第5版 序文
新しい口腔生化学がめざすもの
本書は口腔における生命現象(口腔生物学 oral biology)を生化学の面から明らかにすることを目的として,原著者の早川太郎(当時愛知学院大学歯学部),須田立雄(当時昭和大学歯学部)両教授により『口腔生化学 oral biochemistry』として1987年に上梓された.初版ではすでに習った一般生化学との関係を理解することを前提に次のようなねらいで執筆された.
●口腔生化学は生化学的研究方法によって歯科臨床における諸課題と直結するテーマを扱う学問である.学問的に解明されてきたこと,研究途上のことなど,現況を把握する.
●口腔組織は小さいにもかかわらず,よく分化した組織であるので,口腔生化学を学ぶに際して,常に口腔組織学と関連づけるように心がけることが大切である.
●さらに,口腔生化学は他の歯科基礎医学との間にも相互に関連がある.特に,生理学,細菌学,病理学などと密接に関連していることを理解し,種々の学問の複合的な努力により臨床上の課題に光が当てられていることを知っておく.
本書が24年を経て第5版を迎えたことは両教授の慧眼を示すとともに,第3版,4版に編著者として加わった木崎治俊(当時東京歯科大学)教授の口腔生化学の新しい進歩を若い人々,他の基礎分野および臨床に携わる人々に伝えたいという,強い意欲と努力によるものである.この24年間に生命科学ではヒトゲノムプロジェクトによるヒト染色体のDNA配列の解読,およびその後のポストゲノムプロジェクトの進行,細胞内のシグナル伝達機構の解明,細胞間の情報伝達機構の解明など多くの進歩がなされ,本書もこれらの進歩を取り入れてきた.
第4版では,畑 隆一郎(神奈川歯科大学),橋信博(東北大学大学院歯学研究科),宇田川信之(松本歯科大学)が執筆に加わり,分子生物学,細胞生物学の進歩を取り入れ,ヒトの疾患との関連について特に留意が払われた.
第5版では,さらに新しい著者として東 俊文(東京歯科大学),上條竜太郎(昭和大学歯学部),石崎 明(岩手医科大学),加藤靖正(奥羽大学歯学部)の4名が加わった.第5版においても「現在の最新の知識をわかりやすく伝える」という本書の精神に基づいて,全体にわたって章の組み替え,大幅な書き直しを行った.特に最近の分子生物学,遺伝子工学の進歩を取り入れた事実をわかりやすく伝えるために,新しい分子の定義と機能の解説を含めて新たに序章を設けた.また,臨床との関係を一層深くするために,全章にわたって分子,遺伝子の異常と疾患との関係の記述を重視した.さらに,近年,歯科臨床で注目されている歯周組織の再生については第11章に詳述した.一方,教科書として使用しやすいように,あまりに大部になるのを避けるために歴史的記述は事実の理解を助けるために必要な事項にとどめ,ページ数の増加を抑えた.
第5版では分担項目を明確にするために監修者,編著者の体制をとったが,本書が全員の総意の産物であることには変わりがない.
本書の編集の最終段階で2011年3月11日に東日本大震災が発生した.本書の編著者も被災したが,メールなどを通じて緊密な連絡を取り最終校正を行うことができた.
口腔科学の次の世代を担う若い学生たち,基礎の他の分野の人々,および臨床を目指す,あるいは臨床に既に携わっている人々に監修者,編著者全員の熱意が伝わることを願う.
本書の出版にあたり文献や資料の引用をさせていただいた先生方,また,適切な助言をしてくださった医歯薬出版編集部の皆さんに感謝の意を表する.
2011年5月
畑 隆一郎
橋 信博
宇田川信之
東 俊文
上條竜太郎
石崎 明
加藤 靖正
第1版 序文
「歯学生に口腔生化学として何を教えるべきか」という問題は歯学部および歯科大学で口腔生化学を担当する教官の共通した悩みである.ちなみに,全国29の国公私立大学歯学部および歯科大学を対象として,歯科基礎医学会生化学談話会が行った調査結果によって明らかにされているように,回答のあった24校の昭和57年度に行われた口腔生化学の講義時間は,年間わずか4時間という大学から61時間という大学まで実にまちまちである*.このように大学間での講義時間がバラバラになった理由には色々な事情が考えられるが,何といっても口腔生化学という学問がまだ若い学問であり,十分に学問としての体系をなしていないことが最大の原因と考えられる.後述するように昭和42年から「歯学教授要綱」の中に口腔生化学が加えられ,14項目からなる教授項目が設定されたが,それらの項目に対する具体的な内容の裏づけは乏しいものが多く,それらの内容を実際に具体化した適切な参考書がみられないのが現状である.
ここで歯学教育の指針である教授要綱に関して,少々歴史的な経緯をみてみると,昭和22年7月,わが国にはじめて「歯科教授要綱」が制定され,戦後の歯科教育の指針となってきた.その後,歯科大学が全国各地に新設されるに伴い,現状に即応した教授要綱の設定が強く要望され,昭和42年に「歯学教授要綱」として改訂された.本改訂では,口腔解剖学ほか13科目よりなる従来の教授要綱に「口腔生化学**」と「小児歯科学」が新しく加えられた.昭和48年にはさらに補訂が加えられた.近年,歯科医学の進歩・発展に伴い,再度,時代と社会の要請に対応できる歯学教授要綱の改訂の必要性が認識され,歯学教授要綱改訂委員会で審議され,昭和59年に新しい「歯学教授要綱***」が制定された.この新しい教授要綱では,口腔生化学(狭義)の講義の教授項目が従来の14項目から下記の8項目にしぼられた点が大きな特徴である.
1) 結合組織に関する生化学
2) 骨と軟骨に関する生化学
3) 歯に関する生化学
4) 歯周組織に関する生化学
5) 唾液に関する生化学
6) 歯面への堆積物に関する生化学
7) う蝕に関する生化学
8) 歯周疾患に関する生化学
今後は,これら8項目を中心にして口腔生化学の講義が進められることが推奨されている.
