やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科治療は,その本質が顎口腔機能のリハビリテーション医療であるため,その治療の適正さが患者の顎口腔機能に直接関わり,患者のQOLひいては人生の満足度にまで大きく影響を及ぼすことになる.また,近年頻繁に訴訟にまで発展し,一般の方々の間でも注目されている医原病の問題も,私達は医療者として深刻に受け止めなければならない時期にきている.行われた治療が患者固有の機能と調和していなければ,リハビリテーションとしての目的を十分に達成できないばかりか,その治療によって顎関節症などの機能障害を惹起させるおそれがあることを,私達は十分に認識しておかなければならない.
 また,臨床では「患者の訴える症状」と「検査によって得られる徴候」との間に関連性が認められない場合が多いため,これらを区別して的確に病態診断を行うことが大切である.とりわけ咬合が関与する補綴治療,矯正治療,インプラント治療,そして口腔外科領域や歯周治療にあたっても,初診時,術前,術中,術後,さらに予後評価時の顎機能診断は重要で,欠かすことができない.
 この見地から,スクリーニングとして短時間で比較的簡単に施行できる顎機能検査・診断は,多忙な日常臨床にも十分導入可能であり,きわめて有効性が高い.しかし,この検査・診断を適正に行うためには,まず顎口腔系の「機能解剖」すなわち筋,顎関節,靱帯を構成する部品1つひとつの正常な形態と構造と機能を熟知することが求められる.そのうえで,様々な病態における特有の徴候を詳細に把握することにより,はじめて的確に病態診断を行うことができるのである.
 本書では,顎口腔系の検査・診断に必須な機能解剖の重要事項を,解剖学と補綴学双方の観点から有機的かつ明確に示すとともに,20〜30秒程度の短時間で適切に施行できて日常臨床に十分導入可能な「実践的顎機能検査法」を,できるだけ具体的に示すように心がけた.
 なお本書は,2004年6月に隔月刊『補綴臨床』の別冊として発刊され,7刷まで改訂を重ねてきたものに,このたびさらに修正を加え新たに索引を付したうえで書籍化したものである.歯科医師と歯科衛生士,歯科技工士の三者が,顎口腔系に関する共通認識のもと互いに信頼しあい,円滑に連携することで患者さんの役に立ち,喜んでいただく――このことに少しでも本書が資することができれば幸いである.
 2023年3月
 東京歯科大学名誉教授 井出吉信
 日本歯科大学名誉教授 小出 馨
 序
 執筆者一覧
 顎口腔系の機能検査のための機能解剖の重要性
CHAPTER 1 顎口腔系の機能解剖
 PART1 咀嚼筋群の機能解剖
  SECTION 1 咀嚼筋群の解剖
  SECTION 2 咀嚼筋群の機能
 PART2 舌骨上筋群の機能解剖
  SECTION 1 舌骨上筋群の解剖
  SECTION 2 舌骨上筋群の機能
 PART3 舌骨下筋群の機能解剖
  SECTION 1 舌骨下筋群の解剖
  SECTION 2 舌骨下筋群の機能
 PART4 舌の筋群の機能解剖
  SECTION 1 舌の筋群の解剖
  SECTION 2 舌筋の機能
 PART5 後頭部筋群の機能解剖
  SECTION 1 後頭部筋群の解剖
  SECTION 2 後頭部筋群の機能
 PART6 側頸部筋群の機能解剖
  SECTION 1 側頸部筋群の解剖
  SECTION 2 側頸部筋群の機能
 PART7 表情筋の機能解剖
  SECTION 1 表情筋の解剖
  SECTION 2 表情筋の機能
 PART8 顎関節の機能解剖
  SECTION 1 顎関節の解剖
  SECTION 2 顎関節各部の構造と機能
 PART9 靱帯の機能解剖
  SECTION 1 靱帯の解剖
  SECTION 2 靱帯の機能
  SECTION 3 Posselt's Figureと靱帯の役割
CHAPTER 2 顎関節と筋の評価
 臨床で有効な顎関節の触診4種
 臨床で有効な筋触診法
CHAPTER 3 症例報告
 CASE 1 クラウン・ブリッジにより補綴治療を行った症例
 CASE 2 パーシャルデンチャーにより補綴治療を行った症例
 CASE 3 コンプリートデンチャーにより補綴治療を行った症例