やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 高齢化社会を迎えつつある現在において,総義歯を始めとする大型義歯に対する需要は非常に大きいものがある.しかし,若い歯科医師の間では,クラウン・ブリッジや根管治療には自信があるけれど,義歯,特に総義歯は難しいという声をよく聞く.
 では,なぜ総義歯を難しいと感じるのか.その理由を一言で言えば,知識と技術の不足である.特に,術者が対象としている無歯顎者の口腔解剖,使用する材料に対する理工学的知識,さらには総義歯の臨床術式に対する知識,経験の不足から,そう感じられるのではないかと思う.クラウン・ブリッジの支台歯形成ならば,自分の形成した模型を見て,自分で書籍や臨床論文の支台歯形成の写真などと比較し,独学で支台歯形成のイメージを構築することができる.しかし,総義歯補綴においては,初心者では明瞭な限界を口腔内に見いだすことができないため,総義歯に対するイメージが欠如してしまう.これが総義歯を難しくしている原因ではないかと思われる.
 総義歯製作の診査から装着までを写真を中心に解説し,若い先生方が総義歯のイメージをつかむのに本著が役立てば幸いである.なお,本書は1997年7月から1998年5月まで『歯界展望』に記載したものに印象採得の章を追加し,訂正したものである.
 おわりに,このような機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社,ならびにお骨折りいただいた編集担当諸氏に,お礼申し上げます.
 2001年3月1日 小林賢一
1章 診査・診断で何をみるか……1
 はじめに/1
 診査・診断/5
  1)義歯床下組織の形態的異常/6
  2)舌/7
  3)唾液/9
  4)顎関節/10
  5)X線診査/10
  6)旧義歯の診査/11
 まとめ/11
2章 義歯の形をイメージするために必要な解剖学的・生理学的根拠 1-上顎印象域の設定―……13
 はじめに/13
 上顎義歯の印象採得の原則/13
 義歯後縁部/14
  1)翼突下顎縫線/15
  2)鉤切痕/15
  3)振動線(アー・ライン)/16
  4)口蓋小窩/17
  5)上顎義歯後縁部の形態/19
 口腔前庭部/20
  1)義歯床辺縁の幅(厚さ)の決定要素としての歯槽骨,歯槽堤の吸収/20
  2)頬側前庭部/21
  3)唇側前庭部/23
  4)小帯部/27
   (1)上唇小帯/27
   (2)頬小帯/28
 まとめ/29
3章 義歯の形をイメージするために必要な解剖学的・生理学的根拠 2-下顎印象域の設定―……31
 はじめに/31
 臼後隆起/32
 頬棚/32
 咬筋影響部/35
 唇側前庭部―オトガイ筋と下唇小帯―/36
 頬小帯/38
 舌下腺部/38
 舌小帯/39
 顎舌骨筋線部/41
 後顎舌骨筋窩/44
 前顎舌骨筋窩/46
 まとめ/46
4章 義歯の形をイメージするために必要な解剖学的・生理学的根拠 3-印象採得―……49
 予備印象/49
  1)既製トレーの選択/49
  2)既製トレーの調整/51
  3)アルジネート印象材による予備印象/52
  4)研究用模型の製作/56
 個人トレーの製作/56
 精密印象/58
  1)個人トレーの試適/59
  2)辺縁形成(Border Molding)/60
   (1)上顎の辺縁形成/62
   (2)下顎の辺縁形成/66
  3)仕上げ(ウオッシュ)印象/72
 作業模型の製作/74
5章 無歯顎者における機能的な下顎位,咬合高径とは―咬合採得(顎間関係記録)―……81
 はじめに/81
 咬合高径とリップサポート/81
 求める下顎位/84
 臨床術式/86
  1)咬合床の製作/86
   (1)作業模型の製作/86
   (2)基礎床の製作/87
   (3)咬合堤の製作/88
    (1)咬合堤の頬舌的位置/89
    (2)咬合堤の高さ/90
  2)咬合採得/91
   (1)リップサポートの決定/91
   (2)仮想咬合平面の決定/91
   (3)咬合高径の決定と下顎位の仮決定/93
  3)ゴシック・アーチ描記法/95
   (1)記録床の製作およびゴシック・アーチ描記装置の付着/96
   (2)ゴシック・アーチ描記法による下顎位の決定/96
 まとめ/99
6章 無歯顎者における審美とは ―前歯部人工歯配列―……101
 はじめに/101
 人工歯の選択/101
 前歯部人工歯の配列/102
  1)前歯の配列位置とその解剖学的指標/102
   (1)前頭面における解剖学的指標/102
   (2)咬合平面/104
   (3)リップサポート/105
   (4)天然歯の植立方向と顎堤の吸収方向/107
  2)上顎前歯部人工歯の配列/108
  3)下顎前歯部の配列/109
7章 無歯顎者に与える咬合とは ―臼歯部人工歯配列―……115
 臼歯部人工歯の配列/115
  1)歯槽頂間線法則および歯槽頂上に配列する方法の問題点/115
  2)天然歯の元あった位置に配列する方法と舌房の確保/118
 無歯顎に与える咬合様式/119
  1)両側性平衡咬合/119
  2)無歯顎の咬合とlingualized occlusion/121
 まとめ/124
8章 異物感の少ない義歯の形態とは ―歯肉形成と研磨面形態―……127
 はじめに/127
 研磨面形態/127
  1)上顎の研磨面形態/127
  2)下顎の研磨面形態/131
 まとめ/134
9章 総義歯に与える“あそび”とは ―義歯の装着と調整―……135
 はじめに/135
 義歯の装着と調整/136
  1)技工室での義歯の調整/136
  2)診療室での義歯の調整(義歯装着時の調整)/138
   (1)義歯床外形の確認/138
   (2)粘膜面の調整/139
   (3)咬合調整/139
   (4)総義歯の“あそび”/145
  3)義歯装着後の調整/146
 まとめ/146

さくいん……147