一方,口腔生化学の参考書に関してみてみると,わが国では昭和41年に当時日本大学歯学部教授であった押鐘 篤先生が監修された「歯学生化学」が出版された.この本は,監修者自身その「まえがき」の中でその世界最大の規模と最高の権威を自画自賛しておられるが,20年前に出版されたことを考え合わせると自画自賛に十分に値する内容であり,現在でも部分的には依然として歯学生化学書としての価値をもっている.その後改訂が行われなかったのが残念であり,また,当時英語版が出版されていたら大変な反響を呼んだであろうと想像される.
一方,海外では従来口腔生物学oralbiologyという総合的な学問体系が存在し,その一部として生化学的知識が組み込まれてきている.しかし,前述の「歯学生化学」が出版されて10年後にようやくDental Biochemistry(Lazzari,E.P.編,1976),Biochemistry and Oral Biology(Cole,A.S.,Eastoe,J.E.1977),The Physiology and Biochemistry of The Mouth(Jenkins,G.N.1978),Basic and Applied Dental Biochemistry(Williams,R.A.D.,Eliott,J.C.1979)のように口腔(歯科)生化学を意識したような参考書が出版されるようになってきた.しかし,いずれも前述した歯学教授要綱を全体的に満足させるものとはいえない.このような状況下にあるとき,たまたま医歯薬出版から新しい歯学教授要綱に基づいた教科書,口腔生化学の執筆の奨めがあり,ここに浅学菲才を顧みずに本書の執筆を引き受けることになった.
本書の内容として,前述した新教授要綱の8項目に「歯髄とその病態」という項目を加えた.歯髄は象牙質の維持に重要な役割を果たしている特有な結合組織であり,特に,最近,歯髄の保存的療法の重要性が認識されつつあり,歯髄組織の生化学面を理解することは重要であると考えたからである.さらに,「炎症と免疫」および「がんはどうしてできるか」の2項目を加えた.これら2項目の内容はいずれも口腔生化学そのものではないが,齲蝕や歯周疾患をはじめ歯科における諸疾患を理解するうえで不可欠な基礎知識であると考えたので取り上げることにした.
このようなわけで,第1回の編集会議を昭和58年8月に開き,分担を決め,ただちに執筆に取りかかったのであるが,自分たちの専門外の分野や生化学的研究が進んでいない分野の執筆はとどこおりがちで,当初の予定を大幅に上まわり3年以上の年月を要してしまった.事前に予想できたことではあるが,特に,「歯髄」と「歯周組織」に関する生化学的データは,まだ明解かつ論理的な教科書レベルの記述をするには質的にもまた量的にも十分でない.これら不十分なデータの中から「歯髄」や「歯周組織」の機能に直結して重要と思われるものをできるだけ重点的に拾い上げてはみたが,全体的にはまだ系統づけられた内容とはなっていない.この点は今後の研究に期待するとともに,改訂の機会あるごとに書き改めていく必要があると考えている.
とにかく,このような経緯で何とか出来上がったものを通読してみると,歯学部の学生には詳しすぎると考えられるところも見受けられる.それは覚えるための知識ではなく,むしろ理解を助けるためのものだと解釈していただけたらと思う.また,10章の「歯の表面にみられる付着物」,11章の「齲蝕と砂糖」および12章の「免疫と炎症」などは微生物学や病理学のような他の教科と重複する可能性がある.そのような場合には,教えられる立場にある先生方には実際の場に合うように自由に取捨選択していただきたい.また,各章のはじめには,その章の内容を大まかに把握できるように「本章のねらい」を,また,章末には,その章で学んだ知識を整理する目的で「チェックポイント」を設けた.これらが学習上の手助けになれば幸と考えている.
エナメル質を除いた主たる口腔組織である象牙質,セメント質,歯槽骨,歯髄,歯根膜はいずれも結合組織に属する.したがって,個々の口腔組織の生化学に進む前に「結合組織の生化学」について述べることにした.いわばこの3章はすでに学んだ「生化学」とこれから学ぶ「口腔生化学」の間の橋渡し的内容である.なお,欧文専門用語のカタカナ表記は日本生化学会の決定に基づきローマ字読みとした(例:ハイドロキシアパタイト→ヒドロキシアパタイト,リセプター→レセプター,アメロジェニン→アメロゲニン).
最後に,本書のために貴重な資料を心よく御提供いただき,かつ内容に関しても有益な御助言や御批判をいただいた次の諸先生方に心より感謝の意を表する.
池田 正(日本大学松戸歯学部),一條 尚(東京医科歯科大学歯学部),J.E.Eastoe(Newcastle upon Tyne大学歯学部),岡田 宏(大阪大学歯学部),小澤英浩(新潟大学歯学部),久保木芳徳(北海道大学歯学部),黒木登志夫(東京大学医科学研究所教授),後藤仁敏(鶴見大学歯学部),佐々木哲(東京医科歯科大学歯学部),真田一男(日本歯科大学新潟歯学部),清水正春(鶴見大学歯学部),須賀昭一(日本歯科大学),杉中秀壽(広島大学歯学部),高橋和人(神奈川歯科大学),武田泰典(岩手医科大学歯学部),星野 洸(名古屋大学医学部),矢嶋俊彦(東日本学園大学歯学部),山田 正(東北大学歯学部)
(五十音順,敬称略).
また,ともすれば筆がとどこおりがちになる私たちを,終始,叱咤激励し,何とかここまで引っぱってきてくれた医歯薬出版の編集部の皆さんには深い感謝の意を表したい.この他にも参考文献として引用させていただいた多くの著書や総説論文などの編者や著者の先生方には,それらの文献を利用させていただいたことに心より謝意を表したい.それらの優れた文献なしでは本書を書き上げることはとうてい不可能であった.
1987年6月20日
早川 太郎,須田 立雄
* 斉藤 滋,滝口 久:「生化学・口腔生化学および同実習の授業内容」について調査報告.1983.
