序
本書では,「RESTORATIVE DESIGN & PRACTICAL OCCLUSION」の第一弾「補綴設計&設計集」に続く第二弾として「実践的咬合」と題し,生物力学的咬合に基づくその理論と実際について整理を行った.
筆者にとって過去53年間の歯科臨床は,補綴・咬合治療抜きには考えられないものであった.筆者は大学卒業後,1973年までの3年間,米国を中心とした近代歯科治療を学んだ.しかし,そのほとんどは補綴術式の習得に終始するもので,咬合に関しても咬合器の使い方が中心であり,咬合理論をわかりやすく学ぶ機会は得られなかった.
当時の日常臨床において,咬合理論を体系的にまとめていたのが「ナソロジー」学派である.その下,ヒンジアキシスや中心位,顆路などを理論背景にした「オーラルリハビリテーション」という用語だけが先行していき,必然的に「オクルーザルリコンストラクション」,すなわち全顎的な補綴治療が臨床医の中で広まっていった.結果,「オクルーザルリコンストラクション」という概念のもと,必要以上に広範囲な治療が行われていたのも事実である.それにより補綴再治療は最初の治療に比し,より複雑なものとなっていった.しかも,当時は治療終了後,“Longevity(長期安定)”に必要な経過観察のための「リコールチェック」も適切に行われていなかった.
筆者自身も当時は,同様の治療をしており,近年,重視されている総合診断・治療計画に基づいた治療,すなわち適正な包括的治療を行えていたわけではなかった.その後,自分自身が施してきた治療の成功・失敗症例を数多く検証し,実践的に整理してきた.
筆者は,第一弾の「補綴設計&設計集」の中で「補綴臨床の場で,補綴装置による機能の回復の一つに咀嚼機能の回復がある.大まかな見方をすれば,機能回復は咬合の回復と捉えることができる」と述べた.歯科臨床のほとんどの分野で必要とされる咬合学とは,いわば「臨床咬合実践学」である.
そのため,本書では咬合を実践的にとらえることが如何に重要であるかを述べる.これを理解するためには,咬合安定には2つの局面があることを理解しておいてほしい.1つ目は,「静的咬合安定」であり,それを得るための“顆頭安定位”(大石忠雄先生)と下顎安定位(菅野博康先生)の臨床的な意味合いを的確に捉えてほしい.2つ目は,「動的咬合安定」で,それを得る上での側方滑走運動と咀嚼運動を,臼歯離開咬合と絡めて学ぶことが重要である.そして,静的・動的咬合安定を得るためには歯の位置と咬合面形態について,矯正・補綴治療の観点からも咬合を理解しておかなければならない.そして,我々歯科医療人の大きな目的は,患者のQOLの回復・維持の支えになることである.
本書は,日常的に行われている補綴臨床に比重を置き,“Longevity(長期安定)“を根幹にした書である.次世代の先生方に,今一度 “Dentistry is Occlusion”の今日的な意味合いを理解していただき,患者に寄り添った日常臨床に役立ていただければ幸いである.
最後にこれからの歯科界を担い,歴史をつないでくれる次世代の歯科医師達にエールを贈りたい.
2023年9月吉日
本多正明
本書では,「RESTORATIVE DESIGN & PRACTICAL OCCLUSION」の第一弾「補綴設計&設計集」に続く第二弾として「実践的咬合」と題し,生物力学的咬合に基づくその理論と実際について整理を行った.
筆者にとって過去53年間の歯科臨床は,補綴・咬合治療抜きには考えられないものであった.筆者は大学卒業後,1973年までの3年間,米国を中心とした近代歯科治療を学んだ.しかし,そのほとんどは補綴術式の習得に終始するもので,咬合に関しても咬合器の使い方が中心であり,咬合理論をわかりやすく学ぶ機会は得られなかった.
当時の日常臨床において,咬合理論を体系的にまとめていたのが「ナソロジー」学派である.その下,ヒンジアキシスや中心位,顆路などを理論背景にした「オーラルリハビリテーション」という用語だけが先行していき,必然的に「オクルーザルリコンストラクション」,すなわち全顎的な補綴治療が臨床医の中で広まっていった.結果,「オクルーザルリコンストラクション」という概念のもと,必要以上に広範囲な治療が行われていたのも事実である.それにより補綴再治療は最初の治療に比し,より複雑なものとなっていった.しかも,当時は治療終了後,“Longevity(長期安定)”に必要な経過観察のための「リコールチェック」も適切に行われていなかった.
