はじめに
早いもので『よくわかる 摂食・嚥下のしくみ』を発刊してから14年,その後継本ともいえる『よくわかる 摂食・嚥下のメカニズム』を発刊してから9年が過ぎました.この間,摂食・嚥下障害に対する国民の関心も高まり,当然ながら介護・看護にあたる方々の意識・知識も高度化してきました.同時に,国民の健康長寿への関心が高まり,栄養のバランスだけでなく,しっかり噛んで食を味わうことが健康長寿への近道であるという認識から,咀嚼機能への関心も高くなってきました.
数年前から日本咀嚼学会の理事長を拝命し,学会が主催する市民フォーラムで会場の皆様からいただく質問や,アンケートに記された「咀嚼」をキーワードに健康を維持したいという回答から,「咀嚼」に関する関心の高さを実感してきました.そこで,改訂するにあたり「栄養」と「咀嚼」に関する項目を強化しました.前版でも基本方針にした「摂食・嚥下障害への対応だけでなく,その予防」を強く意識した改訂です.
また,摂食・嚥下機能の評価・訓練について生理学的観点からの解説を試みました.「摂食・嚥下機能の障害」は,原因や全身状態などによってその対処は大きく違います.実際の対処法は専門書に譲るとして,本書では一般的な評価・訓練がどのようにして構成されているのかを基礎=原理から解説してみました.特定の訓練に対していくつかの手技が提唱されますが,介護・看護の現場でどれを選択するかの判断基準として,さらには新しい手技を考えていただく際に参考になれば幸いです.
内容はかなり高度化してきましたが,医学の専門知識を持たない方にも理解していただけるように,注釈で専門用語をわかりやすく解説したり,医学特有の読みにくい用語には極力「ふりがな」を振るなど,初期の方針に変わりはありません.専門的な内容についてはadvancedで解説し,必要に応じて読み飛ばしていただく工夫もしています.さらに,介護の場面で特に必要と思われる部分には「.○介」マークをつけました.
本書の改訂にあたり,歯科衛生士の方々や基礎・臨床の先生方に専門の立場からご意見を頂戴しました.また,医歯薬出版株式会社には本書発刊の機会をいただきました.皆様のご協力に対しこの場を借りて御礼申し上げます.
2013年11月
山田好秋
第1版 はじめに
『よくわかる 摂食・嚥下のしくみ』を出版してから,ちょうど5年の歳月が流れました.前著は,歯学部の口腔生理学の講義に加え,言語聴覚士に向けた摂食・嚥下障害学の講義を重ねる経緯でできた講義ノートをまとめたものです.摂食・嚥下関連の講演に招かれた席上では,多くの方々からこの本に対するご感想やご要望をいただきました.ありがたいと思う反面,いただいたご意見を参考に少しでもよい本に改訂しなければ,という思いを抱いておりました.そんなとき,タイミングよく出版社から改訂の勧めがあり,できるだけのことをしてみようと考え,お引き受けしました.
前著は,特に医学的知識をもたない方でも無理なく読み進められるようにまとめた書でしたが,部分的に医学特有の専門用語が残っていたところがありました.今回の新装版では,そういった箇所をより理解しやすく,わかりやすく書き直したつもりです.また,新たな章や多数の図表を追加して内容を充実させました.ただし,極力専門用語の使用を避け,平易に解説することを優先したため,厳密さを多少欠く点があることをご理解いただければと思います.
日本は,世界的にみても平均寿命が長い国ですが,健康という観点で,高齢者が質の高い生活を送っているかというと,必ずしもそうであるとは言えません.また,摂食・嚥下機能は生きるために必要不可欠な機能ですが,健常者にとってはあまりに当たり前の機能であるため普段は意識されず,多少の障害があってもそのありがたみや重要性は理解しにくいようです.
今日では,医療・介護現場の方々の努力により,摂食・嚥下機能の重要性が徐々に理解され,浸透されつつあります.これまでは,摂食・嚥下障害者にどのように対処するかが課題でしたが,これからはその障害をいかに予防するか,すなわち全身の健康のなかにあって口の健康をいかに守っていくかが,話題の中心となってくるのだと思います.
