やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 日進月歩,漢方医学はその有効性が次々と解明されるようになりました.既に大学教育においても国内の医学部の8割以上で漢方教育がカリキュラムに採用されています.私の松本歯科大学においても数年前より歯科薬理学の講義で漢方医学を歯学部学生に教えています.学生たちは,いつも目を輝かせながら,漢方に興味を覚えています.
 漢方医学は,一人ひとりの体質や特徴を重視し,心と身体は一体であることを前提に,身体全体の調和を図ることに重点を置いた全人的医療であります.つまり,西洋医学が病気の原因をみつけ,それを取り除く治療と考えた場合,漢方医学はもっと大きく,身体全体の問題として扱います.
 近年,口腔疾患である口腔粘膜異常,口腔乾燥症,舌痛症,味覚障害などを訴える患者が多くなったように思われます.これらの疾患に対して多岐にわたる治療法がありますが,漢方医学の知識,技術がありますと,治療の幅が広がります.一方,多くの漢方の専門書を書店でみるようになりましたが,口腔疾患に対する漢方治療の本はあまり目にしないように思えます.
 本書は,口腔疾患をターゲットにした漢方の入門書です.本書を手にした医師・歯科医師・薬剤師がクリニックで,チェアサイドで有効に患者様へ漢方薬を活用されることを望みます.
 本書を発行するにあたって,株式会社ツムラのスタッフの皆様にご教示を,大学院生の田村 集君,藤井惠子さんにご協力を賜りました.そして本書に素晴らしい推薦文をいただいた日本東洋医学会理事の佐藤祐造教授,日本東洋歯科医学会前会長の岡村興一博士に,この場を借りて厚く御礼を申しあげます.
 末筆ながら,本書を購入された方には著者として最大の感謝を捧げます.
 2006年夏
 歯科医師 王 宝禮
 医師 王 龍三
 はじめに
 推薦のことば
総論 漢方の考え方
漢方医学とは
漢方薬とは
漢方薬の正体
「証」の概念
  (1)虚・実
  (2)陰・陽
  (3)気・血・水
漢方診療の進め方
本書による漢方投薬法
漢方薬投与方法の実際
 1.用法と用量
 2.効果と判定
 3.漢方薬の飲み方
 4.食前投与の理由(漢方的理由)
 5.漢方薬の服用方法
 6.医療用漢方製剤の添付文書の「一般的注意」
漢方の副作用と相互作用
 1.漢方の副作用
  (1)間質性肺炎
  (2)偽アルドステロン症
  (3)ミオパシー
 2.重篤な副作用を早期に発見するために
  (1)間質性肺炎
  (2)肝機能障害,
  (3)低カリウム血症・横紋筋融解症
 3.相互作用で注意を要する漢方と生薬
  (1)甘草(かんぞう)
  (2)麻黄(まおう)
  (3)附子(ぶし)
  (4)桔梗(ききょう)
  (5)人参(にんじん)
  (6)大黄(だいおう)
 4.漢方薬(生薬)における有害作用と使用上の注意
  (1)麻黄(まおう)
  (2)甘草(かんぞう)
  (3)大黄(だいおう)
  (4)附子(ぶし)
  (5)人参(にんじん)
  (6)地黄(じおう)
  (7)桃仁(とうにん)
  (8)芒硝(ぼうしょう)
 5.漢方薬と西洋薬との相互作用
  (1)抗生物質との相互作用
  (2)ステロイド剤との相互作用
 6.病名処方あるいは対症療法として繁用される漢方製剤
疾患編 漢方処方
口内炎への漢方処方
 漢方薬の選択
 口内炎の漢方処方フローチャート
 口内炎生薬作用表
口腔乾燥症への漢方処方
 漢方薬の選択
 口腔乾燥症の漢方処方フローチャート
 口腔乾燥症生薬作用表
味覚異常への漢方処方
 漢方薬の選択
 味覚異常の漢方処方フローチャート
 味覚異常生薬作用表
口臭への漢方処方
 漢方薬の選択
 口臭の漢方処方フローチャート
 口臭生薬作用表
舌痛症への漢方処方
 漢方薬の選択
 舌痛症の漢方処方フローチャート
 舌痛症生薬作用表
顎関節症への漢方処方
 顎関節症の病型分類
 漢方薬の選択
 顎関節症の漢方処方フローチャート
 顎関節症生薬作用表
抜歯処置に使用する漢方処方
 抜歯処置の漢方処方フローチャート
 抜歯時に関連する生薬作用表
歯周疾患への漢方処方
 漢方薬の選択
 歯周疾患の漢方処方フローチャート
 歯周疾患への生薬作用表
口腔癌への漢方処方
 漢方薬の選択
 口腔癌の漢方処方フローチャート
 口腔癌生薬作用表
使用方剤一覧
