やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「ミニマルインターベンションデンティストリー(Minimal Intervention Dentistry)」という21世紀における新しい齲蝕治療の概念は,Dr.Tyasらによって2000年にFDI(国際歯科連盟)レポートとしてまとめられ,世界に向けて提唱されました.
 それから約6年が経過し,わが国においてもこの概念が「ミニマルインターベンション(Minimal Intervention,以下MI)」(最小限の侵襲)として広く知られるようになってきています.いまでは,実際の臨床の現場でもその意味や価値が認知され,MIのコンセプトを実践している歯科医院が増えてきています.
 齲窩形成のある齲蝕に対しては,切削による外科的侵襲を最小限に抑え,接着修復材料で修復します.しかし,従来の治療コンセプトと違って修復処置のみで治療が終了するというものではなく,修復後は歯科衛生士による再発防止の管理が求められます.
 一方,齲窩形成前の初期齲蝕に対しては,それぞれがもつ齲蝕リスクを把握して現在の口腔内環境を的確に評価し,その評価をもとに初期齲蝕や要観察歯などが健全歯へ回復するように管理し,再石灰化しやすい環境へ導くようにコントロールすることが歯科衛生士の大きな役割となります.
 このように,MIに基づく歯科医療では,齲蝕の発症やその進行を管理しながら,それぞれの歯の寿命が大きく伸びるように,そして齲蝕によるRepeated Restoration Cycle(繰り返し治療)が抜歯に向けて進行しないように考えて,キュアとケアを実践することになります.つまり,MIの概念をそれぞれの口腔内で達成するためには,歯科衛生士のかかわりが必要不可欠であるといえます.しかしながら,「MI」の意味や意義を十分に理解している歯科衛生士はまだ少ないのが現状ではないでしょうか.
 そこで,本別冊では『ミニマルインターベンションによるカリエスコントロール』と題し,CHAPTER1,CHAPTER2では齲蝕予防の最新情報を紹介しながらMIの概念を明確にしていくとともに,CHAPTER3では,歯科衛生士がMIを目ざした臨床においてどのような役割を果たしていくべきかについて,豊富な実践例を通して理解を深めていただけるように企画しました.
 本書を,臨床の現場で活躍されている歯科衛生士だけでなく,歯科学生,歯科衛生士養成校学生,歯科臨床研修医,臨床歯科医の方々にも活用していただけることを願っております.
 2006年10月
 新潟大学歯学部口腔生命福祉学科 福島 正義
 東京都開業 日野浦 光
 はじめに
CHAPTER1 MIコンセプトに基づく齲蝕への対応
 (1)ミニマルインターベンションの意義(福島正義)
 (2)齲蝕のプロセス(上村参生)
 (3)初期齲蝕の診断,再石灰化への対応(上村参生)
 (4)齲蝕象牙質に対する生物学的対応(日野浦 光)
 (5)根面齲蝕への対応(鈴木丈一郎)
 COLUMN1 高齢者の齲蝕に対するフッ化ジアンミン銀(サホライド)の応用(福島正義)
CHAPTER2 齲蝕のリスクファクターと予防方法の位置づけ
 (1)齲蝕のリスクファクターとは(八木 稔)
 (2)「歯質(宿主)」のリスクへのアプローチ(佐久間汐子)
 (3)「細菌」のリスクへのアプローチ(金子 昇)
 (4)「環境(砂糖)」のリスクへのアプローチ(八木 稔)
 COLUMN2 もう1つのリスクファクター「虐待」と齲蝕の関係(森岡俊介)
CHAPTER3 齲蝕予防・治療におけるMIの実践
 (1)乳歯列から混合歯列期へ―うまく口腔管理ができた症例・できなかった症例―(田中英一)
 (2)砂糖摂取制限によってわが子のカリエスフリーを達成(牧野 明)
 (3)定期検診によって最小限の介入で健全な永久歯列を育成したケース(真木野公美・菊地賢司)
 (4)乳歯齲蝕に最小限の処置を行いモチベーションに活かしたケース(広瀬育枝・菊地賢司)
 (5)保育園における歯科保健の実践―歯科衛生士の果たす役割(赤坂幾子・渡辺典子・佐藤 保)
 (6)唾液検査を用いて乳幼児の齲蝕予防に取り組んだケース(佐藤 保・赤坂幾子・金子良司・箱崎守男・稲葉大輔)
 (7)MFTを齲蝕予防に取り入れたケース(長尾真由香・足立 融)
 (8)齲蝕のリスクファクターの「重み」を考慮して取り組んだケース(廣澤紀子・足本 敦)
 COLUMN3 「白濁」について考えてみよう(倉治ななえ)
 (9)ハイリスクと思われた矯正治療患者の齲蝕予防(竹 美恵子・四郎田晃江・濱岡代枝)
 (10)長期間のメインテナンスにより齲蝕のリスクが低下した症例(木村由加・田中由紀子・竹下 哲)
 (11)ハイリスクな母親に定期管理と齲蝕予防のアプローチをして,母親のDMFTと3人の子どものカリエスフリーを維持しているケース(倉治ななえ・吉田佳世・細谷美奈)
 (12)生活習慣の改善によって口腔内も改善したケース(青木 薫)
 (13)カリエスリスクの変化を見逃さずに対応しているケース(布瀬川和恵)
 (14)ペリオリスクからカリエスリスクへ移行?―根面齲蝕から学んだ指導のリセット―(関 律子)
 (15)修復歯が多いものの,二次齲蝕を防いで維持できているケース(大野綾子)
 (16)薬の服用によってハイリスクとなっている患者さんへの対応(田村 恵)
 COLUMN4 3-Mix療法とは?(子田晃一)

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 編集後記