やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 今日ではX線診断は,疾患の正確な診断と,それに基づいた適切な治療計画や治療経過の観察にきわめて重要な役割を果たしていることは誰もが認めるところである.事実わが国では,歯科診療で年間約1億枚の口内法X線写真と,その約1/10のパノラマ断層X線写真が撮影され,歯科診療に果たす役割が期待されている.しかし,これらの膨大な数のX線撮影による診断が本当にその目的を果たしているかどうかを判断するには,X線診断が単に臨床的に有用なことが多いというだけではにわかに判断できない側面をもっている.なぜならば,X線診断で視診・触診などでは発見できない疾患の存在と部位などが明らかにされる反面,これには多大な人的・経済的な資源が消費されるばかりでなく,患者さんにとっては本来不必要な放射線被曝を伴い,それによるリスクも考慮しなければならないからである.このような費用・便益効果関係や,リスク・便益関係からみたX線診断の有効性を高めるためのシステムが,品質保証システムである.
 日本歯科放射線学会放射線防護委員会では,先に放射線の安全管理と放射線防護を中心にした『歯科診療における放射線の管理と防護』(医歯薬出版株式会社,初版1994年,第2版2002年)を出版した.そのなかでも品質保証計画について簡潔に記載されているが,日常業務としてのマニュアルを意図したものではなかった.日常の歯科診療における品質保証の実用マニュアルはその当時から必要とされていたが,一般歯科臨床家はその作業手順の煩雑さから,X線診断の品質保証の必要性は認めても,必ずしもそれを実施することに関心をもってもらえないことも想像されたことから,本書の出版が延び延びになってしまった経緯がある.このたび,医歯薬出版株式会社のご理解によってようやく『歯科診療における放射線の管理と防護』の姉妹書として,わが国ではじめてこの種の品質保証マニュアルとして出版されることになった.執筆者には以前の放射線防護委員会委員が中心になっているが,それ以外の方にも参加していただいた.
 本書の構成は,I編では品質保証の概念と臨床的必要性と目的を述べ,それが正しく実施されない場合に臨床的にどのような支障が生じるのかを解説した.II編では品質保証プログラムを構成する個々のコンポーネントについて日常業務の作業手順を詳述し,III編で関連企業の保守点検サービス情報をまとめて掲載した.
 本書は臨床業務のマニュアルとして,歯学部学生および卒後臨床研修の実習参考書として役立つように工夫した.特に品質保証の煩雑な作業手順の流れと工程の相互関係がわかるように,すべての品質保証プログラムをフローチャートで表し,日常臨床業務として確認・記録するためのチェックシート様式も掲載した.このような工夫は,明日からでも品質保証プログラムを実際の診療に容易に利用できるように配慮したもので,本書のユニークな特色である.また基本的には実地歯科臨床家を対象にしているが,X線診断の品質保証は歯科診療に携わるすべての職員の協力によってはじめて達成されることから,歯科診療所の管理責任者,歯科衛生士,事務職員ならびに,関連企業の技術者などの方がたにもおおいに活用していただきたい.本書が膨大な数の歯科X線診断の有効性の向上に大きく寄与することを著者一同願ってやまない.
 2006年9月
 佐々木武仁
I編 放射線診療の品質保証
 1章 品質保証の概念と目標(佐々木武仁)
  1.品質保証(QA)と品質管理(QC)
  2.ISO品質マネジメントシステム
   1)ISO9000の特徴
   2)医療機関のISO9001認証取得状況
   3)ISO9001認証取得の要求事項と放射線診療の品質保証
  3.品質保証プログラムの必要性と目標
   1)品質保証プログラムの必要性
   2)品質保証プログラムの目標
 2章 品質保証の構成要素(佐々木武仁)
  1.人的要素と設備的要素
   1)人的要素
   2)設備的要素
  2.画質
   1)画質の定義
   2)画質不良の影響
  3.費用・便益関係
   1)品質保証プログラムの経費
   2)経費節減効果
  4.品質保証教育
   1)画像検査の適応と検査法選択の担当者
   2)X線撮影担当者
   3)写真処理担当者
   4)読影担当者
   5)事務職員
   6)管理責任者
 3章 品質保証プログラム(佐々木武仁)
  1.プログラム責任者
  2.品質保証職務
   1)品質保証職務項目
   2)品質保証プログラム実施記録
   3)継続的改善のための評価システム
  3.一般的品質保証項目
   1)再撮影要因と再撮影率
   2)装置の保守点検
   3)患者の被曝線量
   4)テスト被写体ファントム
 4章 品質保証プログラムの具体的目標
  1.X線装置(藤田 實)
   1)口内法撮影用X線装置
   2)歯科用パノラマ断層撮影装置
   3)頭部X線規格撮影装置
  2.ディジタルX線撮影装置(小林 馨)
   1)CCDシステム
   2)輝尽性蛍光体システム
   3)コンピュータの保守管理の必要性
  3.X線撮影技術(誉田栄一)
   1)口内法X線撮影
   2)パノラマX線撮影
  4.X線写真の画質と写真処理過程(岡野友宏)
   1)X線写真の画質
   2)画質に与える写真処理の影響
   3)暗室
   4)自動現像機
  5.読影過程(藤田 實)
   1)シャウカステン,フィルムビューワー
   2)読影室の明るさ
II編 品質保証(QA)プログラム実施方法
 1章 X線装置(加藤二久)
  1.基準値,基準画像
  2.口内法撮影用X線装置
   1)外観および機械的安定性
   2)線束方向と照射野
   3)X線量と線質