筆者自身も当時は,同様の治療をしており,近年,重視されている総合診断・治療計画に基づいた治療,すなわち適正な包括的治療を行えていたわけではなかった.その後,自分自身が施してきた治療の成功・失敗症例を数多く検証し,実践的に整理してきた.
筆者は,第一弾の「補綴設計&設計集」の中で「補綴臨床の場で,補綴装置による機能の回復の一つに咀嚼機能の回復がある.大まかな見方をすれば,機能回復は咬合の回復と捉えることができる」と述べた.歯科臨床のほとんどの分野で必要とされる咬合学とは,いわば「臨床咬合実践学」である.
そのため,本書では咬合を実践的にとらえることが如何に重要であるかを述べる.これを理解するためには,咬合安定には2つの局面があることを理解しておいてほしい.1つ目は,「静的咬合安定」であり,それを得るための“顆頭安定位”(大石忠雄先生)と下顎安定位(菅野博康先生)の臨床的な意味合いを的確に捉えてほしい.2つ目は,「動的咬合安定」で,それを得る上での側方滑走運動と咀嚼運動を,臼歯離開咬合と絡めて学ぶことが重要である.そして,静的・動的咬合安定を得るためには歯の位置と咬合面形態について,矯正・補綴治療の観点からも咬合を理解しておかなければならない.そして,我々歯科医療人の大きな目的は,患者のQOLの回復・維持の支えになることである.
本書は,日常的に行われている補綴臨床に比重を置き,“Longevity(長期安定)“を根幹にした書である.次世代の先生方に,今一度 “Dentistry is Occlusion”の今日的な意味合いを理解していただき,患者に寄り添った日常臨床に役立ていただければ幸いである.
最後にこれからの歯科界を担い,歴史をつないでくれる次世代の歯科医師達にエールを贈りたい.
2023年9月吉日
本多正明
CHAPTER 1 実践的咬合論
1-1 咬合を学ぶ目的
1-2 歯科治療を成功させるための根幹
1-3 総合診断・治療計画
1-4 臨床的咬合の分類
1-5 下顎運動とは
1-6 下顎運動の決定要素
1-7 咬合治療の成功
1-8 咬合異常により影響を受ける部位
1-9 治療咬合
CHAPTER 2 静的咬合安定
2-1 咬合安定とは
2-2 静的咬合安定とは
2-3 治療咬合の臨床的指標
2-4 下顎位とは
2-5 顎関節の安定
2-6 下顎位を臨床的に捉える
Technical Advice セントリック バイト採得の実際
2-7 下顎位の臨床的な捉え方 まとめ
2-8 咬頭嵌合位の安定
Technical Advice 矯正医と補綴医のインターディシプリナリーアプローチのための参照資料
2-9 静的咬合安定 まとめ
CHAPTER 3 動的咬合安定
3-1 動的咬合安定とは
3-2 解剖学的コントロール
3-3 生理学的コントロール
3-4 生理的機能運動と非生理的機能運動
3-5 咀嚼運動
3-6 ブラキシズム
3-7 咬合様式
3-8 臼歯離開に影響を与える因子
3-9 アンテリア ガイダンス
3-10 上下顎前歯,特に犬歯の位置と形態
CHAPTER 4 咬合診断
4-1 咬合診断のための基礎資料収集
4-2 咬合診断(口腔内)
4-3 咬合診断(模型上)
CHAPTER 5 矯正治療と補綴治療の連携による咬合治療インターディシプリナリーアプローチ
5-1 歯の「位置」の重要性
5-2 咬合再構成における矯正治療の重要性
5-3 矯正医と補綴医の間に必要なゴールの共有
5-4 症例から
5-5 矯正医と補綴医の間で必要な共通認識事項
CHAPTER 6 補綴装置に与える咬合面形態
6-1 咬頭嵌合位を安定させるための配慮
6-2 臼歯離開咬合を達成させるための配慮
6-3 補綴装置作製時の配慮と咬合調整
6-4 近遠心的に理想的な位置にない場合の補綴的配慮(I級ではない場合)
CHAPTER 7 メインテナンスとLongevityから見た補綴的配慮事項
7-1 ペリオと補綴の相関関係
7-2 メインテナンスから見た補綴的配慮
7-3 Longevity(長期安定):メインテナンスでのチェックポイント
7-4 長期予後を診る
AUTHOR'S VIEW
AUTHOR'S VIEW 1 生理的咬合なのか,病的咬合なのか
AUTHOR'S VIEW 2 「顆頭安定位」と大石先生とのディスカッション
AUTHOR'S VIEW 3 中心位の定義の変遷
AUTHOR'S VIEW 4 オクルーザル アプライアンスの誤用の危険性
AUTHOR'S VIEW 5 エビデンスベースで見るブラキシズムおよびスプリントの効果の今日的理解
AUTHOR'S VIEW 6 アンテリア カップリングの分類とその特徴
AUTHOR'S VIEW 7 生理的顆頭位はなぜ病的に偏位してしまうのか? 咬頭嵌合位の安定とは?
