やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 われわれ,一般開業医(GP)が行う治療とは何であろうか.私が卒業した2000年では歯周病,保存,補綴,小児,外科(抜歯・小手術),予防が主であった記憶がある.矯正治療といえば矯正専門医が行う永久歯列を対象としたものであった.また1960年頃に始まった小児期の咬合誘導は小児専門医が行っており,その後,患者の成長に伴い経過を追えないことも多かったと思われる.これまで矯正治療は専門性の高い分野であると考えられ,GPにとっては矯正治療を診療体制に取り入れるのはかなりハードルの高いものであった.しかし,近年では歯科治療において多様なアプローチが求められるようになり,より良い口腔内の環境を整えるために部分矯正(MTM)を取り入れるGPも増えたのではないだろうか.1口腔単位で日々診療に向き合っているGPであれば診療体制に矯正治療を取り入れるようになってきたのは必然だと考える.GPの特徴としては1口腔単位での治療を行えることであるが,もう一つ重要な特徴としてわれわれGPは「かかりつけ医」として患者と乳幼児期から関われることである.これまで咬合誘導の有効性について疑問視する声も多くあったが,これはこれまで咬合誘導と永久歯列での矯正治療が連続して診るのではなく断片的に診ていたためだと考える.小児期・永久歯列と断片的に異なる歯科医師が診てしまうことによって,現在の不正咬合になってしまった原因を見誤ってしまいその結果,診断・治療方針に影響がでてしまう.「小児期のみ」「永久歯列のみ」を中心に診てしまうのは「木を見(診)て森を見(診)ず」だと考えている.われわれGPは「かかりつけ医」として患者を長期にわたって診ていくことができる.その中で患者にとって矯正治療が必要な時期を見極め,最小限の介入で最大限の効果を発揮できるような将来を見据えた治療計画を考えなければならない.近年においては,ブラケットやワイヤーを用いないマウスピースを使用したアライナー矯正が広がりをみせており,目立たない矯正の登場が患者に与える恩恵は大きい.そして,このアライナー矯正の普及はGPにとっては矯正治療を行うハードルを下げることになったと感じるが,その反面,矯正の知識や経験が少ないままアライナー矯正に取り掛かったことにより,患者とのトラブルが増加しているとよく耳にする.この状況はインプラント治療がGPの間に急速に広がった時と非常に酷似している.インプラント治療もGPに広まった当初はさまざまなトラブルが多発したが,現在ではその経験からインプラント治療の知識・技術は発展し,その結果,現在では多くのインプラント症例はGP,患者双方にとって安心・安全に行える治療法として確立することができている.今後,GPが行う矯正治療が後退することなく,進化し安心・安全に行える治療法として確立していくためには,小児の咬合誘導から永久歯列の全顎矯正についての知識・技術に加え,咬合の知識を学んでいく必要がある.
 そこで,本書ではGPやそこに従事している歯科医師を対象としてまずは矯正に必要な基礎知識からMTMについて症例を通して学び,その後のステップとして咬合・セファロ分析(骨格)を考えた全顎矯正,咬合誘導について多くの症例を通して紹介したい.本書がGP,「かかりつけ医」として日常臨床に小児から成人までの矯正治療を取り入れ安心・安全に治療を行いたいと考えている歯科医師のための一助となり,不正咬合で悩んでいる患者さんが一人でも多く救われ,患者・歯科医師ともにより良い人生となる転換期になれば幸いである.
 大串奈津貴
 序文
 付録 セファロの見方
0章 地域に根ざしたGPになるということは
 1.はじめに
 2.筆者と矯正治療
 3.当院の診療スタイル
 4.矯正治療を取り入れたGPとして思うこと
 5.木も診て森も診る
1章 部分矯正(MTM)を学ぼう
 1.はじめに
 2.MTMに関する留意点
 3.症例を通して〜挺出〜
  コラム L-Loopの活用
 4.症例を通して〜アップライト〜
2章 成長期の矯正〜咬合誘導に挑戦しよう!
 1.はじめに
  コラム 萌出障害の治療の流れ
  コラム 上顎犬歯の萌出障害
  コラム 上顎犬歯萌出障害の診断
 2.反対咬合
  口腔機能発達不全を伴う歯列不正への対応 生物学的アプローチ
 3.小児不正咬合 症例別 治療方法まとめ
3章 永久歯の矯正に挑戦しよう!
 1.はじめに
 2.全顎矯正は顎位の変更である!
  特別講義! 診断から治療計画立案に必要な診るべき要素
 永久歯の矯正 まとめ

 おわりに