はじめに
災害対策の目的とは,どんなことでしょうか?患者さんにとって「信頼,安心,安全」な歯科医院となることでしょうか?もしくは,地域のため,住民のため,あるいは自分のため,そして結果として住みやすい世界を作るためでしょうか?
「災害対策」というと,「やらなければいけないのはわかっているけれど,具体的にどうしたらよいのかよくわからない」という先生方も多いのではないかと思います.そのような先生方には,ぜひ本書で具体的なイメージをつけ,災害対策への一歩を踏み出していただければと思います.また,スタッフの方々にもみていただければ,歯科医院のなかで災害対策に関して話し合うきっかけにもなるのではないかと期待しています.
一方,「災害直後には命を守ることに,その後はどうやって生き延びるかということに必死だった.歯なんて気にしていられなかった」という話は多く聞きます.それならば,災害直後には歯科は不要なのでしょうか?
たかが「歯ブラシ」,されど「歯ブラシ」.
歯科としては,生活環境が整わないなかで,せめて痛くなく,きちんと噛める状態で食事をしていただきたいと思いますし,ましてや,お口がキレイにできないからといって体調を崩したり命を落としたりするようなことがあってはなりません.
歯科医療は歯科医院が担う割合が高く,歯科医院が継続できないと,地域の方々に歯科医療・歯科保健を届けることができなくなります.そういった意味で,歯科医院における災害対策は,とても重要なことです.
本書においては,「守る(ま)・開く(ひ)・届ける(と)・続ける(つ)」の4章に分けて,歯科医院において考えなければいけない災害対策について解説しました.キーワードは「ま・ひ・と・つ」と覚えておいていただき,できることから対応していきましょう.
最後に,福岡県歯科医師会の太田秀人先生には,震災支援に出務した開業医の立場から多大なるご協力をいただいたことを,この場をお借りして感謝申し上げます.
平成26年2月
中久木 康一
発刊に寄せて―災害時にこそ「生きる力を支える医療」を提供する
東日本大震災の現場へは,当初の5か月間で,被災県の歯科医師会を含め全国から延べ約2,600名の歯科医師が身元確認作業に従事し,約8,750体のご遺体の歯科所見を採取して照合にあたったことが,メディア等を通じて広く報道され社会の注目を浴びました.また一方で,避難所,被災者などへの歯科保健医療は,地元歯科医師会および大学関係者を中心に震災の起きた3月中から開始され,4月初旬からは日本歯科医師会と厚生労働省との連携による全国の歯科医療従事者(延べ約1,500名)の派遣が継続的に実施されました.
多くの自治体では歯科医師会との間に医療救護協定を結んでおり,災害時には歯科医師はこれに基づいて行動します.またこのほかに,都道府県間の相互支援協定,市町間の相互支援協定などがあり,特に阪神・淡路大震災以後,全国的に締結の動きが広まりました.さらに歯科医師会同士の協定では,被災地の情報収集,応援出動や受入れの手続き,歯科医療従事者の交通手段の確保,資器材の手当てなどが決められています.歯科は医科と異なり,ほとんどが開業医であるため,病院勤務の医師や看護師の出動よりも,さらに厳しい側面があります.
日本歯科医師会では,東日本大震災を契機に,これまでの災害時対策に関わる研修体制を見直し,平成24年度から全国7地区で災害歯科コーディネーターの養成に着手しました.災害時対策全般に係る課題に精通し,それぞれの地域でコーディネーター機能を果たせるような人材を養成することで,より多くの歯科医師が被災時に社会貢献できるよう備えるための取り組みです.
歯と口の働きを維持することで,国民の皆さんの健康度や高齢者の自立度を高めることは,もとより歯科医師会の目指すべきところであり,大規模災害時にはその必要性がさらに高まります.歯科医師一人ひとりは,災害時であろうとも,歯と口の機能を維持・改善し,食べる幸せを通じて生きる力を支える生活の医療を提供するべく,まずはそれぞれの歯科医院における防災対策を講じ,災害に備えていただきたく思います.
平成26年2月
柳川忠廣(日本歯科医師会災害時対策・警察歯科総合検討会議委員長)
災害対策の目的とは,どんなことでしょうか?患者さんにとって「信頼,安心,安全」な歯科医院となることでしょうか?もしくは,地域のため,住民のため,あるいは自分のため,そして結果として住みやすい世界を作るためでしょうか?
