序
下川先生に臨床の教えを乞いたいという数名の歯科医師が集まった「寺子屋セミナー」が発展した形で,1998年「下川公一臨床セミナー」が始まった.雑誌などでの案内は一切無かったにもかかわらず毎回満員で,卒業生は増え続けた.
下川先生の臨床も年々アップデートされることから,最新の知見やテクニックを卒業生にも平等に伝えるという目的と,受講された先生方がどのように実力アップされているかを確認する目的のために,年に一度卒業生を集めようということになり,経営,基礎,臨床というこのセミナーの三つの柱の頭文字をとって「経基臨塾」と銘打った会が発足した.
毎年真夏の土日を使って行われる集まりでは,土曜日に「症例相談会」と「懇親会」,日曜日には「経基臨塾発表会」もしくはオープンの「経基臨塾講演会」が開催されるのだが,ほとんどの卒業生が集まるため,同窓会の一面を持ち,同期の先生や敬愛する師匠と楽しい時間を共有できる場でもあった.「症例相談会」は,文字通り今悩んでいる症例の解決法を下川先生にご教示いただいて,スッキリとできる会である.相談者だけでなく参加している他の先生にとっても参考になるアドバイスが次々と出てくるので,下川先生ご本人も「発表会よりもこっちが面白いなあ」と仰っておられた.「発表会」「講演会」の発表者は立候補または指名されるが,下川先生にいかに良いコメントをいただけるか,競って症例発表を行っていた.「素晴らしい」「よう頑張っとる」「ようここまでやったのう」など,我々にとって最高に嬉しいコメントをいただけるとこの上なく幸せな気分になるのだが,その努力に反して内容次第では大きな雷が落ちることも度々で,我々インストラクターはその場の雰囲気を元に戻すことと,発表後の先生のフォローにいつも苦心していたものである.
その「経基臨塾発表会」も20回目を迎えることとなり,発表内容を元に臨床医の手引となる書籍を作ってはどうかという下川先生のご提案で今回の企画となった.ご存知のように発表会から数ヶ月後に急逝され,書籍の内容に関して直接ご指導をいただくことは叶わなかったが,当日の記録と記憶を辿り,多くの会員の協力を得て何とか完成させることができた.先生方の日々の臨床に役に立つことを望まれていたご遺志どおりにできあがっているとは言えないかもしれないが,少しでも故下川公一先生を思い出しながら,その臨床を感じ取っていただけると幸いである.
2021年3月
経基臨塾会長 徳永哲彦
下川先生に臨床の教えを乞いたいという数名の歯科医師が集まった「寺子屋セミナー」が発展した形で,1998年「下川公一臨床セミナー」が始まった.雑誌などでの案内は一切無かったにもかかわらず毎回満員で,卒業生は増え続けた.
下川先生の臨床も年々アップデートされることから,最新の知見やテクニックを卒業生にも平等に伝えるという目的と,受講された先生方がどのように実力アップされているかを確認する目的のために,年に一度卒業生を集めようということになり,経営,基礎,臨床というこのセミナーの三つの柱の頭文字をとって「経基臨塾」と銘打った会が発足した.
毎年真夏の土日を使って行われる集まりでは,土曜日に「症例相談会」と「懇親会」,日曜日には「経基臨塾発表会」もしくはオープンの「経基臨塾講演会」が開催されるのだが,ほとんどの卒業生が集まるため,同窓会の一面を持ち,同期の先生や敬愛する師匠と楽しい時間を共有できる場でもあった.「症例相談会」は,文字通り今悩んでいる症例の解決法を下川先生にご教示いただいて,スッキリとできる会である.相談者だけでなく参加している他の先生にとっても参考になるアドバイスが次々と出てくるので,下川先生ご本人も「発表会よりもこっちが面白いなあ」と仰っておられた.「発表会」「講演会」の発表者は立候補または指名されるが,下川先生にいかに良いコメントをいただけるか,競って症例発表を行っていた.「素晴らしい」「よう頑張っとる」「ようここまでやったのう」など,我々にとって最高に嬉しいコメントをいただけるとこの上なく幸せな気分になるのだが,その努力に反して内容次第では大きな雷が落ちることも度々で,我々インストラクターはその場の雰囲気を元に戻すことと,発表後の先生のフォローにいつも苦心していたものである.
その「経基臨塾発表会」も20回目を迎えることとなり,発表内容を元に臨床医の手引となる書籍を作ってはどうかという下川先生のご提案で今回の企画となった.ご存知のように発表会から数ヶ月後に急逝され,書籍の内容に関して直接ご指導をいただくことは叶わなかったが,当日の記録と記憶を辿り,多くの会員の協力を得て何とか完成させることができた.先生方の日々の臨床に役に立つことを望まれていたご遺志どおりにできあがっているとは言えないかもしれないが,少しでも故下川公一先生を思い出しながら,その臨床を感じ取っていただけると幸いである.