本書は,食べるための体のしくみと,体を動かしている脳のしくみを解説することで,「口から食べることの重要性」を理解していただくことを目的としています.少しでも医療・介護現場の方々のお役に立ち,人々の口の健康やQOLの向上に力を添えることができれば幸いです.
最後に,本書を完成するにあたり,家族の励ましと医歯薬出版ならびに担当編集者の協力に感謝します.
2004年9月 山田好秋
早いもので『よくわかる 摂食・嚥下のしくみ』を発刊してから14年,その後継本ともいえる『よくわかる 摂食・嚥下のメカニズム』を発刊してから9年が過ぎました.この間,摂食・嚥下障害に対する国民の関心も高まり,当然ながら介護・看護にあたる方々の意識・知識も高度化してきました.同時に,国民の健康長寿への関心が高まり,栄養のバランスだけでなく,しっかり噛んで食を味わうことが健康長寿への近道であるという認識から,咀嚼機能への関心も高くなってきました.
数年前から日本咀嚼学会の理事長を拝命し,学会が主催する市民フォーラムで会場の皆様からいただく質問や,アンケートに記された「咀嚼」をキーワードに健康を維持したいという回答から,「咀嚼」に関する関心の高さを実感してきました.そこで,改訂するにあたり「栄養」と「咀嚼」に関する項目を強化しました.前版でも基本方針にした「摂食・嚥下障害への対応だけでなく,その予防」を強く意識した改訂です.
また,摂食・嚥下機能の評価・訓練について生理学的観点からの解説を試みました.「摂食・嚥下機能の障害」は,原因や全身状態などによってその対処は大きく違います.実際の対処法は専門書に譲るとして,本書では一般的な評価・訓練がどのようにして構成されているのかを基礎=原理から解説してみました.特定の訓練に対していくつかの手技が提唱されますが,介護・看護の現場でどれを選択するかの判断基準として,さらには新しい手技を考えていただく際に参考になれば幸いです.
内容はかなり高度化してきましたが,医学の専門知識を持たない方にも理解していただけるように,注釈で専門用語をわかりやすく解説したり,医学特有の読みにくい用語には極力「ふりがな」を振るなど,初期の方針に変わりはありません.専門的な内容についてはadvancedで解説し,必要に応じて読み飛ばしていただく工夫もしています.さらに,介護の場面で特に必要と思われる部分には「.○介」マークをつけました.
本書の改訂にあたり,歯科衛生士の方々や基礎・臨床の先生方に専門の立場からご意見を頂戴しました.また,医歯薬出版株式会社には本書発刊の機会をいただきました.皆様のご協力に対しこの場を借りて御礼申し上げます.
2013年11月
山田好秋
第1版 はじめに
『よくわかる 摂食・嚥下のしくみ』を出版してから,ちょうど5年の歳月が流れました.前著は,歯学部の口腔生理学の講義に加え,言語聴覚士に向けた摂食・嚥下障害学の講義を重ねる経緯でできた講義ノートをまとめたものです.摂食・嚥下関連の講演に招かれた席上では,多くの方々からこの本に対するご感想やご要望をいただきました.ありがたいと思う反面,いただいたご意見を参考に少しでもよい本に改訂しなければ,という思いを抱いておりました.そんなとき,タイミングよく出版社から改訂の勧めがあり,できるだけのことをしてみようと考え,お引き受けしました.
前著は,特に医学的知識をもたない方でも無理なく読み進められるようにまとめた書でしたが,部分的に医学特有の専門用語が残っていたところがありました.今回の新装版では,そういった箇所をより理解しやすく,わかりやすく書き直したつもりです.また,新たな章や多数の図表を追加して内容を充実させました.ただし,極力専門用語の使用を避け,平易に解説することを優先したため,厳密さを多少欠く点があることをご理解いただければと思います.
日本は,世界的にみても平均寿命が長い国ですが,健康という観点で,高齢者が質の高い生活を送っているかというと,必ずしもそうであるとは言えません.また,摂食・嚥下機能は生きるために必要不可欠な機能ですが,健常者にとってはあまりに当たり前の機能であるため普段は意識されず,多少の障害があってもそのありがたみや重要性は理解しにくいようです.
今日では,医療・介護現場の方々の努力により,摂食・嚥下機能の重要性が徐々に理解され,浸透されつつあります.これまでは,摂食・嚥下障害者にどのように対処するかが課題でしたが,これからはその障害をいかに予防するか,すなわち全身の健康のなかにあって口の健康をいかに守っていくかが,話題の中心となってくるのだと思います.