  1.茵●蒿湯(いんちんこうとう:口内炎),2.温清飲(うんせいいん:歯周炎,口内炎),3.黄連解毒湯(おうれんげどくとう:味覚異常,歯周炎,口内炎,口臭),4.黄連湯(おうれんとう:口内炎,口臭),5.葛根湯(かっこんとう:歯周炎,口内炎,顎関節),6.加味逍遙散(かみしょうようさん:舌痛症,顎関節),7.甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう:顎関節),8.桔梗湯(ききょうとう:抜歯),9.桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう:舌痛症,口内炎,口腔乾燥,顎関節),10.香蘇散(こうそさん:口内炎),11.五苓散(ごれいさん:抜歯,口内炎,口腔癌,口腔乾燥),12.柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう:味覚異常),13.柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう:味覚異常),14.柴胡桂枝湯(さいこけいしとう:抜歯),15.柴朴湯(さいぼくとう:味覚異常,舌痛症,口内炎,顎関節),16.柴苓湯(さいれいとう:口内炎),17.滋陰降火湯(じいんこうかとう:口腔乾燥),18.芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう:顎関節),19.十全大補湯(じゅうぜんたいほとう:抜歯,歯周炎,口内炎,口腔癌,口腔乾燥),20.十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう:歯周炎,口内炎),21.小柴胡湯(しょうさいことう:抜歯,口内炎),22.大柴胡湯(だいさいことう:歯周炎),23.当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん:舌痛症),24.人参養栄湯(にんじんようえいとう:口腔癌),25.排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう:歯周炎),26.麦門冬湯(ばくもんどうとう:口内炎,口腔乾燥),27.八味地黄丸(はちみじおうがん:口腔乾燥),28.半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう:味覚異常,口臭),29.半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう:味覚異常,舌痛症,口内炎,口臭),30.白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう:味覚異常,口内炎,口腔癌,口腔乾燥),31.補中益気湯(ほちゅうえっきとう:歯周炎),32.六君子湯(りっくんしとう:味覚異常,舌痛症,口臭,口腔乾燥),33.立効散(りっこうさん:抜歯,舌痛症,口内炎,口腔癌)
生薬成分表
  1.茵●蒿(いんちんこう),2.黄耆(おうぎ),3.黄岑(おうごん),4.黄連(おうれん),5.黄柏(おうばく),6.遠志(おんじ),7.葛根(かっこん),8.滑石(かっせき),9.●楼根(かろこん),10.乾姜(かんきょう),11.甘草(かんぞう),12.桔梗(ききょう),13.枳実(きじつ),14.荊芥(けいがい),15.桂皮(けいひ),16.香附子(こうぶし),17.粳米(こうべい),18.厚朴(こうぼく),19.呉茱萸(ごしゅゆ),20.五味子(ごみし),21.柴胡(さいこ),22.細辛(さいしん),23.山●子(さんざし),24.山梔子(さんしし),25.山茱萸(さんしゅゆ),26.山椒(さんしょう),27.山薬(さんやく),28.地黄(じおう),29.芍薬(しゃくやく),30.生姜(しょうきょう),31.小麦(しょうばく),32.升麻(しょうま),33.辛夷(しんい),34.石膏(せっこう),35.川●(せんきゅう),36.蒼朮(そうじゅつ),37.蘇葉(そよう),38.大黄(だいおう),39.大棗(たいそう),40.沢瀉(たくしゃ),41.知母(ちも),42.猪苓(ちょれい),43.陳皮(ちんぴ),44.天門冬(てんもんどう),45.当帰(とうき),46.桃仁(とうにん),47.独活(どっかつ),48.人参(にんじん),49.麦門冬(ばくもんどう),50.薄荷(はっか),51.半夏(はんげ),52.白朮(びゃくじゅつ),53.茯苓(ぶくりょう),54.附子(ぶし),55.防已(ぼうい),56.防風(ぼうふう),57.樸●(ぼくそく),58.牡丹皮(ぼたんぴ),59.牡蛎(ぼれい),60.麻黄(まおう),61.●苡仁(よくいにん),62.竜骨(りゅうこつ),63.竜胆(りゅうたん)
COLUMN
 私の視点
 漢方医学と中医学の違いは何ですか?
 漢方薬は健康食品か?
 瀉下作用を示すもの
 妊婦に避けるべき生薬
 舌診
あとがき