** 広義の口腔生化学で,生化学および狭義の口腔生化学を含む.
*** 歯科大学学長会議 歯学教授要綱改訂委員会:歯学教授要綱 昭和59年改訂,医歯薬出版,東京,1985.
新しい口腔生化学がめざすもの
本書は口腔における生命現象(口腔生物学 oral biology)を生化学の面から明らかにすることを目的として,原著者の早川太郎(当時愛知学院大学歯学部),須田立雄(当時昭和大学歯学部)両教授により『口腔生化学 oral biochemistry』として1987年に上梓された.初版ではすでに習った一般生化学との関係を理解することを前提に次のようなねらいで執筆された.
●口腔生化学は生化学的研究方法によって歯科臨床における諸課題と直結するテーマを扱う学問である.学問的に解明されてきたこと,研究途上のことなど,現況を把握する.
●口腔組織は小さいにもかかわらず,よく分化した組織であるので,口腔生化学を学ぶに際して,常に口腔組織学と関連づけるように心がけることが大切である.
●さらに,口腔生化学は他の歯科基礎医学との間にも相互に関連がある.特に,生理学,細菌学,病理学などと密接に関連していることを理解し,種々の学問の複合的な努力により臨床上の課題に光が当てられていることを知っておく.
本書が24年を経て第5版を迎えたことは両教授の慧眼を示すとともに,第3版,4版に編著者として加わった木崎治俊(当時東京歯科大学)教授の口腔生化学の新しい進歩を若い人々,他の基礎分野および臨床に携わる人々に伝えたいという,強い意欲と努力によるものである.この24年間に生命科学ではヒトゲノムプロジェクトによるヒト染色体のDNA配列の解読,およびその後のポストゲノムプロジェクトの進行,細胞内のシグナル伝達機構の解明,細胞間の情報伝達機構の解明など多くの進歩がなされ,本書もこれらの進歩を取り入れてきた.
第4版では,畑 隆一郎(神奈川歯科大学),橋信博(東北大学大学院歯学研究科),宇田川信之(松本歯科大学)が執筆に加わり,分子生物学,細胞生物学の進歩を取り入れ,ヒトの疾患との関連について特に留意が払われた.
第5版では,さらに新しい著者として東 俊文(東京歯科大学),上條竜太郎(昭和大学歯学部),石崎 明(岩手医科大学),加藤靖正(奥羽大学歯学部)の4名が加わった.第5版においても「現在の最新の知識をわかりやすく伝える」という本書の精神に基づいて,全体にわたって章の組み替え,大幅な書き直しを行った.特に最近の分子生物学,遺伝子工学の進歩を取り入れた事実をわかりやすく伝えるために,新しい分子の定義と機能の解説を含めて新たに序章を設けた.また,臨床との関係を一層深くするために,全章にわたって分子,遺伝子の異常と疾患との関係の記述を重視した.さらに,近年,歯科臨床で注目されている歯周組織の再生については第11章に詳述した.一方,教科書として使用しやすいように,あまりに大部になるのを避けるために歴史的記述は事実の理解を助けるために必要な事項にとどめ,ページ数の増加を抑えた.
第5版では分担項目を明確にするために監修者,編著者の体制をとったが,本書が全員の総意の産物であることには変わりがない.
本書の編集の最終段階で2011年3月11日に東日本大震災が発生した.本書の編著者も被災したが,メールなどを通じて緊密な連絡を取り最終校正を行うことができた.
口腔科学の次の世代を担う若い学生たち,基礎の他の分野の人々,および臨床を目指す,あるいは臨床に既に携わっている人々に監修者,編著者全員の熱意が伝わることを願う.
本書の出版にあたり文献や資料の引用をさせていただいた先生方,また,適切な助言をしてくださった医歯薬出版編集部の皆さんに感謝の意を表する.
2011年5月
畑 隆一郎
橋 信博
宇田川信之
東 俊文
上條竜太郎
石崎 明
加藤 靖正
第1版 序文
「歯学生に口腔生化学として何を教えるべきか」という問題は歯学部および歯科大学で口腔生化学を担当する教官の共通した悩みである.ちなみに,全国29の国公私立大学歯学部および歯科大学を対象として,歯科基礎医学会生化学談話会が行った調査結果によって明らかにされているように,回答のあった24校の昭和57年度に行われた口腔生化学の講義時間は,年間わずか4時間という大学から61時間という大学まで実にまちまちである*.このように大学間での講義時間がバラバラになった理由には色々な事情が考えられるが,何といっても口腔生化学という学問がまだ若い学問であり,十分に学問としての体系をなしていないことが最大の原因と考えられる.後述するように昭和42年から「歯学教授要綱」の中に口腔生化学が加えられ,14項目からなる教授項目が設定されたが,それらの項目に対する具体的な内容の裏づけは乏しいものが多く,それらの内容を実際に具体化した適切な参考書がみられないのが現状である.
ここで歯学教育の指針である教授要綱に関して,少々歴史的な経緯をみてみると,昭和22年7月,わが国にはじめて「歯科教授要綱」が制定され,戦後の歯科教育の指針となってきた.その後,歯科大学が全国各地に新設されるに伴い,現状に即応した教授要綱の設定が強く要望され,昭和42年に「歯学教授要綱」として改訂された.本改訂では,口腔解剖学ほか13科目よりなる従来の教授要綱に「口腔生化学**」と「小児歯科学」が新しく加えられた.昭和48年にはさらに補訂が加えられた.近年,歯科医学の進歩・発展に伴い,再度,時代と社会の要請に対応できる歯学教授要綱の改訂の必要性が認識され,歯学教授要綱改訂委員会で審議され,昭和59年に新しい「歯学教授要綱***」が制定された.この新しい教授要綱では,口腔生化学(狭義)の講義の教授項目が従来の14項目から下記の8項目にしぼられた点が大きな特徴である.