「災害対策」というと,「やらなければいけないのはわかっているけれど,具体的にどうしたらよいのかよくわからない」という先生方も多いのではないかと思います.そのような先生方には,ぜひ本書で具体的なイメージをつけ,災害対策への一歩を踏み出していただければと思います.また,スタッフの方々にもみていただければ,歯科医院のなかで災害対策に関して話し合うきっかけにもなるのではないかと期待しています.
一方,「災害直後には命を守ることに,その後はどうやって生き延びるかということに必死だった.歯なんて気にしていられなかった」という話は多く聞きます.それならば,災害直後には歯科は不要なのでしょうか?
たかが「歯ブラシ」,されど「歯ブラシ」.
歯科としては,生活環境が整わないなかで,せめて痛くなく,きちんと噛める状態で食事をしていただきたいと思いますし,ましてや,お口がキレイにできないからといって体調を崩したり命を落としたりするようなことがあってはなりません.
歯科医療は歯科医院が担う割合が高く,歯科医院が継続できないと,地域の方々に歯科医療・歯科保健を届けることができなくなります.そういった意味で,歯科医院における災害対策は,とても重要なことです.
本書においては,「守る(ま)・開く(ひ)・届ける(と)・続ける(つ)」の4章に分けて,歯科医院において考えなければいけない災害対策について解説しました.キーワードは「ま・ひ・と・つ」と覚えておいていただき,できることから対応していきましょう.
最後に,福岡県歯科医師会の太田秀人先生には,震災支援に出務した開業医の立場から多大なるご協力をいただいたことを,この場をお借りして感謝申し上げます.
平成26年2月
中久木 康一
発刊に寄せて―災害時にこそ「生きる力を支える医療」を提供する
東日本大震災の現場へは,当初の5か月間で,被災県の歯科医師会を含め全国から延べ約2,600名の歯科医師が身元確認作業に従事し,約8,750体のご遺体の歯科所見を採取して照合にあたったことが,メディア等を通じて広く報道され社会の注目を浴びました.また一方で,避難所,被災者などへの歯科保健医療は,地元歯科医師会および大学関係者を中心に震災の起きた3月中から開始され,4月初旬からは日本歯科医師会と厚生労働省との連携による全国の歯科医療従事者(延べ約1,500名)の派遣が継続的に実施されました.
多くの自治体では歯科医師会との間に医療救護協定を結んでおり,災害時には歯科医師はこれに基づいて行動します.またこのほかに,都道府県間の相互支援協定,市町間の相互支援協定などがあり,特に阪神・淡路大震災以後,全国的に締結の動きが広まりました.さらに歯科医師会同士の協定では,被災地の情報収集,応援出動や受入れの手続き,歯科医療従事者の交通手段の確保,資器材の手当てなどが決められています.歯科は医科と異なり,ほとんどが開業医であるため,病院勤務の医師や看護師の出動よりも,さらに厳しい側面があります.
日本歯科医師会では,東日本大震災を契機に,これまでの災害時対策に関わる研修体制を見直し,平成24年度から全国7地区で災害歯科コーディネーターの養成に着手しました.災害時対策全般に係る課題に精通し,それぞれの地域でコーディネーター機能を果たせるような人材を養成することで,より多くの歯科医師が被災時に社会貢献できるよう備えるための取り組みです.
歯と口の働きを維持することで,国民の皆さんの健康度や高齢者の自立度を高めることは,もとより歯科医師会の目指すべきところであり,大規模災害時にはその必要性がさらに高まります.歯科医師一人ひとりは,災害時であろうとも,歯と口の機能を維持・改善し,食べる幸せを通じて生きる力を支える生活の医療を提供するべく,まずはそれぞれの歯科医院における防災対策を講じ,災害に備えていただきたく思います.
平成26年2月
柳川忠廣(日本歯科医師会災害時対策・警察歯科総合検討会議委員長)
巻頭 まずは診断 歯科における災害リスクスコア
1編 守る 人・情報・歯科医院を守る
1-1.人を守る
(1) ヘルメット,ライト,靴などの装備をしっかりと
(2) 水や食料などの備蓄はどうするか?
(3) トイレの対策
(4) 温かくする,寝る
1-2.災害時に使うための情報を守る
(1) ラジオ等情報ツールの用意
(2) 避難マップ・帰宅マップの準備,連絡先等の把握
(3) 災害時に情報を得るにはどうするか?