    ●肉眼で“写真濃度が約1.1”を見分ける方法
  3.歯科用パノラマ断層撮影装置
   1)機械的安定性
   2)線束方向と照射野
   3)X線量と線質
   4)カセッテの動きムラおよび自動露出装置
 2章 自動現像機(佐藤健児,佐々木武仁)
  1.自動現像機の保守管理
   1)自動現像機の点検作業
   2)自動現像機の清掃手順
  2.処理液の保守管理
  3.現像条件の保守管理
  4.毎日の点検作業
  5.品質保証プログラムの実施
   1)理想的なX線写真およびアルミニウムステップウェッジのX線写真を基準参照フィルムとする方法(目視)
    ●参考1 アルミニウムステップウェッジを用いるQAプログラム(目視)
    ●参考2 一円硬貨を用いるQAプログラム(目視)
   2)アルミニウムステップウェッジの基準参照フィルムおよび濃度計を用いる方法
    ●参考3 濃度計(デンシトメータ)と感光計(センシトメータ)を用いる方法
   3)不備に対する対応
  6.記録
  7.チェックシートおよびフローチャート
 3章 X線写真の画質と写真処理,読影過程(誉田栄一)
  1.画質評価方法
   1)黒化度(写真濃度)
   2)コントラスト
   3)鮮鋭度
   4)解像度
   5)粒状性またはノイズ
  2.暗室
   1)光漏れ
   2)安全光
   3)恒温槽(温度計,タイマを含む)
   4)処理液(種類,調製と交換,その記録を含む)
   5)暗室の点検
  3.X線フィルム・増感紙
   1)フィルムの保管
   2)X線フィルム特性曲線
   3)フィルム増感紙組み合わせ
   4)増感紙比感度
  4.シャウカステンと読影室
   1)色調均一性
   2)輝度
   3)輝度均一性
   4)読影室明度
  5.画質評価チェックシートおよびフローチャート
   1)口内法X線写真
   2)パノラマX線写真
  6.読影環境チェックシートおよびフローチャート
 4章 ディジタルX線診断装置(誉田栄一)
  1.コンピューティッドラジオグラフィー(Computed Radiography:CR)
   1)イメージングプレート(Imaging Plate:IP)の点検(目視による)
   2)感度の劣化
   3)ノイズの増加
   4)読み取り装置の保守管理
  2.CCD(Charge-Coupled Device)撮像装置
   1)センサーアッセンブリの点検(目視による)
   2)感度の劣化
   3)ノイズの増加
  3.ホストコンピュータ
   1)VDT(Visual Display Terminal)の劣化
   2)プリンターの保守管理
  4.ディジタル画像評価用器具
   1)ディジタル画像装置の低コントラスト解像度試験器具
   2)ディジタル画像のラインペア解像度試験器具
  5.チェックシートおよびフローチャート
 5章 感染予防対策(岡野友宏)
  1.標準予防策
   1)手袋の着用
  2.X線撮影時における具体的な操作
   1)施設と装置
   2)撮影の操作
   3)現像処理操作
  3.各施設におけるマニュアルの作成
  4.チェックシートおよびフローチャート
 6章 X線撮影技術(誉田栄一)
  1.口内法X線撮影
   1)患者の位置づけ
   2)撮影条件の設定
    ●照射時間の設定方法
   3)ビーム入射部位と方向
   4)フィルムの位置づけ
   5)X線照射
   6)撮影補助器具の使用
   7)チェックシートおよびフローチャート
  2.パノラマX線撮影
   1)患者の位置づけ
   2)撮影条件の設定
   3)ビーム入射部位と方向
   4)フィルムの位置づけ
   5)X線照射
   6)チェックシートおよびフローチャート
 7章 簡易品質保証プログラム(佐々木武仁)
  1.X線診断の作業手順
  2.X線撮影・写真処理の品質保証
   1)品質保証プログラムの手順
  3.X線写真の読影・診断の品質保証
   1)品質保証プログラムの手順
  4.簡易品質保証プログラムの実施とチェックシート
  5.日常的簡易品質保証のまとめ
III編 放射線機器関連会社による修理・保守点検サービス
 1章 医療機器の修理業務(佐々木武仁)
 2章 医療機器の保守点検(佐々木武仁)
  1.保守点検の意義
  2.医療法施行規則における保守点検
  3.改正後の医療法施行規則で定められた医療機器の保守点検業務の概要
   1)業務の範囲
   2)薬事法との関係
   3)保守点検を行う人員
   4)保守点検の業務委託
   5)別表第1(第9条の7,第9条の12関係)
 3章 改正薬事法の施行(佐々木武仁)
  1.医療機器リスク分類の国際整合化
   1)医療用具の名称の変更
   2)医療機器のクラス分類
   3)特定保守管理医療機器
  2.医療機器の基本的要件の制定
  3.製造販売業の創設
  4.独立した修理業の規定
  5.医療機器販売業に許可制の導入
   1)許可を要する医療機器販売業または賃貸業
   2)届出を要する医療機器販売業または賃貸業
   3)管理者の設置
   4)継続的研修
 4章 医療機器の一般的名称(佐々木武仁)
  1.歯科用X線装置の一般的名称
  2.歯科用X線装置関係の一般的名称の定義
   1)デジタル式口内汎用歯科X線診断装置
   2)デジタル式口外汎用歯科X線診断装置
   3)デジタル式歯科用パノラマX線診断装置
   4)デジタル式歯科用パノラマ・断層撮影X線診断装置
 5章 放射線機器関連企業の修理・保守点検サービス情報(佐々木武仁)
  1.放射線機器保守点検関連企業リスト
  2.企業別の修理・保守点検サービス情報
 参考文献
 索引