1) 結合組織に関する生化学
2) 骨と軟骨に関する生化学
3) 歯に関する生化学
4) 歯周組織に関する生化学
5) 唾液に関する生化学
6) 歯面への堆積物に関する生化学
7) う蝕に関する生化学
8) 歯周疾患に関する生化学
今後は,これら8項目を中心にして口腔生化学の講義が進められることが推奨されている.
一方,口腔生化学の参考書に関してみてみると,わが国では昭和41年に当時日本大学歯学部教授であった押鐘 篤先生が監修された「歯学生化学」が出版された.この本は,監修者自身その「まえがき」の中でその世界最大の規模と最高の権威を自画自賛しておられるが,20年前に出版されたことを考え合わせると自画自賛に十分に値する内容であり,現在でも部分的には依然として歯学生化学書としての価値をもっている.その後改訂が行われなかったのが残念であり,また,当時英語版が出版されていたら大変な反響を呼んだであろうと想像される.
一方,海外では従来口腔生物学oralbiologyという総合的な学問体系が存在し,その一部として生化学的知識が組み込まれてきている.しかし,前述の「歯学生化学」が出版されて10年後にようやくDental Biochemistry(Lazzari,E.P.編,1976),Biochemistry and Oral Biology(Cole,A.S.,Eastoe,J.E.1977),The Physiology and Biochemistry of The Mouth(Jenkins,G.N.1978),Basic and Applied Dental Biochemistry(Williams,R.A.D.,Eliott,J.C.1979)のように口腔(歯科)生化学を意識したような参考書が出版されるようになってきた.しかし,いずれも前述した歯学教授要綱を全体的に満足させるものとはいえない.このような状況下にあるとき,たまたま医歯薬出版から新しい歯学教授要綱に基づいた教科書,口腔生化学の執筆の奨めがあり,ここに浅学菲才を顧みずに本書の執筆を引き受けることになった.
本書の内容として,前述した新教授要綱の8項目に「歯髄とその病態」という項目を加えた.歯髄は象牙質の維持に重要な役割を果たしている特有な結合組織であり,特に,最近,歯髄の保存的療法の重要性が認識されつつあり,歯髄組織の生化学面を理解することは重要であると考えたからである.さらに,「炎症と免疫」および「がんはどうしてできるか」の2項目を加えた.これら2項目の内容はいずれも口腔生化学そのものではないが,齲蝕や歯周疾患をはじめ歯科における諸疾患を理解するうえで不可欠な基礎知識であると考えたので取り上げることにした.
このようなわけで,第1回の編集会議を昭和58年8月に開き,分担を決め,ただちに執筆に取りかかったのであるが,自分たちの専門外の分野や生化学的研究が進んでいない分野の執筆はとどこおりがちで,当初の予定を大幅に上まわり3年以上の年月を要してしまった.事前に予想できたことではあるが,特に,「歯髄」と「歯周組織」に関する生化学的データは,まだ明解かつ論理的な教科書レベルの記述をするには質的にもまた量的にも十分でない.これら不十分なデータの中から「歯髄」や「歯周組織」の機能に直結して重要と思われるものをできるだけ重点的に拾い上げてはみたが,全体的にはまだ系統づけられた内容とはなっていない.この点は今後の研究に期待するとともに,改訂の機会あるごとに書き改めていく必要があると考えている.
とにかく,このような経緯で何とか出来上がったものを通読してみると,歯学部の学生には詳しすぎると考えられるところも見受けられる.それは覚えるための知識ではなく,むしろ理解を助けるためのものだと解釈していただけたらと思う.また,10章の「歯の表面にみられる付着物」,11章の「齲蝕と砂糖」および12章の「免疫と炎症」などは微生物学や病理学のような他の教科と重複する可能性がある.そのような場合には,教えられる立場にある先生方には実際の場に合うように自由に取捨選択していただきたい.また,各章のはじめには,その章の内容を大まかに把握できるように「本章のねらい」を,また,章末には,その章で学んだ知識を整理する目的で「チェックポイント」を設けた.これらが学習上の手助けになれば幸と考えている.
エナメル質を除いた主たる口腔組織である象牙質,セメント質,歯槽骨,歯髄,歯根膜はいずれも結合組織に属する.したがって,個々の口腔組織の生化学に進む前に「結合組織の生化学」について述べることにした.いわばこの3章はすでに学んだ「生化学」とこれから学ぶ「口腔生化学」の間の橋渡し的内容である.なお,欧文専門用語のカタカナ表記は日本生化学会の決定に基づきローマ字読みとした(例:ハイドロキシアパタイト→ヒドロキシアパタイト,リセプター→レセプター,アメロジェニン→アメロゲニン).
最後に,本書のために貴重な資料を心よく御提供いただき,かつ内容に関しても有益な御助言や御批判をいただいた次の諸先生方に心より感謝の意を表する.
池田 正(日本大学松戸歯学部),一條 尚(東京医科歯科大学歯学部),J.E.Eastoe(Newcastle upon Tyne大学歯学部),岡田 宏(大阪大学歯学部),小澤英浩(新潟大学歯学部),久保木芳徳(北海道大学歯学部),黒木登志夫(東京大学医科学研究所教授),後藤仁敏(鶴見大学歯学部),佐々木哲(東京医科歯科大学歯学部),真田一男(日本歯科大学新潟歯学部),清水正春(鶴見大学歯学部),須賀昭一(日本歯科大学),杉中秀壽(広島大学歯学部),高橋和人(神奈川歯科大学),武田泰典(岩手医科大学歯学部),星野 洸(名古屋大学医学部),矢嶋俊彦(東日本学園大学歯学部),山田 正(東北大学歯学部)
(五十音順,敬称略).
また,ともすれば筆がとどこおりがちになる私たちを,終始,叱咤激励し,何とかここまで引っぱってきてくれた医歯薬出版の編集部の皆さんには深い感謝の意を表したい.この他にも参考文献として引用させていただいた多くの著書や総説論文などの編者や著者の先生方には,それらの文献を利用させていただいたことに心より謝意を表したい.それらの優れた文献なしでは本書を書き上げることはとうてい不可能であった.
