やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに―患者さんは,漢方を求めています―
 2003 年に信州の地で,『今日からあなたも口腔漢方医 チェアサイドの漢方診療ハンドブック』(医歯薬出版刊)を医師である父 王 龍三と書き上げました.それから今日まで,歯科医療においては従来からの口腔外科的な治療に加えて,口腔乾燥症,舌痛症,味覚障害,口内炎,口臭症など,いわゆる口腔の慢性疾患を薬物療法で対応していく口腔内科的な医療が普及してきたと思います.そのなかで,漢方薬という治療方法は,患者さんのニーズに対応していることを附属病院の口腔内科で私自身実感してきました.今,患者さんは漢方を求めているのです.
 本書『続今日からあなたも口腔漢方医 口腔疾患別漢方診療ハンドブック』は,まず,私が漢方医学の基礎や歴史的背景,あえて漢方を導入するための入門編としての症例漢方療法を紹介します.その次に「証」に関してお話ししていきます.さらに応用編では,全国の歯科で漢方薬を投与しておられる口腔漢方の名医に,口腔疾患別の治療法を教えていただきます.執筆して頂いた名医の先生方に深く感謝いたします.
 読者の先生方が,この書を手に入れた段階で,もう口腔漢方医です.本書でも触れましたが,治療法のマニュアルは先生方ご自身が臨床経験で確立していくものです.先生方が日々の臨床で漢方薬を処方され研鑽を積まれ,名医になられるための一冊になれば幸いです.
 また本書では,東洋医学,漢方医学,中国医学が時として混同している場合がありますが,すべてを広義に東洋医学として捉えていただければと思います.本書を通じお知り合いになれた先生方と,全国の学会や講演会場でお会いできることを楽しみにしております.
 2012 年 大阪の地より
 王 宝禮
 はじめに ―患者さんは,漢方を求めています―……III
1 歯科医療のなかで求められる東西融合医療を知ろう(王 宝禮)
2 西洋医学と東洋医学の違い(王 宝禮)
3 中国医学と漢方医学の違い(王 宝禮)
4 漢方医学のおさえておきたい歴史の知識(王 宝禮)
5 入門編:さあ,今日からできる口腔漢方療法(王 宝禮・王 龍三)
 1.何故,歯科医療に漢方薬治療が普及しないのか?
 2.まず, 歯科口腔疾患への症例漢方療法を学ぼう
 3.では,漢方薬を投与する前に―治療のマニュアルは自分で確立していく
 4.それでは,始めよう―口腔漢方療法
 5.入門編 漢方薬の選択方法
  1)第一選択薬 2)第二選択薬
 6.本治と標治の考え方
6 歯科開業医・歯科口腔外科の漢方処方の現状(砂川正隆)
 1.歯科口腔外科領域における漢方薬使用状況
 2.歯科口腔外科における漢方薬の保険適用
 3.漢方治療の対象疾患
 4.歯科口腔外科領域で使用されている漢方薬
7 歯科医師が行う舌診の有効性(柿木保明)
 1.高齢社会における医療動態の変化
 2.舌に表れる全身の健康状態について
 3.プライマリケアとしての舌診
 4.舌診による新しい歯科医療の展開
8 漢方処方(王 龍三・王 宝禮)
9 漢方医学による診断法の基礎―陰陽・虚実・寒熱・表裏・六病(王 龍三・王 宝禮)
 1.知らなければならない漢方医学理論
 2.漢方処方が選択されるまで
  1)生体情報の収集(望・問・聞・切) 2)陰陽理論とは
  3)虚実 4)寒熱 5)表裏 6)六病位 7)気血水 8)五臓
10 漢方医学治療の考え方―四診からわかる「証」―(王 宝禮)
 1.日本漢方の診断および治療方法
 2.四診のポイント
  1)望診 2)聞診 3)問診 4)切診
11 漢方薬の薬物学的なお話し―漢方薬の分類―(王 宝禮)
 1.方剤とは
 2.いろいろな方剤
  1)桂枝湯類 2)柴胡剤 3)瀉心湯類 4)麻黄剤 5)附子剤 6)地黄剤 7)人参湯類 8)参耆剤 9)石膏剤 10)気剤 11)駆お血剤 12)利水剤
12 剤 形(王 宝禮)
 1.漢方薬の剤形
  1)湯液 2)丸剤 3)散剤 4)エキス剤(顆粒)
13 漢方煎じ薬と漢方エキス製剤の違い(王 宝禮)
 1.煎じ薬とは
 2.エキス製剤とは
 3.「煎じ薬」と「エキス製剤」は何が違うか?
