やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 解剖学とは,医療系の学校でまず初めに取り組む学問です.骨学から始まり,筋学,脈管学,神経学と続いていくなかで,その形態の複雑さに戸惑い,学習すべき項目の多さから,解剖学の学習を難しいと感じる学生は少なくありません.しかし,人体のそれぞれの部位における解剖学的な形態には,必ず意味があるのです.それは,その形には「適切に機能するための重要な意味がある」ということです.解剖学を,名前を覚えるだけの学問とは思わないでください.「機能解剖学」という観点から,頭頸部の解剖の理解を深めていってほしいと考えています.
 では,機能解剖学の学習のためには,どのような機能を考えながら進めていくのが効果的でしょうか?これには,摂食嚥下という普段の食事の一連の機能をリンクさせることが最も重要です.普段何気なく食べて飲んでいる摂食嚥下機能を十分に理解し,卒業後医療の現場で,そのどこかに不自由を感じている患者と向き合う力をつけてほしいと考えています.
 こうした考えのもとに,本書では,まず摂食嚥下の概略について解説します.その一連の動作をステージで便宜的に区分けをし,それぞれのステージで学ぶべき項目をじっくり解説していきます.すなわち,摂食嚥下のある動きをイメージでき,その動きをするために必要な解剖学的知識について,順を追って理解していけるのです.本を読みながら,自分が口腔内に運ばれた「食品」だと思ってください.「口腔内に入った食品は,どの粘膜で,どの感覚神経によって感じているか?」を考えてみてください.そして,咀嚼され食塊へと変化し,咽頭から食道へと運ばれていく過程では「咀嚼から嚥下に至る動きは,どの筋によって行われているか?」「その筋はどの神経にコントロールされているか?」「その食塊がある周囲に分布する脈管は?」など,時系列で機能解剖学について学んでいってください.
 たしかに,学習すべき知識の量は膨大です.ただし,摂食嚥下の機能解剖を理解するための重要なポイントというものがあります.本書では,その重要なポイントを各章で示し,章末にポストテストとして,重要項目を確認するためのドリル形式の問題を追加しました.これを何度もくり返し解くことによって,自分の確かな知識としてください.さらには,参考までに国家試験形式(歯科医師)の問題も加えました.読者の皆さんはこれらの問題を解くだけではなく,これらを例題の提示と捉え,これらを参考に自分で多くの問題を作成してほしいと思っています.各自が問題を作成する作業によって得られる理解力の向上ははかり知れません.
 是非皆さんが本書を活用し,摂食嚥下機能について「機能解剖」という観点からの理解を深め,次のステップで「摂食嚥下リハビリテーション」について学んでいくための大切な,そして「絶対に必要な基礎力」を身につけて欲しいと願っています.
 最後に刊行にあたってご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に御礼申し上げます.
 平成26年7月 阿部伸一
 はじめに

 Prologue 1 摂食嚥下のステージ
 Prologue 2 4期モデルとプロセスモデル

第1章 摂食嚥下機能を理解するために必要な解剖学的基礎知識
 (1)口腔の構造
 (2)口腔粘膜の感覚を支配する神経
 (3)鼻腔,咽頭の解剖
  1.鼻腔 nasal cavity
  2.上咽頭(咽頭鼻部)nasopharynx
  3.中咽頭(咽頭口部)oropharynx
  4.下咽頭(咽頭喉頭部)laryngopharynx
  5.喉頭larynx
  6.気管trachea
  7.食道esophagus
 知識確認試験
 知識の確認
第2章 摂食嚥下機能に欠かせない唾液分泌
 (1)三大唾液腺
  1.耳下腺parotid gland
  2.顎下腺submandibular gland
  3.舌下腺sublingual gland
 (2)小唾液腺
  1.口唇腺labial salivary gland
  2.前舌腺 anterior lingual gland
  3.後舌腺posterior lingual gland
  4.エブネル腺gland of von Ebner
  5.頬腺buccal gland
  6.臼後腺retromolar gland
  7.口蓋腺palatine gland
  8.腺の神経支配
 知識確認試験
 知識の確認
第3章 準備期1:口腔への取り込み
 (1)咀嚼筋
  1.咬筋masseter
  2.側頭筋temporalis
  3.内側翼突筋medial pterygoid
  4.外側翼突筋lateral pterigoid
 (2)口唇と頬の動きを担う表情筋
  1.大頬骨筋zygomaticus major
  2.小胸骨筋zygomaticus minor
  3.上唇挙筋levator labii superioris
  4.上唇鼻翼挙筋levator labii superioris alaeque nasi
  5.口角挙筋levator anguli oris
  6.笑筋risorius
  7.口角下制筋depressor anguli oris
  8.下唇下制筋depressor labii inferioris
  9.オトガイ筋mentalis
  10.頬筋buccinator
  11.口輪筋orbicularis oris
 知識確認試験
 知識の確認
第4章 準備期2:咀嚼のメカニズム
 (1)頭部前額断面の解剖
 (2)咀嚼に重要な役割を担う口蓋
  1.準備期に役立つ構造
  2.口蓋とそこに分布する動脈と神経
 (3)舌の構造と機能
 知識確認試験
 知識の確認
第5章 口腔期:食塊の咽頭への送り込み
 (1)嚥下に重要な役割を担う舌骨上筋・下筋群
  1.舌骨上筋群suprahyoid muscles
  2.舌骨下筋群infrahyoid muscles
 (2)軟口蓋の筋
  1.口蓋帆張筋tensor veli palatini muscle
  2.口蓋帆挙筋levator veli palatini muscle
  3.口蓋舌筋palatoglossus muscle
  4.口蓋咽頭筋palatopharyngeus muscle
  5.口蓋垂筋palatoglossus muscle
 知識確認試験
 知識の確認
第6章 咽頭期から食道期(1) 嚥下反射の開始,咽頭通過から食道への送り込み
 (1)嚥下の中枢制御機構:延髄の構造と機能
  1.間脳diencephalon
  2.延髄medulla oblongata
 (2)咽頭挙上筋:咽頭における縦走筋
  1.茎突咽頭筋stylopharyngeus
  2.耳管咽頭筋salpingopharyngeus
  3.口蓋咽頭筋palatopharyngeus
 (3)咽頭収縮筋:咽頭における輪走筋
  1.上咽頭収縮筋superior pharyngeal constrinctor
  2.中咽頭収縮筋middle pharyngeal constrinctor
  3.下咽頭収縮筋inferior pharyngeal constrinctor
 知識確認試験
 知識の確認
第7章 咽頭期から食道期(2) 喉頭の構造と機能
 (1)喉頭の構造
 (2)喉頭弾性膜と喉頭軟骨によってつくられる喉頭腔
  1.喉頭腔の三つの内腔
 (3)内喉頭筋
  1.輪状甲状筋cricothyroid muscle
  2.後輪状披裂筋posterior crico-arytenoid muscle
  3.外側輪状披裂筋lateral crico-arytenoid muscle
  4.横披裂筋transverse arytenoid muscle
  5.斜披裂筋oblique arytenoid muscle
  6.甲状披裂筋thyro-arytenoid muscle
  7.声帯筋
  8.内喉頭筋の神経支配
 知識確認試験
 知識の確認

 「知識の確認」解答

 索引