1987年6月20日
早川 太郎,須田 立雄
* 斉藤 滋,滝口 久:「生化学・口腔生化学および同実習の授業内容」について調査報告.1983.
** 広義の口腔生化学で,生化学および狭義の口腔生化学を含む.
*** 歯科大学学長会議 歯学教授要綱改訂委員会:歯学教授要綱 昭和59年改訂,医歯薬出版,東京,1985.
序章 口腔機能の分子・細胞生物学的理解のために石崎 明
I 細胞の機能を制御する細胞内シグナル伝達
II 染色体の構造と遺伝子発現のしくみ
1.染色体の構造
2.遺伝子の構造とその発現のしくみ
III アポトーシス誘導の分子メカニズム
1.アポトーシスとはなにか
2.アポトーシスが起きるしくみ
3.アポトーシスの異常による自己免疫疾患
IV 遺伝子工学の手法
1.PCR法とRT-PCR法
2.遺伝子クローニング
3.DNAマイクロアレイ
4.RNA干渉とそれを利用した遺伝子ノックダウン
5.トランスジェニックマウス
6.遺伝子ノックアウトマウス
第1章 骨と歯の進化と形づくりの分子メカニズム宇田川信之
I 骨の起源
1.骨芽細胞の由来
2.骨芽細胞の分化を決定する Runx2 遺伝子の発見
3.骨の系統発生
II 無脊椎動物から脊椎動物へ
1.硬組織の成分が炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへ変化をもたらした要因
2.脊椎動物の内骨格として発達した骨組織
3.陸に移り棲むようになった動物は骨を「海」として利用している
III 脊椎動物における骨組織の進化−外骨格から内骨格へ
1.現存する最も原始的な脊椎動物である円口類
2.石灰化した軟骨をもつ板鰓類
3.骨組織をもつ硬骨魚類
4.両生類から爬虫類への進化における骨組織の重要性
IV 骨は軟骨から進化したのだろうか
1.最古の脊椎動物である異甲類甲羅におけるアスピディン結節の発見
2.骨は軟骨よりも系統発生的に古い組織である
V 歯と骨はどちらが先に進化したか
1.アスピディン結節の構造は歯の象牙質と同質のものである
2.歯は骨と同時にあるいはむしろ骨よりも先に発生した−捕食器官としての歯から咀嚼器官としての歯への進化
VI 四肢の原基(肢芽)の構造と3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
1.脊椎動物の四肢の形態形成
2.3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
VII 骨(軟骨)の形を決めるホメオボックス遺伝子(Hox遺伝子)
1.四肢のパターン形成に関連するホメオボックス遺伝子の発見
2.体軸形成を決定するホメオボックス遺伝子と位置情報シグナル伝達システム
VIII 歯の形成とホメオボックス遺伝子
1.歯の形づくりにとって重要な上皮-間葉相互作用
2.切歯と臼歯の形態と位置の決定に深く関連しているホメオボックス遺伝子
IX 歯と骨の再生
1.歯の再生
2.骨の再生
第2章 結合組織と上皮組織の生化学 畑隆一郎
I コラーゲン
1.「3」のタンパク質コラーゲン
2.コラーゲンは大家族
II エラスチン(弾性線維の主要成分)
1.エラスチンの構造と局在
2.トロポエラスチン
3.エラスチン結合ミクロフィブリル
III グリコサミノグリカンとプロテオグリカンファミリー
1.グリコサミノグリカン(GAG)の構造と機能
2.プロテオグリカン
3.プロテオグリカンの仲間
4.プロテオグリカンの生理的機能
5.細胞接着タンパク質とその受容体
6.RGDは細胞接着シグナル:ECMがシグナル分子であることの発見
7.細胞外マトリックス成分の分解
8.上皮とケラチン
第3章 骨,歯と歯周組織の有機成分とその代謝 畑隆一郎
I 骨,象牙質およびセメント質に共通な有機成分
II 硬組織に特徴的な非コラーゲン性タンパク質
1.石灰化を制御するオステオカルシン
2.Gla残基の合成にはビタミンKが必須である
3.オステオカルシン遺伝子の発現制御と機能
4.オステオカルシンは骨芽細胞のマーカーである
5.骨シアロタンパク質
6.象牙質マトリックスタンパク質1
7.高度にリン酸化されているBAG-75
III ほかの結合組織にも共通に存在する非コラーゲン性タンパク質
1.石灰化を抑制するマトリックスGlaタンパク質
2.細胞と細胞外マトリックスをつなぐオステオネクチン
3.多機能タンパク質オステオポンチン
4.その他のRGD含有タンパク質
5.硬組織プロテオグリカンの機能
6.骨中の増殖因子
IV 骨中の血清タンパク質
V 歯に特有の有機質
1.幼若エナメル質のタンパク質
2.成熟エナメル質のタンパク質
3.象牙質に特有な非コラーゲン性タンパク質
VI 歯周組織の構造と組成
1.セメント質
2.歯根膜
3.歯槽骨
4.歯 肉
第4章 骨と歯の無機成分と石灰化機構 宇田川信之
I リン酸カルシウムとアパタイト前駆体
II ヒドロキシアパタイトの結晶学
1.単位胞
2.CaとPの比
III アパタイトの特異な性質
1.水和層
2.イオン交換
IV エナメル質アパタイトの特徴
1.エナメル質結晶は象牙質や骨の1,000倍(容積)大きく成長する
2.エナメル質アパタイトは骨や象牙質に比べ結晶化度が高い
V エナメル質の無機成分の特徴
1.ナトリウム
2.マグネシウム
3.塩 素
4.炭 酸
5.フッ素
VI 血清中のカルシウムとリン酸の活動度積(溶解度積)
