やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年の歯科医療が,歯や歯周組織を対象とした治療にとどまらず多様化してきていることにともなって,チーム医療がますます求められています.真のチーム医療を行うにあたっては,歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士などが,同レベルの知識を共有することが重要であると考えます.
 さらに,Evidence-Based Medicine(EBM)に基づく歯科医療の重要性が高まり,歯科衛生士も口腔領域の形態および病態に関してこれまで以上の理解が必要となってきています.特に,歯根の形態,歯周組織の基本構造ならびに病変などについて,時としては歯科衛生士が歯科医師以上に理解しておく必要があると考えます.
 本書は,口腔と歯に関し,歯科衛生士が接する可能性のある項目を厳選し,図を多く用い,わかりやすくビジュアルなものに仕上げました.
 はじめに口腔の基本的な構造について解説を行いました.これは,口腔を3次元的なイメージでとらえられるようになっていただきたいからです.口腔は人体で唯一,硬組織(歯)が上皮組織(口腔粘膜上皮)を貫いている領域です.また,歯は顎骨に植立しています.これらのことにより,人体の他の部位にはみられないさまざまな特徴が現れます.歯が萌出することによって,歯根周囲の顎骨は歯を支えるための歯槽骨となり,口腔粘膜は歯肉となります.しかし,齲蝕,歯周疾患などによって歯が失われると,歯のためにある歯槽骨が減少し,周囲の組織も衰えていきます.
 口腔を理解するためには,このように歯の有無によって顎骨の形態が大きく変化することを十分に理解しなければなりません.この顎骨を立体的にイメージしながら,顎関節,筋,粘膜,歯周組織,唾液腺の構造などについて理解を深めていってください.さらに,この口腔を舞台として機能する「歯」については,歯の交換,歯の立体構造に加え,組織像,病態変化なども解説いたしました.
 本書は,臨床の現場で活躍されている歯科衛生士だけでなく,歯科衛生士校学生,歯科医師,歯科学生の方々にも活用していただけたらと思います.さらに,本書の内容はできるだけ平易な表現を用い,わかりやすく解説することに留意しておりますので,患者さんへの説明にも使っていただけることを願っています.
 東京歯科大学解剖学講座
 井出吉信
 はじめに
CHAPTER1 基礎を固める!口腔と口腔周囲のしくみ
 1.顎骨のしくみと変化を理解しよう(阿部伸一・井出吉信・小林明子)
 2.顎関節はなぜスムーズに動くのか(阿部伸一・井出吉信・小林明子)
 3.咀嚼・嚥下のメカニズム(阿部伸一・井出吉信・小林明子)
 4.口腔内の粘膜をじっくり見てみよう(橋本貞充)
 5.正常な歯周組織とは?(橋本貞充)
 6.唾液の役割と分泌のしくみ(橋本貞充)
 7.歯の痛みはどこからくるのか(阿部伸一・井出吉信・小林明子)
CHAPTER2 見逃さないで!口腔内の小さな変化が意味すること
 1.まず理解しておきたい 歯の発生・交換のプロセス(阿部伸一・井出吉信)
 2.エナメル質表面にある浅い溝は何?(上松博子・橋本貞充)
 3.歯肉の色の変化はなぜ起こる?(橋本貞充)
 4.歯肉炎と歯周炎,どこが違うの?(橋本貞充)
 5.歯根膜がなくなるとどうなるの?(橋本貞充)
 6.上皮性付着と結合組織性付着(橋本貞充)
 7.象牙質知覚過敏のメカニズム(上松博子・橋本貞充)
 症例PICK UP1
  メインテナンスの「曲がり角」に歯科衛生士はどう対応するか(品田和美)
CHAPTER3 診る目を養う!X線像が教えてくれる情報を整理する
 1.パノラマX線写真には何が写っているの?(音成貴道・佐野 司・阿部伸一)
 2.交換期のパノラマX線写真 観察ポイント(音成貴道・佐野 司・阿部伸一)
 研究PICK UP
  パノラマX線写真から骨粗鬆症の早期発見はできるのか(佐野 司・田口 明・矢島あや)
 3.口内法X線写真には何が写っているの?(音成貴道・佐野 司・阿部伸一)
 4.口内法X線写真からわかる疾患・異常像(音成貴道・佐野 司)
 5.コンビームCTから何がわかるの?(音成貴道・佐野 司)
 症例PICK UP2
  X線写真――私の着眼点と対応(石原美樹)
CHAPTER4 手技を磨く!インスツルメンテーションに注意が必要な歯牙徹底分析
 1.上顎歯列 ここがポイント!(村上恵子・鍵和田優佳里)
 2.下顎歯列 ここがポイント!(村上恵子・鍵和田優佳里)
 3.上顎側切歯(村上恵子)
 4.上顎第一小臼歯(鍵和田優佳里)
 5.上顎第一大臼歯(村上恵子・鍵和田優佳里)
 6.上顎第二大臼歯(村上恵子・鍵和田優佳里)
 7.下顎側切歯(鍵和田優佳里)
 8.下顎第一大臼歯(村上恵子)
 9.下顎第二大臼歯(村上恵子・鍵和田優佳里)

 執筆者一覧
 編集後記