2021年3月
経基臨塾会長 徳永哲彦
第1章 診査・診断の重要性:診断なくして治療なし
TOPICS
1 口腔内写真 規格性のない画像では診断に必要な情報量は乏しいものとなる
2 デンタルエックス線画像 規格性のあるデンタルエックス線画像がなければ臨床は始まらない
3 歯科用コーンビームCT画像 二次元的診査の補足資料としてのフル活用を
4 診断例から 上顎大臼歯の治療には,複数の画像診断による三次元的な把握が不可欠
5 診断例から 歯周病変へのアプローチは根管治療の後に
第2章 1歯の保存・そのアプローチのいろいろ:根管治療編
TOPICS
1 非感染根管 多かれ少なかれ根管は彎曲している.根管内や根尖部の状態を正確に診断し,アプローチすることが大事
2 感染根管 起炎物質の徹底的な除去を
3 複根管歯 1根管単位で診断し,それぞれに応じた治療方針を立てよ
4 隣在歯(根)の影響 不要な治療をしない!
5 処置困難と思われる扁平根 根管の拡大,形成が難しい!視野の確保を確実に
6 樋状根 下顎第二大臼歯は樋状根と思って拡大すべし
7 エンド由来根分岐部病変 根管治療と経過観察により次のステップを決定する
8 歯根嚢胞 できるなら外科回避でいきたい!まずは非外科治療で経過観察を!
9 パーフォレーション 部位に応じた治療法選択で,パーフォレーションを生じた歯でも保存可能
10 難治性症例 難治性の症例であってもエンドの基本が保存の第1歩
11 根未完成歯 根未完成歯は通常とは異なる対応で!根尖発育術の応用
12 フェネストレーション 問題の多い歯でもまずは保存に挑みたい
13 外科的対応意図的再植 根管内からのアプローチで治らなくても根尖病変をあきらめるな
第3章 1歯の保存・そのアプローチのいろいろ:歯周治療編
TOPICS
1 骨縁下欠損 炎症と力のコントロールによる骨縁下欠損の改善
2 骨縁下欠損 低侵襲なフラップデザインでより再生に有利な環境を作る
3 骨縁下欠損 保存限界を変える再生再植
4 根分岐部病変 多角的な診査で的確な原因除去を
5 根分岐部病変 術前の病態把握がより的確な術式選択につながる
6 審美性を考慮した歯周治療 低侵襲な術式にも慎重な術前診査を
7 審美性を考慮した歯周治療 補綴治療前に修復物と調和する歯周組織を獲得しておくことが重要
8 歯周形成外科 前歯部ブリッジでは,抜歯後の歯周組織の温存をいかに図るかが大事
9 歯周形成外科 CO2レーザーは遊離歯肉移植にも応用できる
10 歯周形成外科 前歯部ブリッジポンティック部の軟組織による歯槽堤増大は,ロール法の部分層弁が効果的!
第4章 1歯の保存・歯質の温存と天然歯の保存にこだわる:患者さんの様々なニーズに応える編
TOPICS
1 CR審美修復 CR修復で術後どれだけの審美性が達成できるのか,その術前診断が重要
2 ラミネートべニア 歯周治療×ラミネートべニアの相乗効果で審美性と長期的維持安定をめざせ
3 前歯部審美補綴 一見ホープレスに見える歯でも諦めずに保存し,なおかつ審美性を獲得することは可能である
4 傾斜歯 傾斜歯の矯正による改善には圧下も同時に必要!
5 残根 歯肉縁上健全歯質の確保で残根歯を救う (1)矯正的挺出
6 残根 歯肉縁上健全歯質の確保で残根歯を救う (2)歯冠長延長術単独適応
7 自家歯牙移植 インプラントその前に (1)抜歯と同時に自家歯牙移植
8 自家歯牙移植 インプラントその前に (2)欠損部への自家歯牙移植
9 歯根破折歯 歯根破折歯を挺出させ侵襲の少ない審美修復につなげる
10 歯根破折歯 術前の骨・軟組織の状態把握が治療のスタート
第5章 総合力の活かし方・この患者をどう治す?:フルマウス編
TOPICS
フルマウス治療に生かす 下川の咬合概論
1 咬合育成 口が閉じにくく,常に歯がでた状態にある9歳の小児
2 顎関節症 咬合崩壊をきたし,かつ難治性顎関節症を有する患者
3 顎関節症 長年再発する左側顎関節痛症状に苦しんできた患者
4 インプラントを用いた咬合再構成 他院でインプラント治療を受けていたが,咬合不全により咀嚼障害に陥った患者
5 インプラントを用いた咬合再構成 一見すると難症例でも地道な治療の積み重ねでそれなりの成果が得られるケース
6 長期経過症例 包括的治療で咬合再構成を行った過蓋咬合の患者,そのエイジング
7 長期経過症例 患者に寄り添いながら,治療を行った重度歯周疾患患者
第6章 総合力の活かし方・この患者をどう治す?:義歯編
TOPICS
1 部分床義歯 長期間にわたって上顎臼歯部欠損が放置された患者
2 総義歯 顎関節症を伴う総義歯患者
3 総義歯 義歯の不適合や歯周病の放置により上下顎堤ともに吸収が大きい40代の患者
4 総義歯 すれ違い咬合でインプラントを望まない比較的高齢な患者
TOPICS
1 口腔内写真 規格性のない画像では診断に必要な情報量は乏しいものとなる
2 デンタルエックス線画像 規格性のあるデンタルエックス線画像がなければ臨床は始まらない
3 歯科用コーンビームCT画像 二次元的診査の補足資料としてのフル活用を
4 診断例から 上顎大臼歯の治療には,複数の画像診断による三次元的な把握が不可欠
5 診断例から 歯周病変へのアプローチは根管治療の後に
第2章 1歯の保存・そのアプローチのいろいろ:根管治療編
TOPICS
1 非感染根管 多かれ少なかれ根管は彎曲している.根管内や根尖部の状態を正確に診断し,アプローチすることが大事
2 感染根管 起炎物質の徹底的な除去を
3 複根管歯 1根管単位で診断し,それぞれに応じた治療方針を立てよ
4 隣在歯(根)の影響 不要な治療をしない!
