やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

歯を守るためには
 臨床に入って40年あまりになります.
 永年,通院してくださっている患者さんの経過を見ての臨床実感として,「歯を失ってしまう原因」は大きく分けて以下の5つであると考えています.
 (1)治療の質が悪い.
 (2)患者さんの手入れが不十分.
 (3)定期的なチェックをしていない.
 (4)歯に過剰な力がかかる.
 (5)心身の健康状態のバランスが崩れる.
 このうちの(1)(2)(3)に関しては,開業以来ずっと,「歯を守る3本柱」として患者さんに説明してきたことです.けれどもここ数年,「歯を壊す」原因はそれだけではないと思わせられることに遭遇してきました.
 (4)の「歯に過剰な力がかかる」は,15年くらい前に追加せざるをえなくなった項目です.患者さんも私たちも責任を果たしているにもかかわらず,歯にかかる力の負担に耐えきれなくて抜歯しなければならなくなってしまう場合があります.歯は年齢とともに劣化しているのに,そこにかかる力は変わらない,あるいはその歯にかかる力がむしろ大きくなってしまったことが原因で,「歯の存続」が危機にさらされるのです.
 (5)は「心と体が健康でなくなった」ことに起因する合併症です.私の患者さんも歳をとられて,「老化」「心身の病い」と向き合わなければならない方が増えてきました.それまでずっとよい状態を保ってきたのに,突然悪化してくる事例を多々経験するようにもなりました.心身が健康でないと,お口の中を健康に保つことが難しくなってきます.逆に,お口の健康が失われることで,老化を早めてしまうこともあります.これらは,患者さんも私も若かった頃には想定外のことでした.臨床経験の長さ,いいかえれば私の老化とともに患者さんの体の中に浮き彫りになってきた現実です.
 そんな想いのなかで,1989年に上梓した『歯苦歯苦─歯槽膿漏激闘編』の20年後を,もう一度書いてみることにしました.歯を守るための一助となることを願っています.
 2010年盛夏
 北川原 健
第1章 歯周病治療の体験記から
 (1)この分だと,生あるかぎり自分の歯を守りとおせる
 (2)本当に,本当に,治したかった
 (3)これはなんとかなるぞ!
 (4)しみじみ歯の大切さを知る
 (5)これからも手抜きしませんから
 (6)歯ブラシ10分,ガーゼひも10分/テレビを見ながら楽しく磨いています
 ・あなたにとって歯の価値とは?
第2章 どんなふうに治すのか?治るのか?そしてその後は?
 (7)歯周病治療の検査
 (8)歯周病はどう治療するのか?
 (9)歯周病治療の実際/基本治療
 (10)歯周病治療の実際/歯を動かす
 (11)歯周病治療の実際/歯周外科処置,抜歯
 (12)強い力/なんでも食べられることは幸せなのですが
 (13)長期にわたって健康が保たれている症例
 (14)定期検診の重要性
 ・患者さんとこんなおつきあいができれば/あとがきにかえて