やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 8020運動推進のためには患者さん一人ひとりの口腔衛生のレベルアップが必須であり,そのためのモチベーションはきわめて重要な位置を占めています.また,社会の趨勢からもインフォームドコンセントが歯科診療のなかで定着しつつあるようです.
 したがって,歯科衛生士の皆さんは,今後,口腔疾患の原因や病態について患者さんに説明する機会が増加することが予想されます.そのときのために,常に新しい知識を習得し,よく理解したうえで患者さんに説明していかなければならないでしょう.
 このような背景から,『デンタルハイジーン』誌に「みてみよう口腔疾患の病因と病態」と題して1992年1月から1994年3月まで,26回にわたり連載してきました.そこでは口腔の病気とは何か,どのような原因で起きるのか,どのような変化として現れるのか,またどのように経過するのか,について新しい切り口で解説しようと試みました.具体的には,身体の仕組みと働きを十分理解しながら,病気の仕組みや病態を考える,というコンセプトで書くよう努めたつもりです.
 そして本書はその連載をもとに書籍としてまとめたものです.
 本書では,特に病理的にみた病気の構造・歯周疾患・口腔粘膜疾患・嚢胞腫瘍性疾患について記載されています.
 読者の皆さんの理解を深めるために,できるだけわかりやすく記載することに努力しました.そして,写真,シェーマ,イラストを多用し,読者の皆さんが気軽に読める本を目指したつもりです.
 本書が歯科衛生士の皆さんにとって,口腔疾患の病理・病態を理解するうえでの一助となれば幸いです.
 本書編纂にあたり,共同執筆の先生方,および症例写真を快く提供してくださいました先生方には,それぞれの写真に出所を明記するとともに,ここに深く感謝の意を表します.
 また本書を出版するにあたり,深いご理解とご協力をいただいた医歯薬出版株式会社,デンタルハイジーン編集室の諸氏に深甚なる感謝の意を表します.
 1994年12月 編著者一同
序……iii

1 病理的にみた病気の構造(1)……1
 本シリーズの目的 
 病理は縁の下の力持ち? 
 歯科における病理 
 原因のない病気は存在するか? 
 原因→経過→転帰が病気のフローチャート 
 今後の病理と臨床 
2 病理的にみた病気の構造(2)……13
 はじめに 
 遺伝性疾患と奇形 
 循環障害 
 退行性病変と進行性病変 
 炎症と免疫 
 腫瘍 
 病気に対する疑問「なぜ」 
3 歯周組織疾患(1)……23
 はじめに 
 歯周組織疾患とは 
 歯周疾患今昔 
 歯周組織の特殊性 
 歯周組織の構造 
 歯周組織の発生 
 まとめ 
4 歯周組織疾患(2)……33
 はじめに 
 歯肉炎と歯周炎 
 炎症ってなんだろう 
 炎症の過程 
 急性炎症と慢性炎症 
 炎症による歯槽骨の吸収 
 まとめ 
5 歯周組織疾患(3)……43
 はじめに 
 細菌と抵抗力の「やじろべえ」 
 プラーク由来の細菌 
 歯周疾患の発症 
 歯周疾患発症の謎 
 おわりに 
6 歯周組織疾患(4)……57
 はじめに 
 歯周組織の治癒能力 
 咬合性外傷による歯周組織の変化 
 加齢に伴う歯周組織の変化 
 矯正治療に伴う歯周組織の変化 
 おわりに 
7 口腔粘膜疾患(1)……75
 はじめに 
 口腔粘膜を物にたとえると 
 二次元の口腔粘膜と三次元の口腔粘膜 
 垢(角質)は最も分化した形の上皮である 
 口腔粘膜はヤケドに強い? 
 口腔粘膜はヒヤケには弱い? 
 ピアスが上皮に与える悪影響 
 口腔粘膜病変で粘膜が白黒赤ときには黄に見えるのはなぜか 
 口腔粘膜について傷はどうやって治るか? 
 かいよう(潰瘍)とびらん(糜爛)はどう違うのか 
 口腔粘膜に毛が生えることがある? 
 病理と料理 
8 口腔粘膜疾患(2)……87
 はじめに 
 口腔粘膜の色調を左右するもの 
 粘膜が白く見える病変 
 粘膜が黒く見える病変 
9 口腔粘膜疾患(3)……99
 はじめに 
 水泡を形成する口腔粘膜病変 
 潰瘍とびらんはどこが違うのか 
 口腔粘膜に潰瘍をつくる病気にはどんなものがあるか 
 おわりに 
10 口腔粘膜疾患(4)……111
 はじめに 
 赤色・青色病変 
 疣贅・乳頭状病変 
11 嚢胞腫瘍性疾患(1)……123
 はじめに 
 嚢胞とは? 
 嚢胞と膿瘍の違いは?嚢腫って? 
 嚢胞の分類 
 歯原性嚢胞とは? 
 「歯根嚢胞」って何だろう? 
12 嚢胞腫瘍性疾患(2)……133
 はじめに 
 歯の形成過程と歯原性嚢胞の関係は? 
 歯牙の発生過程 
 歯原性嚢胞の話のつづき 
 歯牙の発育に関連して生ずる歯原性嚢胞 
 非歯原性嚢胞とは? 
 いわゆる顔裂性嚢胞 
 軟部組織に発生する嚢胞 
 その他の嚢胞性疾患 
 おわりに 
13 嚢胞腫瘍性疾患(3)……147
 はじめに 
 腫瘍の外形は見た目で決まる? 
花キャベツやカリフラワーも正式名 
 良性腫瘍と悪性腫瘍 
 いかなる組織にも腫瘍は発生するのか? 
 上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍 
 歯を構成する組織からも腫瘍は発生する? 
実際に歯根膜腫瘍や歯髄腫瘍がある 
 腫瘍によく似たものができることが多い 
実は腫瘍ではないものが多くある(腫瘍類似疾患) 
14 嚢胞腫瘍性疾患(4)……159
 はじめに 
 癌はどこまでわかったのだろうか 
癌は遺伝子の病気である 
 癌はうつる病気? 
ウイルスからみつかった癌遺伝子 
 癌遺伝子とそっくりの遺伝子が正常の細胞にもたくさんある 
 癌遺伝子に変化する癌原遺伝子は正常な増殖をつかさどる重要な遺伝子である 
 どんなときに癌原遺伝子が癌遺伝子になるのか 
 具体的には癌遺伝子がどうなると臨床的に癌として現れるのか 
 高脂肪食はなぜ大腸癌を引き起こすのか? 
 そう簡単には癌にはならない? 
喫煙は確実に発癌性を高める 
 癌家系とはなにか? 
癌は遺伝するか? 
 癌細胞と正常細胞はどこが違うのか? 
無限に増殖を繰り返す狂った細胞 
 腫瘍の自律性とはどういうことか 
栄養不良の患者のなかでも元気に増え続ける癌細胞 
栄養過多の患者では栄養不良にしてしまう癌細胞の代謝産物 
 癌の治療はどこまで進んだか? 
早期発見,早期治療が最良である 
またインターフェロンとはなにか? 
 癌にならないための養生訓 
癌研究振興財団 
 口腔癌は直視できる癌で,発見の遅れは歯科医療従事者の責任でもある 

編著者一覧……vi 
索 引……169