合性も考慮した.また,改訂第2版ではワーファリンについてのみの言及であった休薬に関して,改訂第3版では直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)等の他の薬剤についても言及した.さらに,本課題を含むCQ7「糖尿病患者の歯周基本治療で抗血栓薬は中止すべきか?」においては,日本循環器学会に専門家としての意見を依頼した.快くレビューをいただいた関係諸先生方に厚く御礼申し上げたい.
 なお,このたびの改訂で採用に至らなかったCQとして,「咀嚼機能の向上による血糖コントロールの改善効果」があげられる.これは主として,(1)いまだにエビデンスが不足していること,(2)咀嚼機能の低下が歯周病のみによってもたらされるものではないことから,歯周病とそれ以外の要因を明確に分けることが困難であったことによるものである.しかしながら,高齢化が進む日本において,早期のインスリン分泌(いわゆるcephalic phase insulin release)は低栄養回避の観点から非常に重要であり,今後はよりいっそう基礎・臨床研究を推進し,検討を重ねる必要があろう.糖尿病領域においても高齢者の糖尿病が増加していること,一般に高齢者の糖尿病では過栄養に加え低栄養も問題になること,また高齢者の歯周病として一括りにまとめることが困難であるほど多様性に富むと考えられることから,糖尿病患者に対する歯周治療も新たな段階に入るものと予想される.さらなるエビデンスの集積に努めたい.
 日本歯周病学会ペリオドンタルメディシン委員会
 委員長 西村英紀
 改訂第3版の刊行に寄せて
 改訂第3版 序文
 執筆者一覧
 利益相反に関して
 序章 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドラインについて
Q
Q1 糖尿病患者では歯周病の発症頻度が増加するか?
Q2 糖尿病患者では歯周病の増悪がみられるか?
Q3 糖尿病患者への歯周基本治療の効果は劣るか?
Q4 歯周治療は糖尿病の合併症に好影響を及ぼすか?
Q5 糖尿病に関連した透析患者は歯周病になりやすいか?
Q6 高齢の糖尿病患者では歯周病が増悪しやすいか?
Q7 高齢の糖尿病患者に対して歯周治療は奏効するか?
CQ
CQ1 糖尿病を有する歯周病患者に対して歯周基本治療はHbA1cの改善に有効か?
CQ2 糖尿病患者に対する歯周治療で抗菌療法の併用は有効か?
CQ3 糖尿病患者に対して歯周外科治療は適用可能か?
CQ4 糖尿病患者に対して歯周組織再生療法を行うことは可能か?
CQ5 糖尿病患者に対してインプラント治療は避けたほうがよいか?
CQ6 糖尿病患者に外科処置を行う際,徹底した抗菌薬投与を行うべきか?
CQ7 糖尿病患者の歯周基本治療で抗血栓薬は中止すべきか?
CQ8 糖尿病患者にSPTを行う際,慢性歯周炎の再発・進行を防ぐために治療間隔は短くするべきか?