やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「村上歯科医院はスタッフでもっている」と私は思っています.優秀なスタッフたちに支えられた素晴らしい歯科医院なのです.院長の私がいうのもおかしいのですが,これは事実です.スタッフが自ら考え,自らの意志で行動することができる歯科医院,いいかえると院長が先頭に立って引っ張っていくのではなく,スタッフたちから「ああしたい,こうしたい」と提案が出て,医院が少しずつ改善され活性化していく,そんな歯科医院です.
 確かに,この十数年,意識してこうした体制を整えようと努力はしてきましたが,このように素晴らしいスタッフに囲まれて診療ができるまでになろうとは想像もしていませんでした.これは,私のリーダーシップのなさに危機感を抱いた優秀なスタッフたちが,どうにかしなければと自主的に行動を始め,その思いを全員が共有し,改善に取り組んでいってくれた結果だと私は理解しています.
 私が大学を卒業したころ(30数年前)の歯科医院は,急性期の疾患を有する患者さんが多く,歯科医師の治療行為が診療の大部分を占めていました.しかし近年は,急性疾患が減少し,「予防」という時代の要求もあり,ケア中心の医療に大転換を余儀なくされています.それは,すなわち,スタッフ全員で取り組むチーム医療なくしては日常臨床が行えないことを意味しています.このような事情から,当院もケアを重視した診療体系へと変化していきました.そこでは,歯科医師,歯科衛生士,受付を含むすべてのスタッフが同じ方向を向き,同じ理念を共有し,日常の仕事に邁進しなければなりません.なぜなら,慢性疾患の治療では,患者さんと医療者側とのコミュニケーションがとても重要だからです.
 そこで当院では「いい病院を作りましょう」という院是のもとに,スタッフ全員でミーティングを重ね,試行錯誤を繰り返しながらスタッフ主導で院内の活性化を進めていきました.その過程で,一番大切なことは,「職場の温かさ」であると気づきました.皆それぞれが互いに尊重し合い,支え合い,助け合い,感謝し合う職場を作りあげることが何よりも重要であると皆が感じ始めたのです.そして,院長である私は,スタッフを信じ,スタッフの自主性を重んじ,ほとんどのことを任せることから始めました.それがスタッフのやる気を引き出し,想像もしていなかったような素晴らしい発想が次々と生まれ,医院の活性化につながっていったのです.
 本書では,ほんの一部分ではありますが,その軌跡をご紹介したいと思います.皆様の病院づくりにわずかでも参考になれば幸いです.
 なお,この書は当院歯科衛生士主任の脇田(旧姓逸木)が中心となり,スタッフ全員で作り上げたものであることを付け加えておきたいと思います.
 2011年 冬 村上 和彦
第1編 院長の役割
 1章 スタッフの力を信ずること
  患者さんが幸せになる歯科医院に
  自費中心の医院への転換
  スタッフと現状を共有する
  受付二人の歯科医院に
  ISOへの取り組み
 2章 現在の医院の姿
  当院の概況
  役割の分担
  院内ミーティング
  プロジェクトの結果
  活性化された職場であること
  診療のレベル
第2編 スタッフとしての働き方
 1章 歯科医院の一員としてどう働くのか
  それぞれのキャリア
  プロジェクト体験
  印象深かったプロジェクト
  自発的にメンバーとなる
  プロジェクトへの参加の意義
  成長の姿/自分で考えるようになる
  積極的なかかわり
 2章 スタッフの立場からみた医院活性化への取り組み
  村上歯科医院の活性化プロジェクト
  医院の問題点
  ISOを通して学んだこと
  プロジェクトにする利点
  うまく進めていくには
  医院の方向にあったプロジェクト
  活性化された職場であるために
第3編 プロジェクトのスタート
 1章 リコールプロジェクト
  院長のつぶやき
  目標を決める
  プロジェクトの概要
  季節感のある診療室に
  調整プラークコントロールの目的
  リコール来院時の工夫
  プレゼント作戦
  リコールハガキの工夫
 2章 目標達成
  月に200件達成!
  さらなるパワーアップ!
  リコールプロジェクトで難しかったこと
  リコールMOTTO増やそうプロジェクト
  さまざまなプロジェクトのスタート
第4編 さまざまなプロジェクト活動
 1章 3Sプロジェクト
  3Sとは?
  まずは勉強
  整理(1)/使用頻度によって区分けする
  整理(2)/イエローカード作戦
  整頓/すぐに取り出せること
  清掃
  清潔と躾も加えた5S
  3Sをもう一度理解したうえでの取り組み
  3Sアルバム
  維持する努力
 2章 コンサルテーションプロジェクト
  スタート
  問題点は何か?
  自費診療のよさを理解できているのか?/説明内容の統一
  説明用ツールの作成
  患医の意識のギャップ
  コンサルテーションプロジェクトの成果
  反省と今後の課題
 3章 ホワイトニングプロジェクト
  ホワイトニングに取り組もう
  準備を始める
  キャンペーン
  キャンペーン第2弾
  今後の課題
 4章 キッズプロジェクト
  子どもの患者さんがほとんどいない!
  子どもが来院していることをアピールする
  子どものモチベーションアップ!
  健康ノートのイメージアップ!
  プロジェクトの成果
 5章 滅菌プロジェクト
  患者さんへのアピールと安心して働くために
  まずは勉強から
  器具の追加購入
  滅菌新聞
 6章 食育プロジェクト
  食育プロジェクト
  食育の本の貸し出し
  問題点とこれから
 7章 デジタルカメラプロジェクト
  スタート
  実践
 8章 在庫管理と原価意識向上プロジェクト
  この製品の値段は?
  目標は「無駄を減らす!」
  商品を売る
 9章 村上歯科新聞プロジェクト
  新聞を作ってみよう
  年に4回の発行に
  新聞のよさ
 10章 3DS・細菌検査プロジェクト
  カリエス発生を止められない悩み/細菌検査
  結果はというと
 11章 口臭プロジェクト
  口臭測定機のデモ
  いまできること
 12章 顕微鏡プロジェクト
  棚の奥の顕微鏡
  モチベーションアップ
 13章 スポーツマウスガードプロジェクト
  スポーツマウスガードを取り入れてみよう
  ニーズがない!!!

 あとがき
 参考文献