1-3.歯科医院を守る
(1) カルテや患者の個人情報を守る
(2) その他の重要書類(実印,証券,通帳・カード,登記関係の書類など)
(3) 避難するときに持ちだす貴重品
(4) 機器・什器の転倒防止対策をしっかりと
(5) 診療所の耐震強度や地盤の強さ,海抜等を確認する
資料:備蓄品リスト
2編 開く 人を支援する/人を受け入れる
2-1.歯科医院の態勢を整える
(1) 災害時の行動を決める
(2) 訪問歯科診療中の対応は?
(3) スタッフ,家族の安否確認はどうするか?
2-2.患者,スタッフを支援する
(1) 治療中の場合にはどのように対応するか?
(2) 患者,スタッフの帰宅支援をする
2-3.地域の人々へ門戸を開く
(1) 徒歩帰宅者を受け入れる
3編 届ける 救護に出ていく
3-1.歯科医院を出て
(1) 訪問歯科診療先に対して
(2) 避難所(被災者)に対して
3-2.災害時の口腔ケアの位置づけ
(1) はじめに
(2) 急性期病院における口腔ケア
(3) 療養型病院・高齢者施設・障害者施設における口腔ケア
(4) 在宅高齢者に対する口腔ケア
(5) 避難所や被災住宅など,整わない環境下で生活する方への口腔ケア
(6) まとめ
付 アセスメントと記録
4編 続ける 再開・再建する
4-1.診療を再開する
(1) 被害状況を把握する,記録する
(2) インフラの復旧,機器の取り換えは?
(3) 再発行リスト
(4) 再開の適切なタイミング
(5) 歯科医師会,保健所への連絡
(6) 全壊の場合の再開スケジュール
4-2.罹災証明等を申請する
(1) 罹災証明の申請,給付金の申請
付/資料
付 歯科医院におけるフェーズ(半壊)
(1)「ヒト」に関するフェーズ
(2)「情報」に関するフェーズ
(3)「モノ」に関するフェーズ
(4)「カネ」に関するフェーズ
資料 歯科医院におけるリスクスコア
1編 守る 人・情報・歯科医院を守る
1-1.人を守る
(1) ヘルメット,ライト,靴などの装備をしっかりと
(2) 水や食料などの備蓄はどうするか?
(3) トイレの対策
(4) 温かくする,寝る
1-2.災害時に使うための情報を守る
(1) ラジオ等情報ツールの用意
(2) 避難マップ・帰宅マップの準備,連絡先等の把握
(3) 災害時に情報を得るにはどうするか?
1-3.歯科医院を守る
(1) カルテや患者の個人情報を守る
(2) その他の重要書類(実印,証券,通帳・カード,登記関係の書類など)
(3) 避難するときに持ちだす貴重品
(4) 機器・什器の転倒防止対策をしっかりと
(5) 診療所の耐震強度や地盤の強さ,海抜等を確認する
資料:備蓄品リスト
2編 開く 人を支援する/人を受け入れる
2-1.歯科医院の態勢を整える
(1) 災害時の行動を決める
(2) 訪問歯科診療中の対応は?
(3) スタッフ,家族の安否確認はどうするか?
2-2.患者,スタッフを支援する
(1) 治療中の場合にはどのように対応するか?
(2) 患者,スタッフの帰宅支援をする
2-3.地域の人々へ門戸を開く
(1) 徒歩帰宅者を受け入れる
3編 届ける 救護に出ていく
3-1.歯科医院を出て
(1) 訪問歯科診療先に対して
(2) 避難所(被災者)に対して
3-2.災害時の口腔ケアの位置づけ
(1) はじめに
(2) 急性期病院における口腔ケア
(3) 療養型病院・高齢者施設・障害者施設における口腔ケア
(4) 在宅高齢者に対する口腔ケア
(5) 避難所や被災住宅など,整わない環境下で生活する方への口腔ケア
(6) まとめ
付 アセスメントと記録
4編 続ける 再開・再建する
4-1.診療を再開する
(1) 被害状況を把握する,記録する
(2) インフラの復旧,機器の取り換えは?
(3) 再発行リスト
(4) 再開の適切なタイミング
(5) 歯科医師会,保健所への連絡
(6) 全壊の場合の再開スケジュール
4-2.罹災証明等を申請する
(1) 罹災証明の申請,給付金の申請
付/資料
付 歯科医院におけるフェーズ(半壊)
(1)「ヒト」に関するフェーズ
(2)「情報」に関するフェーズ
(3)「モノ」に関するフェーズ
(4)「カネ」に関するフェーズ
資料 歯科医院におけるリスクスコア