1.血清中におけるカルシウムやリン酸イオンの実効濃度
2.血清中のカルシウムとリン酸の活動度の計算
VII 骨の石灰化
1.Robisonのアルカリホスファターゼ説
2.体液は骨ミネラルに対して本当に不飽和か
3.Neumanのエピタキシー説
4.基質小胞説
5.ピロホスファターゼの石灰化における重要性(新アルカリホスファターゼ説)
VIII エナメル質と象牙質の石灰化機構
1.エナメル質の石灰化
2.象牙質の石灰化
第5章 硬組織の形成と吸収のしくみ 宇田川信之
I 軟骨細胞,骨芽細胞および骨細胞の分化と機能発現の調節
1.軟骨と骨を形成する細胞の起源
2.膜内骨化と軟骨内骨化
3.軟骨細胞の特徴と機能発現の調節
4.骨芽細胞の分化と機能発現の調節
5.骨細胞の特徴と機能
II 破骨細胞の分化と機能発現の調節
1.破骨細胞の特徴
2.破骨細胞の起源とその特異形質
3.破骨細胞の分化を調節する骨芽細胞の役割
4.破骨細胞形成抑制因子(OPG)の発見
5.破骨細胞分化因子(RANKL)の同定
6.RANKLの骨芽細胞におけるシグナル伝達
7.炎症性サイトカインによる破骨細胞形成と骨吸収機能調節
III 骨組織のリモデリング(改造)
1.骨のモデリングとリモデリング
2.リモデリングの調節因子
3.骨吸収と骨形成のカップリング
第6章 血清カルシウムの恒常性とその調節機構 宇田川信之
I 生体内におけるカルシウムの動き
II 血清カルシウムの恒常性
III 副甲状腺(上皮小体)ホルモンとその役割
1.副甲状腺ホルモンの化学
2.副甲状腺ホルモン分子の構造活性相関
3.副甲状腺ホルモンの合成・分泌機構
4.副甲状腺ホルモンの生理作用
5.副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)
6.PTH/PTHrP受容体の分布とシグナル伝達系
IV カルシトニンとその作用
1.カルシトニンの発見
2.カルシトニンの化学
3.カルシトニンの分泌調節
4.カルシトニンの生理作用
5.カルシトニン受容体
6.カルシトニン遺伝子関連ペプチド
V ビタミンDとその役割
1.ビタミンDの化学
2.ビタミンDの代謝経路
3.ビタミンDの代謝調節機構
4.ビタミンDの活性化を負に調節するFGF-23
5.ビタミンDの作用メカニズム
第7章 唾液の生化学 橋信博
I 唾液腺の構造と神経支配
II 唾液分泌のメカニズム
1.タンパク質・糖タンパク質などの合成と分泌
2.水・電解質の分泌
3.安静唾液と刺激唾液
III 唾液腺と唾液組成
IV 唾液の有機組成
1.タンパク質
2.低分子有機物質
3.ホルモン
4.細胞増殖因子および生理活性物質
V 唾液の無機成分
1.カルシウムとリン酸
2.ナトリウムとカリウム
3.ハロゲン元素
4.ロダン
5.重炭酸イオンと唾液のpH
6.唾液タンパク質とペリクル
第8章 プラークの生化学 橋信博
I ペリクルとプラークの形成
1.有機質被膜としてのペリクルの形成
2.バイオフィルム,微小生態系としてのプラークの形成
II 歯肉縁上プラーク
1.歯肉縁上プラークの環境
2.歯肉縁上プラークの組成
3.歯肉縁上プラークの代謝活性−酸産生とpH低下
III 歯肉縁下プラーク
1.歯肉縁下プラークの環境
2.歯肉縁下プラークの組成
3.歯内縁下プラークの代謝活性−タンパク質,アミノ酸の代謝
4.歯周病原性
IV 舌 苔
1.舌苔の環境と組成
2.代謝活性と口臭
3.口臭とほかの疾患
V 歯 石
1.組 成
2.形成機構
第9章 齲蝕の生化学 橋信博
I 齲蝕発生の基礎
1.エナメル質の脱灰
2.象牙質齲蝕
II 多因子疾患としての齲蝕発症のしくみ
1.糖質因子
2.細菌因子
3.宿主因子
4.時間因子
III 生活習慣病としての齲蝕
IV 初期齲蝕とエナメル質再石灰化
V 齲蝕の予防
1.フッ素
2.砂糖と非齲蝕性甘味料
3.齲蝕免疫
第10章 炎症と免疫 東 俊文
I 生体防御機構の構築
II 炎症・免疫にかかわる細胞の発生・分化
III 炎症の経過と炎症細胞の機能
1.炎症の経過
2.炎症と接着因子
3.自然免疫
IV 炎症とケミカルメディエーター
1.ケミカルメディエーター
V 免 疫
1.自己と非自己の認識液性免疫と細胞性免疫
2.免疫反応の概要
3.補 体
VI 粘膜免疫と免疫寛容
第11章 歯周疾患の成り立ちと歯周組織の再生 上條竜太郎
I 歯周組織の破壊
1.歯周病の進行過程
2.歯周組織の破壊にかかわる因子
3.歯肉組織破壊のメカニズム
4.歯槽骨吸収のメカニズム
II 歯周組織の再生
1.歯周組織再生誘導法(GTR法)
2.エナメルマトリックスタンパク質
3.骨補aX材
4.骨誘導再生法(GBR法)
5.サイトカイン療法
6.培養骨膜シート
III 口腔インプラントに対する周囲組織の反応
1.口腔インプラント
2.チタンインプラントと周囲粘膜
3.口腔インプラントと骨との接触性
第12章 がんはどうしてできるか 加藤靖正
I がん細胞の成立
1.細胞増殖の調節機構
2.遺伝子変異と修復の破綻
3.がん遺伝子とがん抑制遺伝子
4.老化の回避−テロメアの伸長と不死化への道のり
5.アポトーシスの回避能−悪い奴ほど生き残る
II がん細胞の悪性形質
1.血管新生・リンパ管新生−補給経路の確保
2.がん細胞の浸潤と転移−生体の反逆者
3.上皮間葉系移行(EMT)−化身の術か?がん細胞の変身
4.がん幹細胞−新しい概念の登場