14 漢方基礎医学研究(王 宝禮)
 1.歯周病培養モデルに対する漢方薬の抗炎症作用の解明
 2.ニフェジピン誘導歯肉増殖症に対する漢方薬の抑制効果
 3.糖尿病性口腔乾燥症モデル動物に対する漢方薬の唾液分泌改善機構
 4.田七による抜歯窩に対する止血作用機構の解明
 5.漢方煎じ薬と漢方エキス顆粒の生薬における特有成分比較解析研究
応用編 名医が教える実践口腔疾患別漢方治療法
〈名医の扉を開く前に〉
(1)口内炎(久保茂正)
 1. 西洋医学的な疾患と治療の考え方
 2. 漢方医学における病態と特徴
 3. 漢方薬の選択
  1)実証 2)虚証
 4. 症例
(2)舌痛症(椋梨兼彰)
 1.西洋医学的な疾患としての治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.舌痛症に処方する漢方薬
 4.症例
(3)口腔乾燥症(瀧沢 努)
 1.西洋医学的な疾患としての治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.漢方薬の選択
 4.症例
(4)味覚障害(松本考司・久保伸夫)
 1.味覚障害とは
 2.味覚障害の現状
 3.味覚障害の原因
 4.味覚障害の西洋医学的治療
 5.味覚障害と漢方薬
 6.漢方薬の使用経験
(5)歯周病(英保武志)
 1.西洋医学的疾患と治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
  1)免疫低下型 2)加齢型 3)炎症型 4)微小循環障害型(血お証)
 3.漢方薬の選択
 4.症例
(6)口臭症(亀山敦史)
 1.西洋医学的な疾患と治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
  1)実熱タイプ 2)陰虚タイプ 3)水滞タイプ 4)心火タイプ
 3.各タイプ別の治療方針と漢方薬の選択
  1)実熱タイプ 2)陰虚タイプ 3)水滞タイプ 4)心火タイプ
 4.症例
(7)顎関節症(小澤夏生)
 1.西洋医学的な疾患としての治療の考え方
 2.東洋医学における病態と特徴
 3.漢方薬の選択
 4.症例
(8)口腔癌(山口孝二郎)
 1.西洋医学的な疾患としての治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.漢方薬の選択
 4.症例
(9)顔面神経麻痺(別部智司)
 1.西洋医学的な疾患と治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.症例
(10)三叉神経麻痺・知覚麻痺(別部智司)
 1.西洋医学的な疾患と治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.症例
(11)歯痛・抜歯後疼痛(柿木保明)
 1.西洋医学的な疾患と治療の考え方
 2.漢方医学における病態と特徴
 3.漢方薬の選択
 4.症例
(12)口腔不定愁訴(王 宝禮)
 1.口腔不定愁訴の考え方
 2.漢方医学からみた口腔不定愁訴
 3.口腔不定愁訴に対する漢方薬の選択の考え方

 CORUMN 覚えて欲しい漢方用語(砂川正隆)
  心身一如(しんしんいちにょ)
  未病(みびょう)
  四診(ししん)
  証と弁証(しょうとべんしょう)
  気血水(きけつすい,気血津液 きけつしんえき)
  八綱(はっこう)
  五行(ごぎょう)
  臓腑(ぞうふ)
  六病位(ろくびょうい)
  弁証論治と方証相対(べんしょうろんちとほうしょうそうたい)
  同病異治と異病同治(どうびょういちといびょうどうち)
  標治と本治(ひょうちとほんち)
 まとめとして ―さあ,口腔漢方を始めましょう

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