5 処置困難と思われる扁平根 根管の拡大,形成が難しい!視野の確保を確実に
6 樋状根 下顎第二大臼歯は樋状根と思って拡大すべし
7 エンド由来根分岐部病変 根管治療と経過観察により次のステップを決定する
8 歯根嚢胞 できるなら外科回避でいきたい!まずは非外科治療で経過観察を!
9 パーフォレーション 部位に応じた治療法選択で,パーフォレーションを生じた歯でも保存可能
10 難治性症例 難治性の症例であってもエンドの基本が保存の第1歩
11 根未完成歯 根未完成歯は通常とは異なる対応で!根尖発育術の応用
12 フェネストレーション 問題の多い歯でもまずは保存に挑みたい
13 外科的対応意図的再植 根管内からのアプローチで治らなくても根尖病変をあきらめるな
第3章 1歯の保存・そのアプローチのいろいろ:歯周治療編
TOPICS
1 骨縁下欠損 炎症と力のコントロールによる骨縁下欠損の改善
2 骨縁下欠損 低侵襲なフラップデザインでより再生に有利な環境を作る
3 骨縁下欠損 保存限界を変える再生再植
4 根分岐部病変 多角的な診査で的確な原因除去を
5 根分岐部病変 術前の病態把握がより的確な術式選択につながる
6 審美性を考慮した歯周治療 低侵襲な術式にも慎重な術前診査を
7 審美性を考慮した歯周治療 補綴治療前に修復物と調和する歯周組織を獲得しておくことが重要
8 歯周形成外科 前歯部ブリッジでは,抜歯後の歯周組織の温存をいかに図るかが大事
9 歯周形成外科 CO2レーザーは遊離歯肉移植にも応用できる
10 歯周形成外科 前歯部ブリッジポンティック部の軟組織による歯槽堤増大は,ロール法の部分層弁が効果的!
第4章 1歯の保存・歯質の温存と天然歯の保存にこだわる:患者さんの様々なニーズに応える編
TOPICS
1 CR審美修復 CR修復で術後どれだけの審美性が達成できるのか,その術前診断が重要
2 ラミネートべニア 歯周治療×ラミネートべニアの相乗効果で審美性と長期的維持安定をめざせ
3 前歯部審美補綴 一見ホープレスに見える歯でも諦めずに保存し,なおかつ審美性を獲得することは可能である
4 傾斜歯 傾斜歯の矯正による改善には圧下も同時に必要!
5 残根 歯肉縁上健全歯質の確保で残根歯を救う (1)矯正的挺出
6 残根 歯肉縁上健全歯質の確保で残根歯を救う (2)歯冠長延長術単独適応
7 自家歯牙移植 インプラントその前に (1)抜歯と同時に自家歯牙移植
8 自家歯牙移植 インプラントその前に (2)欠損部への自家歯牙移植
9 歯根破折歯 歯根破折歯を挺出させ侵襲の少ない審美修復につなげる
10 歯根破折歯 術前の骨・軟組織の状態把握が治療のスタート
第5章 総合力の活かし方・この患者をどう治す?:フルマウス編
TOPICS
フルマウス治療に生かす 下川の咬合概論
1 咬合育成 口が閉じにくく,常に歯がでた状態にある9歳の小児
2 顎関節症 咬合崩壊をきたし,かつ難治性顎関節症を有する患者
3 顎関節症 長年再発する左側顎関節痛症状に苦しんできた患者
4 インプラントを用いた咬合再構成 他院でインプラント治療を受けていたが,咬合不全により咀嚼障害に陥った患者
5 インプラントを用いた咬合再構成 一見すると難症例でも地道な治療の積み重ねでそれなりの成果が得られるケース
6 長期経過症例 包括的治療で咬合再構成を行った過蓋咬合の患者,そのエイジング
7 長期経過症例 患者に寄り添いながら,治療を行った重度歯周疾患患者
第6章 総合力の活かし方・この患者をどう治す?:義歯編
TOPICS
1 部分床義歯 長期間にわたって上顎臼歯部欠損が放置された患者
2 総義歯 顎関節症を伴う総義歯患者
3 総義歯 義歯の不適合や歯周病の放置により上下顎堤ともに吸収が大きい40代の患者
4 総義歯 すれ違い咬合でインプラントを望まない比較的高齢な患者