本書は,食べるための体のしくみと,体を動かしている脳のしくみを解説することで,「口から食べることの重要性」を理解していただくことを目的としています.少しでも医療・介護現場の方々のお役に立ち,人々の口の健康やQOLの向上に力を添えることができれば幸いです.
最後に,本書を完成するにあたり,家族の励ましと医歯薬出版ならびに担当編集者の協力に感謝します.
2004年9月 山田好秋
第2版 はじめに
初版 はじめに
巻頭口絵「咽頭の構造と食塊嚥下時の様子」
第1章 体を動かすしくみ
I.神経・脳・感覚器・筋の働き
1.神経
advanced 1 神経切断
2.脳
advanced 2 前頭連合野の機能
3.感覚
advanced 3 脳幹
advanced 4 痛みと関連痛
4.筋が収縮するしくみ
advanced 5 等長性収縮,伸張性収縮,短縮性収縮
II.体を意のままに動かすためのしくみ
1.運動の分類
2.反射
3.半自動運動
4.随意運動
advanced 6 随意運動と錐体路
5.随意運動と姿勢
advanced 7 運動と姿勢
6.麻痺と不随意運動
7.疲労
advanced 8 姿勢の調節機構と筋疲労
III.食べるための体の構造(摂食・嚥下器官の解剖)
1.口腔の構造
advanced 9 舌の神経支配
2.顎・口腔機能を支える筋
advanced 10 下顎の開口動作
第2章 おいしく食べるためのしくみ
I.人はなぜ食べるのか
1.代謝
2.栄養とその消化・吸収
3.サプリメントの落とし穴
II.おいしさとは
1.食べることと脳の働き
advanced 1 覚醒
2.空腹感と満足感
3.視覚・嗅覚による食物認知
4.口腔内での食認知
III.食物の取り込みと咀嚼
1.吸啜
2.咀嚼
advanced 2 吸啜
advanced 3 咀嚼時の筋活動
advanced 4 ゼリーや卵豆腐のような軟らかな食品の咀嚼
advanced 5 咀嚼運動
advanced 6 顎反射
IV.唾液
1.唾液とは
2.唾液の働き
advanced 7 唾液分泌の神経性制御機構
3.唾液の出が悪くなると
第3章 飲み込むこと
I.飲み込むこと(嚥下)の重要性
1.嚥下とは
2.嚥下の必要性
3.体の外からみた嚥下
4.体のなかからみた嚥下
II.嚥下にかかわる体の構造
1.嚥下に関与する筋群
2.鼻腔
3.咽頭
4.喉頭
5.食道
III.嚥下反射
advanced 1 摂食・嚥下運動の分類
1.嚥下時の食物の流れ
2.嚥下時の圧変化
3.気道の防御
4.嚥下の神経機構
5.嚥下のまとめ
advanced 2 中枢性制御機構
第4章 嚥下に関連する機能
I.呼吸
1.呼吸のための体のしくみ
2.呼吸反射
3.摂食・嚥下時の呼吸
II.発声
1.音声と言語
2.音声をつくり出す諸器官
3.発声のエネルギー源
4.喉頭のしくみとその働き
advanced 1 構音
advanced 2 構音点
5.母音と子音
6.構音のメカニズム
advanced 3 共鳴と気流操作
7.発声と嚥下
advanced 4 言語中枢
advanced 5 失語症
III.嘔吐
1.嘔吐とは
2.嘔吐の機序
3.嘔吐の誘発
advanced 6 嘔吐の神経機構
第5章 摂食・嚥下機能の障害
I.摂食・嚥下障害とは
1.摂食・嚥下機能を低下させる要因
2.誤嚥と誤嚥性肺炎
3.摂食・嚥下障害を疑う場合
II.摂食・嚥下の原因となる疾患
1.機能的障害
2.器質的障害
advanced 1 球麻痺と仮性球麻痺
III.加齢に伴う体の変化
1.全身への影響
2.脳への影響
3.加齢に伴う口腔周囲の変化
advanced 2 老化の局面
IV.咀嚼・嚥下機能の回復
1.口腔機能の評価方法
2.義歯などの補綴処置による咀嚼機能の回復
