やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

フレッチャーさんと私─序にかえて─
 昔から医師や歯科医師が「健康を保つのには,よく噛むことが大事だ」という話をする場合,国際的にも有名なフレッチャーさんのことを話題に取り上げ,指導していました.
 今からおよそ百年も前に,フレッチャーさんは,独自の体験,そして健康法や栄養の勉強を熱心に続け,生理学の権威者たちの協力により学問的な裏づけも得て,世界に向かって『噛む健康法・フレッチャーイズム』を紹介し,「これをもってして健康の福音なり」と高らかに唱えたのでした.彼は,日本にも講演に訪れ,わが国でも熱心な多くの信奉者ができました.
 私は1991年に,絵本『フレッチャーさんの大発見(日本図書館協会推薦図書)』を出版しました.今回,さらにフレッチャーさんに関しての文献を集め,小学校高学年〜中学生,あるいは食に関心のある方々,学校教育関係者や保健関係,栄養の専門家の方々などに理解していただけるように読み物としてまとめてみました.少し専門的になってしまったところもありますが,健康を求める現在に通じる知恵として,正しくフレッチャーイズムを紹介したかったのです.
 この本は,約百年前,本当に実在していた時計商で裕福なフレッチャー(Horace Fletcher)(184901919)という人の一生涯について書いたお話です.
 お医者さんでも歯医者さんでもない彼が,1897年に『噛む健康法・フレッチャーイズム』をあみだしました.彼の長年のたゆまぬ努力はとうとう認められ,世界中に広まり,有名になりました.諸国で講演していますが,日本にも二度訪れ,滞在し,講演などを行いました.
 さて『噛む健康法・フレッチャーイズム』を,わかりやすく要約すると,「毎回食べすぎには注意しているけれど,しかし,体重は増え続ける」という人には,「食事制限や食欲を我慢する苦労もなければ,ダイエット食品やサプリメントでお金をかける心配もない.よく噛むということだけに注意すれば,自然に食べすぎも解消する……」ということです.
 いつでも誰でもが取り組める,食事の時にほんの少しの努力さえすれば,簡単にできて,食物をいつでもおいしく食べられ,しかもエネルギー効率という面でもすぐれ,持久力も上がるというよいことづくめの方法なのです.
 この本の中ごろに,『噛む健康法』の虎の巻─本当の食べ方12条を紹介してあります.ぜひ,これを実行して,メタボを解消したり,体力を維持したりしながら健康を生涯保ち,自分本来の生活を楽しんでほしいと願っています.
 (市来英雄)
・フレッチャーさんと私─序にかえて─
・ちょっと調子が変だぞ
・フレッチャーさんの失望と反省
・フレッチャーさんと日本
・治療に専念するため外国へ
・ブラッドストーン首相の健康法
・自分の体を実験台として研究する
・身体に奇跡が起こった
・『噛む健康法』の虎の巻―本当の食べ方12条
・外国に飛び出したフレッチャーさん
・200キロの自転車走行に挑戦
・鍛えた筋肉は,正しい養生をすれば衰えない
・ケンブリッジ大学での検証
・生まれ故郷では,にせ学者呼ばわり
・有名教授も叫んだ「信じられない!」
・「自分を実験対象に」と申し出る
・一流選手よりもよい成績を出す不思議な力
・握手を求めたチッテンデン教授
・ベルツ先生の日本人の生活の観察記録
・体験談を出版
・3枚の写真
・ようやくかなった日本再訪
・盛んだった「よく噛んで食べる」運動
・ヨーロッパやロシアの信奉者たち
・フレッチャーさん,ボランティアに尽くす
・フレッチャーさんの死
・現在の日本と『噛む健康法』

解説編 フレッチャーさんの『噛む健康法』について
・歯を失っている人・義歯の人のためのフレッチャーイズムは?
・糖尿病の1600キロカロリー食とフレッチャーイズム
・メタボリックシンドロームの視点では?
・歯周病による全身への深刻な健康障害
・噛むことと,物忘れ・老化・脳卒中・認知症などの予防と進行防止
・噛むことの素晴らしい効果がぞくぞくと
・おわりに

 ・本文中の*注の解説
 ・参考・引用文献