やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 臨床において,二剤以上を処方することは頻回にみられる.それは,ときとして相加,相乗的に薬効を発現させることを可能とするが,ある薬剤が他の薬剤の体内動態に及ぼす影響をなおざりにすると,重篤な弊害を誘発することになりかねない.
 こうした薬剤の相互作用は,大別すると標的組織における感受性変動に起因する薬力学的相互作用と,薬剤吸収,組織分布,肝臓での代謝および排泄などの変化に起因する薬物動態学的相互作用の二つに分類することができる.前者は,薬剤相互の協力作用あるいは拮抗作用に基づくもので,ときとして相加,相剰作用により治療効果をあげたり,拮抗作用により副作用を軽減する場合もある.しかし,拮抗作用による治療効果の減弱,あるいは相加,相乗作用により副作用が増強する例もあり,いうに及ばないが臨床家はその作用機序を熟知しなくてはならない.一方動態の変化に伴う後者でも,禁忌に該当するような事態が生じることがあり,細心の注意を払う必要がある.
 しかも,こうした薬剤の相互作用は,歯科治療時に処方する薬剤間の問題にのみ留意すればよいわけではない.高齢社会の進展は著しく,多剤服用の患者が来院する機会も増えるであろう.そうしたなかで,他科で処方されている薬剤との相互作用に留意した臨床を心がけなければならないのは自明である.
 さらに,このような薬剤による為害作用の問題は,相互作用に限った話ではない.たとえば医科処方の薬剤により,口腔状態,さらには循環動態の変動やクリアランスの低下など,歯科治療上になんらかの影響を及ぼすような副作用が発現している可能性もある.また,歯科治療時に処方した薬剤の副作用によって,ときとして患者の生命にかかわるような危険を招くこともありうる.そこで,これら2点に着目し,歯科臨床と絡めて個々の薬剤の注意事項についてまとめたものが本書である.すなわち,1編では歯科で処方される薬剤について為害作用を招く併用薬,副作用あるいは禁忌症を列挙し,一方2編では,医科で処方される薬剤について歯科でおもに処方される薬剤との相互作用,あるいは歯科治療に何らかの影響を及ぼすような副作用をできるだけ収載してみた.
 昨今,医療保険制度上の「後押し」もあり,後発医薬品の台頭がめざましい.ここで忘れてはならないのが,医療費を充当する財源,あるいは臨床家の保険請求上の問題もさることながら,患者が上質の薬物治療を安心して安価に享受することこそにプライオリティが置かれなくてはならないということだ.すなわち,歯科医師はあまたの薬剤について上記のような注意事項を熟知し,日々更新される薬剤情報に敏感でいなくてはならないといえよう.そこで本書では,相互作用,副作用に焦点をあわせるとともに,頁の都合等で限界もあったが,少しでも多くの商品名を網羅することに専心したつもりでもいる.
 本書を紐解くことによって,一つでも多くの薬剤処方時の不安が解消され,ひいては患者が安全な医療を享受することにつながれば,これ以上の幸せはない.
 最後に,本書編纂にあたってお力添えいただいた著者の皆様,関係諸氏に懐心より感謝申し上げます.
