やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 インプラント治療を自院に取り入れて16年が経ちました.
 当初は術後の合併症やインテグレーションの獲得という初期段階での成否に一喜一憂する日々を送っていましたが,現在は術後の仕上がりにこだわり,患者さんにとってのより快適な治療結果を求めています.
 そのためには,インプラント植立時における位置や方向の設定をより厳密にするとともに,硬・軟組織のマネージメントを適切に行わなくてはなりません.また一方で,全顎的な治療のなかでのインプラントの位置づけや意味合いを重要視するようにもなりました.インプラントは「インプラントのためのインプラント」であってはならず,あくまで顎口腔機能の回復や保全とともに残存天然歯の保全に役立つものでなければならないと現在では考えています.
 院外に目を向けると,インプラント治療は,確実に一般社会に浸透しつつあります.多くのメディアでも取り上げられるようになりました.そして,以前はネガティブな記事が大半だったように記憶していますが,現在は有効性を伝える記事も多くなっています.
 また,インターネットなどの情報網の発達は,インプラント治療の進化をダイレクトに伝えており,患者さんは,「成功してあたりまえ」「きれいに仕上がってあたりまえ」と思い込んで歯科医院を訪れます.そのような,患者さんのある意味では「過剰な期待」というプレッシャーのなかで治療を行っているというのが私たちの現状です.
 そして,多様で複雑化した医療を行うには,チーム医療が必須であると叫ばれて久しいのですが,いっしょにチームを組むメンバーの仲が悪いと,スムーズな意思伝達ができず,医療事故につながりやすいといわれています.反対に,メンバーの仲がよすぎても,ややもすると緊張感を失いやすいためマイナスだともいわれ,チームを良好に維持していくのはなかなか難しいものです.ともあれ,信頼関係で結びついた良好なチームは,個々の人間の実力にプラスの効果を与えます.
 歯科医療のどの面でもそうなのですが,まだまだ新しいインプラント治療の場合,チームを構成するすべてのメンバーが,日々勉強し努力をすることが求められるのです.個々のレベルを上げることはチーム全体のレベルの押し上げにつながります.チームとしてのレベルの向上は,患者さんの満足につながります.そして,それぞれの歯科医院のレベルの向上は,ひいては歯科界全体のレベルの向上につながり,結果として国民の幸せにつながることと思います.
 本書はそのような期待をこめて上梓しました.そんな私たちの思いが読者の皆様に伝われば,このうえない喜びです.
 2009 年 初夏
 医療法人 水上歯科クリニック 水上 哲也
第 1 章 インプラントについての基礎知識
 (1)基本として知っておきたいこと―インプラントを選んで使用していますか?
  インプラントの発展
  材質・形状の発展と分類
  1 回法・2 回法の分類
  植立方法の分類
  インプラント体植立に必要な条件
  インプラント体選択基準のまとめ
 (2)治療の流れと術式の概要―インプラントの術式を選んでいますか?
  インプラント治療の概要を知る
  術式の選択
  抜歯後即時植立,待時植立
  植立と同時の骨造成術
  2 回法を選択したときの軟組織増大術
 (3)診査・診断―インプラント体の植立がすべてだと思っていませんか?
  インプラント治療の診査・診断
  診査・診断の 3 ステップ
  全身的診査
  口腔内診査
  模型上での評価
  X線診査
 (4)治療計画―インプラント治療のゴールを決めていますか?
  治療目標の設定
  治療目標
  インプラントの治療計画
 (5)環境の整備―インプラント体植立に向けての準備は十分ですか?
  なぜ環境の整備が必要か?
  広義の術前処置
  インプラント体植立部位の術前処置
 (6)院内システム構築の必要性―インプラント治療を院長一人でしていませんか?
  インプラント治療に対する心構え
  チームアプローチ
  院内システムの構築
  コアの枝葉としてのマニュアルや,コンセプト共有の場
  担当歯科衛生士の重要性
  インプラント治療における院内システム
  院内システム構築の利点
第 2 章 術前準備
 (1)術前診査―インプラント体の植立前に調べておくこととは?
