やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 今日,医学,歯学領域における再生療法の発展には目覚ましいものがある.これまで歯科臨床は,歯内療法,歯周治療などのように,炎症への対応と再生を求めて行う治療とともに,失われた機能を回復するための補綴処置を一体化して行ってきた.近年,インプラントが広く用いられるようになって,補綴主導のいわゆる「トップダウントリートメント」という,与えられた条件下での処置でなく,歯槽骨や歯肉をより望ましい条件に整えることで,より完成度の高い補綴修復を行うという方向性が打ち出され,また患者さんのより審美的に,また機能的にというニーズに応えるためにも,組織再生が注目されている.本別冊では,まず再生の概念を理解していただくために,研究者の立場から再生の定義,再生療法の現状・未来について,再生医療の目指すべき方向を示し,臨床編では臨床医が取り組んでいるさまざまな再生療法について紹介したいと考えた.
 臨床編を担当するわれわれ開業歯科医師が所属する「北九州歯学研究会」では,昨2005年に第30回記念発表会を行った.過去を振り返り,現状を見つめ,未来を見据え,歯科医療の展望を伝えたく,四つのシンポジウム,すなわち再生療法,審美歯科,インプラント,総括というプログラムを組んだが,最も興味を引かれたのが再生療法に関するテーマであったように思われる.
 エンドにからむ大きな骨吸収像の改善,歯周治療のパートの歯槽骨の治癒過程など,従来の治療法に加え,審美がらみの歯肉形成,インプラントに絡む骨造成など,「再生療法」としたパート以外でも,組織再生は大きな注目点であり,各種外科処置,エナメルマトリックス,遮断膜,骨補填材,レーザーの応用などに加え,歯科特有のプロビジョナルレストレーションによる歯肉誘導など,多彩な知識・器材とテクニックを紹介した.
 われわれ開業歯科医師にとって,学術的にいわれているような厳密な再生を日常臨床のなかで行うことは至難の業である.患歯の状況も歯周組織の状況も,終末像に近い劣悪な条件下にあるものにも取り組まなければならない.加えて,社会生活を営んでいる患者さんが対象であるため,予定どおりに治療が進まなかったり,不測の事態が生じたりすることも少なくない.誤解を恐れずにいえば,学術的な「再生モデル」への到達はわれわれには不可能なのではないかとさえ思える.では,再生療法を放棄しているのかといわれれば,そんなことはない.それぞれが,開業医師なりの臨床的基準と手法をもって,日々積極的に取り組んでいるのが現状であり,比較的良好な臨床結果も報告されるようになってきている.
 本別冊では,臨床編のなかで北九州歯学研究会の若手会員が中心となって,昨年行われた発表会の内容をふまえつつ,考え方,術式,症例を紹介して,北九州歯学研究会の再生療法に対する取り組みと考え方を呈示している.今後,ますます洗練され,適応も広がるであろう歯科領域の再生療法について,現時点のまとめとなることを願っている.
 2006年秋 上田 秀朗

1章 再生療法を理解するために
  (1)基礎からみた再生の概念とその要件(井上 孝)
  (2)歯科における再生医療/骨造成の観点から(日比英晴・山田陽一・上田 実)
  (3)医科における再生医療の現在・未来(田畑泰彦)
  (4)再生療法で用いられる材料とPRP(松永興昌)
2章 臨床編/再生療法の実際
 ●再生療法を行うには
  ・基礎を学び,適応症を考える(下川公一・山内 厚)
 ●エンド
  (1)根尖性歯周組織炎の難症例(木村英生・伊古野良一・高島昭博)
  (2)根尖性歯周組織炎と辺縁性歯周組織炎との相違点(木村英生)
 ●ペリオ
  (1)臨床における再生療法の概念(甲斐康晴)
  (2)再生療法における臨床的評価(立和名靖彦・酒井和正)
  (3)歯槽骨再生療法の適応症(樋口琢善)
  (4)欠損形態を考慮した対処法(酒井和正・大村祐進)
  (5)再生療法における一次性創傷治癒の概念(白石和仁)
 ●歯周組織再生療法の実際
  (1)切開線の設定とその方法(樋口琢善・白石和仁)
  (2)エムドゲイン(小松智成)
  (3)遮断膜(榊 恭範・小川毅一郎・柴田麻衣)
  (4)骨補填材(甲斐康晴・榊 恭範)
  (5)歯間部歯槽骨面露出術(白石和仁)
  (6)骨膜グラフト(白石和仁)
  (7)縫合(上田秀朗・白石和仁)
  (8)炭酸ガスレーザーの応用(木村英生)
 ●顎骨と硬組織の増大
  ・顎堤吸収における骨造成の可能性について(上田秀朗・中野 充・榊 恭範)
 ●軟組織の増大
  ・審美修復(小松智成・大村祐進・重田幸司郎)
 ●咬合の安定の重要性
  ・再生療法の長期経過から(上野道生)
 索引
 参考文献
 執筆者一覧