 平成19年9月
 五十嵐治義
 池田正弘
 薬剤相互作用のためのスクリーニング表(池田正弘)
 日本標準商品分類における薬効分類
 本書の使用にあたって
1編 歯科で処方する薬剤
1章 抗菌薬(五十嵐治義)
 (1)セフェム系
 (2)マクロライド系
 (3)ニューキノロン系
 (4)ペニシリン系
 (5)ペネム系
 (6)ケトライド系
 (7)テトラサイクリン系
 (8)クロラムフェニコール系
 (9)リンコマイシン系
 (10)歯科適応のない抗菌薬
2章 抗真菌剤・抗ウイルス剤(五十嵐治義)
 (1)抗真菌剤
 (2)抗ウイルス剤
3章 解熱鎮痛消炎剤(五十嵐治義)
 (1)非ピリン系解熱鎮痛剤
  アニリン系
 (2)酸性NSAIDs
  サリチル酸系 アントラニル酸系 アリール酢酸系 プロピオン酸系 オキシカム系
 (3)塩基性NSAIDs
 (4)配合剤
 (5)漢方薬
4章 酵素製剤(消炎酵素剤)(池田正弘)
5章 歯科口腔用薬(池田正弘)
 (1)口腔用軟膏剤
  パスタ・抗生物質パスタ
 (2)歯科用軟膏剤
 (3)洗口剤
 (4)トローチ剤
 (5)歯科用挿入剤(コーン)
 (6)歯肉包填剤(歯周包帯)
 (7)局所性止血剤
 (8)歯周疾患治療薬(歯槽膿漏症治療薬)
 (9)その他の口腔用薬
6章 その他の処方薬(池田正弘)
 (1)催眠鎮静剤,抗不安剤(精神神経用剤)
  催眠剤 抗不安剤(精神神経用剤)
 (2)三叉神経用薬(抗てんかん剤)
 (3)抗ヒスタミン剤
 (4)消化器官用薬
  健胃消化剤 制酸剤 消化性潰瘍用剤 整腸剤
 (5)ビタミン剤
 (6)タンパクアミノ酸製剤
 (7)止血剤
  止血剤(全身投与) 局所止血剤
 (8)坐剤
7章 麻酔剤(杉山 勝)
 (1)局所麻酔剤
 (2)麻酔前投薬
 (3)全身麻酔剤
 コラム 小児への処方について(五十嵐治義)
 コラム 服薬指導・薬剤情報提供(五十嵐治義)
 コラム 処方箋(池田正弘)
2編 歯科以外で処方するおもな薬剤
1章 中枢・末梢神経系用薬(池田正弘)
 (1)催眠鎮静剤,抗不安剤
 (2)精神神経用剤(抗うつ剤)
 (3)自律神経剤
 (4)抗てんかん剤
 (5)抗パーキンソン剤
2章 抗炎症作用,解熱鎮痛作用を持つ薬剤(池田正弘)
 (1)抗炎症薬
  ステロイド性抗炎症薬(副腎ホルモン剤) 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
 (2)解熱鎮痛剤
 (3)抗リウマチ剤
 (4)痛風治療剤
3章 感覚器官用薬(池田正弘)
 (1)眼科用剤
 (2)耳鼻科用剤
4章 循環器官用薬(池田正弘)
 (1)心臓疾患用薬
  強心剤 不整脈治療薬
 (2)血圧改善用薬
  降圧作用をもつ薬剤(利尿剤,血圧降下剤) 低血圧治療薬 血液循環改善薬
 (3)その他の循環器官用薬
  脳代謝賦活薬 高脂血症治療薬 血行障害改善薬(血液凝固阻止剤,抗血小板剤,抗血栓剤)
5章 呼吸器官用薬(池田正弘)
 (1)鎮咳剤
 (2)気管支拡張剤
 (3)去痰剤
 (4)喘息発作予防薬
 (5)抗アレルギー剤
6章 消化器官用薬(池田正弘)
 (1)消化性潰瘍用剤
 (2)鎮痙剤
 (3)健胃消化剤
7章 ホルモン剤(池田正弘)
8章 泌尿生殖器官用薬(池田正弘)
9章 その他の代謝性医薬品(池田正弘)
 (1)痛風治療剤
 (2)糖尿病用剤
10章 外皮用薬(池田正弘)
11章 骨粗鬆症治療薬(池田正弘)
12章 滋養強壮薬(池田正弘)
13章 腫瘍用薬(池田正弘)
14章 病原生物に対する医薬品(五十嵐治義)
 (1)サルファ剤
 (2)抗結核剤
 (3)抗ウイルス剤
 (4)抗真菌剤
15章 漢方薬・生薬(五十嵐治義)
 (1)漢方薬
 (2)生薬

 副作用として記載されているおもな疾患・症状等の解説(池田正弘)
 本書で使用したおもな略語
 類薬選択のための主要医薬品一覧(新田栄治,池田正弘)
 索引