advanced 3 舌萎縮
3.食塊形成能の訓練
4.嚥下機能の訓練
5.食品の物性・調理方法の選択
V.おわりに
参考資料:口やのどが乾く可能性のある薬物一覧
文献
索引
初版 はじめに
巻頭口絵「咽頭の構造と食塊嚥下時の様子」
第1章 体を動かすしくみ
I.神経・脳・感覚器・筋の働き
1.神経
advanced 1 神経切断
2.脳
advanced 2 前頭連合野の機能
3.感覚
advanced 3 脳幹
advanced 4 痛みと関連痛
4.筋が収縮するしくみ
advanced 5 等長性収縮,伸張性収縮,短縮性収縮
II.体を意のままに動かすためのしくみ
1.運動の分類
2.反射
3.半自動運動
4.随意運動
advanced 6 随意運動と錐体路
5.随意運動と姿勢
advanced 7 運動と姿勢
6.麻痺と不随意運動
7.疲労
advanced 8 姿勢の調節機構と筋疲労
III.食べるための体の構造(摂食・嚥下器官の解剖)
1.口腔の構造
advanced 9 舌の神経支配
2.顎・口腔機能を支える筋
advanced 10 下顎の開口動作
第2章 おいしく食べるためのしくみ
I.人はなぜ食べるのか
1.代謝
2.栄養とその消化・吸収
3.サプリメントの落とし穴
II.おいしさとは
1.食べることと脳の働き
advanced 1 覚醒
2.空腹感と満足感
3.視覚・嗅覚による食物認知
4.口腔内での食認知
III.食物の取り込みと咀嚼
1.吸啜
2.咀嚼
advanced 2 吸啜
advanced 3 咀嚼時の筋活動
advanced 4 ゼリーや卵豆腐のような軟らかな食品の咀嚼
advanced 5 咀嚼運動
advanced 6 顎反射
IV.唾液
1.唾液とは
2.唾液の働き
advanced 7 唾液分泌の神経性制御機構
3.唾液の出が悪くなると
第3章 飲み込むこと
I.飲み込むこと(嚥下)の重要性
1.嚥下とは
2.嚥下の必要性
3.体の外からみた嚥下
4.体のなかからみた嚥下
II.嚥下にかかわる体の構造
1.嚥下に関与する筋群
2.鼻腔
3.咽頭
4.喉頭
5.食道
III.嚥下反射
advanced 1 摂食・嚥下運動の分類
1.嚥下時の食物の流れ
2.嚥下時の圧変化
3.気道の防御
4.嚥下の神経機構
5.嚥下のまとめ
advanced 2 中枢性制御機構
第4章 嚥下に関連する機能
I.呼吸
1.呼吸のための体のしくみ
2.呼吸反射
3.摂食・嚥下時の呼吸
II.発声
1.音声と言語
2.音声をつくり出す諸器官
3.発声のエネルギー源
4.喉頭のしくみとその働き
advanced 1 構音
advanced 2 構音点
5.母音と子音
6.構音のメカニズム
advanced 3 共鳴と気流操作
7.発声と嚥下
advanced 4 言語中枢
advanced 5 失語症
III.嘔吐
1.嘔吐とは
2.嘔吐の機序
3.嘔吐の誘発
advanced 6 嘔吐の神経機構
第5章 摂食・嚥下機能の障害
I.摂食・嚥下障害とは
1.摂食・嚥下機能を低下させる要因
2.誤嚥と誤嚥性肺炎
3.摂食・嚥下障害を疑う場合
II.摂食・嚥下の原因となる疾患
1.機能的障害
2.器質的障害
advanced 1 球麻痺と仮性球麻痺
III.加齢に伴う体の変化
1.全身への影響
2.脳への影響
3.加齢に伴う口腔周囲の変化
advanced 2 老化の局面
IV.咀嚼・嚥下機能の回復
1.口腔機能の評価方法
2.義歯などの補綴処置による咀嚼機能の回復
advanced 3 舌萎縮
3.食塊形成能の訓練
4.嚥下機能の訓練
5.食品の物性・調理方法の選択
V.おわりに
参考資料:口やのどが乾く可能性のある薬物一覧
文献
索引