AUTHOR'S VIEW 8 ファンクショナル マウント or エステティック マウント
AUTHOR'S VIEW 9 下顎模型の装着
1-1 咬合を学ぶ目的
1-2 歯科治療を成功させるための根幹
1-3 総合診断・治療計画
1-4 臨床的咬合の分類
1-5 下顎運動とは
1-6 下顎運動の決定要素
1-7 咬合治療の成功
1-8 咬合異常により影響を受ける部位
1-9 治療咬合
CHAPTER 2 静的咬合安定
2-1 咬合安定とは
2-2 静的咬合安定とは
2-3 治療咬合の臨床的指標
2-4 下顎位とは
2-5 顎関節の安定
2-6 下顎位を臨床的に捉える
Technical Advice セントリック バイト採得の実際
2-7 下顎位の臨床的な捉え方 まとめ
2-8 咬頭嵌合位の安定
Technical Advice 矯正医と補綴医のインターディシプリナリーアプローチのための参照資料
2-9 静的咬合安定 まとめ
CHAPTER 3 動的咬合安定
3-1 動的咬合安定とは
3-2 解剖学的コントロール
3-3 生理学的コントロール
3-4 生理的機能運動と非生理的機能運動
3-5 咀嚼運動
3-6 ブラキシズム
3-7 咬合様式
3-8 臼歯離開に影響を与える因子
3-9 アンテリア ガイダンス
3-10 上下顎前歯,特に犬歯の位置と形態
CHAPTER 4 咬合診断
4-1 咬合診断のための基礎資料収集
4-2 咬合診断(口腔内)
4-3 咬合診断(模型上)
CHAPTER 5 矯正治療と補綴治療の連携による咬合治療インターディシプリナリーアプローチ
5-1 歯の「位置」の重要性
5-2 咬合再構成における矯正治療の重要性
5-3 矯正医と補綴医の間に必要なゴールの共有
5-4 症例から
5-5 矯正医と補綴医の間で必要な共通認識事項
CHAPTER 6 補綴装置に与える咬合面形態
6-1 咬頭嵌合位を安定させるための配慮
6-2 臼歯離開咬合を達成させるための配慮
6-3 補綴装置作製時の配慮と咬合調整
6-4 近遠心的に理想的な位置にない場合の補綴的配慮(I級ではない場合)
CHAPTER 7 メインテナンスとLongevityから見た補綴的配慮事項
7-1 ペリオと補綴の相関関係
7-2 メインテナンスから見た補綴的配慮
7-3 Longevity(長期安定):メインテナンスでのチェックポイント
7-4 長期予後を診る
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AUTHOR'S VIEW 2 「顆頭安定位」と大石先生とのディスカッション
AUTHOR'S VIEW 3 中心位の定義の変遷
AUTHOR'S VIEW 4 オクルーザル アプライアンスの誤用の危険性
AUTHOR'S VIEW 5 エビデンスベースで見るブラキシズムおよびスプリントの効果の今日的理解
AUTHOR'S VIEW 6 アンテリア カップリングの分類とその特徴
AUTHOR'S VIEW 7 生理的顆頭位はなぜ病的に偏位してしまうのか? 咬頭嵌合位の安定とは?
AUTHOR'S VIEW 8 ファンクショナル マウント or エステティック マウント
AUTHOR'S VIEW 9 下顎模型の装着