5.エピジェネティックス調節−遺伝子配列を変化させることなく,多様性を発揮
III 化学療法剤
1.これまでの治療薬の種類と作用点
2.分子標的治療薬−ここまで進んだがん治療薬
和文索引
欧文索引
I 細胞の機能を制御する細胞内シグナル伝達
II 染色体の構造と遺伝子発現のしくみ
1.染色体の構造
2.遺伝子の構造とその発現のしくみ
III アポトーシス誘導の分子メカニズム
1.アポトーシスとはなにか
2.アポトーシスが起きるしくみ
3.アポトーシスの異常による自己免疫疾患
IV 遺伝子工学の手法
1.PCR法とRT-PCR法
2.遺伝子クローニング
3.DNAマイクロアレイ
4.RNA干渉とそれを利用した遺伝子ノックダウン
5.トランスジェニックマウス
6.遺伝子ノックアウトマウス
第1章 骨と歯の進化と形づくりの分子メカニズム宇田川信之
I 骨の起源
1.骨芽細胞の由来
2.骨芽細胞の分化を決定する Runx2 遺伝子の発見
3.骨の系統発生
II 無脊椎動物から脊椎動物へ
1.硬組織の成分が炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへ変化をもたらした要因
2.脊椎動物の内骨格として発達した骨組織
3.陸に移り棲むようになった動物は骨を「海」として利用している
III 脊椎動物における骨組織の進化−外骨格から内骨格へ
1.現存する最も原始的な脊椎動物である円口類
2.石灰化した軟骨をもつ板鰓類
3.骨組織をもつ硬骨魚類
4.両生類から爬虫類への進化における骨組織の重要性
IV 骨は軟骨から進化したのだろうか
1.最古の脊椎動物である異甲類甲羅におけるアスピディン結節の発見
2.骨は軟骨よりも系統発生的に古い組織である
V 歯と骨はどちらが先に進化したか
1.アスピディン結節の構造は歯の象牙質と同質のものである
2.歯は骨と同時にあるいはむしろ骨よりも先に発生した−捕食器官としての歯から咀嚼器官としての歯への進化
VI 四肢の原基(肢芽)の構造と3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
1.脊椎動物の四肢の形態形成
2.3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
VII 骨(軟骨)の形を決めるホメオボックス遺伝子(Hox遺伝子)
1.四肢のパターン形成に関連するホメオボックス遺伝子の発見
2.体軸形成を決定するホメオボックス遺伝子と位置情報シグナル伝達システム
VIII 歯の形成とホメオボックス遺伝子
1.歯の形づくりにとって重要な上皮-間葉相互作用
2.切歯と臼歯の形態と位置の決定に深く関連しているホメオボックス遺伝子
IX 歯と骨の再生
1.歯の再生
2.骨の再生
第2章 結合組織と上皮組織の生化学 畑隆一郎
I コラーゲン
1.「3」のタンパク質コラーゲン
2.コラーゲンは大家族
II エラスチン(弾性線維の主要成分)
1.エラスチンの構造と局在
2.トロポエラスチン
3.エラスチン結合ミクロフィブリル
III グリコサミノグリカンとプロテオグリカンファミリー
1.グリコサミノグリカン(GAG)の構造と機能
2.プロテオグリカン
3.プロテオグリカンの仲間
4.プロテオグリカンの生理的機能
5.細胞接着タンパク質とその受容体
6.RGDは細胞接着シグナル:ECMがシグナル分子であることの発見
7.細胞外マトリックス成分の分解
8.上皮とケラチン
第3章 骨,歯と歯周組織の有機成分とその代謝 畑隆一郎
I 骨,象牙質およびセメント質に共通な有機成分
II 硬組織に特徴的な非コラーゲン性タンパク質
1.石灰化を制御するオステオカルシン
2.Gla残基の合成にはビタミンKが必須である
3.オステオカルシン遺伝子の発現制御と機能
4.オステオカルシンは骨芽細胞のマーカーである
5.骨シアロタンパク質
6.象牙質マトリックスタンパク質1
7.高度にリン酸化されているBAG-75
III ほかの結合組織にも共通に存在する非コラーゲン性タンパク質
1.石灰化を抑制するマトリックスGlaタンパク質
2.細胞と細胞外マトリックスをつなぐオステオネクチン
3.多機能タンパク質オステオポンチン
4.その他のRGD含有タンパク質
5.硬組織プロテオグリカンの機能
6.骨中の増殖因子
IV 骨中の血清タンパク質
V 歯に特有の有機質
1.幼若エナメル質のタンパク質
2.成熟エナメル質のタンパク質
3.象牙質に特有な非コラーゲン性タンパク質
VI 歯周組織の構造と組成
1.セメント質
2.歯根膜
3.歯槽骨
4.歯 肉
第4章 骨と歯の無機成分と石灰化機構 宇田川信之
I リン酸カルシウムとアパタイト前駆体
II ヒドロキシアパタイトの結晶学
1.単位胞
2.CaとPの比
III アパタイトの特異な性質
1.水和層
2.イオン交換
IV エナメル質アパタイトの特徴
1.エナメル質結晶は象牙質や骨の1,000倍(容積)大きく成長する
2.エナメル質アパタイトは骨や象牙質に比べ結晶化度が高い
V エナメル質の無機成分の特徴
1.ナトリウム
2.マグネシウム
3.塩 素
4.炭 酸
5.フッ素
VI 血清中のカルシウムとリン酸の活動度積(溶解度積)
1.血清中におけるカルシウムやリン酸イオンの実効濃度
2.血清中のカルシウムとリン酸の活動度の計算
VII 骨の石灰化
1.Robisonのアルカリホスファターゼ説
2.体液は骨ミネラルに対して本当に不飽和か
