やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「根管治療は歯科医の良心」─筆者が歯科医師になってはじめて参加した講演会でいきなり胸に刺さった言葉である.講演されていたのは,下川公一先生.学生時代は不勉強で名を馳せた筆者ですら,お名前を存じている先生だった.すなわち,根管治療は患者さんに見えない部分の治療であり,保険診療においては不採算部門の治療といえる.だからこそ,そこにどれほどの情熱を注ぐことができるか,歯科医師の良心が試されるという意味だった.その講演の迫力と内容に圧倒され,歯内療法に惹かれていった.それ以来,今日まで真摯に取り組んできたつもりである.その後,山内厚先生が結んでくださったご縁で,思いもかけず下川歯科に勤務させていただくようになり,代診時代から一貫して下川先生のコンセプトのもとに歯内療法を行えたことも恵まれた環境であった.
 時代は流れ,CTやマイクロスコープによって,それまで見えなかったことを視覚的に捉えることができるようになり,世界中の文献によって分からなかったことが少しずつ解明されるようになった.歯内療法への興味は衰えるどころかますます深くなり,難症例にチャレンジすることが楽しく思える.好きこそものの上手なれというが,自分なりに歯内療法を一生懸命やっていたら,いつの間にか人前で話をしたり,執筆をする機会をいただくようになっていた.歯内療法は比較的早期に自身が行った治療の結果が分かるため,若い時分はその結果に一喜一憂していたが,多くの成功・失敗症例を経て自身のためにチェックポイントを設定するようになった.今回,それらのチェックポイントをまとめて1冊の書籍にさせていただく機会を得た.医歯薬出版の亀岡武史氏はじめ編集担当者の松崎一優氏,有限会社TDL塚本正幸氏に心から感謝の意を表したい.
 若い先生には数ある歯科の分野のなかでも何か一つ自信を持てるものをつくり,それを追及し続ける歯科医師になってほしい.それが歯内療法であれば嬉しい限りであり,この書籍が歯内療法に夢中になっている先生や上手くいかずに悩んでいる先生方の臨床の一助となれば幸いである.
 2025年3月
 倉富 覚、
 はじめに
1章 診断のポイント
 1 デンタルエックス線画像診断の基本
  1.画像診断のポイント
  2.根尖病変を見逃さないポイント
  3.患歯の特定に悩む際のポイント
  Column 1 サイナストラクトからのGPの挿入
  4.その症例はエンドの適応症なのか 鑑別診断のポイント〜タービンを持つ前に
  Column 2 歯根破折
  Column 3 パラファンクション
 1章のCheck Point
2章 手技のポイント
 1 アクセスキャビティのポイント
  1.前歯部のアクセスキャビティ
  2.臼歯部のアクセスキャビティ
 2 ポストを除去する際のポイント
  1.メタルコアの除去
  2.ファイバーコアの除去
 3 根管が見つからない時のポイント
 4 根尖部のアピカルストップのポイント〜非感染根管と感染根管の術式の違い
 5 根尖病変があるのに穿通できない時のポイント
  1.CTの撮影
  2.アクセスキャビティの見直し
  3.ファイル先端にプレカーブの付与
  4.水平的拡大の徹底
  5.疑似根尖病変
 6 根管洗浄のポイント
  1.NaOClとEDTAの作用時間と使用順序は?
  2.シリンジ洗浄法だけで充分か?
 7 根管充填のポイント
 8 破折ファイル除去のポイント
 9 パーフォレーションリペアのポイント
 10 外科的歯内療法のポイント
 2章のCheck Point
3章 症状が改善しない場合にチェックするポイント
 1 ガッタパーチャポイントは完全に除去できているか?
 2 根管を円く形成していないか?
 3 未処置根管はないか?
 4 分岐・合流はどうなっているか?
 5 根尖部フェネストレーションはないか?
 6 根尖孔外のバイオフィルムの可能性はないか?
 7 歯根嚢胞の可能性はないか?
 3章のCheck Point
4章 経過観察のポイント
 1 治療歯の病変は縮小しているか?
 2 再介入が必要であるか?
 3 抜髄歯および非治療歯の病変は拡大していないか?
 4 治療歯の病変は縮小したままで安定しているか?
 4章のCheck Point