  全身的診査
  口腔内診査/口腔内一単位の診査
  口腔内の局所診査
  模型診査
 (2)診断用テンプレートの作製―インプラント治療には必須
  トップダウントリートメント
  診断用テンプレートの意義
  植立位置決定のルール
  サージカルガイドの作製法
  シミュレーションソフトとナビゲーションシステム
 (3)画像診断―CTを撮影するだけで安心していませんか?
  X線診断
  CTでの画像診断
  解剖学的特徴
  植立位置の診査
 (4)自院にとって最適なシステムとは―POI-EXシステム
  当院で使用しているインプラントシステム
 (5)器材の基礎知識-インプラント治療では滅菌が重要
  清潔/不潔の概念
  器材の準備
  手術場所の環境整備
第 3 章 インプラント治療の実際
 (1)麻酔―インプラント手術の最初のステップ
  苦痛を少なく
  麻酔薬
  麻酔薬の使用に際し注意すべき全身疾患
  麻酔の基本は浸潤麻酔
 (2)切開―術後の瘢痕は切開・剥離によって状態が変わります
  切開の方向・位置・角度
  切開方法
  剥離
  剥離子の使用法
  減張のための切開
 (3)インプラント窩の形成と植立―ドリリング時のコントロール
  骨の解剖
  インプラント窩の形成
  骨質によるドリリングのコントロール
  インプラント体の植立
 (4)縫合―基本はゆったりと確実に
  縫合法の種類と原則
  縫合糸
  縫合針
  針の把持
  インプラント手術での基本の縫合
  持針器とハサミ(剪刀)
 (5)二次手術―インプラント機能開始の準備
  二次手術とは
  二次手術の分類
  結合組織移植片を採取するときの注意点
 (6)補綴処置への移行―インプラント治療の最終ステップ
  補綴処置への移行
  インプラント体レベルの印象とは
  印象方法
  プロビジョナルレストレーションの装着
  補綴様式
  アバットメントの選択
  最終印象
  最終補綴装置の装着
  インプラントの咬合
第 4 章 歯科衛生士の役割とコンサルテーション
 (1)インプラント治療と歯科衛生士―トータルコーディネーターになりませんか?
  クリニカルコーディネーターの必要性
  インプラント治療へのかかわりは楽しい
 (2)歯周基本治療―これなくしてインプラント治療はできません
  歯周組織の状態とパーソナリティーの把握
  患者さんとの信頼関係の構築
  治療にかかわる情報の収集とメインテナンスの重要性を伝えること
  治療期間の短縮/細菌検査の利用や短期間での SRP
 (3)コンサルテーションのための準備―資料は事前に入念に
  カンファレンスで治療計画を検討する
  資料の準備
 (4)コンサルテーションで伝えること―重要なことをシンプルに
  なぜコンサルテーションが必要なのか
  コンサルテーションで必ず話さなければならないこと
  契約
 (5)コンサルテーションの実際―資料の準備と手順の確認はできていますか?
  準備を十全に
  コンサルテーションの手順と時間
  すれ違いを防ぐために
  コンサルテーションを行う場所
  よく聞かれる質問に対する答え
 (6)手術前の準備―不安なく手術を受けてもらえますか?
  インプラント体植立手術日の予約
  事前準備
  インプラント体植立手術直前に患者さんに伝える注意事項
 (7)術中の患者ケアとアシスタントの役割―外科手術がスムーズに進行するように
  インプラント体植立手術時のアシスタントの役割
  手術直前の患者ケア
 (8)第一アシスタント・第二アシスタントの役割―自分の責任を果たせていますか?
  第一アシスタントの役割
  第二アシスタントの役割
  シミュレーション
 (9)手術直後の説明と患者ケア―植立が終了したことでほっとしていませんか?
  手術が終わったら
  おもな注意事項
  当日帰宅後の電話確認
 (10)補綴治療についての説明とケア―おいしく食事をしていただけますか?
  ステップと期間を説明する
  プロビジョナルレストレーションの役割
  上部構造の材質の確認
 (11)メインテナンス―ここからがスタートです
  メインテナンスは新たなスタート地点
  インプラント治療の失敗とは
  インプラント機能後の合併症
  メインテナンス時の注意点
  歯科衛生士としての対応
 (12)当院で使用している器材―準備をしっかり行いましょう
  器材について,熟知する
  用語解説

 参考文献
 索引