3.Neumanのエピタキシー説
4.基質小胞説
5.ピロホスファターゼの石灰化における重要性(新アルカリホスファターゼ説)
VIII エナメル質と象牙質の石灰化機構
1.エナメル質の石灰化
2.象牙質の石灰化
第5章 硬組織の形成と吸収のしくみ 宇田川信之
I 軟骨細胞,骨芽細胞および骨細胞の分化と機能発現の調節
1.軟骨と骨を形成する細胞の起源
2.膜内骨化と軟骨内骨化
3.軟骨細胞の特徴と機能発現の調節
4.骨芽細胞の分化と機能発現の調節
5.骨細胞の特徴と機能
II 破骨細胞の分化と機能発現の調節
1.破骨細胞の特徴
2.破骨細胞の起源とその特異形質
3.破骨細胞の分化を調節する骨芽細胞の役割
4.破骨細胞形成抑制因子(OPG)の発見
5.破骨細胞分化因子(RANKL)の同定
6.RANKLの骨芽細胞におけるシグナル伝達
7.炎症性サイトカインによる破骨細胞形成と骨吸収機能調節
III 骨組織のリモデリング(改造)
1.骨のモデリングとリモデリング
2.リモデリングの調節因子
3.骨吸収と骨形成のカップリング
第6章 血清カルシウムの恒常性とその調節機構 宇田川信之
I 生体内におけるカルシウムの動き
II 血清カルシウムの恒常性
III 副甲状腺(上皮小体)ホルモンとその役割
1.副甲状腺ホルモンの化学
2.副甲状腺ホルモン分子の構造活性相関
3.副甲状腺ホルモンの合成・分泌機構
4.副甲状腺ホルモンの生理作用
5.副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)
6.PTH/PTHrP受容体の分布とシグナル伝達系
IV カルシトニンとその作用
1.カルシトニンの発見
2.カルシトニンの化学
3.カルシトニンの分泌調節
4.カルシトニンの生理作用
5.カルシトニン受容体
6.カルシトニン遺伝子関連ペプチド
V ビタミンDとその役割
1.ビタミンDの化学
2.ビタミンDの代謝経路
3.ビタミンDの代謝調節機構
4.ビタミンDの活性化を負に調節するFGF-23
5.ビタミンDの作用メカニズム
第7章 唾液の生化学 橋信博
I 唾液腺の構造と神経支配
II 唾液分泌のメカニズム
1.タンパク質・糖タンパク質などの合成と分泌
2.水・電解質の分泌
3.安静唾液と刺激唾液
III 唾液腺と唾液組成
IV 唾液の有機組成
1.タンパク質
2.低分子有機物質
3.ホルモン
4.細胞増殖因子および生理活性物質
V 唾液の無機成分
1.カルシウムとリン酸
2.ナトリウムとカリウム
3.ハロゲン元素
4.ロダン
5.重炭酸イオンと唾液のpH
6.唾液タンパク質とペリクル
第8章 プラークの生化学 橋信博
I ペリクルとプラークの形成
1.有機質被膜としてのペリクルの形成
2.バイオフィルム,微小生態系としてのプラークの形成
II 歯肉縁上プラーク
1.歯肉縁上プラークの環境
2.歯肉縁上プラークの組成
3.歯肉縁上プラークの代謝活性−酸産生とpH低下
III 歯肉縁下プラーク
1.歯肉縁下プラークの環境
2.歯肉縁下プラークの組成
3.歯内縁下プラークの代謝活性−タンパク質,アミノ酸の代謝
4.歯周病原性
IV 舌 苔
1.舌苔の環境と組成
2.代謝活性と口臭
3.口臭とほかの疾患
V 歯 石
1.組 成
2.形成機構
第9章 齲蝕の生化学 橋信博
I 齲蝕発生の基礎
1.エナメル質の脱灰
2.象牙質齲蝕
II 多因子疾患としての齲蝕発症のしくみ
1.糖質因子
2.細菌因子
3.宿主因子
4.時間因子
III 生活習慣病としての齲蝕
IV 初期齲蝕とエナメル質再石灰化
V 齲蝕の予防
1.フッ素
2.砂糖と非齲蝕性甘味料
3.齲蝕免疫
第10章 炎症と免疫 東 俊文
I 生体防御機構の構築
II 炎症・免疫にかかわる細胞の発生・分化
III 炎症の経過と炎症細胞の機能
1.炎症の経過
2.炎症と接着因子
3.自然免疫
IV 炎症とケミカルメディエーター
1.ケミカルメディエーター
V 免 疫
1.自己と非自己の認識液性免疫と細胞性免疫
2.免疫反応の概要
3.補 体
VI 粘膜免疫と免疫寛容
第11章 歯周疾患の成り立ちと歯周組織の再生 上條竜太郎
I 歯周組織の破壊
1.歯周病の進行過程
2.歯周組織の破壊にかかわる因子
3.歯肉組織破壊のメカニズム
4.歯槽骨吸収のメカニズム
II 歯周組織の再生
1.歯周組織再生誘導法(GTR法)
2.エナメルマトリックスタンパク質
3.骨補aX材
4.骨誘導再生法(GBR法)
5.サイトカイン療法
6.培養骨膜シート
III 口腔インプラントに対する周囲組織の反応
1.口腔インプラント
2.チタンインプラントと周囲粘膜
3.口腔インプラントと骨との接触性
第12章 がんはどうしてできるか 加藤靖正
I がん細胞の成立
1.細胞増殖の調節機構
2.遺伝子変異と修復の破綻
3.がん遺伝子とがん抑制遺伝子
4.老化の回避−テロメアの伸長と不死化への道のり
5.アポトーシスの回避能−悪い奴ほど生き残る
II がん細胞の悪性形質
1.血管新生・リンパ管新生−補給経路の確保
2.がん細胞の浸潤と転移−生体の反逆者
3.上皮間葉系移行(EMT)−化身の術か?がん細胞の変身
4.がん幹細胞−新しい概念の登場
5.エピジェネティックス調節−遺伝子配列を変化させることなく,多様性を発揮
III 化学療法剤
1.これまでの治療薬の種類と作用点
2.分子標的治療薬−ここまで進んだがん治療薬
和文索引
欧文索引








